オラリオで斬魄刀打つ転生者の話 作:オリ斬魄刀の小説増えろ
ワタリガニさん、曙光天一さん、誤字報告ありがとうございます。
夜の廃教会、オーエツによる修復が大分進んできている礼拝堂のベンチに座ったリヴェリアは、ヘスティアが入れてくれた麦湯から立ち上る湯気を眺めながら昼間の顛末を語っていた。
「……という、事がありまして……」
「「あぁぁぁ〜〜〜〜………………!!!」」
「も、申し訳無い!!」
今日えらく早く、そしてえらく落ち込んで帰ってきたリリを何も聞かずに慰めた二人は、リヴェリアの話を聞いて揃って深々とした落胆の声を上げていた。
そして、そんな二人の様子にやはり不味かったのだと慌てて頭を下げるリヴェリアに手を振るヘスティア。
「ああいや! そんなに頭下げないでよ! 君は悪くないって!」
「そうさなぁ……今回ばかりはまあ、誰も悪くなかろうよ。強いて言うならばお前の間が悪かったな、リヴェリアよ」
「……間、か……」
オーエツの言葉に自嘲的に笑い、再びマグカップに視線を落とす彼女の横に座り直したヘスティアが、慰めるようにその肩に手を置いた。
「リリ君も、最近はファミリアの方と色々あるみたいで、そんな時にアイズ君がものすごく大切に育てられているのを見ちゃったらね……ファミリアに愛されているアイズ君が羨ましくて、そんな風に思っちゃう自分が許せなかったんだと思うよ」
「自分が許せない……ですか」
本来、あの年齢の少女であればそんな感情は当然のものだ。
そして、それを当然ではなくしたのは誰だ。
そんな思考に嵌りかける彼女の背中を擦り、ヘスティアは少しばかり語気を強める。
「リヴェリア君、その考えは頂けないぜ? 君が全てに責任を持つ必要なんて無いんだ。君の感じているその責任は、
「……しかし、我々がゼウスとヘラ達の代わりを出来ていれば、こんな事には……」
今の暗黒期を齎したのは、偏にこの街の最大派閥たる【ロキ・ファミリア】と【フレイヤ・ファミリア】の力不足が原因だ。そこを否定することはヘスティアにもできない。
「そうかもね。確かにそれは君の罪でもあるかもしれない……だけど、少なくともリリ君の問題は完全にファミリアのものだし、直接君が関わっていないことに責任を感じても、君が辛いだけだ。君は、神じゃないんだからさ」
ただリリの事を報告しに来ただけなのに、ヘスティアに猛烈に気遣われている事を恥じた彼女は、しかしその気遣いを不要と断じる事が出来なかった。
(私も、随分と心が弱っているな)
闇派閥も相変わらず、アイズも精神世界で何かあったらしく以前にも増して余裕が無く若干ギスギスとした関係になっており、副団長という肩書から誰かに甘えることも出来ない*1彼女は、申し訳ないと思いつつもヘスティアの小さな、しかしポカポカと暖かい掌の感触を背中に感じながら同じく暖かい麦湯を飲んだ。
「……もう一杯くらい、飲んでから帰れ」
「ありがとう。冷える夜中に飲む麦湯は美味いな。癖になりそうだ」
「茶や珈琲と違ってカフェインレスだからな、夜に飲むのに良い」
「カフェ……?」
「目が冴えないって意味らしいよ」
「そうですか」
「利尿作用も無いから、年寄りの寝小便対策にもなる。良かったな」
めっっちゃいらん事言うオーエツに向けて床の小石を蹴り飛ばし*2、再び麦湯を受け取ったリヴェリアは目を閉じてその温かさを感じていた。
「リヴェリア君、今度リリ君と会った時、君から話しかけてあげてくれないかい? ……きっと、リリ君から話しかけるのは勇気がいるだろうから、少しだけ手助けしてあげてほしいんだ」
「ええ。勿論です」
「ちなみにだが、アイズ嬢にはどう説明したんだ?」
「体調が悪いらしいと言ったが……おい何だそのつまらなさそうな顔は」
「言い訳に捻りが足りん」
「言葉にしろと言ったのではない! ああクソ、そういう所は本当にガレスと似ているな! ……照れるな馬鹿者!」
少しばかり調子を取り戻したらしい彼女を早速とばかりにイジったりしながら和気藹々と深夜の保護者会をする三人。
そんな柔らかな雰囲気を壊す、無粋な声が教会の入口から届く。
「やぁ、こんばんは〜……おや、君は【ロキ・ファミリア】の……」
「貴方は……ヘルメス様?」
突然現れた男神にリヴェリアが首を傾げるが、近くに居た二人が席を立った事で何かがあることを悟る。
「……どうやら、私はお邪魔のようだ……ヘスティア様、今日はこれにて。オーエツ、また麦湯を飲ませてくれ」
「ああ、またいつでもおいでよ……じゃあね」
「待て、今淹れた分を水筒に移そう。日持ちはせんから気をつけろよ」
麦湯の入った温かい竹筒を受け取った彼女が二人に見送られて外に出るその時、すれ違い様にヘルメスが彼女に声を掛ける。
「もういいのかい? もう暫く待っても良いんだよ?」
「いえ? 随分と『都合よいタイミングで』入ってこられたので、もう話は済みましたよ」
「そうかい? そりゃあ良かった」
リヴェリアの牽制にも片眉動かすことすら無く、にこやかに笑った彼はヒラリと手を振って彼女を見送った。
教会の入口の壁に背を預け、フードを被ったまま手を挙げたアスフィに返礼し、そのまま彼女は
「さて」
少し冷える夜間、香ばしく温かい麦湯をありがたがって堪能したヘルメス(外で見張りをするアスフィにも渡されている)は、持ってきた鞄から幾つかの資料を出して尋ねる。
「どれを説明してほしいんだいヘスティア?」
「全部だよ!!!」
「!!?」
「何で一部しか説明しないみたいな感じになってんの!?」
「!!?!? 、!?」
「こっちは何も分かってないんだよ! 全部説明しろ! 全部!!」
「!??!?!!!!!!??!?」
ヘルメスとヘスティアのやり取りに何故かとんでもない衝撃を受けているオーエツ*3は何時もの事なので放っておいて、ヘルメスはヤレヤレと溜息を吐く。
「リリ君は君達の家族だったね」
「ああ!」
「当然だ」
「そうだよね……前置きとして言っとくと、胸糞の悪い話しか無いけど?」
そんな、警告するような……或いは気遣うかのような言葉に笑ったヘスティアは深く椅子に座り直した。
「聞かせてくれヘルメス……リリ君の事を」
「……分かったよ」
ヤレヤレ、と首を振ったヘルメスは、己の手に入れた全ての情報をヘスティアへと明かし始める。
「まず言わせてもらうと、今回の情報集めは非常に簡単だった。その理由は、【ソーマ・ファミリア】の体質……全ての団員がソーマではなく、ソーマの作った酒を信仰しているという歪んだ構造にある────」
時は少しばかり遡り、ある日の夜。
【ヘルメス・ファミリア】の一員であり、主に諜報や密偵を担当している男は今、【ソーマ・ファミリア】の
このファミリアに対する情報収集は既にその殆どが終わっており、このファミリアのどうしようもない実態は既に彼の把握するところにあった。
(……やれやれ、本当に簡単な変装で潜入できちまった)
彼の潜入方法は、ファミリアの団員の一人に変装して堂々と正面から入るというもの。
変装用の小道具でほんの少し顔に髭を足したりした男は、「ダンジョンで怪我をした」という嘘をついて顔の半分を包帯で覆う事によって真正面から見た時の違和感を消し、ついでに腕に大きな包帯を巻く事でソチラに目線が行くようにと様々な細工をしていた。
「おぉお前、何だ怪我かぁ?」
「うるせえ」
「ポーション売ってやろうか! 仲間だからな、相場の半額で良いぜ!」
「死ね」
密偵に声を掛けてきた男は、とりつく島のないその様子を見て舌打ちをして離れていった。
最後まで自分の変装対象の名前を呼ばれなかった事に密偵は心の中で溜息を吐きながらも、あらかじめ調べていた本拠地の内部を食堂に向かって進んでいく。
(……こんなにも、冷え切ったファミリアがあるとはな)
自分達のファミリアは勿論、探索系も、生産系も、商業系も、何なら【
それは勿論その中の特定個人にはソレがない人間も居るかも知れないが、全体としては『眷属』は『家族』と同義なのだ。
それが、このファミリアには存在しない。
(金と、酒か……)
プンと臭う、甘い幸福感を想起させる匂いに溢れた食堂に入り、変装対象の男が何時も座っている席につく。
そして、部屋の奥に居る男……【ソーマ・ファミリア】団長のザニスに声を掛けた。
「おい、ザニス」
「……何だ?」
今回の目的は、『リリルカ・アーデにこの男が何をしたのか』を、探る事。
隙を見てこの男の部屋には潜入したが、小悪党らしい細々とした悪事の証拠は見つかれど、同じ神の眷属であるレベル一の少女に対する対応などが描かれたものは存在しなかった。
(いっそ、
この男が用心深い性格だからか、そういったうごかぬ証拠となるものは全てファミリアの厳重な金庫にでも隠しているようで男の私室にはそういったものは何も無かった。
流石にこのファミリアの資産を保管している金庫を開くことは所詮密偵には不可能であった。
「この間よぉ、あのガキが俺に縋り付いて来やがったんだ。何つったか、あの……栗色の髪のガキ」
「ガキ……ああ、リリルカですか。何と言っていましたか?」
「あぁ!? 覚えてねえよ……なんか、助けてくれとか、金は払うとか……そんな事だよ。何かしたのか? お前」
「ふむ……」
顎に手を当てて少し考えるザニスを横目に、酒を飲んでいた眷属の一人がギャハハハ!! と下品に笑った。
「なァんだ、知らねえのかてめえ!? あのガキはよぉ、ソーマ様のご加護はもういらねえって言ったんだとさぁ! ソレをザニスがぶん殴って目ェ覚まさせてやったってわけだよ! 信じられるか!? あの酒を味わう権利を捨てるなんてよ!!」
「煩いぞ、お前はさっさと十万ヴァリスを出せ」
「おぉよ、ほれ十万!」
放られた汚い袋を受け取ったザニスは、中身を数えて「確かに」と酒を一瓶男に渡した。
「よっしゃぁぁ!! ひょー、今月の酒だぁ!! へへ、へへへ……」
「ちなみに、ヴァリスが血で汚れているようだが?」
「関係ねえだろ? 血で汚れてようが金は金だ!」
そんな事を言ってザニスには目もくれずに食堂を飛び出ていった男の言葉を継ぐように密偵は再びザニスへと声を掛ける。
「で、どうなんだよ。あいつやけにしつこいから気になっちまってよ」
「……ふん、私はソーマ様から
「条件ン?」
「あいつ、最近は【ロキ・ファミリア】のガキに上手く取り入っているからなァ。もしそこからあのファミリアを揺らがせる事が出来るような情報を抜ければ改宗を認めてやると言っている……それと、リリの事は殺して居ないだろうな?」
「殺してねえよ……まぁ、有り金は頂いたがな?」
じゃらん、とザニスの目の前に金の袋を置くと、流れ作業のようにその金を数え、「よろしい」と
「くうぅ……!! コレだぜコレ!!」
「奴はこれから先もこのファミリアの役に立ってもらう。殺すなよ?」
「殺さねえよ。殺したらもう金を持って来なくなっちまうからな」
「確かにな」
ククッと含み笑いを漏らすザニスの横を通って廊下へ出る間際、密偵は振り返って「そういえば」と最後の質問をする。
「もしも本当に有益な情報を持ってきたら、どーすんだ?」
「はぁ? 簡単な事だろう……あんなガキが集められる程度の情報に信憑性がある訳が無い。アイツの持ってくる情報は、等しく無益だ」
まぁ、念の為に『確認』はするがな、と粘着質な笑みを浮かべて笑うザニスから視線を外し、密偵は「そーかい」と廊下に出た。
そして、廊下に誰も居ない事を確認してから窓を開け、庭に飛び出し、敷地を出る。
そして、【ソーマ・ファミリア】の本拠地に近い路地裏にて、一人の男に声を掛けた。
「ほらよオッサン、お目当ての酒だぜ」
「おっ……おおおお!!! 酒だ! 酒! 酒ェ!!」
ヨタヨタと寄ってくる男に酒を投げ渡し、受け取った男が震える手でその栓を抜いてソレを呑む姿を包帯を外しながら冷めた目で見やる。
「酒だ……酒だ……! 酒……俺の……俺の酒……!」
「……オッサン、あそこの奴らは、誰一人お前の顔を覚えちゃいなかったぜ。アンタと俺は顔も声も、見比べりゃ確かに違うのに……あいつ等は、アンタの名前すらろくに言いやしなかったぜ。アンタがコレまで、半年近くその酒を飲めていなかった事だって……あいつ等は、覚えちゃいなかった」
密偵のそんな言葉に何かを返す事も無く、酒に溺れた男は、瓶の中身が無くなった事に気が付くと、密偵の脚にしがみついた。
「……なぁ、なぁ!? 今度はいつ潜入する!? あそこに入るならいつでも俺の顔を使ってくれよ! なぁ! いつだ!? なぁ!!」
ダンジョン内でか、或いは質の悪い借金取りにでもやられたか、指が全て無い右手で必死にガタガタと密偵の足を揺らす男に感情を発露させるのを必死で抑え、彼は「またこちらから連絡する」ともう潜入の予定が無い事を隠して再度の契約を示唆した。
示唆しただけのそれに、男は飛び跳ねるように喜んで「必ずだぞ!」と笑った。
「オッサン」
「何だぁ?」
「あんた、仲間を……友達を……家族を。酒の為に売れと言われたら、どうする?」
「勿論売るさ! 誰だ? 誰をアンタに売りゃあまた酒をくれるんだ!?」
酒気に濁った目が密偵を見つめている。
その目から視線を逸らし、密偵は「ただの例え話だ」と言って、背を向けた。
「じゃあな、オッサン。コレは手間賃だ」
「あ、ああ!! ありがとう!!」
男に投げた袋の中身。
そこに入っていたのは三万ヴァリス。レベル一であれば稼ぐのにそれなりに苦労する額。そして、それだけあればこの街では数ヶ月暮らせるだけの金。
それを見た男は、心から嬉しそうに笑って礼を言った。
「ありがとうなぁ兄ちゃん!! コレだけあれば、俺の貯金も全部合わせて────また、酒が買える!!」
「……そーかい。じゃ、俺のことは内密にな。じゃねえと、次の仕事はないぜ」
ふひょぉ! と歓喜の叫びをあげる男を背に、密偵はヘルメスの元へと帰る。
「……ああいうのを……『地獄』と、そう呼ぶのかね」
もしも、違うと言うのならば。
地獄がもっと、アレよりもっと人に厳しいものだと言うのならば。
「ゾッとしないね」
密偵は、そう呟いて闇に消えた。
心が強過ぎるリリを追い込み、リリとヘスティア様のお陰でかなり安定していたアイズをオーエツの斬魄刀で火の付いた爆弾にまで戻し、闇派閥に悪事を企ませ、ザニスが怖気付いた時に後ろに下がる為の足場を無くした。
よし、ドミノは置いた。後は崩してくだけだな!