オラリオで斬魄刀打つ転生者の話 作:オリ斬魄刀の小説増えろ
この小説ではゼウスとヘラはロキとフレイヤに街を託して自らオラリオを出立し、残された二人のファミリアが仕方が無く自分達が追放したという経緯にした、という設定を採用しています。だってもしそうだとしたらオラリオの尻叩きが目的のあの二人が戦闘時に「あの時の方が強かったぞもっと頑張れよ」的な事言わなきゃおかしいし……。
あとヘスティア様の女神力が爆発しているのは作者の趣味です。世界で一番敬愛してる母親代わりの女神様が自分より年下の男の子にガチ乙女ムーブしてるのを見て滅茶苦茶複雑な顔をするリリが見た彼女は暗黒期という全てが荒んだ時代では、ある種の絶対的な神性を放つ存在だと思うのです。
あとエレボスはこの小説のヘスティア様苦手だと思う。色んな意味で。
佐藤一太郎さん、リア10爆発46さん、誤字報告ありがとうございます。
「……ふーむぅ」
ある日、オーエツとヘスティアは神の塔バベルの根元の広場にて、噴水の一角を占拠しながらウンウンと唸っていた。
「……うにゅにゅにゅ……」
火と鉄と共に生きるドワーフにとって髪や髭は素肌をそういったモノの礫から守る為に生えるものであり、故にそれを刈る者は少ない。
だからこそ……ちゃんと髭を剃っているドワーフも、髪を刈り上げているドワーフも滅多に居るものではない故に、髭の無い、サイドの髪を刈り上げてセンターの髪を後ろに流し、ついでに大きなサングラスを掛けているそのドワーフはとても目立った。
何より。
「……ふぬぅ」
その隣に幾本もの刀を差し込んだ大きな背嚢を置いている事が、とにかく目立っていた。
「オイ、アレ見ろよ……【ヘスティア・ファミリア】のオーエツだ」
「アレが【
「バァカ、せめてレベル二になってから言え……でかいのは同意」
「てかその前に煙草やめろやアホ」
「うるせー!」
そうやって、カラカラと笑った彼等は、そのままダンジョンへと進んでいく。
「オラ! 遅れんじゃねぇぞ
「金が欲しいんだろ!」
その後ろに、大きな背嚢とボロ切れを纏った一人のヒューマンを連れて。
「返事もできねえのかよテメェは」
「……すみません」
「ちゃんと声張れよな〜? 声張ったら、モンスターに襲われてる時にも早く助けてやれるかもしんねーんだし?」
「わぁお、やっさしー!」
「俺が女なら惚れてるわー!」
「ほら、礼言えよ」
「……ありがとうございます」
「声張れっつってんだろーがッ!!」
先程、助けてやると言っていた筈の冒険者が、剣の鞘でサポーターをドスッと小突き、サポーターはそれには何も言わず、先程より気持ち大きな声で「ありがとうございます」と礼を言った。
その光景を、サングラス越しにじっと見ていたオーエツは、そのサポーターの目を脳裏に浮かべ、深く息を吐いた。
そのサポーターの目は、絶望しか無かった。
そのサポーターだけではない。
ここに来て数時間、オーエツが望むような不屈の魂を持っていそうな者はまるで見当たらなかった。
隣でとても……とっても不機嫌そうなヘスティアをどうどうと軽く宥めながら、オーエツはひとりごちる。
「
死が目に見えぬものであるからだ』
ヘスティアしか聞いてないのを良いことにBLEACH巻頭ポエム(二巻)を呟いているオーエツ。
ヘスティアは一緒に暮らす内にオーエツが唐突にやたらカッコつけた事を言うのには慣れていたので、またやってるよという目を向け。
そして、噴水を挟んだ反対側あたりにそれを聞いている
「なんやあ、ええこと言うやん自分」
そう言って、スススと噴水の反対側から近づいてきたのは都市最大派閥、【ロキ・ファミリア】の主神ロキであった。
その隣には癖なく美しい金髪の少女、【
そんなロキ達にオーエツは淡々と、ヘスティアは露骨に嫌そうな顔を向けて相対した。
二つの【ファミリア】の間に、静かな緊張が走る────
「おお、久しいな、ロキ神」
「げぇ、ロキ!」
「おォ。何やジブン
「……黙秘しよう」
「おい、僕の事は無視か!? 無視なのか!?」
「何やのノリ悪い! なんならウチ好みのええ詩やったら昼飯奢ったんで?」
「本当か? ……ふむ、そうだな……どの詩にするか……」
「あ、アレなんて良くない? こないだの『我々は涙を──』って奴。僕アレ厳しいけど好きだよ」
「いっや掌返し早すぎやろがい! こーの庶民派ァ!!」
────緊張は、ロキの財布と引き換えに霧散した。
「んでまあ、こっちの娘……ウチの期待の新星のアイズたんがなんぼ言うてもダンジョン攻略休まんもんやから、今日は強制的にウチとデートっちゅー
「いや別に」
「ただの護衛です」
「恥は身内に収めてくれ」
「リヴェリア、所で
「ジブンら冷たすぎへん?」
BLEACH巻頭ポエム七巻*1で見事にロキからじゃが丸くん二袋分*2を手に入れたオーエツとヘスティアは、屋台から戻って来て再び噴水に腰掛けていた。
そしてその横に、同じようにじゃが丸くんの袋を持ったロキ達が座る。
尚、彼女らも袋は二袋分。リヴェリアとロキで一袋、そしてアイズがまるごと一袋である。
周りに人が多いからか、それともアイズの前で無様なことはさせないとリヴェリアが睨みを効かせているからかは不明だが、ロキとヘスティアも普段ほどもバチバチと睨み合う事も無く普通に会話を続けていた。
ロキとヘスティアはまるで競うように徐々にじゃが丸くんを食べるペースを上げ、リヴェリアはこんな屋台飯でさえも上品に、アイズは底なしかと思うほどにペースに変わり無く、そしてオーエツは殆ど手を出さずリヴェリアの斬魄刀に夢中になっていた。
「どうだ? 私の斬魄刀は」
「悪くないと思うぞ。魂もちゃんと詰まっとる。最初にお前に渡した時と比べて格段に頑丈になっとるな」
「そうか……それを持ってから、本当に久々に剣というものを振ったよ。中々難しいものだな……」
そう言ってふと笑みを浮かべるリヴェリアを、食べる手を止めないアイズは少しムッとした、不満げな顔で見つめる。
その視線がオーエツの手元に向けられているのを察した彼は、「どうした娘っ子」と尋ねる。
「……それ、モンスターだって聞いたから」
「うん? ……ああ、まぁ……定義にもよるだろうが、魔石を持つ魂のあるものをモンスターと呼ぶなら、まあそうだろうよ」
その言葉を聞いて更にムスッと度合いを深めたアイズの頭を撫でて、ロキがオーエツに謝る。
「済まんなァオーエツ。ウチらからすりゃそんな気にする事でも無いけどな……この子はなんちゅうかアレや、モンスターに……あー、ホレ。な? 分かるやろ」
「……ああ、別に構わんよ……しかしそうか。人造魔物という言葉に忌避感を覚える層も居るか……難しいのう……他に説明のしようが無い……不思議刀で通すか……?」
ロキの要領を得ない言葉に、しかし確かに内にある意味を感じ取ってオーエツが頷く。
きっとこの少女は、モンスターによって親しい人や故郷を奪われたのだろう。
同じようにそれを悟ったヘスティアが、ロキとの早食い競争を一旦取り止めて噴水の縁を離れ、アイズの前にしゃがみ込む。
「こんにちは、アイズ君。僕はヘスティア! 宜しくね?」
「……はい」
きっと彼女の神性がアイズに対する保護欲を爆発させたのだろう。なにくれと世話を焼き出す彼女を、ロキが面白くなさそうに眺めていた。
……そして、そのロキを、リヴェリアが意外そうに眺めていた。
「……意外だな。お前ならヘスティア様を止めるかと思ったが……アイズの所有権を主張するとかして」
「アホ。ウチかてそうしたいわ」
依然顰めっ面でリヴェリアにそう言うロキだが、言葉に反してヘスティアとアイズの間に入るつもりはまるで無いようだった。
「……けどしゃあないやろ……ウチは悪戯が存在意義の悪神、ドチビは暖炉やら家族やらを司る善神……今のアイズたんからしてどっちの方が必要か、どんだけニブい奴でも分かるわ」
押しの強いヘスティアにタジタジになりながらも、それでも普段の数倍の口数で受け答えをしているアイズを見て、ロキは溜息を吐く。
「……リヴェリアぁ。ウチが何でヘスティア嫌いか分かるか?」
「……胸じゃないのか?」
「ホンマにソレだけが原因やったらウチはデメテルも嫌いやな……ホンマの理由はなぁ……勝てへんからや」
「……勝てない?」
遠い空の上を見通すような表情で雲を見るロキに、リヴェリアは首を傾げる。
ソレを横目で見て、フッと笑ったロキは「せやで」とそれを肯定した。
「『悪』と『正義』は正反対って言うやろ。けど、正反対やからこそどっちも同じくらいに強い。勝ったり負けたりや……けどなあ、『悪』は『愛』には絶対勝たれへんねん……クサい事言うみたいやけどな」
ウチみたァな悪神ほど、ドチビみたいな純粋な愛に弱いんやで、と言い、軽く鼻を鳴らして噴水の水をチャパチャパと手持ち無沙汰に触った。
その視線の先にはヘスティアに構い倒されて若干うんざりした様子のアイズがいて。
そして、その口元には間違い無く……ロキもリヴェリアも滅多に見ることができない、微かな微笑みが浮かんでいた。
「ホンマ……敵わんで」
「ロキ……」
「……成程、
何年かぶりに聞く主神の含蓄ある言葉と、人形姫とまで揶揄された少女の笑顔に感情がこみ上げるリヴェリア。
しかしその場の空気を読まずに、刀を眺めながら唐突にわけわからん事言い始めるオーエツに二人の視線が集まる。
ロキは一瞬そのまま無視してやろうかとも思ったが、ちょっと反応してしまった手前ソレも何だか敗北感があるので一応ツッコむ事にする。
「……いや納得されても知らんけど。てか何やそれ?」
「前世の記憶だ……いや、そうか。斬魄刀に対するイメージアップ戦略として本編の内容を広めるのは良い案だ……文章化……いや炊き出しの日に紙芝居で…………しかし画力が……いやしかし……そうだ……斬魄刀だってたったの四十年で一応は形にできた……頑張れば見れるくらいの絵は……しかし師匠の絵柄がやはり至高……!」
ドヤ顔でそう言ったかと思えば真剣な顔になってブツブツ呟き始めるオーエツを冷めた目で見ながら、彼女はヘスティアも苦労しとるやろなと思った。
絶対本神には言わないが。
暫くして。
「ほぉ~ん、んで、まずは斬魄刀ってもんがどういうもんかを市場に広めよってワケか」
「その通りだ……味も量も分からん飯を買う奴はおらん……その飯を作った店が信頼されてるならそうでもなかろうが、俺達の信頼は今、ゼロだ」
「せやなあ……ウチもアンタの言うてる事は正しいと思うわ」
「……ていうか何で自然とお悩み相談の流れになってるんだよ……別にいいけどさ……」
オーエツ達がこんな所に居る目的を聞きながら、モサッとじゃが丸くん(バターシュガー味)を齧るロキ。
そしてその横に居たはずのアイズはすっかり懐いてしまったヘスティアにピッタリとくっついており、その事実にこれまでアイズと打ち解けようと必死に頑張っていたリヴェリアの目線が物凄い事になっているが、彼女はそこには気が付かない。
『悪戯の神(とその眷属)』と『慈愛の神(眷属含まず)』の戦いは、ロキの発言通りに推移しているようだった。
そして、ロキはというとモサモサとじゃが丸くんを一つ一気に食べきると、その目を鋭くしてオーエツに向けた。
「けどなぁ……そらジブン、ちょーっち見通しが甘いんとちゃうか?」
「……そうか?」
「せやで。さっきジブンも言うとったやん? 人が希望を〜っての」
「ああ」
「アレなあ、正しいで」
油の染みた紙袋から、次のじゃが丸くんを取り出しつつ、ロキは眷属達には滅多に見せない、冷たい貌で民衆を眺める。
「『死』っちゅうんはな、今のオラリオでは日常や。色んな奴らがダンジョンの中でも外でも殺し殺されやっとる……昔はゼウスとヘラっちゅう二柱の神がおって、そん頃はまだ平和やったんやけど……まぁ、今は最大派閥のウチも、ウチのライバルんトコ……アンタらやったら知っとるか? フレイヤんトコや……まあソコも、今すぐにはどないしょうも無いわ。恥ずかしい話やけどな」
ロキの強い悔恨を含んだその言葉に反応するのはヘスティアだ。
なんせ、彼女はつい一年前にオラリオに降臨したばかりなのだから、その話の中で気になる事が一つある。
「え、じゃあいつら天界へ帰ってきてたの? ボク見てないけど」
「んや? 天界には帰っとらん筈やで。今はオラリオの外におるやろ……ウチが思うに、ちょっと疲れてもーたんちゃうかなあ。ウチと、フレイヤんトコに挨拶だけして、そんまま出てってもたわ」
桜餅味のじゃが丸くんを食べ終わったアイズが、次の一つを手にとって食べるのを愛おしそうに眺めつつも、ロキは話を続けた。
「しゃーないからウチらでその二つのファミリアを打倒した……っちゅー事にしたんやけどな……まあ、それでウチらが強なるわけあらへん……実際倒してへんから、レベルも上がらんでな……まあ、後は見ての通りや」
ロキは暴力が罷り通る広場を顎でしゃくり、じゃが丸くんをまた口に運ぶ。
「
「『明日英雄になる為』の選択じゃなくて……『今日死なない為』の選択しかできない……つまり『冒険』が、できないって事か」
「せや……オーエツの詩になぞらえるなら……死が目に見えてしもうた奴が、それでも希望を持ち続けんのは難しいモンや」
「…………そう、か」
「おらんとは言わんで。けど、やっぱし少ないわ……そういう、『諦めの悪い奴』は」
コショウ味のじゃが丸くんを食べていたロキが、「アカン塊噛んだァ」と涙目になる横で、オーエツはリヴェリアに斬魄刀を返したにも関わらず、先程から全く手が進んでいない。
「……
立ちて死すべし』
「いや何ソレ覚悟決まり過ぎやろ怖ァ」
「ロキ、オーエツってこういう子だよ」
ドン引きしているロキを無視して、じゃが丸くん(コンソメ味)を一口で食べるオーエツ。
それから二つ三つと呑むように食べ進めるオーエツに、全て食われては溜まらないと食べる速度を上げるヘスティアと、こんなに腹に溜まるものをよくもまあそんな量食べられるなと思うリヴェリア。自分の分を食べ終わり尚物欲しそうなアイズ。そんままおっぱい以外も太れと不変の存在に対し叶わぬ呪詛を振りまくロキ。
そんなカオスな集団の手が、全員同時に止まった。
広場の中央あたりから聞こえてきた、幼い子供の泣き声に近い叫びによって。
「だからぁ!! うっぜえな!!」
「だ、だって……! 一割、分け前は一割って……!」
「知るか!」
それは、冒険者の足元に縋り付く
「大体よォ! お前がモタモタしやがったから今日の稼ぎがイマイチだったんじゃあねぇーのか!? アァ!?」
「そ、そんな、僕は……!」
「手ェ離せやボケッ」
ガスッ、と蹴り飛ばされ、口元から血を撒き散らしながら地面に倒れる小人族。
ソレを見たリヴェリアとアイズ、そしてヘスティアは見ていられんと立ち上がってそちらに向かおうとするが……ロキとオーエツの両名に止められる。
「何……?」
「何だ二人共。流石にアレは見過せんぞ」
「まぁ待て。あの子供の目をよく見ろ」
「せやで、もーちょいちゃんと見い」
「はぁ!?」
憤慨するヘスティアを落ち着けるように、二人は笑った。
「アレは、まだ『勝ち』を諦めていない奴の目だ……まさか初日に見つかるとはな……!」
「なんやったら賭けてもええで? アレが終わった時……どっちの方がよーさん金持っとるか」
オーエツはその強い意志を秘めた瞳を見て。
ロキはヘスティアとは違う『悪神』としての本領から。
それぞれ、視線の先の小人族の『戦い』を見つめた。
蹴られた小人族が地面を転がって、その身に纏ったボロ布からチャリンと小さな麻袋が飛び出したのを、小人族も、そして冒険者も見逃さなかった。
バッ!! と麻袋に手を伸ばした小人族……そして、一拍遅れて冒険者がその手ごと麻袋を思い切り踏みつけた。
「あぐぅっ!?」
小人族の小さくまだ成長しきっていない手がミシミシと体重を掛けられ、やがて耐えきれなくなった小人族が泣き叫び始める。
「や、ヤだァァ!! 止めてっ、止めてえぇぇ!!!」
「……手ぇ潰されたくなきゃ、これ以上俺に関わるな」
「わがっわがりましたわかりまじたぁ!!」
広場に響く甲高い声で泣き叫ぶ小人族に衆目が集まり、流石に拙いと思ったか男が手を踏んでいた足を離す。
「うッ、グゥっ……ひく……」
叫ぶのは止めたが、尚も涙を零しながら麻袋をしまい込もうとする小人族の、先程まで踏まれていた手を冒険者は蹴る。
「ギャアッ!?」
「迷惑代だ。その袋は置いてけ」
地面に転がっている麻袋は、小人族の子供の掌に収まるくらいに小さなもので、勿論容量もそれに準ずる。
報酬の割合をケチったどころかその小さな財布を寄越せと言う冒険者の、そのあまりにも浅ましい言葉に信じられないものを見た目を向ける小人族だが、男の意見が変わらないことを理解してか、小銭袋を置いてサッと走り去り、人混みに紛れて消えた。
地面に放られた小銭袋を拾い、少しばかり血の滲んだそれのヒモを緩めて中身を改め、一度舌打ち。
そして少し周囲を見てからソレをお手玉にして歓楽街に消えていく冒険者。
……その広場に、既に二人の女神とその眷属の姿は無かった。
人混みに紛れ、走り、人通りが少ないと予めリサーチしている裏路地に入った『私』は地面と冒険者のブーツで擦り切れた手を庇いながら、涙を拭って、囁くように『ソレ』を口にした。
「【響く十二時のお告げ】」
その瞬間、小人族の少年だった私の身は、ソレよりずっと線の細い、骨さえ肌の下に浮き出ている程にやせ細った少女の姿へと変わった。
まるで、『魔法』のように。
そして、私は懐から先程とは違う麻袋を取り出す。
それは、先程私を痛めつけた
私は、約束していた一割の報酬が支払われない事に対して脚に縋りついて抗議していた時に、隙をついてその懐から財布を抜き取っていた。
所詮はレベル一のクズ。しかしその財布の中身は、私が地面に落とした囮用の財布の三倍近い額が入っていた。
コレを使って、屋台でご飯を買うと高く付くから、野菜や日持ちのするパンを買って……
そう考えると、そのお金では一週間分にもならない。
擦り傷から血が滲む、骨ばった自分の手を見る。
別に、骨は折れてない。
手の動きに違和感があるが、傷痕は残ってしまうかもしれないが……自然治癒でも一週間以内にはまた盗みもできるようになるだろう。
往来の中で人目も憚らず大声で泣き叫んだ甲斐があるというものだ。
「……薬は、別に良いですかね」
「ええ!? その傷は流石に治した方が良いよ! 痕になっちゃうよ……?」
唐突に私の背後から聞こえた、この場に似つかわしく無い心配そうな声。
その声の方向に振り向く……事無く、瞬時に逃走を開始しようとして……その方向に、黒い極東装束を身に纏ったドワーフが立っていた事でブレーキを踏む。
「ッ」
「【縛道の六十一】!!」
瞬時に状況を判断し、路地裏のボロくなった雨戸を蹴り開けて……蹴り開けようとして……その身が動かない事に気が付く。
いつの間にか、私の体には光の板のような物が刺されていた。
痛みは無い。しかし、動けない……全く、動けない。
「【六杖光牢】……俺の…………『魔法』……だ」
何故かこの術を『魔法』と表現する事が大層不服らしいドワーフに向け、私は咄嗟に取り繕った笑顔を向ける。
「……あの、私みたいな小人族に何か御用でしょうか? 失礼ですが、私は貴方様のお顔に心当たりが……」
私のその言葉にドワーフが何か言う前に、私の身体は後ろから迫ってきた女性に抱きすくめられた。
「もう! いきなり逃げるんだからさ! ほらオーエツ君コレ解除して!」
「……しかしなぁ、主神殿……」
「いいから、早く解除!」
「このままじゃ手当てできないでしょ!!」
「……は?」
……その言葉に、私は何を感じたのだろうか。
この日の事は、この日から一年後も五年後も十年後も……数え切れない程に何度も何度も思い出し、何度も何度も思い返した。
だが、この時私が何を考えていたのか。ソレだけはいつまで経っても私自身にさえ理解出来なかった。
「…………フッ、その通りだ……どうやら血迷っていた。済まんな、主神殿。それに坊主も、咄嗟とは言え手荒い真似をした」
「……女、です」
「おお、重ね重ね失礼をした……そら、詫びのポーションだ。金は取らんから飲め。毒も入っとらん」
ガシャンと硝子が割れるような軽い音と共に光が砕け、自由になった私の掌に
それの意味を理解できず、掌の上のそれを見つめるしかできない私に、私を抱き寄せていた女性……白い服装の女神が優しくそれを取り上げ、彼女のハンカチに染み込ませて私の傷を拭き始める。
傷が治る独特の軽い掻痒感と、ハンカチ越しに感じる女神の優しい手つき。
「腕も擦り切れちゃってるね……ほら、残りは飲むと良いよ。不安なら僕がちょっと舐めようか?」
「……いえ」
いただきます、と細い声で呟いた私は、ポーションを乾いた喉に流す。
トロッとした感触と甘い味、傷に直接塗った時とは違う、全身の痛い部分に温かいものが染み込むような柔らかい感覚。
それを感じた私は、張り詰めていた────それこそ、両親が死んでから……否、『
「うわっ、ちょ!?」
「ぬッ!?」
ぐらついた視界の中で、焦った顔の女神様とドワーフを見た。
「か……み、さま…………」
それが、私のその日最後の記憶だった。
そして、次に目覚めた日から、私の……この世の地獄から抜け出す為の地獄が始まった。
「……良かったのか?」
自分達の
そしてリヴェリアから発せられた中身の無いその問いに、「なにがー?」と神は気の無い返事をする。
「何って……色々だ。お前が他の神にアイズを触れ合わせたのも、あの小人族を放っておくのも……お前らしくない」
先程までの柔らかな表情を捨て去り、ひたすら無言で足を進めるアイズに置いていかれぬように、しかしほんの僅かに歩みを緩めてロキは「せやなあ」と呟いた。
「……せやな」
「…………」
「…………うーん……リヴェリア、アイズたん、主神命令や。今から言う事他言無用な」
その言葉にリヴェリアと、話さないだけで話は聞いていたらしいアイズの二人が頷いたのを確認して、彼女は頬を掻く。
それから彼女は全知の存在である神らしからぬ、辿々しくつっかえる言い回しでその心の内を静かに吐露した。
「……多分なあ……ウチ、久しぶりに……ソレこそ、百年とかぶりにアイツと会ったんやけどな……多分、嬉しかったんやな」
「…………」
「アイツはホンマ、アホで間抜けでぐうたらで……巨乳で……あーもー思い出すだけで腹立つわクソがぁぁ!!! ぶっ飛ばしたらァァ!!」
「ロキこの馬鹿! 往来で騒ぐな!」
「せやけどな」
「うわあぁ!? 急に落ち着くな!! 」
悪戯の神らしく、眷属を振り回すことに余念の無い彼女はそれでも、普段よりも静かに言葉を選んでいた。
「……やっぱな、最近世の中が世の中やろ。だから……せやな……楽しけりゃなんでもオッケーなウチも、この荒んだ世界に『慈愛』を求めてしもうてるんかも……しらんなあ」
そう言ったきり何も言わなくなってしまった彼女に、その言葉を咀嚼したリヴェリアが何かを言おうとしたが。
「ロキ」
「どしたんアイズたん」
「またヘスティア様に会いに行っても良い?」
ロキの想定した五万倍ヘスティアに懐いてしまったらしいアイズと、ソレをようやく実感という形で理解したらしいロキのとんでもない顔芸を見てしまった彼女は、言いたい事を取り敢えず置いておいて
無表情で頷いてくるりと身を翻し先に進み始めるアイズを追いかけて、石となったロキを抱えたリヴェリアは(まあ、コレでアイズが休む時間が増えるなら……)と、あくまでアイズ主体で事態を静観することにした。
リヴェリア・リヨス・アールヴ。
森林の守護者、エルフの王族。
ファミリアでは、『お母さん』と(主に主神から)呼ばれ親しまれている第一級冒険者である。
次回、あの伝説のスーパーマシンポンコツひよ里ウォーカーが登場!