オラリオで斬魄刀打つ転生者の話   作:オリ斬魄刀の小説増えろ

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今回のタイトル『リリの終活』にしようかと思ったけど人の心無さ過ぎかなと思ってやめました。

あんころ(餅)さん、‪ぬんぬんさん、誤字報告ありがとうございます。


斬拳『走』鬼

 

「リリ、来た」

「…………」

 

 一度リリにサポートをしてもらった時に想像の数倍戦いやすいダンジョンアタックを経験したアイズは、かつては週一回のペースだったリリとの修行の時間を週に三回のペースに増やしていた。

 

 無論、その大半は修行という名の(リヴェリアを伴った)ダンジョン突撃であるが。

 

「……リリ」

「…………」

 

 しかし、オラリオ市壁の上で刀を膝に置き目を閉じて瞑想しているリリにはアイズの声は届かない。

 

 何故なら、リリは己の斬魄刀の精神世界を覗いているからだ。

 

「…………むぅ」

 

 今彼女が何をしているのかはアイズにも理解できる。彼女もリヴェリアと並び、何度と無く瞑想をしては居眠りをこいているのだから、当然である。

 

 しかし、アイズはまだ斬魄刀を持って一月程度しか経っていない身。以前に見せた時に『まだ数週間しか経っとらんこの時期にしてはえらく出来上がっとるな怖ァ』とオーエツを驚かせた彼女の斬魄刀も、未だ彼女に語りかけてくるには至っていない。

 

 だからこそアイズにとって刃禅とは、ただ座って刀を脚に乗せるだけのつまらないものでしかなく、ソレにリリやリヴェリアが熱中している事がどうにも面白く無かった。

 

 それは、『疎外感』という感情であり、またリリに対しては『競争心』という感情もあるが、まだずっと幼いアイズには、己が今感じている感情の説明がつけられなかった。

 

 しかし、これらの感情から来る欲求に対してはアイズは非常に素直に従っていた。

 

 即ち、邪魔。

 

「……えい」

「にゅ」

 

 リリの鼻を痛くない程度に抓む。

 

 最初は変な声を出したリリだが、その程度で刃禅を止める気は無いようで眉毛を寄せながらも集中を続けている。

 

 リヴェリアならコレで一発なのだが……と困惑したアイズの目の前で、リリが突然カッ!! と両眼を限界までカッ開いた。

 

「うるせぇえええええええ!!!!!!!」

「!?」

 

 ビックゥゥ、とキュウリを見た猫のように全身を使ってその場から飛び退いたアイズには目もくれず、リリは脚の上の刀を市壁の床に叩き付けた。

 

「全く本当に滅茶苦茶死ぬほど煩い!! 静かにって言っても全然静かにしないしワラワラ群がってくるしずーっとチューチューチューチュー!! んぁぁぁぁぁ!!!!! やだもぉぉぉ!!!」

 

 余程ストレスが溜まっていたのか、奇声を発しながらゴロゴロと石畳を転がるリリ。

 

 ソレを市壁の壁*1の上にしゃがみながらドン引きして見るアイズにようやく気が付いたリリは、

 

「……あ、どうも……アイズさん」

 

 何事もなかったかのように起き上がって頭を下げた。

 

 その一連の流れが、あまりにも意味不明過ぎて、アイズは純粋な気持ちで首を傾げた。

 

「なにか、変な風邪でもひいた……?」

「いやっ、純粋に心配しないで下さい! 気まずいんで! ホント普通に『対話』してただけですから!」

 

 リリの言う『対話』の一言に彼女は無意識に腰の刀をギュウッと強く握り締め、目の前で焦っている友人に一歩迫る。

 

「できたの? ……対話」

「へ? あぁ、ええ、こないだ……」

「私はまだ出来ないのに」

「えぇ……?」

 

 彼女の言い分に困惑を隠せないリリ。

 

 そりゃあそうだ。まだ彼女は、斬魄刀を握ってほんの一月ちょっと。ソレに比べてリリは半年以上である。

 

 師に聞けば、冒険者の斬魄刀の解放にかかる時間はどうにも彼の想定よりもずっと早いらしい。『きっと常日頃から修羅場を潜る……所謂『冒険』をしとるからだろうよ。檜佐木も全然バンカイとか考えたこともありませんみたいなリアクションから爆速バンカイしとったし』と意味の分からない事を言っていた。バンカイって何だと聞いたら『ナイショ』と言われた。似合わな過ぎて正直本気で引いた。

 

 まぁソレはソレとして、アイズはまだまだこれからが伸びしろなのだ。というか幾ら才能がない身分だとしてもたったの一ヶ月で並ばれては堪らない。

 

「そりゃあ、アイズさんはまだ一月しか刀を握っていませんから……」

「分かってる、けど……嫌なものは嫌」

「ええ……」

 

 吐き出しようのない不満をそれでも吐き出したいのか、姉代わりの手を握ってブラブラと手荒に揺らすアイズ。

 

「嫌……」

 

 遂にはプックリと頬を膨らませ始めるアイズに、リリは仕方ないと笑って頭を撫でてやる。

 

 リリの方が一歳歳下ではあるのだが、そんな事実以上にアイズは幼く、そしてリリは成熟してしまっていた。

 

「あ、じゃあ!今日は追いかけっこは止めにして私と一緒に刃禅やりましょうよ!」

「刃禅は自分と刀の問題だから一緒にやっても意味無いってこないだオーエツが……」

 

 うぐ、と痛い部分を突かれたリリは笑顔で喉を鳴らす。ついでに心の中で己の師匠にベェーッと舌を出しておいた。

 

 ……良いじゃないか刃禅で。だって追いかけっこは疲れるのだから。

 

 しかし、そう言おうとしたリリは途中でソレを飲み込み、黙って立ち上がった。

 

 別に諦めたわけではない……だが。

 

(【ソーマ・ファミリア】に戻った後……またこの子(アイズさん)に会えるか、分からないですからね)

 

 ふと、そう思ったから。

 

 きっと心残りなんて少なければ少ない方が良いから。

 

「始めよう、リリ……今日は私が勝つから」

「……やれやれ、しょうがない……ですねっ!」

 

 二人はドンッと音を立て、市壁の上を走りだした。

 

 ちなみにこの日は、リリが二本、アイズが一本の銀筒を手にし、アイズはリリにしこたま転かされ踏まれ落とされて靴跡が目立つ服のまま半べそをかきながらリリにじゃが丸くんを奢った。

 

 

 

「リリ、やっぱり私もその靴欲しい」

「……そうですねぇ、ちょっとだけ、履いてみますか?」

 

 いつものように靴を強請ったアイズにそう返すと、彼女は自分から強請った癖にギョッとした顔をした。

 

「いいの!?」

「言っときますけど師匠には内緒ですからね。あの人普段適当なくせに拘る部分には死ぬほど拘るんですから」

 

 言いながら足を覆っていた鉄靴の紐を抜き取り、どうやら本当に使わせてもらえるらしいと分かった途端に風の早さで素足になっていたアイズの足に覆い被せる。

 

「あったかくて湿ってる……」

「言わなくていいんですよっ!!」

 

 彼女の足のサイズを確認しながら各部の革紐(ベルト)を調節し、ガッチリと固定されたのを確認してからもう反対側も同じようにし、アイズを立たせる。

 

「どうですか? 違和感はありますか?」

「足が……重い」

「あはは、鉄靴ですから」

 

 いつもの動きが出来ないとピョンピョン飛び跳ねるアイズをニコニコと眺めていたが、やがてこのままでは話が進まないと手を打ち合わせる。

 

「はいはい! さっさと使ってみましょう! まずは靴にほんの少しだけ魔力を流して魔力爆発の感覚を……」

 

 ボバンッ!!! 

 

「は?」

 

 普段のリリやオーエツが出す擦過音(ザッ!)とはまるで違う明らかな爆発音と共に起こる土埃に押し出されるように上空へ吹っ飛ぶアイズ。

 

「〜〜〜〜〜ッ!?」

 

 地上から遥か上で重力に引かれ減速しつつワタワタと手を振り回しているアイズをボンヤリ眺めているリリは、(いつの間にやら普通の視力も動体視力も上がってるなぁ私)と思って、そして。

 

「このウルトラどアホォ────────ッッッ!!!!!!!!」

 

 彼女の短い人生で一番、他人に対しキレた*2

 

 甲高い怒りの咆哮を天に轟かせたリリは素早く周囲を見回すが、普段から二人がじゃが丸くんを食べる場所は街の噴水広場であり、空高くをワチャワチャしているアイズに届くような高さの建物は無い。

 

 このままでは、後数秒後にアイズは十数М(メドル)の高さから落下し重傷……ないし……死。

 

(……いや)

 

 リリは自分の脚を見る。

 

 何も装着していない、非力な小人族(パルゥム)の子供の脚。

 

(……やるしか無い!)

 

 そうだ。

 

 オーエツはあの鉄靴を『瞬歩練習用』と言った。

 

 そして、オーエツは素足の状態で度々見せびらかすかのように、或いは手本を見せるかのようにリリの前で瞬歩を行っていた。

 

 ならば……出来る筈だ。

 

 リリにとって、瞬歩はアイズとの訓練での、そしてここ最近のダンジョン攻略での生命線だった。

 

 当然、その使用回数は何十、何百、何千にも及ぶ。

 

 当然……先程自分で言った『魔力爆発の感覚』なんて、眠っていても思い出せる。

 

「アイズさん、じっとして!」

 

 鬼気迫るリリの言葉に即座に体育座りの体勢となったアイズを見据えた彼女の脳裏に、オーエツがいつかの昔にやけにドヤ顔をしながら言っていた言葉が思い起こされる。

 

 ────ええか、リリ……魔法……鬼道……いや……うん……魔法を使う時の基礎を教えてやる。

 

「……心の中に、円を描く……出来るだけ暗くて出来るだけ重そうな色が良い」

 

 ────そしたら、その中心めがけて体ごと飛び込む自分をイメージするんだ。

 

「これが、全ての魔法(鬼道)に通じるイメージの基本……!」

 

 

 

 本当ならば、魔法にイメージなど不要だ。

 

 魔法とは神の恩恵により与えられるものであり、そこにイメージなど必要なく、必要なのは詠唱と使用者の精神力(マインド)のみ。後の制御は魔法の方で勝手にやってくれる。

 

 だが、瞬歩は魔法ではない。

 

 魔法ではないから、恩恵(神様)の助けは借りられない。

 

 きっとアイズは今この瞬間に初めて魔力を能動的に使ったのだろう。だからこそ一日の終わりに身体に残っている魔力を銀筒に注ぎ込むような感覚で一気に魔力をブチ込み……こうして天高くに吹き飛んだ。

 

 そして、自分もまた一步間違えれば同じように天高くに打ち上げられるのだろう。そして死ぬ。

 

(あぁ、けど……ソレも良いかも……)

 

 なぁんて。

 

 

 

 フッと笑ったリリの姿がその場から掻き消える。

 

「一歩」

 

 瞬間、空中に躍り出たリリ。

 

 彼女の脚力では到底及ばない場所にまで飛んだが、魔力大爆発で飛んだアイズまではまだ遠く。

 

「二歩」

 

 再び空中で掻き消えたリリは今度こそ耐衝撃体勢を取っていたアイズを抱え込む……というよりもしがみつき*3、ソレに驚き目を見開いたアイズと視線がパチリと合った。

 

「リリ!」

 

 目を見開いて自分の名前を呼ぶアイズに笑いかけ、空中でさらなる一步を踏み込む。

 

「三ッ、四……! 五、歩ッ!!」

 

 都度、五回の瞬歩で広場の近くにある建物の屋上にアイズごと身体を叩き付けた彼女は、ゲホゲホと噎せ返る彼女の胸倉を掴み、その頬に平手を打った。

 

 バシンッ!! と響く乾いた音と、ガタンッ!! とその威力に倒れるアイズ。

 

「……アンタ死ぬ気ですか! この馬鹿ッ!!」

「……ごめ、なさ」

「人の話は最後まで聞くって誰かに教わらなかったんですか!? 教わってますよね普通! だって貴女は家族(ファミリア)に愛されてますもんね『普通に』!!」

「……ごめん、なさい」

 

 今までずっと笑顔で自分に接していたリリの凄まじい怒りにどうすれば良いかも分からず、ただごめんなさい、ごめんなさいと呆然と呟くアイズの横に、力尽きたようにゴトンと転がった。

 

「何だ、もう……私……ちゃんと成長してるんじゃないですか……」

 

 今までだって、何度も強くなろうとした。

 

 しかし、訓練は無駄だった。

 

 戦闘は無意味だった。

 

 装備の更新は不可能だった。

 

 やがて彼女は、成長という行為自体を諦めた。

 

 だが…………

 

 …………あの教会での騒がしい日々は、決して無駄ではなかった。

 

「もう……何なんですか……私は絶望すれば良いんですか……希望を捨てなきゃ良いんですか……どっちなんですか」

「ごめんなさい……」

「もう怒ってませんよ……あーもう嫌……」

 

 腕で目元を覆って表情を覆い隠した彼女は、そのまま全身の力を抜いた。

 

「……リリ」

「もう怒ってませんって」

「この靴、もう一度使って良い? 今度は慎重にするから」

 

 怒ってないと聞いた途端に現金にも鉄靴の再使用を申請してくるアホ金髪に、リリは目元を覆い隠していた腕を持ち上げて彼女を見て、ニッコリと笑った。

 

「脱げアホ」

*1
歩哨がなにかの拍子に落ちないように市壁の上にもそれなりの高さの壁がある  追記:このような壁の事を胸壁というらしい。教えてくれた読者のParadisaeaさん、ありがとう!

*2
意外にも彼女はキレる事が少ない。何故なら、キレても彼女の身が無事で済むような『安全に怒れる相手』が今まで居なかったから。

*3
二人の体格はアイズの方が上




皆の感想欄での斬魄刀とかリリの精神状態とかに関する考察マジで面白いからいつも楽しみにしてます。

今後も展開予想とか気にせずガンガン感想書いてください。

けど、良い感じの事書いてあったらパクりますので自分の小説を書く予定のある人などはお気をつけ下さいね!
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