オラリオで斬魄刀打つ転生者の話 作:オリ斬魄刀の小説増えろ
オラリオという都市を、人は何というだろうか。
ある人は魔石採掘の鉱脈とでも嘯くだろうか。
ある人は夢を叶える場所だと胸を張るだろうか。
ある人は尊き神々が幾柱も在られる神域だと仰ぐのだろうか。
ある人は──ある人は──あるひとは──
……私にとっては。
「オイ、聞いてんのかリリゴラァ!!」
「ィぎっ!?」
オラリオは、地獄だ。
そして私は、悪魔の中でも浅ましく意地汚いだけで何の力もない、この世で一番のゴミ。
「チっ、ガキの
「あっ、待っ」
目の前で私に何かを吠えていた
私はソレに何かを言おうとして、頬を殴られた。
それに耐えられず、私は床に倒れ伏す。
「金も稼げねえ、人の話も聞けねえカスがテーブルで飯なんて食う権利ねえんだよ!」
この
ただ、
「全くよぉ、『誕生日』だか何だか知らねえけど、ソーマ様もこんな
バシャ、と、私の頭にまだテーブルの上にあったスープが掛けられる。
「よぉ〜〜っく味わって食えよ? ソレはテメェの金で買った飯じゃねえ。本来
「……」
「返事ィ!」
私の頭にコツンと当たった、
床に落ちたソレをグリグリと踏みしめられて、足跡が残ったそれを私は大事に抱え込む。
「……はい。ソーマ様の慈悲に、感謝をッギァッ!?」
再び顔を、今度は蹴られた私はひっくり返って崩れ落ちる。
「ソーマ様もそうだけどなぁ、その金を稼いでんのは眷属の俺達なんだが? そのへんを無能のクズはどう考えてんだ?」
「……はい。皆様には、とても、感謝を」
顔を蹴られた痛みで途切れ途切れになりながらも
「……はっ、分かりゃ良いんだよ」
パンは、泥と血の味がした。
男が去った後、私は半分程食べたパンから口を離す。
きっと、顔を蹴られた時に取れてしまったのだろう。
口の中から、血だらけの乳歯が一本ボトリと掌に落ちた。
…………生まれてこの方『地獄』に居た。
「……ご飯なんて貰っても」
貰っても、なんだろう。
私は一体、何が言いたいんだろう。
私は────
それ以上何も言わず、今度は泥をできるだけ落としてからパンを口に運んだ。
誕生日なんて、どうでもいい。
産まれた日の事なんて覚えていないし、覚えているであろう両親は既に死んだ。
私は、誕生日の『意味』が、分からない。
だけど、私はこの日、六歳になったらしい。
だから何だ。
私は、抜けてしまった乳歯を部屋の隅、ゴミ溜めになっている場所に捨てた。
炉の女神ヘスティアを主とする【ヘスティア・ファミリア】は団員が一人しか居ない。
そして、現状鍛冶ファミリアなんだか雑貨ファミリアなんだか分からないが、とにかく物を売る以上は営業活動というやつが必要で、そしてソレは主神たるヘスティアが直々に行っている……と言えれば良いが、現状の治安最悪のオラリオでそんな事をすれば間違いなくヘスティアは天界送還一本道である。
かつての二大巨頭【ゼウス・ファミリア】、【ヘラ・ファミリア】がいなくなった直後に比べれば随分とマシらしいが、今でも【
……実際、住んでいる教会は昼夜を問わず……しかしヘスティア主導の炊き出し等の人が集まっている時を多く狙ってスリや盗み、もしくは【闇派閥】による襲撃が散発しており……それを【ガネーシャ・ファミリア】や【アストレア・ファミリア】(この辺境の教会まで巡回ルートを組んでくれている)と共に撃退し、また【闇派閥】への襲撃作戦の後詰め人員として(ヘスティアを大手ファミリアの
しかしそれはそれとしてオーエツは暇さえあれば鍛冶仕事をしていたい男であり、そしてある程度その作業が落ち着くまでは飯も食わない男でもあった。
俺は鍛冶がしたいぞ、ソレだけじゃ食べていけないだろ、営業の経験なぞ無いが、ボクは武具屋でバイトした経験がある、何で神がバイトしとるんだ。
……と主神と幾度かのやり取りがあった結果、店舗には極力在庫を置かずに受注生産のみとし、更に隔日営業……つまりはオーエツが一日ずつ交代で営業に専念する日と鍛冶に専念する日を作ったのだ。ちなみに休みは週に二日(炊き出しの日)だ。
ちなみに、このリラックスできる環境かついくらでも暇があり、しかも週休二日という環境にヘスティアは涙を流して喜んだ。バイト女神の喜びのハードルは低かった。
そして……
「……どうだい!? 鍛冶神から【最強の武器】のお墨付きがある斬魄刀、今ならこの【レベル三】の鍛冶師オーエツ君が注文後直ぐに製造! お値段なんと一本百万ヴァリス!」
「いや〜、俺等はいいかな……」
売れない……!! 全く……!! 斬魄刀……!! 一本たりとも……!!
「ふぅむ……何故だ? 何故買わん」
「いや、そりゃあさ? 神々のお墨付きってのを疑う訳じゃないよ? ウチの神も言ってたしさ……けど、その最強っぷりを発揮できるようになるまで何年かかる訳よ? アンタの説明じゃ下手すりゃ一生発揮できない可能性だってあるんじゃん? それならその百万ヴァリスで今日から百パーセント力発揮できる今より確実に強い武器買うじゃん」
「むう……まぁ、そうなるよね」
「っしょ? 多分、百万ヴァリスなんて端金! って言えるくらいデカいファミリアとか冒険者じゃないと買ってくれないぜ? 【闇派閥】も居る今、俺等もできるだけ死にたくないわけだしさ」
「ぬう……」
「それに、いくら武器が良くったってステイタスが上がらないなら宝の持ち腐れだよな〜ってのもある……いや、偉業は溜まるとしてもさ」
「…………」
「あ、でも【銀筒】は買うよ! 三つくれ!」
「毎度あり〜。六十万ヴァリスね。一週間後に受け取りに来てよ……はいサインお願いね」
とある探索系ファミリアでの商談を終え、彼等の
暖かく彼を照らす陽光に大きく伸びをし、オーエツは呟いた。
……大体、どこのファミリアにおいても言われることは一つだ。
『明日も知れない冒険者稼業で、結果の見えない斬魄刀は手にしづらい』
……その事をほとほと痛感した彼は、いよいよもって一つの考えを実行しようとしていた。
「サンプルが必要だな……」
「冒険者を雇うゥ!?」
その夜、素っ頓狂なヘスティアの声が食卓を揺るがした。
叫んだその顔のままで焼いた鶏肉をモシャッと口に入れた女神に、オーエツは深く頷いた。
「そうだ」
「そりゃまた、何で?」
「売れんのだ……! 斬魄刀……!」
ドン、とチキンにフォークをぶっ刺して、そのまま口に運ぶ。
そんなドワーフに、ヘスティアは取引の関係でちょっと安くしてもらえる【デメテル・ファミリア】の産地直送*1野菜のサラダを大皿から自分の皿に移す。
「……まぁ、確かに
「ここに住み始めてもう一年。十分に分かった……冒険者が求めとるのは【
「ボクの方も、潤沢にお金があれば買うのになー……って感じだったなあ」
そう。
冒険者は、力を求めない程に枯れ果てている訳ではない。むしろ力は常に求めている。
しかし、ソレは何の為か? と問われれば、安定した生活の為なのだ。
このオラリオにて活動している冒険者はその半数以上がレベル一の低級冒険者なのだ。ソレはつまり、一日にどれだけ稼いでも二〜四万ヴァリス前後、ソレも安全の為に組んだパーティで大概は頭割り。
つまり大概は一日の稼ぎは大体三千から八千ヴァリス。良い時で。
そしてそこから傷の治療費に住居代、装備の手入れ代、飯代に
そこから更に百万ヴァリスを貯める? ソレで買うのが
……そりゃあ、低レベル帯は誰も買わんであろうというものだ。
なんせ、最大母数のサンプルとしてレベル一を例に上げたが、例え一つくらい上のレベルになろうともその分敵だって強くなるし装備品も高額になるわけで。
つまり、この街の冒険者の七割から八割の人間は、斬魄刀を買うような余裕も無いのだ。
で、その結果。
「……まぁ、大手ファミリアしか買ってくれなかった訳だ……」
「逆に、大手からは数十本単位で大量に注文が来たんだがなぁ……」
はぁ、と二人揃って溜息を吐き、それぞれがパンを同時に手にした。
ムシッと硬いパンをちぎって小さなおくちでむくむく食べ進めるヘスティアと、大口でモリモリ食べ進めるオーエツ。
「…………ヘファイストスにでも頼む? 早く発現して〜ってさ」
「ソレで発現するもんかい……それに、大手には頼りたくない。大手に所属する冒険者が解放しても大多数の冒険者の希望にはならんだろうさ。狙うは中堅から零細のファミリアの冒険者だ」
言いながら、オーエツが硬いパンをスープに浸して食べ始めたのを見て、ヘスティアもそれを真似る。
「このスープ美味しいねえ。野菜の味がよく出てるよ」
「このご時世に中々頑張っとるな。値段も一杯四十ヴァリスとまあ安い」
「ウェルマー君のところの屋台かい? ねぇ、明日のお昼もこのスープにしようよ」
「今日は鶏肉がメインだったから頼まんかったが、このスープで煮込んだ鶏肉一つ入りで百ヴァリスだそうだ」
「えぇ〜何それ。絶対美味しいやつじゃん」
「それとな、今日行ったファミリアの近くにモツ焼きの看板があるのを見たぞ」
「えぇ〜!! 行きたい行きたい!! 今度の休みに連れてってよ!」
「ふはは、ええぞ……店を畳んどらんかったらな」
「約束だかんね! ……はぁ、最近は減ったけど、一年前の降りてきたばっかしの頃は酷かったもんねえ」
「何度看板だけが残っとる店を訪ねたか、分からんからな……」
そうやって、その日あったいろいろな話なんかをしつつもやがては食事を食べ終わって二人で食器を外の井戸に持っていく。
オーエツが水を汲み取り、ヘスティアが藁と布で汚れを落とす。
「で、さっきの続きだけどさ、どーやって冒険者を雇うのさ? それに君は冒険者じゃないんだから、ダンジョンに潜っている所を監視もできないから斬魄刀使います! って言ってダンジョン内じゃもっと強い武器を使うって事も……」
「いや、それは無いな。斬魄刀は名前を知らなけりゃァ確かにごく普通の刀だが、ソレでも更にレベルアップした
「わぁ〜、作戦名だけでだいたい何するかわかるぅ」
作戦名:【力が欲しいか作戦】
①まずはダンジョン入口であるバベルの冒険者ギルドロビー前にて待機。
②自身の無力に打ちひしがれた若いカモ冒険者が登場『俺はなんて無力なんだ……!』
③そこに颯爽とオーエツが立ち、こう言う!
「……俺『若者よ……力が……欲しいか……』若者『……欲しい! 俺は、力が欲しい!』」
「なんか始まった……」
「俺『何故力を欲する? 戦う為か? 勝つ為か? 生き残る為か? どれだ』若者『勝ちたい……!』俺『……聞こえんな』若者『戦うだけじゃ意味がねえ……生き残るだけじゃ意味がねえんだ! 勝ちたい……! 勝ちたい!!』俺『いいだろう……ならば連れて行ってやる! (廃教会へGo→)』……どうだ? 完璧だろう?」
「う〜ん、なんっていうか君ってホント感性が
「褒め言葉として受け取ろう」
「別に褒めてはないかな〜」
「褒め言葉として受け取ろう」
「そして話聞かないっ! 村人Aかっ!!」
唐突に一人小芝居を始めるオーエツに、ツッコミに余念が無いヘスティア。
この暗いオラリオ、それもたった二人の、しかし暖かい
そして、いつもの一日が終わり、寝る前となった頃、寝床に寝転んだヘスティアがオーエツに一つ尋ねる。
「ねぇオーエツ君、君、誕生日いつ頃だい?」
「むん? ……そうさな……俺達の村は日にちではあまり考えなくてな。秋の頃の、収穫祭と同時に祝っておったな」
ふーんと言い、ヘスティアは部屋の隅から紙袋を取ってきた。
「ほら! 誕生日プレゼント!」
「今は夏だが?」
「別に良いじゃん? 四十何年分って事でさ! 秋は秋で用意するし!」
袋を開けると、そこには少し硬めの枕が入っていた。
「この地下室の一つしかないベッド、ボクが使わせてもらってるだろ? だから枕くらい良いのを使って欲しくてさ!」
「……ふむ」
「……って言っても、元々はオーエツ君の【銀筒】を売ったお金で買ったから、あんまり胸張って渡せないんだけどさ……」
そう、少しばかりシュンとするヘスティアに背を向けて、オーエツもまた営業用の背嚢から一枚の布を取り出した。
「実はな、俺も用意しとったんだ……別に誕生日というわけではないが」
「え? ……あ! エプロン!」
それは、ヘスティアに似合う空色の、実用性を重視したデザインの厚手のエプロンと小さめな皮手袋だった。
「今使っとるやつ、もう一年使ってボロボロになっとるだろう? 受付や会計担当とは言え、刃物を扱う業務だ。そのへんはちゃんとしとかにゃあいかんだろうとな」
「わぁー!! やったやった!! 着けてみて良い!?」
「明日にせんかい。もう寝る時間だ……そもそも明日朝に渡す予定だったしな」
「えー! 良いじゃん良いじゃん!」
気恥ずかしさからかそれとももう眠いのか、渋るオーエツにゴリ押しし、プチファッションショーを始めるヘスティア。
「どう!?」
「ああ……似合っとる」
まだ煤も油汚れも付いていない、まっさらの綺麗なエプロンを着けてポーズを取るヘスティアに、眠すぎて気の無い返事をするオーエツ。
「どう!?」
「ああ……腕枕より寝やすいぞ」
新しい小さな樹の実の殻を使った枕の寝心地を尋ねるヘスティアに、もう寝そうな声で答えるオーエツ。
「ふへっへへ……うれしーなァ、ねぇオーエツ、ボクこれ明日から毎日着るよ」
「脱いで寝ろよ……」
「やだー! 着て寝る!」
「……皺になるぞ……」
殆ど眠りかけているオーエツを見て、ヘスティアはとりあえずはしゃぐのを止め、灯を消す。
「おやすみー、オーエツ」
「……ぐう」
オーエツの大きくも小さくもないいびきが響く地下室で、エプロンを着けたまま床についたヘスティアは、ニコニコ笑って眠りについた。
(明日はなんか良いことありそうだ……!!)
そして、次の日。
「て、手が真っ黒にぃ〜〜〜っ!?」
「皮手袋の染料が移ったんだな……だから脱いで寝ろと言ったんだ」
ヘスティアは朝から泣きながら手を洗う羽目になるのだった。
リリが出ました。そろそろ物語も本格的に動き始めそうです。
リリの年齢を五歳としていましたが、時系列的に六歳ですのでこっそり訂正しておきました。