オラリオで斬魄刀打つ転生者の話 作:オリ斬魄刀の小説増えろ
サアッ、と風が吹いた。
「……ここ、は?」
その柔らかな風がアイズの髪を緩く揺らし、それを押さえた彼女は、周りを見渡して首を傾げる。
「……?」
そこは、果てしなく広がる荒野であった。
草が生えていたであろう痕跡はある。
生き物が居たであろう痕跡もある。
水場らしき場所も存在している。
しかし、その全てが枯れ果てていた。
草は一つ残らず萎れ茶色くなり、小動物の巣穴らしきものはひび割れて崩れかけ、小さな池はすっかりと干上がっている。
どこまでも広がる死んだ大地に暫し呆然とし、そしてふと後ろを振り向くと、大きな大きな立ち枯れた木が一本生えており……その根元に、これまた大きな大きな、見上げる程に大きな鳥が立ったまま羽に首を埋めて眠っていた。
きっとずっとそうしていたのだろう。砂まみれになってしまっている羽毛を僅かに寝息で膨らませながら、フスー、フスー、と静かな寝息を立てている。
「……モンスター?」
アイズは首を傾げる。
何となくだが、違う気がした。
「起きて」
その鱗に覆われた脚にしがみついて揺らすが、起きない。
「起きて」
そのフカフカとした羽根にしがみついても、起きない。
「起〜き〜て」
遂には眠っている鳥の首の辺りに跨って身体全体を揺らしても、起きない。
「……むう……」
手詰まりだ。
「どうしよう……」
そもそもここはどこなのだ。
そう思っていたアイズの耳に、見知った声が届いた。
『──イズ、アイズ!』
「アイズ! 大丈夫か?」
「リヴェリア?」
パチリと目を開けたアイズの前には、心配げな顔をしたリヴェリアが居た。
「……今、私……目を開けてたのに目を開けた?」
「……アイズ、寝ぼけているのか? 顔を洗ってこい」
「うん……」
アイズは刃禅の為に脚の上に置いていた刀を腰に戻し、リヴェリアと共に井戸に顔を洗いに行った。
「さっき変な夢見た」
「ほう? どんな?」
「えっと…………」
リリは、己に才能がある等と自惚れた事は一度たりとて無い。
己は非才。己は矮小。
両親の死を通して彼女が教わった、親を通じて得られたたった二つの教訓である。
その後『強い者には逆らうな』『悪事はバレないようにやれ』など学んだ事は、全てこの二つが基礎になっている。
ソレに比べてアイズは才能に溢れていると彼女は確信している。
あの【ロキ・ファミリア】に見初められ、副団長のリヴェリアに付きっきりで面倒を見てもらえて……その上、ダンジョンでのあの動き。
正しく天才と呼ぶべき逸材なのだろう。
自分と彼女の才能には凄まじい隔たりがある事くらい、リリは理解している。
しかし…………
「リリ、リリ! 見て、ねぇどう? 出来てるっ!?」
「……出来てますようぅ……」
隔たりがある事は理解していたが、そこの差がどの程度なのかは全く理解していなかったと、目の前で拙いながらも瞬歩を使っているアイズを見て彼女は痛感していた。
アイズはあの日のたった一度の魔力爆発の感覚を己の内で反芻し、理解し、そして自分のものとしていた。
その間、およそ一ヶ月。
なんか最近アイズさん忙しそうだなーけど来ないと楽でいいなーとか思っていたところにブチ込まれた才能という名の暴力に、リリは口から名状しづらい何かしらを吐きながらアイズを褒めてあげていた。
え、何これ。
リリの純粋な疑問である。
「それとね、それとね、リリ……私も『対話』できた!」
「……えー本当に? すごーい……」
背中の裏に金色の尻尾がバタバタ振られている光景を幻視しながら、リリは半分ショック死しながらアイズの頭を撫でてやる。
そして、そんな二人をリヴェリア、オーエツ、ヘスティアの三人が遠巻きに心配そうに見ていた。
ちなみに、オーエツは瞬歩練習靴が自分の作品としてオラリオに普及するのが絶対に嫌だっただけなのでリリがアイズに靴を貸した事自体は別に問い詰めなかった。
「今回の件は……まぁ現実として仕方が無いとは言えどリリ坊には辛かろうな」
「あー、リリ君……気の毒に……」
死んだ笑顔で無邪気に擦り寄ってくるアイズを褒めてやっている彼女の並外れた自制心と奉仕精神にはココに居る三人共が脱帽するところであるが、リヴェリアにはソレ以上に気になるところがあった。
「なぁオーエツ、流石に早すぎるのではないのか?」
「アイズ嬢の対話か? 確かに早えが、異常なまでに早いかと言われると……」
「言われると?」
「……異常なまでに早いな」
ガグッとオーエツのボケに体勢を崩したリヴェリアは、ずずいと彼に詰め寄る。
「何だ! 異常に早いなら何が原因なんだ!」
「俺が知るわけ無かろーが……」
「お前の創った刀だろう!」
「違うな、アイズ嬢の創り上げた
キッパリと断言したオーエツに気勢を削がれたリヴェリアに掌をかざして*1距離を離させた彼は、腕を組んで己の見解を述べる。
「斬魄刀というのは結局のところは人の魂の精髄を写し取りそれを現実に手に持って扱えるようにするだけのものでしかない。人間の中で連綿と語り継がれる内に神格化される逸話によって強さが決まるfateの英霊を神パワーで今を生きる人間に適用するような仕組みの【恩恵】とはそこが決定的に違う。斬魄刀はあくまでも……個人の力、個人の属性だ」
オーエツの言っている
「二人の男の話をしよう」
「……」
「一人の男の名前は市丸と言い、その男はまだ少年であった頃に一人の少女と貧しいながらも満たされた生活を送っとった」
唐突に始まるオーエツのキャラ語りをリヴェリアは真面目に聞き、ヘスティアは(なんやかんやこの子の話は面白いんだよな)と思いながら耳を傾ける。
「しかしその少女はある男の野望に巻き込まれ、その運命を大きく歪められる。そしてその少女の仇を討つ為に市丸は斬魄刀を持ち……子供でありながらたったの一年で斬魄刀を解放し、そして仇の男の隊の……お前達で言うガレスのポジションの男を暗殺し、その後釜に入った」
「何故わざわざガレスの名を出した?」
「偶々思い浮かんだだけだ。他意はねえ」
一応突っ込んだが、本当に少し申し訳無さそうな……他意は無さそうな顔だったので目線で続きを促す。
「もう一人は黒崎という男でな……この世界で言うならばそうさな……ヒューマンとエルフとモンスターと精霊と神の血を継いどるって感じの男だ」
「はぁ!?」
「今なんて!?」
二人の驚愕をまるっと無視するオーエツ。
「その男はな……モンスターに襲われて家族を失うかという瞬間に偶々居合わせた神に力を貰い危機を脱するが、その受け取った力が原因で自らを助けてくれた神が天界で処刑される事が決まった故に下界に追放された神の力を借りて天界に乗り込み今のオラリオで言うお前達のようなポジションの者をバッタバッタと薙ぎ倒し……」
「待て待て待て待て!! 頭が展開を受け入れられん! 何だ!? 何の話だ!!」
「神が天界で処刑!? 天界から下界に追放!? 天界に乗り込む!? どういう事!?」
「言葉の綾だ!!」
あまりにも世界が違いすぎて(違う世界の話だから当然なのだが)混乱を隠せない二人を一蹴したオーエツは本題を持ち出す。
「そして、その男が始解までに掛かった時間は……恐らく数ヶ月といった所だろう*2」
「……数ヶ月」
「まぁ……アイズ嬢の中に何が居るか、それとも居らんかは知らんが、しっかりと見ていてやる事だな」
そこで話を切り上たオーエツは、瞬歩を使った鬼ごっこというBLEACHファン的に羨まし過ぎる事をしている二人に混ざりに行く。
「よしアイズ嬢、髪を後ろで括っとくれ。俺がそれを瞬歩で気付かれん内に後ろに回って解くから*3」
「え、嫌」
「あの師匠? 何で私はリリ坊でアイズさんはアイズ嬢なんですか? アイズさんもアイズ坊で良いじゃないですか?」
「やかましいぞリリ坊。今俺はアイズ嬢と話しとるんだ」
「……リリ坊……?」
アホなやりとりをしている子供二人と大人子供一人を見つめるリヴェリアの横で、「あ、お客さんだ」と呟いたヘスティアが敷地の入口の方へと行き、客らしい男と何やら話を始める。
「アイズ……」
リヴェリアは、暫くその場に立ち尽くしてアイズをその目で追っていた。
「何なんだッ、一体!!」
リリの所属する【ソーマ・ファミリア】の団長、ザニスは明らかに怒り、困惑した様子で
それは、しばらく前から起こったある異変が原因だった。
きっかけはある一人の団員の言葉だ。
『最近、町中で見られてる気がする』
最初は酒に酔った馬鹿の妄言だとして相手にされなかったが、一人、また一人と同じ事を言う人間が増えていった。
『町中で買い物をしたら変な目で見られた』
『通りすがりの人間に『【ソーマ・ファミリア】の人間か?』と聞かれた』
『街を歩いていると、自分の顔を見て何かを手元に描いている奴が居る』
そんな、一つ一つは取るに足らない報告が二十件を超えた時点で自分達は何やら想像もつかない事態に巻き込まれたらしいと気が付いたザニスは、眷属にその者たちの調査を命じる。
やる気の無い眷属達を金と酒で釣りその者たちの情報を集めさせた結果、分かったのはある意味でどうしようも無い事実であった。
「一体ッ、何が起きているんだ!!」
それは、『その者達は誰の眷属でも無い』という事実。
自分達を見ていた人間を問い詰めても、気の所為ですと頭を下げられる。
その姿も、そして纏う気迫も恩恵を貰っているとは到底思えず、どころか一般市民を恫喝したとして【ガネーシャ・ファミリア】から注意をされる始末。
ただ視線を感じる、それだけの事でそれ以上の事をする訳にもいかず、闇派閥と普通のファミリアの間で風見鶏をしているザニスには過激な事をする度胸も無い。
しかし、このファミリアにて一番顔の売れた団長である自分が外に出れば、その視線の量は半端では無い。
複数の、どころではなく正しく無数の視線が彼の身体に突き刺さる。
誰も居ない裏路地に進めば視線は感じなくなるが、スラムでもどこでも人が居る場所に出れば必ず視線がその身に刺さる。
街に見張られている。
だからこそダンジョンに潜れば視線は感じなくなるので眷属達はこぞってダンジョンに潜っているが、ザニスはファミリアでの影響力を保つ為にも、己を恨む者達の闇討ちを防ぐ為にも、そしてコレ以上の強さは必要ないという考えもありこの期に及んでダンジョンには潜っていなかった。
この現状は、ザニスの細い神経にジリジリと火で炙るようなダメージを与えていた。
「何なんだ……何なんだ、畜生ッ!!」
自分の為に取っておいた
しかし、レベルが上がり酒に呑まれる事の無くなったザニスの精神は不安を忘れ去る事が出来なかった。
「クソ……役立たず共め……クソ……!」
誰かの
誰一人として人影の無いその汚い食堂で、ザニスは誰憚る事無く怨嗟を吐いて酒を呑み続けた。
ザニスの勘は鋭い。
その勘でいろいろ危ない橋を渡ってきた。
だが、今だけは……ジャンジャンと警鐘を鳴らす己の第六感が、何に対して働いているのかが分からなかった。
市丸に関しては過去編で三席惨殺してる時、持っている刀が既に神槍となっており、この時浮竹隊長が「真央霊術院を一年で卒業した神童が入隊と同時に席官入り」と言っているので確実に一年以内に斬魄刀を開放しています。
そして、真央霊術院を一年で卒業する事を話の種としている浮竹隊長が一年で斬魄刀解放を話の種にしていないあたり、始解自体は実は才能があればそこまで時間がかかるものではないのかもしれません。