オラリオで斬魄刀打つ転生者の話   作:オリ斬魄刀の小説増えろ

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あんころ(餅)さん、誤字報告ありがとうございます。


ヘスティア鍛治店営業中。

 迷宮都市オラリオ。

 

 この世で最も雑然とし、この世で最も人が多く、この世で最も活気に溢れ……そして、この世で最も多く人が死ぬ街。

 

 そんな街の端の端にある、崩れかけの廃教会。

 

 横の敷地に小さな古い、しばらく使われていないような……しかし印象に反して中でドワーフが現在進行形で鉄を打っている鍛冶工房があることを除けばどこにでもある廃墟に見えた。

 

 しかし、よく見るとその教会は所々が石材を新しくしていたり、漆喰を塗り直していたりと小規模な、しかし丁寧な補修作業の跡が見て取れる。

 

 そんな教会の内部、若干風化し始めている部分と真新しい部分が入り混じっている礼拝堂の祭壇近く。

 

「よ……っと」

 

 その祭壇の下の床が、ボコッと音を立てて開いた。

 

 そこから出てきたのは、濡羽のように艷やかな黒髪を背に流す、汚れの無い純白の衣服を身に纏う少女と女性の間のような、両者の魅力的な部分を総取りにしたような美しさを持つ女だった。

 

 この街に住む人間が彼女を見れば、その現実離れした美貌から直ぐに理解したであろう。

 

 ……彼女は【神性】である、と。

 

「ふゔ……ッん」

 

 ペキペキと思い切り伸びをして盛大に背骨を鳴らした彼女は、ピョンピョンと跳ねたり脇の筋を伸ばしたりと朝の体操をしてから廃教会の外に出る。

 

 外に出てから、教会の敷地の内外の建物をグルリと一睨みして、彼女は再び溜息を吐いた。

 

(……また建物に傷が増えてる……僕が眠っている間に、また戦闘があったのか……)

 

 眉をひそめ、憂いをその瞳に映して暫く。

 

 パンッ!! と両頬を叩いたヘスティアは、井戸に駆け寄ってガコガコと釣瓶を上げて水を汲み、バシャバシャと何度も顔に水を掛ける。

 

 やがて釣瓶の中の水が無くなって、井戸の縁に手を置き、息を整える。

 

「ハァ……ハァ…………フゥーッ…………ハアァ」

 

 もう一度水を汲み取り、しかし今度は顔を洗わずにその小さな水面()をじっと見つめる。

 

 波打つ水に映った女神の顔は……井戸水で濡れて、ぐちゃぐちゃになっていた。

 

「…………頑張ろう……頑張るんだ……今日も」

 

 そう言って、水面に向けてニコッと笑顔を作った彼女は腕で水を拭い、「頑張るぞーっ!!」と両腕を振り上げる。

 

 そのまま同じ言動を二回、三回と繰り返した後、「ヨシッ!!」と笑って彼女は教会の隣へと歩を向けた。

 

 敷地の外に出て、すぐ隣の小さな古い鍛冶工房に入り、カンカンと鉄を叩くドワーフの背中を軽く叩く。

 

「おッはようオーエツ君!」

「ん、おはよう主神殿」

 

 

 

 そのドワーフこそ、彼女の下界唯一の眷属、鍛冶師のオーエツであった。

 

 いつから槌を叩いていたのか、ヘスティアなどよりよほど重苦しい音をゴキゴキ鳴らしながら全身を解したオーエツは、打ちかけの刀をもう一度手に取る。

 

「一段落してから飯を食いに行く。先に食べておいてくれ」

「あはは! なぁに、待つに決まってるじゃないかそのくらい!」

 

 ヘスティアが闇派閥の襲撃を察した事をオーエツは気付かないふりをし、ヘスティアもまた気付かれた事に気付かないふりをする。

 

 この二人の事更に明るい朝は、互いの気遣いによるものだった。

 

 オーエツがいつの頃にか作ってくれた無骨で小さな椅子に座った彼女は、ニコニコと彼の小さな背中を眺める。

 

「……そうやっていて楽しいもんかい」

「ボク、鍛冶作業見るの好きだから! 天界では時間潰しにヘファイストスの仕事もよく見てたんだ」

 

 実際には時間潰しというよりもヘスティアがアポも取らずに遊びに行って、作業が一段落するまで待ちぼうけを食らわされていたというのが正しいのだが、彼女が鍛冶作業を見るのが好きな事は事実なので何も間違ってはいない。

 

 埃と煤で薄汚い鍛冶場に一人、白く眩い少女が座っている。

 

 その事に思う事があったからかは分からないが、オーエツは無言で手を早めてすぐに作業を一段落させた。

 

「待たせた。飯にしよう、主神殿」

「うむ、くるしゅーないよ!」

 

 ケラケラと笑って自分よりも低い場所にある汗で湿った肩をパンと叩いたヘスティアは、外に出て日光を浴び再び伸びをした。

 

「今日もいい天気だねえ!」

「そうさな……いい日になりそうだ」

 

 一柱とその眷属一人はそんな会話をしながら、廃教会の中へと入っていった。

 

 その廃教会には、【ヘスティア鍛治店】と看板が立っている。

 

 ヘスティアが下界に降臨して……そして、オーエツというドワーフと出会って……既に一年が経っていた。

 

 

 

「コレ返品だ!! 金返せ!!」

 

 ガシャンと廃教会に用意した商談用のカウンターに一本の刀が放られ、ヘスティアは落ちそうになったそれを慌てて受け止めた。

 

「返品って……君は二ヶ月前にコレを買ったばかりじゃないか!?」

 

 ヘスティアは大事な眷属の作品をぞんざいに扱われた怒りでカウンター向かいの冒険者を睨みつけるも、相手は意にも介さず鼻を鳴らす。

 

「最強の武器だって言うから大金はたいて買ってやったのに、他の剣と大して変わりゃしねえ! 刃こぼれが勝手に治るのはいいが、大して強くもねえこの刀じゃモンスター共と戦っていけねえんだよ!」

この刀(斬魄刀)はちゃんと覚醒するまでに年単位の時間が必要なんだ! その事は購入時にちゃんと説明しただろ!?」

「知らんね!」

「えッ……はァあ!?」

 

 ヘスティアは驚いた。

 

 目の前の冒険者が嘘を言ったからではない。

 

 目の前の冒険者が『嘘を言っていない』からだ。

 

 ヘスティアの聡明な神頭脳では、二ヶ月程前に目の前の冒険者がこの斬魄刀を買う際、神妙にウンウン頷きながらこちらの説明を聞いていた事を鮮明に思い出せるというのに。

 

「君あの時頷くだけで全然僕の話聞いてなかったのかァ──ッ!?」

「あんな細かいセツメーなんて聞けないんだよ! だって俺馬鹿だから!」

「は、恥って言葉を知らないのか君はぁ──ッ!!!」

 

 ふんがぁぁっと憤慨する神を前にして、恥を知らぬ冒険者はヘラヘラと笑いながら返金を要求する。

 

 そんな冒険者の顔面に、ズッシリと重い袋が高速で叩きつけられた。

 

「ハッギュッ!?」

 

 ゴシャッ! と痛そうな音と共にひっくり返った冒険者。

 叩きつけられると同時に袋の口が開き、ジャラジャラと中身の硬貨が溢れ出た。

 

「……お前のような馬鹿ヅラに売った時からそう来ると思っとったわ。百万ヴァリス、耳揃えて確かに返したぞ」

「オーエツ君!」

 

 冒険者の顔面に硬貨が入った袋を叩きつけたオーエツは、非難めいた叫びを発したヘスティアに呆れた声を出した。

 

「こんな馬鹿に何を言っても無駄だ。百万返して二度と来んならそれでいい」

「誰が馬鹿だチビオヤジ!!」

 

 オーエツの罵倒を聞いた冒険者がドワーフに掴み掛かり罵倒する。

 

「いいか!? 俺はレベル二なんだぞ!? 【偉業】を達成してるんだ! ンな馬鹿にしやがったらよぉ〜!! 手が出ちゃっても仕方ねえよなァ!?」

 

 目の前の男がレベル三(・・・・)であることも知らない程に愚かな冒険者は、哀れなものを見るヘスティアの視線にも気付かずに恫喝を続ける(イキり倒す)

 

 そして、その愚かで愚鈍な冒険者は後ろから近付く者にも気付かなかった。

 

 がッ、と首筋を掴まれ、凄まじい力でなんの抵抗も無く持ち上げられた冒険者。

 

 それに反応する暇もなく、廃教会の出口へと放り投げられた彼は、ノーバウンドで街道まで飛んだ。

 

 ぶぎゃ!! と情けない悲鳴を上げて街道に沈んだ彼は、レベル二の頑丈さで直ぐに立ち上がった。

 

「誰だっ!! この俺様を」

 

 そして、止まった。

 

「投げ……やがった……のは」

 

 その視線の先に、自らを投げ飛ばした男が居るだろう位置に。

 

「……邪魔だったから投げた。それだけだが?」

「お……おっおおおおお【猛者(おうじゃ)】あッ!?」

 

 今現在のオラリオでの『最強』が立っていたからだ。

 

 レベル六。

 

【フレイヤ・ファミリア】所属、【猛者(おうじゃ)】オッタル。

 

 現状この都市での、唯一のレベル六冒険者であった。

 

「神ヘスティアよ、今月分の代金だ」

「あ……ああ、うん……今数えるね」

 

 ジャリンと重たい金属音を鳴らして置かれた大きな袋から沢山の硬貨を取り出し、数え板(硬貨の大きさの窪みが百個空いた板。硬貨の山を置いて均すだけで百枚を数えられる)で計算を始めたヘスティア。

 

 その間にオーエツは無言で差し出された刀を引き抜き、その様子を舐めるように眺めた。

 

「刃毀れも無し……上手く付き合っとるようだな」

「最近になって、刀の声というものが聞こえてきた気がする。始解までどのくらいだ?」

「『気がする』程度じゃあまだまだ遠かろうよ。この刀は生きとるという事を意識するのが良いだろう。コイツに心を開いてやれば、幻聴ではなくシッカリと会話ができるようになる……進歩はしとる。安心しろ」

 

 オーエツとそんな会話をしている彼は勿論こんな都市の辺境にある小さな鍛冶屋に来るような身分ではないのだが、彼は彼なりに思うところあってこうしている。

 

 

 

 というのも、一年と少し前。【最強の武器】の話題がオラリオを席巻した時、当然のように彼は主神のフレイヤにこの武器と【銀筒】を買い求めるようにと命じられ、辺境の廃教会へと足を運んでいた。

 

 そこで幾人もの冒険者や幾柱もの神との商談で頭から煙を噴いていたヘスティアと出会ったのだ。

 

 

 

 オッタルは、まだ物の分別もつかない子供の頃、薄汚い路地の裏でフレイヤに拾われ、そして神の愛を受けて育てられた。

 

 そんなオッタルにとってフレイヤは己の全てであり、フレイヤこそが唯一絶対の神……彼は、この千年続く神時代においては絶滅危惧種に近い程の、【一神教信者】であった。

 

 そんなオッタルの態度は、いかに敬った態度を取り繕おうとも神々には筒抜けであり、彼は様々な神から疎まれていたし、そうでなくても彼の態度に本当の意味でいい顔をする神は一柱たりとも存在しなかった。

 

 しかし、ヘスティアは違った。

 

『へぇ、君はフレイヤのところの子なのかぁ!』

『ムキムキで強そうだねえ。ボクの眷属になるつもりないかい?』

『即答! アハハハ! そっかそっかぁ! 君はボクを全然敬わないんだなぁ!』

『あぁ、いいよいいよ別に……ふふふっ』

『きっと君は、この世界中の神全部なんかよりも、もっとずーっとフレイヤの事が大好きなんだねえ』

 

 そのへんに転がっている神は、自分に信仰と畏敬を求めた。

 

 別のファミリアの眷属達は、ただ自分を恐れた。

 

 同じファミリアの眷属達は、ただ歯を剥き出しにして対抗をするのみだった。

 

 オッタルは、その時生まれて初めて、フレイヤ本神以外にフレイヤへの想いを全肯定されたのだった。

 

「オッタル君! 四百万ヴァリス丁度頂いたよ! ハイこれ注文の【銀筒】!」

「ああ……ありがとう、神ヘスティア。来月も頼もう」

「うん!」

 

 それ以来、オッタルは自分自身を肯定してくれた善神への義理として、遠征中やフレイヤの命令(わがまま)を遂行している最中でない場合は可能な限り自分自身でこの店に出向き、取引をしているのだった。

 

「オーエツ」

「うむ。イイもんを見た」

 

 オーエツに斬魄刀を返してもらったオッタルは、小袋に入れられた【銀筒】を揺らしながら帰路についた。

 

 

 

 オッタルが帰途についてしばらくしてから、ヘスティアとオーエツは入口から先程の冒険者が顔を覗かせているのに気が付いた。

 

「…………何してんのさ君」

「い、いやあ……あのオッタルが持ってる剣なら、俺も持っときたいなあ……なんて」

「…………どこまで恥を知らないんだ君は!!」

「いやぁー、でもホラ! 俺はホント将来有望な冒険者なんだぜ!? 【一等星(スーパースター)】って二つ名聞いたことあるだろ!?」

(あっ神会(デナトゥス)で百年に一度の一等級バカって言われてた名前だ)

「……主神殿、俺は包丁研ぎに戻るぞ……ソイツの処遇は任せる」

「あっこら面倒だからってこいつぅ!!」

 

 現在、【ヘスティア・ファミリア】の鍛冶店舗【ヘスティア鍛治店】は(値段は別の話として)その注文数の八割が近辺の大工や、都市外で農作業をしている【デメテル・ファミリア】の農機具の修理などであり、残り二割が持続的に数百万ヴァリスを払える大規模なファミリアとの直接契約と、【ヘファイストス・ファミリア】への消耗品魔力武器の卸し業であった。

 

 斬魄刀は……ぶっちゃけあんまり、売れていなかった。

 

「ねぇねぇオーエツ君、もういっそ【ヘスティア金物屋】に改名する? 今のメイン商品の【銀筒】だってあれ鍛冶じゃなくて銀細工*1だしさあ」

「それも悪くないな」

「もぅ、真面目に考えてよ〜」

「考えとるよ……どこにでもある金物屋、その裏の顔は世界有数の鍛冶師……フフ……悪くない……ああ、悪くない……!」

「そういう真面目さかぁ! もう!」

 

 昼飯時、昨日の炊き出しのシチューの残りを煮詰めて作ったサンドイッチのそのまた残りを使ったグラタンを食べながら、そんな会話があったとか。

 

 

 

 ……………………『大抗争』まで、残り二年。

*1
銀板の切り出しからの魔石粉末塗布、板金加工と魔法陣彫刻。火は円筒を継ぐ所にしか使用していない




さり気なくオーエツのレベルが上がってます。

一年神様護って戦い続けたら、多分レベルアップできる程度の経験値は溜まると思う。
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