「ほのかお疲れ」
「あ、ほーたろー君」
控室でゲッソリしているほのかに、宝太郎が声を掛ける。
達也に朝から作戦を教えてもらっていたほのかだが、それでも緊張するらしい。
「人人人」
掌に人の字を書いて飲み込むほのか。
さて、試合開始直前だが、達也から作戦は授けたと聞いたものの、
「後は励ましてこい」
「俺が?」
お前以外いるか。と当然の回答をされる。じゃあ雫も、といったのだが、雫から断られてしまい、一人できた。
「大丈夫か?」
「ま、ままままままままかせて」
全然大丈夫そうじゃなかった。全身を震わせている。なのでほのかの隣に座り、
「大丈夫だって。ずっと練習してたんだし、達也の秘策もあるんだろ?」
「うん」
すると、ほのかは肩を寄せ、手を重ねてくる。
「ほ、ほのか?」
思わず周りに人がいないのは確認しつつ、宝太郎が体を強張らせると、
「ごめん。ちょっとだけでいいから」
と言って、抱きついてくる。
そっと抱きしめ返しながら、ほのかの頭を撫でる。サラサラとした髪から、フワリと甘い香り。普段から距離は近いが、こんなに体が密着するほど近くに来ることはない。
触れ合う肌の暖かさと柔らかさは、幼い頃にはなかった物だ。
ドキドキと心臓が高鳴るのを感じる。この高鳴りが、肌を通して伝わっていく。
何より、お腹のあたりに感じるムニュッとした物体。それは……と考えた所でやめておく。
そんな息遣いを感じ、今まで感じたことのない何かが芽生えそうになるのを、必死に頭を振って吹き飛ばしていると、
「うん!ありがとう元気出た!」
ほのかはいつもの明るい笑顔になると立ち上がる。
「見ててね宝太郎君。勝ってくるから」
「……あぁ」
思わず見とれてしまうほどの笑顔。ほのかはそうじゃないとな。と思いながら、ほのかを見送ると、宝太郎も観客席に戻る。カメラの調整をしてくれていた雫と代わって席につき、
「大丈夫そうか?」
「あぁ。達也の作のお陰でな」
そんな大したもんじゃない。と返しつつ、達也も会場に視線を落とすと、宝太郎もカメラを会場に向けたのだが、
「雫?」
雫がジーッっとこちらを見てくるので、宝太郎が首を傾げると、
「ほのかの匂い」
「っ!」
ギクッ!と固まる宝太郎に、雫は更に視線を向けてくる。
「何で宝太郎から」
「キ、キノセイジャナイカナー」
アハハハハハハと笑って誤魔化しながら、宝太郎はカメラカメラと言って、会場の方に集中。
そしてその日のほのかは絶好調で、バトルボード新人戦を無事優勝と言う形になるのだった。