「ふぃいいいい」
宝太郎は、九校戦会場近くの森に隠れていた。
マルガムの襲撃があったものの、無事終了となった今大会だが、ガッチャードの正体が宝太郎であること。そして世界に誇るホクザングループが新設した新たな仮面ライダー課に、会場にいた報道各社が殺到。
更に野次馬まで押し寄せ、宝太郎は這々の体で逃げ出し、ここまで来たのだ。
覚悟はしていたが、それでもここまでになると、流石に恐怖である。
達也の方もそのためか、姿を消していた。
因みに、仮面ライダー課については雫も知らなかったらしく、完全に潮が秘密裏に行っていた模様。その為雫はものすごく驚いており、宝太郎と同じく、ホクザングループの令嬢に話を聞こうと記者が殺到していた。
このままではまともに九校戦の修了式もできないので、雫とほのかの二人と別行動して、ここで合流する算段なのだが、中々来る気配がない。
すると、
「少しいいかな」
「うわぁ!」
背後から声を掛けられ、宝太郎は飛び上がった。
「おっとこれは失敬」
「あ!九島閣下!?」
背後に立っていたのは、九島烈。開幕の挨拶でもみた老人がいた。
「ふむ。やはり効かぬか」
「はい?」
何のことだろう。と宝太郎は困惑するが、烈は気にせず肩を竦めると、
「今日の戦いは見事だった。素晴らしいものだ。そのガッチャードの力は」
「ど、どうも。でもケミーの皆が力を貸してくれたからですよ」
宝太郎は頬を掻きながら答える。それに烈は不敵な笑みを浮かべ、
「流石瀬乃風雅氏の息子と言ったところかな?」
「っ!」
宝太郎は体を強張らせた。当たり前だが相手は十師族。父の風雅を知っているはずだ。
「おっと、気を悪くさせたなら申し訳ない。ただ、君のお父さんについて少し話があってね」
「話?」
宝太郎が喰い付くのを確認し、烈は口を開くと、
「あの事件ではもう一つ真実がある。だがそれはあの映像では映ってなかったからね。それを教えてもいい。冥黒の三姉妹の黒幕をね」
「それはっ!?」
だが烈はその先を言わない。
「とは言えただでは言えない。そうだな。今後のケミー研究をこちらにも教えてくれればいいだろう」
ホクザングループが独占的に行うことになったケミー研究。それの内容を教えろと言ってきた。
ケミー研究の何が気になるのだろう。十年前ケミー研究が十師族主導だったのが凍結され、それ以来動いてなかったはずだ。なのに今さら何が……と思うものの宝太郎は、
「お断りします」
「いいのかい?お父さんの死の秘密を知らなくて」
そう言われ、宝太郎は少し黙り、それから口を開くと、
「気にならない。と言ったら嘘になる。だけど俺は潮さんを裏切るわけにはいかない。そんなことしたら雫とほのかにぶっ飛ばされるどころじゃないですよ」
「そうか。分かった」
烈はあっさり諦める。そうなると思ってたと言わんばかりだ。
「もし気が変わったらいつでも連絡しなさい」
それだけ言い残し、烈はその場を後にした。すると暫くし、
「あ、いたいた」
「お待たせ」
雫とほのかの二人がやってきた。
「一先ずお疲れ様。宝太郎」
「ありがと雫。でも雫の方だって大変だったんじゃないか?」
「まぁホクザングループの令嬢としてお話をーって事だったけどね。なんとか逃げ切った」
「明日からのほうが怖いよねぇ」
俺が我慢できず変身したから、と宝太郎が落ち込むとほのかは、
「もう気にしないでよ宝太郎君。あの場じゃああするしか無かったんだから」
「うん。それにさっきお父さんから連絡があって、公式に発表する場を後日作るってさ。取材はそしたら少しは落ち着くかな。ただ明日から暫くは家にいて欲しいって」
「記者さん達に追いかけられちゃうもんねぇ。多分そのまま夏休みかな」
ほのかと雫のやり取りを黙って聞きながら宝太郎は、この二人がいてよかったと思う。いつもこの二人には助けられてもらいっぱなしだ。
何か二人に返していければいいのだが、なんて思っていると、会場の方から音楽が聞こえてきた。今やっているはずの閉会式では、確か終わった後にダンスがあったはず。なんて思い出していると、
「踊ろっか」
「え?」
ほのかはそう言って来ると、宝太郎の手を握る。咄嗟だったので驚きはしたが、宝太郎は大人しくステップを合わせて動き出した。
そして曲が終わると、
「じゃあ次は私だね」
「もしかして休みなし?」
当たり前、と言われて雫と踊る。
月明かりが照らす夜空の下で、ゆったりとした空気の中、3人は宝太郎を中心に交代しながら踊っていく。
いつかこの3人の関係も終わりが来るのかもしれない。だが永遠にこんな風に3人で居れれば、そう願わずにはいられないのだった。
「おい急げ!」
男達は、アジトの撤収作業を急ぐ。今回の九校戦襲撃の失敗。
このままでは自分達は遅かれ早かれ捕まるか、本部に殺される。そう判断し、男達は一時的に身を隠すため、この場を去ろうとしていた。
だが、
「え?」
ガリ、ガリと金属を引きずるような音がしてくる。そしてそのまま扉が吹き飛ぶと、
「どこへ行く気だ?」
ヴァルバラドになった達也が立っている。
「や、やれ!」
周りにいた護衛が銃を抜いて撃つが、ヴァルバラドになっている達也には効かない。銃弾の中をゆっくり歩き、護衛をヴァルバラッシャーで切り捨てる。
「ま、まて!」
一人の男が言う。
「な、何が目的だ!か、金か?」
と言った瞬間、達也が脳天を撃ち抜いた。
「ひぃ!」
別の男が腰を抜かしてへたり込むと、達也はヴァルバラッシャーを振り下ろす。
「お前たちはミスを犯した。俺が許すことはできないたった一つのミス。それは、深雪を危険にさらしたということだ」
ゆっくりと振り返りながら言う達也の姿は、まるで地獄の鬼のようだ。
「お前たちにできるのはただ一つ。死ぬ瞬間まで、自身の行いを悔いることだけだ」
そう言って残った男たちに達也が襲いかかって暫くすると、アジトから達也が出てくる。
「お疲れ様達也くん」
「ありがとうございました。藤林さん」
藤林と呼ばれた女性は、優しげな笑みを浮かべ、
「流石ヴァルバラドシステムは凄いわね」
「えぇ」
でも、と藤林は言い、
「だからこそ、それが完成間近には気になったのが悔やまれるわね」
「そうですね」
元々ヴァルバラドシステムは、国が行っていたケミーの軍事兵器化への研究によって作られたものだ。だがそれが半年前、それの研究の一切の禁止ならびに研究結果の破棄が行われた。
上からの指示、とのことだが今思えば、ホクザングループが政治的な手回しをして、自身で研究やそれを用いたものの独占を行うための一環だったのだろう。
とは言え、破棄前に達也はこっそり持ち出しており、自身でそれを完成させたのだが。
しかし何故それができたのか。それは達也は魔法を失う前まで、独立魔装大隊という軍に所属しており、その縁で目の前の藤林とも知り合っている。彼女も同じく軍の人間だ。
ただヴァルバラドシステムが持ちだせたのは、このまま破棄するのは忍びないと考えた男が、持ち出しやすいようにしていたのも、達也は気づいている。
「風間少佐は元気ですか?」
「えぇ、達也くんもたまには連絡したら?」
「自分はもう軍に所属していませんから」
と言ってバイクに跨ると、
「それでは失礼します」
「えぇ、気をつけてね」
と短くやり取りをし、走り出した。
今回は無事なんとかなったが、これからあの冥黒の三姉妹の活動はさらに激しくなるはずだ。
「急がないといけないか」
ヴァルバラドシステムの完成形。それは宝太郎のガッチャードを見て確信に変わった。
自分自身のドライバー。それを完成させれば、ヴァルバラドは完成する。
(そうすれば俺は深雪を守れるはずだ)
魔法を失おうとも、変わらない信念。妹の深雪を守る。そのために、達也は走り続けるのだった。