オラリオで斬魄刀打つ転生者の話   作:オリ斬魄刀の小説増えろ

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個人的「聞こえねェ」の分類

「■■だ」タイプ(リヴェリア様)

使い手が斬魄刀を受け入れられていないか、何らかの原因で伝達が阻害されている。原作一護。

何らかの要因で名前がかき消されるタイプ(リリ、アイズ(予定))

使い手の力量、精神力等の不足。原作冬獅郎。

斬魄刀が教えてくれないタイプ(ベル(予定)、フィン(予定))

意思の疎通、『対話』が不十分。一応原作恋次だが始解という意味では原作未登場。

オッタルタイプ(オッタル)

オッタル。原作では一応……剣八?対話ができてから直ぐに二段階解放させてたしちょっと違うか……

カド=フックベルグさん、誤字報告ありがとうございます。


リリの夜。

 

 リリの所属している【ソーマ・ファミリア】は、他のファミリアには無いある特徴がある。

 

 それは、ファミリアに所属している恩恵を受けるためには大量の金が必要であるという事だ。

 

 大部屋での雑魚寝ではなく自分の個室が欲しいならば金。

 

 ファミリアの団員間でのトラブルの調停を頼みたければ金。

 

 外部でトラブルを起こした時、後ろ盾になってほしければ金。

 

 何をするにしても金を払えなければ何もできないのがこのファミリアなのだ。

 

 そして……このファミリアには月に一度、団員ノルマの徴収というイベントがある。

 

 というのも、多くのファミリアにおける運営費の上納は(当たり前だが)稼いだ金額から割合で納めることになっているが、このファミリアにおける運営費の上納は定額制でありレベル一は十万ヴァリス程度の金を毎月納める事になっている。

 

 そして、コレを納めない事には冒険者の命とも言える【ステイタス】の更新をしてもらえないという守銭奴の極みのような制度なのだ。

 

「では、今月のノルマ徴収を始める! 今週が期限の者、前に出ろ!」

 

 月に一度、一日でノルマを払えた全団員の【ステイタス】を更新などしていては主神たるソーマが失血死してしまう故に、毎週末の決まった時間に本拠地(ホーム)の食堂にてその週に納期を割り当てられた者達が呼ばれそこで団長に金を渡す。

 

「……ふん、ピッタリ十万ヴァリスだな……宜しい、ソーマ様の御部屋に入る事を許可する……そら、持っていけ。【神酒(ソーマ)】だ」

「ヨシッ!!」

 

 陶器製の瓶をひったくるように受け取った、今回も無事に許可を得られた男の冒険者が飛び跳ねるように主神の下へ駆けていくのを見送って次の者に目を向けた時、団長はその目端をピクリと歪ませた。

 

 先程の男と同じ種族(ヒューマン)でありながらも、明らかに薄汚いなり(・・)、オドオドとした態度、コチラに媚びるような目線。

 

 そして、明らかに先程の男よりも膨らみが足りない袋。

 

「……見せてみろ」

「……あ、ああ!」

 

 その袋を受け取り、数え板にて素早く数えて団長は鼻を鳴らした。

 

「六万三千二百飛んで三ヴァリス……ノルマには足りないな」

「ち、違うんだ! ノルマ分は確かにあったんだ! だけどヘマをして……そう! ヘマをして、脚の骨を折っちまって……!」

 

 つらつらと言い訳を述べる男を見もせずに数え板から硬貨を元の袋に滑らせて、再び男に突き返す。

 

「そうか。それは残念だったな。また来月……ソレまでに残り四万ヴァリス分頑張るんだな」

「ま……待ってくれ!!」

 

 穏便に済ませようとした団長の言葉を遮り、男はガバッと大きく頭を下げる。

 

 ……それはまるで、『神に祈る』かのように。

 

「頼む! 限界なんだ! 俺は、先月も『アレ』を呑めていないんだ! 来月必ず金は払う! ……そうだ! 『【ステイタス】の更新は必要ない』!! だから割引……そうだ、その分割引してくれよ!! 頼むよザニス!」

 

 まるで縋り付くように媚びた半笑いの表情で捲し立てる男に、団長……ザニス・ルストラは冷めた目を向けた。

 

「お前はどうやら……一つ、勘違いをしているな?」

 

 男の汚い手を払うように除け、ザニスは朗々と食堂全体に響くように言葉を続ける。

 

「このオラリオのどこを探しても、ファミリア運営の上納金無しにファミリアを運営している所などありはしない。つまり、上納金はファミリアの眷属としての義務に等しい……分かるか?」

「……あ、ああ……」

「つまり、その上納金を払えないような奴は俺達【ソーマ・ファミリア】の眷属とは認められないんだよ……義理を果たしていない奴と義理を果たしている奴を同じ扱いには出来まい? ……ソーマ様の造られる神酒(ソーマ)を呑む事も……【ステイタス】の更新も……全ては『同じ立場の』眷属に対してのみ行われる。どちらかだけなどと、認められるものか」

 

 それだけ言って、シッシと男を追い払うように手を振るザニス。

 

 それに構わずに再び縋りつこうとした男の……金の入った小袋を持った方の腕を蹴り飛ばす。

 

 バギン!! と骨の折れる音がして、男が叫んで倒れ込む。

 

 そして、握り込まれていた手が力を失った事で床に放られた小袋は、袋が傷んでいたのか破れてしまい、勢いよくその中身を食堂中に飛び散らせた。

 

 おやおや、と肩を竦めるザニスの事などもう誰も見てはいない。

 

「落ちたぞ!」「六万ヴァリスあんぞ!」「テメェソレは俺のだぞ!」「馬鹿俺のだろが!」「俺の足踏みやがったなテメェ! 慰謝料寄越せや!!」「ふざけんな! 殺すぞ!」「俺の財布取ったやつ誰だ!」

 

 誰もかれもが、飛び散った男の金を地面に這いつくばって探している。そこに男への気遣いも他の者への気配りも無く、どこまでも醜い自己中心的な争いがそこにあった。

 

「や、やめろ! 止めてくれ!! それは俺の金だ! 俺の! 俺のブボッ!?」

 

 折れた腕でその争いの中に割って入ろうとした男は、誰かの肘打ちをまともに食らってしまい吹き飛ぶ。

 

「……フン、どうやら、今度は腕が折れたようだな」

「……あ、あぁ、ザニス……」

「……まぁ、また働いて稼ぐといいさ。ウチにノルマの滞納という制度は無い。十万ヴァリス持ってくれば、何時でも眷属として認めてやるとも」

 

 その言葉に、前歯が折れてしまった男はみるみると涙を浮かべ、その果てには駄々っ子のように手足をバタバタと暴れさせて泣き喚き始めた。

 

「い、嫌だぁぁぁッ!! 嫌だ嫌だ嫌だぁぁ!!! 酒が呑みたい!! 酒が呑みたい呑みたい呑みたい呑みたいぃぃぃ!!!!」

「……おい、お前等。千ヴァリスやるから誰かコイツを黙らせろ」

 

 千ヴァリスという言葉に色めき立った団員達によって代わる代わるに踏まれ蹴られた男は、やがて何も喋らなくなった。

 

 男の慟哭を踏み躙った集団に百ヴァリス硬貨を十枚投げ入れたザニスは、即座に争いの起こるそこに目を向けず何事も無かったかのような顔で「次」と言った。

 

「次は私です」

「……おお、リリじゃあないか! お前は何時も優秀だなぁ。さあ、ノルマを」

 

 食堂の隅の暗がりからそっと現れたリリをザニスは笑顔で迎え、その肩を叩いて彼女の働きを称える。

 

「……どーぞ、十万ヴァリスです」

「フム……フム。確かに十万ヴァリスあるな。全く……他のゴミどもにもお前の勤勉さを見習ってほしいものだな」

「……」

「ゴミはゴミなりに、お前のように他者に取り入るだとか、そういう知恵を働かせなければなぁ。どいつもこいつも、馬鹿の一つ覚えのようにダンジョンダンジョン……それだから、こんなノルマも払えんのだ。なぁリリ?」

 

 馴れ馴れしくもそう笑いかけてくるザニスの薄ら寒い笑みに、リリは目を合わせずに掌を差し出す。

 

「貴方と同じにはされたくありません」

「そうだな。お前は他者に媚びを売るしか出来ず、そして私は他者を喰らいここまで上り詰めた」

「上り詰めたって……たかがレベル二でしょう?」

「吠えるなよ、レベル一の小人族(パルゥム)如きが」

 

 リリの挑発も乗ることなく流し、余裕の態度で手渡された神酒(ソーマ)の瓶を手に取り、逆に鼻白んだ様子のリリを見て笑ったザニスは食堂の廊下……ソーマの私室へと繋がる道を手で示す。

 

「さっさと行け、寄生虫」

「……」

 

 寄生虫。

 

 生き物の体内あるいは体外に住み着き、その生き物に利益を齎さずに自分だけが一方的に得をする生態の生物。

 

 オッタルの斬魄刀解放により再び呼び起こされた斬魄刀需要に沸き立つヘスティアとオーエツの横で、リリはずっと己の存在意義について悩んでいた。

 

 自分が鍛えてもらっているのは、斬魄刀を解放して新たな需要を生み出す為だった。

 

 しかし、それがオッタルにより為された今……彼女の存在する意義とは、何か。

 

 寄生虫。

 

 その言葉が、頭から離れなかった。

 

 

 

「……失礼、します。リリルカ・アーデです」

「来たか……」

 

 主神の部屋に足を踏み入れたリリに掛けられた言葉は、ただリリの来訪を確認するものではなく、明らかにうんざりした感情を強く感じるものであった。

 

「ソーマ様……【ステイタス】の、更新を……ノルマの証の神酒(ソーマ)はここに」

「……服を脱げ」

 

 言葉少なに言われるがままに服を脱ぐ。

 

 チャポ、と中身の揺れる神酒(ソーマ)を床に置く。

 

 リリの背中に温かいものが触れ……暫くして、神はリリの背から手を離した。

 

「書き写そう」

「はい」

 

 サラサラと、ペンが紙を撫でる音が響く中、神ソーマが手持ち無沙汰にそれを眺めるリリに声を掛けた。

 

「お前は」

「え……はい……?」

 

 普段なら無言で終わる時間。

 

 おそらくこの時間に初めて声を掛けられたリリは、少々狼狽しつつも返事をする。

 

 ソーマの目線は、彼女が手に持つ神酒に向けられていた。

 

「お前は、その酒を飲んでから此処に来ないのだな」

「……え、と」

「他の者は皆、酒を飲んで酩酊した状態で私の下に来る」

「それは……」

「お前も、かつてはそうだった筈だ」

「……」

「どういう、心境の変化だ」

 

 そう問われて、リリは確かにと手の中の瓶を見る。

 

 ……以前はあんなにも惹かれていたこの瓶の中身に、リリは以前ほども執着していなかった。

 

 確かに、あの二人に拾われてから最初の一ヶ月から二ヶ月はコレを一月乗り切れば酒が呑めるという事を支えにして慣れない仕事やアイズのシゴキに耐えていた。

 

 三ヶ月が経ってからは仕事やシゴキにも慣れ、あの二人にも媚びへつらうだけではなく、怒ったり突っこんだり笑ったり、リリ自身でも驚く程にいろいろな顔を見せていた。

 

 そして、六ヶ月が経った今……

 

「……か、ぞく……が」

「……」

「かぞく……と……言いたい人達が……できたん、です」

「……」

「その……人達は、別のファミリアで……だから、私は……」

「……」

「…………私は、このファミリアを、抜けたい……です」

 

 黙ってリリのつっかえる話を聴くソーマ。

 

 それを聞き終わって、リリの手元の瓶を見て……呟いた。

 

「……そうか」

「……」

「俺の酒を呑んで……尚、このファミリアを抜けたいと」

「……はい」

 

 ソーマの瞳が、リリの瞳とかち合う。

 

 その手の中に、ファミリアの眷属達が求めてやまない神酒があるにも関わらず……リリの瞳に、揺らぎは無かった。

 

 その揺るぎなさに、先に目を逸らしたのはソーマであった。

 

「……ファミリアの運営については、ザニスに一任している……」

「はい……」

改宗(コンバーション)は、ザニスに言え……ザニスが認めるなら、俺は構わない」

「……はい!」

 

 

 

 ソーマから改宗の了解を得てからしばらく後、この暗黒期においてはどこにでもある汚い空き家……を利用してリリが拵えたセーフハウスの一つで彼女は神酒(ソーマ)を呑んでいた。

 

 フワフワとまるで身体が浮き立つような多幸感に包まれながら、リリはコレが最後の神酒(ソーマ)になると思い、舐めるようにチビチビと呑み続けていた。

 

 きっと、ザニスは改宗に多額の金銭を請求するであろうから、これから先は、【ステイタス】の更新もせずにその費用を貯めなければいけない。

 

「……ふふふっ」

 

 酒によるものではない笑みが、思わず彼女の口元から溢れる。

 

 それは、あの二人の家族となれるかもしれない嬉しさだったり。

 

 あのソーマが自分の言葉を聞いてくれた嬉しさだったり。

 

 ……何よりも、自分がこの神酒(ソーマ)の誘惑を振り切ってあの二人を選べたことへの嬉しさだったり。

 

 とにかく全てが嬉しくて、リリはくふくふと笑いながら神酒を舐めていた。

 

「随分と……嬉しそうだなぁ? リリ」

「!?」

 

 そんな気分を、どん底にまで突き落とす────【ソーマ・ファミリア】団長、ザニスの言葉(こえ)

 

 バッと自分の荷物を持って声の方向から素早く距離を取るリリだが……レベルの差は如何ともし難く、その首根を掴まれて壁に叩きつけられる。

 

 バタバタとその手をなんとか退かそうとするが、身長(タッパ)の差でリリはザニスに手も足も出ない。

 

「……全く……ソーマ様にも困ったものだ。こんなにも便利な鼠を手放すなんて言い始めて……あのお方は脳味噌まで酒漬けで判断力が鈍っていらっしゃるのかもしれんなあ」

「……がっ、は……ァ!?」

「……おっと、済まないな、殺すつもりは無いんだ」

 

 ドチャッ、と床に落とされたリリが咳き込むのも構わずに脚で蹴って仰向けの体勢に変えたザニスは、床に置いてあった呑みかけの神酒(ソーマ)の瓶の中身を全てリリの口に一気に流し込んだ。

 

「ンゴッ!? ンックボッ!!? ゴホッ!?」

「ああ、ようく呑め……なぁリリ……俺はなぁ、お前を買っているんだぞ? 自分の弱さを認め! 弱いなりの道を探し! 強者に全力で媚を売って取り入るやり方を身に着けた、おまえの汚くて醜い所をだ! それを……何が『家族』! 何が『改宗』! ちっぽけな糞鼠が新しい軒下に巣を作るだけだろうが、ええ!?」

 

 体勢を変えないよう、リリのちっぽけな胸板に足を乗せてゴリゴリと踏みにじってはそう叫ぶザニス。

 

 やがて中身の無くなった瓶をリリの顔に投げつけ、ガシャンと砕いてからその小さな身体を壁に向けて蹴り飛ばした。

 

「あっぐぅ……!!」

「……今、俺にただ一言『ごめんなさい』と言えば……お前の先のソーマ様への発言は、全て忘れてやろう……そして、お前も先の部屋での出来事は全て忘れる……ソレで終わりだ」

「……ぬ……すみ、聞き……」

「団長として、団員の行動を把握するのは当然だ……なにせ、最近のお前は反骨心が強いようだったしなぁ?」

 

 一嗅ぎするだけでも全身が多幸感に包まれるような至高の香りが充満する部屋の中で、しかしその中にいる二人は多幸感とは違う表情を浮かべていた。

 

 一人は嗜虐。

 

 一人は絶望。

 

「……とは言え、俺も鬼じゃない。お前がどうしても……本当に、どうしてもファミリアを抜けたいと考えるならば……一つ、条件を出そうじゃないか。後出し無し、神に誓って一つだけの条件だ」

 

 そのザニスの言葉に、リリは希望を浮かべる事など無い。

 

 ただ、警戒を剥き出しにして睨むのみ。

 

「そんな顔をするなよ……簡単な事さ」

「……何ですか……金ですか」

「そんなものは、お前を確保していればいくらでも回収できるんだから、要らんね」

「じゃあ!」

「【ロキ・ファミリア】の金髪の女のガキと偶に一緒に居る同じ金髪のヒューマンの男のガキ、アレはお前なんだろう? リリ……まさかあんな魔法を発現していたとはなあ……」

「!?」

 

 ザニスの言葉に、リリは体を強張らせる。

 

 リリは、アイズとの修行等で街中を共に歩く時は基本的に髪をアイズと同じ金色にし、男物の服を着て出掛けていた。

 

 それは自分という存在に対して目の前のザニスが余計な欲を抱かないようにという思いの下にした行為であったが、どういう経緯か目の前の男にはソレがバレているらしかった。

 

「お前への改宗条件は、一つだ……『【ロキ・ファミリア】の弱みの情報を手に入れろ』。ソレができりゃあ……家族だかなんだかの所にでも勝手に行け」

「……そん、な……」

「『家族』が大事なんだろ? じゃあ『友達』くらい裏切れよ、(スパイ)のリリ」

 

 コレは前金だ、と言って……先程リリに浴びせた神酒(ソーマ)の瓶を三本置いて出ていくザニス。

 

「……それと、本拠地(ホーム)にはお前を入れないように他の奴らには言っておく。またソーマ様に変な気を起こされちゃあ堪らないんでな……何、世間知らずそうなガキ一人だまくらかして情報持ってこさせる程度、【ステイタス】が無くても出来るだろう?」

「……ざ、ニスううぅぅ!!!!」

「ははは、その間ノルマを払えば、神酒(ソーマ)だけは恵んでやろう。悪く思うなよ? お前みたいな神の御心を惑わすような奴をあのお方の近くに寄せる訳にはいかんのでな……!」

「ザニスウウウゥゥゥ!!! ウゥァァァアアアアア!!!!」

 

 叫んだリリは、近くに置かれたタップリと中身の詰まった神酒(ソーマ)の瓶をザニスの背に向けて振りかぶり……振りかぶり…………

 

「……ああ、お前にソレは、投げられんよなぁ? ……命よりも大事な、神酒(ソーマ)だもんなぁ……?」

「……っ、っうぅぅぅっ……」

 

 …………そのまま、その瓶を丁寧に床に置いた。

 

 その隣に、ぱた、ぱたぱたっと雫が降る。

 

 それは、リリの涙。

 

「……っぅぁぁぁぁぁぁ!!!!! うぁぁぁぁぁ!!! うわぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 もう何年も演技以外では流れていなかった涙が、最早止まらない濁流となりリリの心を押し流す。

 

 高笑いしながらザニスが去った後も、リリは泣いて、泣いて、泣き続けて…………

 

 

 

 ………………その日、リリルカ・アーデは『夢』を見た。

 

 

 

 彼女にとっては馴染み深い、本拠地(ホーム)以外のもう一つの故郷とも言える……ゴミと悪臭が溜まった脂ぎった汚らしい路地裏で、何もせずにぼうっと座っている、そんな夢。

 

 その路地裏の目と鼻の先には明るい表通りがあり、そこからは活気付いた声が聞こえるが、彼女はそこには行かない。

 

 ただ、ゴミと汚物にまみれながらずうっとその光を眺めている……ただ、ソレだけの、いつかの昔に体験した事をそのまま繰り返しているような、そんなリアルな夢。

 

 しかし、ただ一つだけ変な部分があって。

 

 路地の側溝の中に。

 

 建物と建物の隙間に。

 

 生ゴミの山の隙間に。彼女の尻と石畳の隙間に。壁の割れ目に。鎧戸の上に。鞄の中に。捨てられた野菜の内側に。放られた建材の間に。

 

 ありとあらゆる、至る所に。

 

 夥しい数の溝鼠(ドブネズミ)が居た事だけが、変な夢だった。

 

「……なんで、鼠がこんなに沢山居るんですか?」

『お前が創ったからだ』

 

 喋った。

 

 鼠が。

 

 ポカンと気の抜けたアホ面を晒してしまうリリに、溝鼠達は一斉に喚き始める。

 

『良いかリリ』『良い』『良いか』『リリ』『リリル』『良いか』『アーデ』『俺の』『私の』『俺の』『ウチの』『ワタクシの』『俺の』『儂の』『名前』『名前』『名前』『名前』『名前は』『名前』『アタシの』『名前』『名前』『名前』『名前』『名前は』『名前』『名前』『俺の』『名前』『名前は』『名前』『儂の』『名前は』『名前』『名前は』『名前』『名前』『名前』『名前』『名前は』『名前は』『名前』『名前』『名前』『名前は』

 

 チューチューチューチューチューチューチューチューチューチューチューチューチューチューチューチューチューチュー。

 

 全鼠が一斉に喚き立てるそのあまりの煩さに、リリは夢の中で気絶した。




これからガンダム作るのでちょっと更新遅れるかも。
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