入学式
「お父さん!」
目の前を炎が包む。人々が逃げ出す。
阿鼻叫喚の地獄絵図。
父を呼ぶが、誰も来ない。一人ぼっちの世界。走っても走ってもゴールがない。
「はっ!」
宝太郎は跳ね起き、周りを見る。ここは高校に進学するにあたり、1人暮らしを始めたのだが、その部屋だった。
「夢か」
久しぶり父の夢を見た気がする。
高校に入学するまでは、父の友人で雫の父である、潮の下に身を寄せていたが、入学を機に出た。潮を筆頭に、皆居ていいと言ってくれたが、流石に何時までもお世話にはなれない。そう思って家を出たのだ、物心がついた頃から施設におり、潮に匿われてからも家族だったり使用人が常にいたので、1人だった時間のほうが少ない。そんな中、1人というのは、少し寂しさもあったりする。
まぁそのうち慣れるだろう。なんて思いつつ、準備を始めた。今日から学校だ。
「宝太郎おはよ」
「おはよう宝太郎君」
学校に向かう為部屋を出ると、隣から声を掛けられた。声を掛けられ振り返ると、幼馴染の雫とほのかがいる。
北山雫。引き取ってくれた北山潮の娘だ。小柄で物静かというか無表情でいる事が多い。でも結構ノリはいいタイプ。
そしてもうひとりは光井ほのか。小学校で出会い、それ以降ずっと交流がある。雫とは対照的にスタイルが良く、明るくよく笑う。
そんな雰囲気が正反対の幼馴染に囲まれながら、宝太郎は歩いていく。
元々、ほのかも進学を機に家を出て一人暮らしを始める予定でその際、なら宝太郎君と近場の方が良いわね、とほのかの両親がいい、色々な問答の末、結局隣のマンションで一人暮らしを始めたのだ。
いやまぁ信頼してくれてるのだろうとは思うのだが、年頃の男女が隣同士というのは、些か問題があると思う。今の時代、婚前交渉はご法度。というのは浸透しているものの、間違いが起きたらどうするのだ。いや起こすつもりもないけど。
因みに雫は実家住まいだが、そもそもこのマンション事態も雫の実家が管理しているであり、そこに宝太郎とほのかが住んでいる以上、雫の出入りも自由である。更にいうと雫の実家はすぐ近くにある。
一人暮らしのマンションを探す際、潮が、
「じゃあマンション買うかぁ」
『はい?』
思わず3人で突っ込んでしまったが、潮はあれよこれよとセキュリティ万全のこのマンションを買い上げ、部屋を用意したのだ。
家を出るというのは、独り立ちも兼ねてだったのだが、最低でも二十歳までは面倒を見る。と潮に押し切られた。
余談だが、北山が管理していると言うことは、言い換えれば監視されてるようなものなので、雫やほのかに不埒な真似をすれば、速攻バレるということでもある。
そういう意味でも、下手な真似は出来ないのだ。
さて、そんな3人で移動すること暫く。学校に近づくと段々同じ制服を着た人達が増えていき、チラチラ見てくる。
「何か見てくるね」
「ホントだ」
居心地悪そうな二人を見て、宝太郎は苦笑いを浮かべる。タイプは違えど、二人共美少女だ。そして何より、制服の違い。
雫とほのかの制服には施された花の刺繍が、宝太郎にはない。
「なんでブルームとウィードが」
聞こえてきた言葉に、雫とほのかはムッとしながら言ってきた相手を見る。
相手はギクッと体を強張らせるが、
「ほらほら二人共行くよ」
宝太郎は背中を押して進ませていく。
一科生と二科生。優等生の
まぁ実際、雫とほのかは実技も学科もずば抜けた天才だ。対する自分は、自己採点の結果、学科は合格ラインギリギリ、実技も合格ラインスレスレと言う結果だった。良く合格できたものだ。
そもそも、自分は魔法科高校ではなく、一般の学校に通おうかと思ったくらいだったのだが、
「一緒の学校行こう!」
「勉強なら教える」
とほのかと雫に引きずられる形で連れて来られたというのもある。
まぁ高校でも、二人と話せるのは嫌じゃないし良いのだが。なんて思っていると、
「こんなの可笑しいです!」
『ん?』
学校に入ってすぐのところで、一組の男女が言い争っていた。いや、厳密には、少女が男に何か言い張っており、それをなだめる図だ。
「ってあれ?」
見てみると、先日のショッピングモールで出会った二人だ。
「知り合い?」
「うん。ショッピングモールで出会った二人だ」
「そういえば言ってたっけ」
雫に宝太郎がそう返しつついると、ほのかも息を呑んでいた。
「ほのか?」
「なんであの人が……」
どういうことだ?と二人でほのかを見ると、
「あの二人。入学試験の時もみたんだけど、どっちもすごくきれいな魔法を使ってたの」
ほのかは光のエレメンツの末裔だ。
エレメンツとは、2010年頃に人工的に魔法師を作ろうとした計画によって生まれた者達だ。ただ結局計画は頓挫し、エレメンツは今の時代にほのかの様な一部の末裔が残るだけである。
そして光のエレメンツの末裔であるほのかは、魔法発動する際の力の流れを光として見ることができ、それが綺麗であればあるほど、スムーズに魔法が発動できていると言うことらしい。
因みに宝太郎は前に自分はどうなのか聞いたら、苦笑いを返された。そう言うことである。
「だから二人共合格してたら一科生だと思ってたの」
ほのかの言葉になるほどなぁと思っていると、
「お兄様は学科試験をトップ合格されていました。なのに2位の私が祝辞など!」
『っ!』
その言葉に、思わず3人とも驚いてそっちを見てしまった。学科試験の難易度は相当高い。特に今回は、相当難しかったと言う話も聞こえた。
その中で1位。しかも少女の方は2位。中々秀才兄妹ではないかと思う。しかも先日はバタバタしてて見れてなかったが、妹は相当美人だ。雫やほのかも美人だが、あれは完璧すぎて怖さすら感じる。
「宝太郎?どうかした?」
「あいや、美人だな〜って」
宝太郎の言葉と共に、二人の視線が冷ややかなものになった。
「成程。宝太郎君の好みはああ言う子か」
「いや別に世間一般的な感性で言っただけなんだけど」
そう弁明するものの、二人はなんか怒って歩きだしてしまう。
「ちょっと二人共待ってくれよー!」
宝太郎は意味がわからず、慌てて二人を追うのだった。