オラリオで斬魄刀打つ転生者の話   作:オリ斬魄刀の小説増えろ

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この小説では、メインキャラ全員に一回は斬魄刀投げさせるのを目標にしております。


心の孔

 

 

 このオラリオにおいて最も斬魄刀を保有しているのは、勿論【ヘスティア・ファミリア】……ではなく、実は【フレイヤ・ファミリア】である。

 

 このファミリアではレベル一の戦闘員……【強靭な戦士(エインヘリヤル)】には全員余さず斬魄刀が支給されていた。

 

 このファミリアでは戦士達は朝から晩まで主神の期待に応えるべく己の肉体を磨き抜き、魂を錬磨して斬魄刀を振るっていた。

 

 そして、晩には皆で食卓を囲み、ついでに空いた時間で各々が刃禅を行い、最後に倒れるように寝る。

 

 これは実は、強きを求める女神に相応しくなる為に眷属が始めた事……ではなく、女神によるおねだりから端を発していた。

 

 フレイヤがオッタルを介してではなく、わざわざファミリアの財布を握る主計の元に直に出向き『お願い』した結果として為された全団員斬魄刀所持の成果は未だにハッキリとは現れていない。

 

 斬魄刀登場初期に行われたその改革は、斬魄刀の仕様が明らかとなるにつれ多くの神に失策として笑われた。

 

 しかしフレイヤは今、とても満足している。

 

 

 

 バベルの麓にて、二つの大盾がぶつかる。

 

 天高くそびえ立つバベルの下には普段ならば大通りとそこにひしめく人々が居るはずが、今はそこにあるのは地平線のみ。

 

 ここはオッタルの精神世界。

 

 市壁すら存在しないその酷くこざっぱりした空間で、たった二人……都市最強の男、オッタルとその斬魄刀たる布頭(ぬのかぶり)……鬼若がそれぞれの腕に大盾を持ち、互いに肉弾戦を仕掛けていた。

 

「ッオォ!!」

「そうだオッタル! 受ける攻撃と逸らす攻撃を取捨しろ!」

 

 ヒュゥ、と風切り音が鳴り、オッタルが咄嗟に盾を構え。

 

 宝玉が光り輝く籠手が叩き込まれ、チリチリと光るそこに溜め込まれた『力』が解放される。

 

「ッッッッ」

 

 ……筈だった。

 

 されなかった。

 

 何故なら────

 

「あ、ママが来た! ママ! ママーッ!!」

 

 鬼若がそう言って虚空に手を降り出したからだ。

 

 …………そして、それを見たオッタルの意識は光の速さで覚醒した! 

 

「ッヌオオオオオァァァァ!!!!!」

 

 バシーン、と音が鳴る勢いで瞼を開き、膝の上に乗せていた己の斬魄刀を遥か遠くにある丁度良いサイズの岩盤に投擲。

 

 ガッ!! と突き刺さったそれに全速力で接近し、再度思い切り岩盤に叩きつけ、刀を中心に円形の陥没跡を作り出す。

 

 完全に岩に埋まった刀を更に三度思い切り蹴りつけ、再び全速力で元の場所に戻る。

 

「……御前(おんまえ)での粗相、大変失礼しました……フレイヤ様」

「あそこまでやると、(鬼若)が可哀想ではないかしら?」

 

 そこに居たのはオッタルが崇拝する神、【フレイヤ・ファミリア】主神フレイヤであった。

 

 爆速で戻ってきて神速で跪くオッタルのつむじを眺めつつクスクスと笑う彼女に、彼はひたすら恐縮するばかり。

 

 先の斬魄刀の事も相まってひたすら縮こまる彼は、その頭部に主神のたおやかな掌の感触を感じた。

 

「……フレイヤ様」

「ふふ」

 

 オッタルは、フレイヤに頭を撫でられていた。

 

 砂埃の付いた、鍛錬による汗で湿った髪を混ぜるように撫でる主神にどう接すれば良いか分からず、また撫でられる事自体は面子や感情を抜きにすれば嬉しい事である為にされるがままになっているオッタル。

 

「ねぇ、オッタル?」

「は」

「私の事、母親(ママ)って呼びたいの?」

 

 ビクン! と肩を跳ねさせたオッタル。

 

 相変わらず彼の髪を混ぜているフレイヤは、その頭皮にドッと冷や汗が流れ始めているのを察していた。

 

 念の為にここに記しておくが、捨て子であった彼は幼少期にフレイヤに拾われ育てられた過去を持つ男であり、決して倒錯した趣味等は持っていない。

 

「……その」

「うん?」

「…………何故?」

「何故かしらね? ふふ」

 

 既にオッタルの背中は冷や汗でとんでもない事になっているが、美神フレイヤは容赦をしない。だって楽しいから。

 

「……その」

「ええ」

「…………ええ……と……ですね……」

 

 嘘が通用しない事は理解している。しかし、正直に言うにはこの神に仕えてからの数十年が重くのしかかる。

 

 結果として固まってしまった彼に、少しばかり焦れたフレイヤが己の形良い顎に人差し指を当てる。

 

「呼びたいと素直に言えば幾らでも呼ばせてあげるのに」

「えっ」

 

 冷や汗を流しながら俯いていた眷属の顔がバッと上がる。

 

 ポカンと口を開けた大男のその表情があまりにも面白く、フレイヤは珍しくプッと吹き出してしまった。

 

 それと同時に再起動したオッタルは、先程出た彼にしてはあまりに間の抜けた疑問の声を恥じるように、再び深く深く頭を下げた。

 

「どうするの? オッタル」

 

 オッタルがもしも頷くならば笑顔で抱きしめてやろう。

 

 オッタルが首を振るならば笑顔でその葛藤を見守ろう。

 

 どちらにしてもフレイヤにとっては楽しい結末が待っていた。

 

「……その」

 

 そうして暫しの時が経ち、オッタルが意を決して口を開こうとしたその時……

 

「オッタルゥ!」

 

 オッタルにとっての救世主が、そしてフレイヤにとっての愛しき眷属が二人の前に姿を現した。

 

「アレン」

「あら、アレン。今日も元気そうね」

「フレイヤ様。御前にて貴女を見ぬ事、今だけはお許し下さい」

「ええ、許すわ」

 

 つい『助かった』という感情を声に込めてしまうオッタルと、アレンに対し軽く手を振るフレイヤ。

 

 愛すべき美神に深々と頭を下げた彼は、頭を上げてから手に持つ斬魄刀の切先をオッタルへと向けた。

 

「さぁ、一対一で勝負しろオッタル! 今日こそは俺が勝つ!!」

 

 その言葉にオッタルはフレイヤを見る。

 

 彼女は、クスクスと笑いながらヒラリと手を振る。

 

 それを確認し、彼は肩に付けられた、すっかりと違和感の無くなったマントを触った。

 

「────良かろう。受けて立つ……来い」

 

 その言葉を皮切りに、アレンは『それ』を口にする。

 

()ち抜け! 錐切童子(きりぎりどうじ)!」

 

 その言葉と共に伸びる切先……否、『穂先』を素手で掴み、しかし押し込まれる。

 

「……ぬゥ!」

「押し込め! 錐切童子!」

 

 ドウッ!! と魔力の炎を石突より噴射した突撃槍の斬魄刀、『錐切童子』は、猛スピードでオッタルごと自身を飛ばし、先程オッタルが刀を封印した丁度良い岩盤に二つ目の陥没跡を作った。

 

「立て、鬼若!」

「アァ!? 何で岩の中に刀が!」

 

 ドゴーン、ボカーンといつものように破壊音が響き始めた荒野に、フレイヤの笑い声が響く。

 

「みんな元気なんだから……」

 

 斬魄刀を買い与えた成果を出している者はまだ少ない。

 

 消費した金額分を回収できているかは何とも微妙だ。

 

 しかし、今フレイヤはこの状況をとても楽しんでいた。

 

 

 

 アイズは苛立っていた。

 

 これ以上無く苛立っていた。

 

「起きて! 起きて起きて起きて!!!」

 

 マジで苛立っていた。

 

 何故なら。

 

「起きてってば!!」

 

 斬魄刀が目覚めないから。

 

「ぬぅ〜〜!!!」

 

 枯れた大樹の根元、立ち枯れて尚雄大なそれの根元に、何かを護るように仁王立ちしながら眠りこけている巨大な鳥……その脚をアイズはゲシゲシ蹴りまくっていた。

 

「むぅ! むぅ! むぅぅ!!」

 

 ガスッガスッと何度も蹴りを入れ、疲れ切った彼女がくてっとひび割れた地面に寝転がり、大きな鳥を見上げる。

 

「……何で、起きないの……」

 

 アイズはこの場所が嫌いだ。

 

 こんな場所が好きな人間が居るのかと聞きたい。

 

 水分の無い、ひび割れた地面。

 

 青空が見えない薄く暗い雲に、その雲越しに生気の無い光を垂れ流す太陽。

 

 この鳥以外に生物もなく、ただ……死んだ大地が広がっている。

 

「こんな所……嫌い」

 

 嫌い。

 

 嫌い。

 

 大嫌い。

 

 だが、そんな言葉を浮かべる度に『精神世界』という一言がアイズの心の柔らかいところに突き刺さる。

 

 この死んだ大地は、曇った空は、自分の心でできている。

 

 それを認めるのが嫌で、アイズは寝転んだまま鳥の脚を蹴る。

 

 それでもピクリとも動かない鳥に、溜息を吐いたアイズはコロリと寝返りをうって、

 

「……?」

 

 その時、大樹の幹に小さな隙間を見た。

 

 今まで巨大な鳥を動かす事に躍起になっていた彼女だが、そこで初めて枯れた木に(うろ)がある事に気が付く。

 

 ピョコ、と立ち上がった彼女は鳥にヨジヨジと登ってその背中から虚の中に潜り込む。

 

 そこは、暗く深い、そして木の虚の中とは思えない程に広い空間であった。

 

 そこの中にはなんと、外には存在しない生命の気配が満ちていた。

 

 足元を覆う苔と小さな草。

 

 中心には水が湧いており、大樹の至る場所に開いているらしい穴から差し込む光がその水を煌めかせている。

 

 そして、その奥に何かが居た。

 

「……あなたは」

 

 それは、木の虚のその奥の壁に背を預けて体育座りで立てた膝に顔を埋めている少女であった。

 

 アイズの肌とは違う、病的に白い生命感を感じない肌。

 

 アイズの髪とは違う、あらゆる光を吸い込むような黒い髪。

 

 アイズの服とは違う、黒を基調とした戦闘を考慮していないごく普通のエプロンドレス。

 

「……私?」

 

 しかし、それは確かに『アイズ・ヴァレンシュタイン』であった。

 

 アイズ自身が、確かに目の前の黒い少女を見てそう感じた。

 

 外の鳥に感じたものより、ずっと強い感覚。

 

 こいつは、私だ。

 

 そんなアイズの視線を感じたか、それとも声に反応したのか、黒い少女はフワリと顔を上げた。

 

 その視線がアイズと混じり合う、その瞬間。

 

「────〜〜〜〜ッッッッ!?」

 

 その『弱い瞳』に。

 

 その『救いを求める瞳』に。

 

 その『死を望む瞳』に。

 

 アイズは咄嗟に一步下がった。

 

「……違う」

 

掠れるような、震える口の隙間から漏れた声。

 

「違わないよ」

 

それを、黒い少女は否定する。

 

「違う!」

 

否定の言葉は、力強い……というよりは漏れ出た叫びのようで。

 

「違わない」

 

その叫びすら、黒い少女は一息で斬り伏せる。

 

「あなたは……お前は……私じゃないッッ!!」

 

震える声で後ずさりながらなおも叫ぶ彼女に。

 

「初めまして、アイズ」

 

黒い少女は表情を変えずに一言呟いた。

 

(貴女)だよ」

 

 傷一つ無い肌、細い手足、警戒心の無い佇まい。

 

 それは正しく弱かった頃の少女(アイズ)で、彼女が決別した筈の過去(アイズ)であった。

 

「違うッッ!!!」

 

 そんな黒い少女(アイズ)を振り払うように、アイズは両手をがむしゃらに振り回す。

 

 瞬間、バシンッッ!! と魔石が砕けたモンスターが消えるようなスピードでアイズは現実世界に放り出された。

 

「……うん? アイズ、どうした?」

「…………違う! 違う違う違うッ!! あんなのは……あんなのは、私じゃない!」

 

 ガシャンッと床に刀を叩きつけ、折れろとばかりにそれを踏みつけるアイズを同じように刃禅をしていたリヴェリアが抱きしめて止める。

 

「どうしたアイズ! 落ち着け!」

「いや、嫌ァッ!!」

 

 錯乱する彼女を抑えながらリヴェリアは床に転がるアイズの刀を足で遠くに蹴り飛ばす。

 

 刀が見えなくなったアイズは、それからもしばらく暴れていたが、やがて落ち着いて……一言リヴェリアに「ごめん」と謝った。

 

「落ち着いたか?」

「うん……」

「大丈夫だ……皆が通る道だ。私もまだまだ乗り越えられていない。気長にやる事だ」

「うん」

 

 そんな励ましに頷いたアイズは、普段から刃禅を行うのはここと決めているリヴェリアの部屋のドアを開ける。

 

「アイズ、刀を忘れているぞ」

「……今日は、要らない」

「何処に行く気だ?」

「ダンジョン」

 

 アイズの刀を片手に持ったリヴェリアは、本拠地(ホーム)の武器庫に足を向ける彼女の後ろを歩く。

 

「ついてこないで」

「そういう訳にいくか。一人では危ないのだぞ」

「リリと一緒に行くもん」

「余計に駄目だ。お前のわがままに他のファミリアの子供まで巻き込むならばせめて安全は確保せねば」

「……ッ」

 

 ドバッと、未だ洗練に難がある音と共に瞬歩で姿を掻き消すアイズ。

 

 そんな彼女は、数M(メドル)先で(普通に脚力で)追いついたリヴェリアに襟首を掴まれていた。

 

「今日はリリは諦めろ、お前の憂さ晴らしにあの子を付き合わせるな」

「やだ」

「やだじゃない。私なら付き合ってやるから」

「リヴェリアはつまんない!」

 

 アイズの暴言に無言のアイアンクローで悲鳴を上げさせながら、リヴェリアは溜息を吐いた。

 

 先程のアイズの拒絶は尋常ではなかった。

 

 フィンやガレス等の他の者達も斬魄刀との相互理解には苦労したと言うし自分もまだまだできていないが、それでも先の彼女のような拒絶はしていない。

 

(……この子に、一体何があったというのだ……)

 

 斬魄刀との対話は刀と持ち主の一対一であり、他の者達が教えられるにしてもそれは心構えまで。

 

 その事が、リヴェリアにとってはどこまでももどかしかった。

 

「アイズ、斬魄刀の件で気になることはないか? どんな些細な事でも良い」

「解放できてないリヴェリアに言っても意味無い……」

 

 こいつもう一回アイアンクローしてやろうかという気持ちを抑えるのに、リヴェリアはまぁまぁの苦労をした。




このオッタルの話マジでずっと書きたかったんだよ……

アイズはまあ、勿論いるよね、白チャン一のポジが。
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