オラリオで斬魄刀打つ転生者の話 作:オリ斬魄刀の小説増えろ
ぼくは世界を照らそう
あなたが傷を負わないように
例えば、あなたが泣くのなら
ぼくは世界を暖めよう
あなたが雨に震えないように
例えば、あなたがその手を伸ばすなら
ぼくはあなたの側に居よう
あなたの心に火を移す為に
例えば、あなたが何も望まぬなら
ぼくは激しく燃え盛ろう
あなたの帰る場所は此処にあると
時は、ほんの少し遡る。
神一人、眷属一人の弱小ファミリアである【ヘスティア・ファミリア】はその唯一の眷属が持つ様々な独自技術によってそこそこの蓄財がある。
そして、慈愛の女神たるヘスティアのたっての願いによってその蓄財の使用用途は主にボランティアとなっている。
最初は、周囲の住宅に住んでいる者たちや路地裏住まいの者達が週に二回の炊き出しに来る程度であった。
数ヶ月経てばその規模は少し大きくなり、付近の子供達などに駄賃をやって買い出しを手伝ってもらう程になっていた。
と同時にこれらを鬱陶しく思う
そして、この辺りで何故か【ヘスティア・ファミリア】は闇派閥の幹部達による大規模な『潰し』の対象にならない事も明らかになっていた。
それによりヘスティアが闇派閥と関わりがあるのではという疑念も生まれたが、それはあらゆる神々が『ソレだけは無い』と異口同音に否定することで収まった。
そして、一年も経てばヘスティアの炊き出しはオラリオ中に広まっていた。
週に二回、オラリオの隅にある教会に行けば大鍋で作る煮込み料理を恵んでくれる。そんな『噂』は『事実』へと変わり、オラリオ中の食に困ったものもそうでないものも、その情報だけは知っているという状態になっていた。
話題作りに一度行って、ソレで終わる者も居た。
神の気紛れだと一笑に付す者も居た。
しかし、その炊き出しで救われた者達も確かに居た。
やがては鍋の数も増やし、周辺の民間人を料理人として雇用し規模を増したその炊き出しは、オラリオのある種の名物とまで呼ばれるようになる。
……そしてそれから暫く経った頃、ある一つの異変が起きていた。
それまで散発的に炊き出しを襲撃していた
……ヘスティアとオーエツは、ソレを単に『飽きたのかなー』くらいのお気楽さで考えていた。
神も神であれば、眷属も眷属である。
しかし、その真相を知っている者達が居た。
それこそが都市の憲兵【ガネーシャ・ファミリア】と、正義の神の眷属【アストレア・ファミリア】であった。
何故ならば、その二つのファミリアに民衆から『【ヘスティア・ファミリア】を襲撃しようとしている連中の情報』が良く届けられる様になっていったからだ。
主神アストレアはこう言った。
『民衆の……無辜の民の『己の平穏を護る』という【正義】ね』
主神ガネーシャはこう言った。
『正しく民衆の力! そして正しく俺こそがガネーシャだ!』
そうだ。
ヘスティアは気がついていなかった。
オーエツも気がついていなかった。
オッタルも、フィンも、アスフィも、ザニスも、誰一人として気がついていなかった。
しかし、誰よりも民衆の悲嘆に寄り添う二つのファミリアだけは気がついていた。
この街に、『
そして、全ての神は知っていた。
結局のところ、神にとって最も必要なのは『力』でもなく『名声』でもなく……『信仰』なのだと言う事を。
時間は進み、現在。
来たる未来で【ヘスティア・ファミリア】がどのファミリアからも強く欲されながらも中々強硬手段を取られない理由の一つ……
……近い未来、オラリオにて最大の信者数を誇る事になる【ヘスティア・ファミリア】……否、神ヘスティアの神徳の一端が、ここに現れていた。
「ほらよ、ヘスティア様! ご要望の品だぜ!」
……街の
「これが……全部!? 【ソーマ・ファミリア】の情報ッ!?」
「俺が入れる大きさの木箱に……山程……まさか、これ程とは……」
「悪いが、量が多すぎて精査は全然できてねえ……大して学のねえ奴らが集めた情報だ。質は保証できねえが、その分量は間違いなく一級品だぜ」
ヘスティアに救われている人間はどうしても皆、貧民層に分類される人々だ。
その彼等が入手できる紙は基本的に質が悪く汚れも多く不揃いで、書かれている
しかし、たしかにその分情報量は凄まじかった。
「眷属の名前とレベル……」
「それぞれの眷属の顔の写しに……」
「ソイツ等の日常の行動ルーチン……」
「屋台で良く頼むメニュー……」
「着ている服の取れてるボタンの数集計……何だこりゃ?」
「一人の冒険者の手の甲のかさぶたが治るまでの経過観察……? コレ本当に観察したのかい? 暇なのかな……」
多少(?)首を傾げるようなデータも結構……いや中々……いやまぁまぁ大量にあったが、それでも重要な情報はその書類の山を漁れば出てきた。何せ本当に『山』なのだ。
本当の意味でこの街の何処にでもいる、ヘスティアの慈愛に触れた者達の努力によって積み上げられた、文字通りに塵積もって出来た山だ。
「……本当に、ありがとう。まさかここまでしてくれるなんて……」
「止めてくれよ、ヘスティア様よう」
とりあえずで頼った者達が予想以上の成果を届けてくれた事に感極まって頭を下げるヘスティアに、男は笑って腕を振る。
「俺達は眷属にはなりたかねえ……眷属になるって事は、神の尖兵として戦わなきゃならねえって事だからだ……俺達は戦いたくねえ。だから、恩恵は貰わない」
それは、この街で『民』として暮らす者の総意。
神に恩恵を刻まれるという事は、オラリオを中心とした神の行うゲームの『コマ』になる事と同義であり、それは生産系ファミリアであろうと探索系ファミリアであろうと変わらない。
彼等は平穏の民。
冒険者の平穏を護り、平穏な生活を送る為に働き、その生涯に平穏無事を望んでいる。
故に彼等は恩恵を神に請わない。
だが……
「……だからってな、俺達は神を信仰してない訳じゃない」
「少しで良い、なんて言わない。俺達も、俺たちにできる力の限りアンタの役に立ちたいんだ」
「……何でも言ってくれよ。アンタの為になる事なら、俺達ゃ何だってするさ」
そして、しばらく経ったある日。
リリがアイズに引きずられて一日ダンジョン巡りツアーに連れて行かれた日の事。
二人は山程の情報を精査して、必要な分だけにまとめたものをある場所に持ってきた。
それは、【ヘルメス・ファミリア】の
夜更け頃の、光を遮断するカーテンが閉め切られた応接室の中で出された紅茶を一口飲んだヘスティアは前置きも無しに話を始める。
「ヘルメス、君の所の団員に情報収集を頼みたい……極秘の
「ほっほう……まさか曲がったことを嫌う君が、この俺に極秘で情報収集の
「へんっ、何とでも言うがいいさ」
腕を組んでフンッと鼻を鳴らしたヘスティアは、後ろに立っていたオーエツに一瞥をくれる。
それを確認した彼は、机の上にそこそこの大きさの木箱をドンと置いた。
そして、それをヘスティアが傾けて中の資料を机の上にぶちまける。
「依頼は【ソーマ・ファミリア】の内情調査。資料はコレだ」
ドサドサドサ、と机の上に積まれた山のような書類に一瞬身を引いたヘルメスだが一枚を手にとってその中身を改めると、その表情を大きく変える。
「コレは……【ソーマ・ファミリア】の全団員のリスト? それぞれの顔の写しに……それぞれの詳細な行動範囲!? ……使う得物の種類に消耗品の補充頻度…………うん? 何だコレ、各団員の爪を切る頻度? 調べた奴は暇なのかい?」
「あ、ごめんまだ混じっちゃってたみたい」
時折出てくる変な情報の紙を引き取りながらも、ヘルメスはその情報を精査していく。
汚い書類に詰め込まれた文字達は、同じような情報に関しては紐で一纏めにされており信憑性を疑うような内容に関しても違う人間が書いた複数の書類があるので、そこから信頼性を高めることができる。
内偵や情報収集を得意とするヘルメス達からして、ここまでお膳立てをされている事は中々無いと言い切れる程の事前情報であった。
「……これは……どうやって?」
「友達に頼んだら集めてくれたんだ」
「友達って……この量……もしかして炊き出しの!? ウッソだろ……」
呆れ半分感心半分で資料をめくるヘルメスに、ヘスティアはもう一口紅茶を飲んで「目的は一つ」と手を握る。
「【ソーマ・ファミリア】の眷属、リリルカ・アーデの身に何が起こっているのか……それを調べてほしい」
「リリ君? 君の所に居る? 何かあったのかい」
「確実にね……けど、あの子は僕等に助けを求めない。僕等に迷惑をかけちゃいけないと思っているから……」
そこまで言って、ヘスティアは両の掌をテーブルの上で握り締め、ティーカップの中に視線を向ける。
そこには、眉をキツく顰めた自分自身の姿が映っていた。
「あの子は……産まれてから今まで、神にも、親にも、誰にも頼れない生活を送ってきたんだ。僕等を頼って良いんだって考え自体が無いんだよ」
握り締め、細かく震えるヘスティアの両手。
その両手をヘルメスはじっと見詰めていた。
「僕等に出来る限り迷惑を掛けないのが……僕等を頼らないのが、あの子にとっての『愛情表現』だ。そんなの……そんなの、悲し過ぎるじゃないか」
リリの境遇と行動については言及を避けたヘルメスは、敢えて二人に厳しい言葉を送る。
「それで、リリ君の為にソーマに喧嘩を売るのかい? 相手は平均レベルこそ低いにせよ、中堅規模のファミリアだぜ? 君等が勝てる相手かい?」
「勝つさ!」
「リターンは少ないぞ? 暴力の匂いをさせれば多少なりとも『お友達』も離れていくだろうし、勝ったとしても小人族一人が君の家族になるだけだ。逆に負ければ、君は間違いなく唯一の眷属を失う事になる」
ソレでも良いのか、と目線で尋ねてくるヘルメスに、ヘスティアはギラリと決意を滲ませる。
「僕は、あの子が家族じゃなきゃ嫌だっ!!」
その言葉を……神らしい、我儘な言葉を聞いたヘルメスは暫し目を閉じて、今度はオーエツに目を向けた。
「君も、心は同じと思って良いのかな」
「そうさな…………
私はあなたのために飛ぼう
たとえば この 大地のすべてが
水に沈んでしまうとしても
私に剣をくれるなら
私はあなたのために立ち向かおう
たとえば この 空のすべてが
あなたを光で射抜くとしても』
完璧なタイミングで完璧なBLEACH巻頭ポエム(三十四巻)を出せてご満悦なオーエツは、呆れた様子のヘスティアの座る椅子に手を置いた。
「俺は主神殿の……神ヘスティアの眷属よ。主神殿が言うならば、何処までだって付いてゆくし、立ち向かうものは何だって斬り伏せるのみ」
「オーエツ君……」
「無論、リリ坊には一言言うてやらにゃあならんしな……もう少しアイズ嬢を見倣え! とかな?」
その言葉にプフッと吹き出したヘスティアは、「そうだね! ソレ絶対に言ってやろうじゃないか!」と笑顔を咲かせた。
「僕等の決意は変わらないよ……ヘルメス、受けてくれ。頼む、この通りだ」
「俺からもお頼みする、ヘルメス神よ……才能は無いし弱音は多いし諦め癖もあるが、ソレでも逃げ癖だけは無い……アイツは可愛い一番弟子なのだ」
下げられた二人分の頭を眺め……溜息を一つ吐いたヘルメスは、資料を纏めて木箱に入れ、それを持ち上げた。
「事前資料は極上、支払い能力も問題無し、その上そこまでの誠意を見せられちゃあ……受けないわけにはいかないな」
「ッじゃあ!」
「【ソーマ・ファミリア】の内情調査、この【ヘルメス・ファミリア】が請け負った……取り敢えず、ここまで情報が貰えた以上前金は無しで、ただ依頼達成の暁には……一括でこのくらいは払ってもらうぞ」
さらりと手渡された紙片の数字を見て、ヘスティアはニコリと笑う。
「このくらいなら僕の小遣いで余裕だよ! ヘルメス、ありがとう!」
それなりの中堅ファミリアでさえポンとは払えない額の金額を「余裕」と言い切るヘスティアの小遣いの額が気になったヘルメスだが、それを聞けば(自分との差で)要らぬ敗北感を味わいそうだと思い直して部屋の隅に立っていた自分の眷属に木箱を渡した。
「まあ暫くは時間が掛かるから、せめてその間は大人しくしておいてくれよな?」
「安心しとくれヘルメス神よ。その間に最高の宣戦布告を用意しておく! ……本来ならばアレは待ち合わせ場所の指定に使いたいのだが……背に腹は代えられまいよ」
「いやあ、アレ待ち合わせに使われたら僕その人の事嫌いになるけどなー」
一体何する気だこいつら。
ヘルメスはとても聞きたかったが、ライブ感を重視する彼は「そりゃあ楽しみだなぁ!」と笑うに留めた。
geardollさん、匿名鬼謀さん、kurouさん、リア10爆発46さん、誤字報告ありがとうございます。