オラリオで斬魄刀打つ転生者の話   作:オリ斬魄刀の小説増えろ

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ジャックランタンさん、リア10爆発46さん、rinyaさん、アシラさん、誤字報告ありがとうございます!


リリルカ・アーデ⓪

 

 

 

 時は遡り、およそ半年前。

 

「セルバン・ハルウッドだ。この街では【オーエツ】を名乗っとる。主神殿共々、よろしく頼もう【ヘルメス・ファミリア】よ」

「はいよ。知ってると思うけど、私は【ヘルメス・ファミリア】団長のリディス・カヴェルナ。ほんでこっちのちっこくて可愛い娘がアンタの要望の……」

「アスフィ・アル・アンドロメダです……」

 

 それは、オーエツの手で修復が始まりつつある廃教会での一幕。

 

【ヘルメス・ファミリア】と【ヘスティア・ファミリア】の、誰にも気付かれぬ深夜の密会であった。

 

 ヘスティアが無言でニコニコと笑っているヘルメス以下三人に炊き出しの余りの鶏肉と根菜をシッカリ煮込んだシチューとパンを差し出すと、ヘルメスは「こりゃあ美味そうだ! いやあ深夜で小腹が空いてたんだよ!」とがっつき、リディスも「確かにこりゃ美味い」とゴクゴクと飲み始める。

 

 その遠慮の無さに「コイツらマジか」という目を向けるアスフィにも椀を手渡し、ヘスティアはオーエツの隣に腰を下ろした。

 

「本題から言おう……お前達に……否、そちらの【万能者(ペルセウス)】に、一つの技術を売りたい」

 

 魔石灯の明かりに照らされた室内で、オーエツの切り出したその話題に三人はスープを飲む手を止めて顔を見合わせる。

 

「……誰にも内緒の話って聞いたんだけど、話の内容って買い物なの?」

「そうだ」

「その技術は、それ程にとんでもないものなのですか?」

「それなりだな」

 

 そう言ったオーエツは、部屋の隅に置いてあった変なガラクタを三人の目に映るように持ってきた。

 

「それがコレだ……名前を、【スーパーひよ里ウォーカー】と言う」

 

 ソレは、廃材をテキトーに組み合わせて作った出来の悪いダイエットマシーンみたいな見た目をしていた。

 

 端的に言えば、小汚いゴミにしか見えなかった。

 

「……何ソレ?」

「コレを使うには俺では不適でな……リディス殿、何も聞かずに一度これを漕いでみてくれ」

「はぁ? ……別に良いけど」

 

 オーエツの言葉に頷いた彼女は、ヘルメスを一瞥してからその汚いダイエットマシーンに乗って、ガッシャコガッシャコとペダルを漕いだ。

 

「えっ、嘘ォ!? うぉぉぉ!?」

 

 そして、即座に叫んで蹴り飛ばす勢いでひよ里ウォーカーから降り、常に余裕を持つ彼女らしからぬ青褪めた表情で額の汗を拭った。

 

「どうした!?」

「どうしたんです、団長!?」

 

 二人の仲間の言葉に、胸に手を当てて一生懸命に動悸を落ち着けた彼女は、「なんじゃこれ……!?」と小さく唸った。

 

「わかったか? 理解したか?」

「ああ……コレは……とんでもないぞ! 『漕ぐと魔力を吸い取ってくる』!!」

 

 その言葉に【ヘルメス・ファミリア】の面々が驚愕する中、オーエツは己を恥じるように頭を振る。

 

「俺は故郷に居る頃にソレを創り上げたが、【恩恵】を持たぬ身でそれを使った結果……二週間昏睡した」

「こ、昏睡!?」

 

 声を裏返らせたアスフィに、オーエツは頷いて「【恩恵】を手に入れた今でも三十秒も漕げば精神力が枯渇する」と重く言った。

 

「コレはそのへんの魔道具とは根本的に仕組みが違う。『使用者の意思で魔力を注ぐ』のではなく、『使用者の魔力を意思関係なく無理矢理に吸い上げる』物だ。俺はそれを作りはしたが、実用品にまで仕上げる事は出来なかった……俺の本領はあくまで『鍛冶』だ。魔道具に片足突っ込んどるソレは、どうしても完成できなかった。知識不足だな」

「……しかし、コレが完成すれば……それこそ巨万の富を得られる。と?」

 

 ヘルメスの言葉にオーエツは頷き、黙っていたヘスティアが援護をする。

 

「オーエツの【ステイタス】は公表してるから知ってるだろ? 彼は唯一普段遣いできる拘束魔法の【六杖光牢】をよく泥棒や【闇派閥】の拘束に使ってるけど、実はこの【スーパーひよ里ウォーカー】による鍛錬もまた魔力のステイタスに影響してるんだ……コレ使うと今のオーエツじゃすぐに精神力枯渇(マインドダウン)しちゃうから、殆ど使わないけどね。その時襲撃受けたらどうしようもないし」

「……魔法を使わずとも、魔力を鍛えられる……つまり、ダンジョンに潜らなくても鍛錬ができるという事で……」

「……大手のファミリアなら、安くても一台二億……いや、耐久性によれば三億ヴァリスだって払ってくれるかもね……ただ、それにはコイツが搾り取る魔力量の調整が必要だけど……まあアスフィならできるかな」

「簡単に言わないでください」

 

 まるでもうこの話を受けるような口ぶりだが、三人の目は目先の欲に流されてはいなかった。

 

「……オーエツ。君の技術が凄いのは良く分かった……けど、コレを私達に売り払おうって理由が分からない。強い者の庇護を得ようってんなら、斬魄刀だってそうしてるでしょ? なんでコレだけ私達に渡そうと思うのさ? ……コレの対価に、ウチのアスフィに何をさせようってのさ?」

「話が早いな……実は、極秘である魔道具の開発に協力してもらいたい。俺一人ではどうしようもなくてな。今は開発の取っ掛かりさえ掴めていないのだ」

「……その、魔道具とは?」

 

 アスフィの言葉に、オーエツは鍛冶の熱で少し白く濁った目を煌めかせて、夢を語るようにその名を口にした。

 

「その魔道具は……【転神体】という」

 

 

 

 

 

 

 ヘスティアは言うまでもなく善神であり、それはオラリオ中の神々が認める所である。

 

 だがしかし、善神であるという事と誰にも迷惑を掛けない聖者である事は違う。

 

 彼女の無軌道な善性のとばっちりを喰らう者は、間違い無く存在する。

 

「話は理解したわ……で、何で私の所に来るわけ?」

「「近かったから」」

 

 例えば、前話で事の起きていたバベル前広場に最も近い、バベル内に店舗を構えているヘファイストス神とか。

 

 

 

 ここは【ヘファイストス・ファミリア】の低級冒険者御用達武具屋のバックヤード。

 

 一年前までヘスティアがひいこら働いていた店の裏手で、職員の仮眠用ベッドで眠っているのは、痛々しい程に痩せ細った子供の小人族(パルゥム)

 

 ぼろ切れを脱がせてみれば全身に大小様々についていた、ポーション一本では治りきらない傷を一つ一つ処置していくヘスティアと、素肌を晒す以上黙ってソレに背を向けているオーエツ。

 

 そんな三人を呆れ果てながら見ているのは【ヘファイストス・ファミリア】主神のヘファイストス。燃え盛る炎のように熱い色をした髪をクシャリと混ぜて、溜息を一つ吐いてから改めて少女を観察する。

 

「……そもそも、その子どこのファミリアよ? そのくらいは聞いたでしょ?」

「…………」

「聞いてないの!? 嘘でしょ……」

「しょーがないじゃん気絶しちゃったんだからさぁ!!」

「そんな得体の知れない子を拾ってくるなって話でしょ!」

「しょーがないじゃん怪我してたんだからさぁ!!」

「あ、アンっタは本当に……!」

 

 完全に開き直っているヘスティアに対し、怒りで口元をひくつかせるヘファイストス。

 

 少女の肌を見ないように背中を向けたまま、神妙な表情でウンウンと重苦しく頷いているオーエツの姿も何となく彼女の癇に障った。

 

「…………はぁ〜〜……」

 

 しかし、癇に障ったからといってそれを周囲に当たるのは彼女の矜持に反する。

 

 ゆっくりと深呼吸を繰り返して心を落ち着けた彼女は、気を取り直して話を進めた。

 

 こういう所がお()好しと言われる由縁である事を彼女は理解しているが、生まれ持ったものはどうしようもない。不変の【超越存在(デウスデア)】ともなれば尚更である。

 

「……で、この子を利用して始解を習得させて、それを喧伝することによって低レベル帯の需要を……って理由ね」

「そうだ」

「僕は別に【銀筒】だけ売ってれば生活はできると思うんだけど、オーエツはやっぱり斬魄刀を売りたいらしいんだよね」

「……まあ、そうでしょうね……私から見ても、絶対に銀筒より斬魄刀の方が広まったら楽しいもの」

 

 完全に普及したら銀筒の百万倍厄介な事になるでしょうけどね、という言葉は心の内にしまい込み、ヘファイストスは軽く笑う。

 

「……全く……神の手も借りずによくも、こんな物を創り上げたものだわ……前世の記憶によるものなんでしょう?」

「そうだ。前世の……そうさな、いわば御伽噺のようなものにあった、世界の魂の流れを管理する神の使う刀だ」

「前世でこれを創ってた訳じゃないのね……じゃあ何でそんな御伽噺の産物が四十年ぽっちで創れるのよ?」

「情熱だ」

「……はぁ」

 

 鍛冶神は呆れる。目の前の男の言葉に嘘が無いが故に。

 

「貴方のお陰でウチの子達は大変よ。銀筒も、斬魄刀も、鍛冶師には刺激が強すぎる」

「作り方を教えようか? 有償で良ければ」

「貴方の刀を見て、もう私が教えたわ……そうだ、後で私の部屋に来なさい。鍛冶神(わたし)の打った斬魄刀を見せてあげる」

「何ぃっ!!? 本当か!? 有り難い!!」

「声でか……」

 

 その大声が切っ掛けになったのか、小人族の子供が微かに唸って目を開ける。

 

「……あ! 大丈夫かい!? どこか痛いところは無いかい?」

「……ぁ…………」

 

 何かを言おうとした少女の口から出たのは、乾いた咳だった。

 

「ああ、喉が渇いてるのかい? ほら、水だ。ゆっくり飲むといいよ……持っててあげるから」

 

 ヘスティアの介護を受けながら、少女は何とか喋れるようになり、そして初めに言った言葉は、疑問だった。

 

「……何で、私を手当てしたんですか?」

 

 礼や謝罪は、弱みだ。悪党はそこに付け込んで無理を押し付けてくる。

 

 ソレを知っていた彼女の言葉に返したのは、オーエツだった。

 

「端的に言えば、お前にやってほしい事があるからだ」

「やってほしい……事……?」

「そうだ……お前、名前は?」

「リリ、です」

 

 リリか。と、口の中でその言葉を反芻した彼は、部屋の隅に置いてあった背嚢を漁る。

 

「小人族用の大きさの……」とか、「短刀形状の……」とか言いながらガシャガシャと背嚢を漁った彼は、ようやく一本の刀を取り出し、それの柄をリリに向けて、彼女に向けて言った。

 

「リリよ……力が、欲しいか*1……」

「…………はぁ?」

 

 オーエツの唐突な言葉に、リリはただただそう言うしか無かった。

 

「……そりゃ、そうなるよ」

「……え、駄目か?」

「起き抜けにソレ聞かされて受け答えのできる子は多くないでしょうね」

 

 それから、リリは聞かされる。

 

 オーエツが【姿無き鍛冶師(アンノウン)】であること。

 

 斬魄刀を低レベル帯にもある程度普及させたい事。

 

 その為に、リリの力を借りたい事……。

 

 

 

 それらを聞いた彼女の答えは……

 

「……何で、リリなんですか?」

 

 そんな、当たり前の疑問だった。

 

「だって、リリはどうしようもないくらいに弱いですよ……? 刀なんて使ったことが無いですし、【ステイタス】だって低いですし! そもそも荷物持ち(サポーター)ですし、まだ六歳ですしっ!! そんなの、そんなの無理ですっ!! 無理無理無理!! リリにはそんな大役こなせません!! 絶対に無理!!」

 

 心の何処かで『頷いておけば庇護してもらえるかも』という気持ちが浮かぶが、しかし自分でも理解できない程の拒絶の気持ちが彼女に否定を選ばせた。

 

「そうですよっ! 何でリリなんですか!? 私じゃなくても、山程冒険者なんて居るじゃないですか!! 私なんか!」

「いや、お前じゃなきゃあ駄目だ」

「何でっ!?」

「お前がこの街で一番弱いからだ」

 

 リリは、その言葉に黙ってしまう。

 

 それは、彼女が言おうとした事だからだ。

 

『何でわざわざ一番弱い私を』と、言いたかったからだ。

 

小人族(パルゥム)は、すべての種族の中で最も力が劣っている。そして、子どものお前はその中でも一等弱い。そして、レベル一は全冒険者で最弱であり、サポーターの社会的地位は皆無に近い……そして、曲がりなりにも強者の庇護を受けられる【恩恵】無しの一般市民とは違い、お前は誰にも護ってもらえない……正しく、お前はこの街での最弱の存在と言える」

「だったら……!!」

「だが、お前は諦めていないだろう?」

「!!!」

 

 その言葉に、リリの目は見開かれる。

 

「お前は弱い。だが、未来を諦めていない……今日広場で見た中で……最弱に近くとも、少なくともお前よりは強い筈の連中が軒並み未来を諦めている中で、誰よりも弱い筈のお前だけは戦い続けている者の目をしていた……お前の目は、死んでいなかった」

「………………」

「お前が信じられんなら、俺が言おう……お前は、強い。肉体ではなく、精神が強い」

「…………そんな……私は……」

「そして、その精神の強さこそが、この斬魄刀の力を解放させるのに必要なのだ」

 

 ガシャ……とリリの掌の前に柄を置き、オーエツは改めて言う。

 

「その気高い魂の力に見合うだけの力をお前が身に付ける手伝いを俺がしよう。その間の生活も俺が保証しよう。成果が出る出ないに関わらず、この斬魄刀(かたな)はくれてやろう……だから、一言で良い。お前の口で、お前の言葉で聞かせろ……リリ、お前は……力が、欲しいか?」

 

 

 彼女は、その言葉に。

 

 オーエツの、その目に。

 

「……そんなの、ズルいですよ……」

 

 力が欲しいか、なんて……そんなもの、決まっているのだ。

 

「……私は、強くなれますか?」

「少なくとも、今のお前よりは間違い無く」

 

 その言葉に、リリは刀の柄を掴んだ。

*1
イケボ




次回、オーエツブートキャンプ。
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