「ふぅ」
宝太郎は会場に入ると、息苦しそうに息をつく。
宝太郎は現在スーツ姿で来ており、こう言う格好は苦手なのだが、そうも言っていられない。
「あら宝太郎君。洒落た格好してるじゃない。ってなにその顔」
「いや別に。ってか何でここにいるんだエリカ」
会場入りした途端。絶対からかって来そうな同級生がいた。
「なるほどねぇ。ホクザングループ総裁の代理か」
「そういう事。潮さ……雫のお父さんがどうしても外せない仕事が入っちゃってさ。それで俺が代理ってわけ」
現在ここでは、九校戦前の懇親会が開かれている。まぁ言うなればパーティーだ。
そしてホクザングループはこの九校戦にかなりの額を出資している謂わばVIPというやつで他にもこの会場には、生徒や関係者以外にも、開催に出資した人々もいる。
九校戦は、魔法師を目指す人にとっては、貴重なアピールの場でもあり、出資者側としても、金の卵を見つける場でもあるのだ。
「雫のお父さん行きたがってはいたんだけどね」
嫌だー!行くんだー!仕事なんて知らない雫とほのかちゃんの活躍を直接見るんだー!っと駄々を捏ねていたものの、妻である紅音に、ハイハイ行きますよ、と引き摺られて行った光景は鮮明に覚えている。更に、
「雫もお父さんが応援行ったほうが嬉しいよね!?」
と雫に援護を求めたものの、
「お仕事頑張ってね」
アッサリと行ってらっしゃいをされてショックで真っ白になっていた。
その代わり、
「雫とほのかちゃんの活躍を記録に残してくれ宝太郎ぉおおおおお!」
「う、うん」
血の涙を流しながら、仕事に引きづられていく潮を見送り思ったのは、
「人って本当に血の涙って出るんだな」
「何の話?」
エリカは宝太郎の呟きに首を傾げつつ、
「そう言えばさ宝太郎くん」
「んー?」
ウェルカムドリンクを飲みながら、エリカに返事すると、
「雫といつ結婚するの?」
「ぶぅううううううう!」
突然のエリカの言葉に、思わずドリンクを吹き出した。
「は、はぁ?何でそうなるんだよ」
「いや、だってホクザングループ総裁の代理何でしょ?それって要は将来的にはそうなるのか、もしくはそれに連なる地位に付くから頼まれたんじゃないの?」
「いやいやいや。そう言うんじゃないっていうか、そもそも雫がいるし、普通に雫か航……っていうのは雫の弟なんだけどいるんだしそっちが継ぐだろ」
と言って、再びドリンクを飲むが、
「でもね宝太郎くん。周りはそう思ってないかもよ」
「え?」
実際そのとおりだ。世界的に有名な企業であるホクザングループ。国内外問わず経済に影響を持ち、更に政界にも力を持つ。
この九校戦にも多額の出資をしており、北方潮(ビジネスネーム)とお近づきになりたい人は多い。
なのにその代理としてきたのが高校生の少年。企業の人々はその為か若干困惑していた。
「おまたせしました。宝太郎様」
「あ、黒沢さん」
ピシッとスーツを着込んだ黒沢に釣れられてきたのは雫とほのかだ。
「お疲れ様。エリカも大変そうだね」
「そんなそんな」
雫の言葉に、エリカは手を振っていると、黒沢を見た。
「始めまして。黒沢知恵里と申します。千葉エリカ様」
「あ、どうも」
知っとるんかい、と内心突っ込みつつ、エリカもお辞儀。
「似合ってるよスーツ」
「からかうなよ」
「ほんとに似合ってるって」
ほのかに言葉に渋い顔をする宝太郎だが、ホントだという。それでもやっぱりスーツは嫌いだ。
などと思っていると、急に部屋が暗くなり、壇上の上に綺麗な女性とその背後に老人が立っている姿が見える。
「おぉ美人あいって!」
思わず口にした言葉に、背中を抓られた宝太郎は抓ってきた雫とほのかを睨みつつ、
「あの女の人と爺さん誰だ?」
「爺さん?」
背後にいるじゃん。と首を傾げる雫に言うと、雫とほのかは女性の背後をジーッと見て、
『あっ!』
近くで聞いていたエリカも一緒に見ていたのか、同じく声を上げた。
すると老人が前に出て、会場がざわつく。
「失礼。少しお巫山戯をさせてもらった。私が九島烈」
げっ!っと宝太郎は思わず声を漏らした。爺さんなんて言ったが、よりによって十師族の九島家だった。
「俺爺さんなんて言っちゃったよ」
「大丈夫。どうせ聞こえてない」
「そうそう。おじいちゃんだし」
3人揃って大概な事を言う中、烈は更に口を開き、
「今の魔法は初級の簡単なものだ。だが、今の私を認識したのはこの会場でも一握り。つまり私がもしテロリストだった場合、それに対応できたのはそれだけということだ」
その言葉に、会場の人々はざわつく。だが烈は笑みを浮かべ、
「魔法は創意工夫だ。どんな魔法も使い方次第では大きく化ける。ここはそんな創意工夫を生み出す場だ。皆の発想を楽しみにさせてもらうよ」
そう言い残し、烈は壇上から降りていくと、拍手が起こる。
「父さん」
そう言って駆け寄ってきたのは、息子で現当主の九島
「全く。イタズラは程々にしてくれ」
「すまんすまん。だが面白いものも見れた」
烈の言葉に、真言は眉を寄せると、
「あぁ、何人か父さんのイタズラに気づいてそうなやつが何人かいたな」
「それだけじゃない。面白い少年がいた」
烈は笑みを浮かべると、
「1人、私の魔法が効いていない者がいた」
「父さんの!?」
まぁ初級のものだが、と前置きしたうえで、
「あの北山家のご令嬢と一緒にいたあの少年だが、私の魔法の影響を最初から受けていなかった」
「北山家の令嬢と……あぁ、ホクザングループ総裁の代理で来た瀬乃 宝太郎とか言う子供で」
瀬乃?と烈は眉を寄せ、
「成程。瀬乃か」
「父さん?」
フフッと笑みを浮かべた烈に、真言は首をかしげるが、何も答えない。
「成程。これも運命かもしれないな」
そんな烈の言葉に、真言は困惑するしかないのだった。