オラリオで斬魄刀打つ転生者の話   作:オリ斬魄刀の小説増えろ

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前回のあらすじ

家族と故郷を何もかも丸ごと吹っ飛ばされてからまだ一年経ってないトラウマバリバリ少女アイズ

「新しい家族とか要らない。本当の家族じゃないし」

実の家族と新しい家族両方から児童労働、児童虐待、育児放棄のジェットストリームアタックを受けた少女リリ

「は?ブチギレ」




実の家族と新しい家族両方から児童労働、児童虐待、育児放棄のジェットストリームアタックを受けた少女リリ

「死んだ家族にいつまでこだわってんの?新しい優しいの居るしアレでいいじゃん別に」

家族と故郷を何もかも丸ごと吹っ飛ばされてからまだ一年経ってないトラウマバリバリ少女アイズ

「は?ブチギレ」



なんだコレ地獄か?

真夜中トトロさん、rinyaさん、玉藻loveさん、ありみさん、カオルさん、誤字報告ありがとうございます。今回盛り沢山だな!!


友達

 

 

 

 バベルの上階、その窓際に立つは美神として名高い【フレイヤ・ファミリア】が主神のフレイヤ。

 

 彼女は片手に酒の入ったグラスを持ちながら、眩しいものでも見るように、観るように、視るように……遥か下界を眺めていた。

 

 その表情はどことなく満足げで、しかしなにか悔しさのようなものを滲ませた……言うなれば、『やっちゃったなあ』とでも表現すべきものであった。

 

「……ねえ、オッタル」

「はっ」

 

 その表情のまま、フレイヤは後ろに控えていた団長のオッタルに声を掛ける。

 

「やっぱりオーエツ(バグキャラ)を所持するのに収入一割は安すぎたわよね?」

「結果論かと」

「そうねえ」

 

 ハイともイイエとも言わない、ただ事実だけを述べたオッタルのその言葉に、フレイヤは首肯した。

 

 その何とも言えない……普段見ない未練がましさを感じる仕草を見たオッタルは、フムと唸った。

 

「オーエツを奪いますか?」

他神(だれか)の唾が付いた魂なんて要らないわ……タダで拾えるなら兎も角、私ヘスティアにはあんまり嫌われたくないもの」

「差出口をしました」

「良いのよ。それに、貴方もヘスティアから無理やり奪うのは本意ではないでしょう?」

「……それでも、主命とあらばやり遂げる所存です」

「ありがとう」

 

 オッタルの献身をサラリと受け止めた美神は改めて眼下を眺める。

 

「全戦闘員に斬魄刀を与える私の判断は、結果的には正しかった……これから先解放された斬魄刀によるレベルに関与しない戦闘力の上昇は間違い無くこの街のあり方を変える」

「銀筒もまた、既に多くの冒険者が最後の御守り代わりに一本二本は携帯する事が当然になりつつあります。魔力をそれなりに鍛えたレベル三以上であれば一日で一本分を貯められますので……これもまた、この街のあり方を変えたと言えるでしょう」

 

 そんな話をしながら、一人と一柱は下界の……二人の少女の戦いを見つめる。

 

「しかし、もう何処のファミリアであろうと神ヘスティアからオーエツを奪うことは出来ません」

「そうねえ……今回でハッキリと証明されてしまった。オーエツは自分の技術を外に出す事に躊躇なく……むしろ、ソレを推進している。そして、ヘスティアはその性格上そんなオーエツの邪魔をしない」

「かの神からオーエツを引き剥がせば、間違い無く他の神々から大顰蹙を買うでしょう。何せ、金の卵を分け隔てなく周囲に配り歩く者からソレを生むガチョウを取り上げる行為です。その目的が金の卵の独占である事は疑いようが無い……あのコンビは、オラリオという街を味方にした」

「おまけに民衆からもよく好かれているわ。この暗黒期にこれだけの事をノリと勢いで成しちゃうあたりがまぁ……まさにヘスティアって感じね」

 

 敵わないわ、と呟くフレイヤとオッタルの目線が、また別の方に向く。

 

「だけど、ソレを……ヘスティアという存在の本当の恐ろしい所は周囲を際限無く巻き込む所だという点を理解できていない者が居るのもまた事実」

「……事は、起こりますか」

「さて、私は未来を視る女神では無いわ……だけど、大まかな予測はできる」

 

 す、と、己の眼と視線の先の間にグラスを滑り込ませるフレイヤ。

 

 その中に注がれた、白い透明感のある酒を見て彼女は溜息を吐いた。

 

「どう転んでも、ソーマのお酒は暫く呑めなくなりそうね……」

「買い占めを行いますか?」

「……いいえ、痛くない腹を探られるのは嫌よ。それに、私だけが楽しむんじゃあ勿体無いわ……一瓶だけ新しく買っておいて」

「では、直ちに」

 

 そう言って、オッタルは部屋の外へと出ていった。

 

 振り返らずにそれを送り出したフレイヤは、また視線をギルド前に戻した。

 

「泣いているのね……」

 

「好きなだけ泣くと良いわ。笑顔が心に不可欠なように、涙もまた心の栄養だもの」

 

「本当に哀しいのは、流す涙さえも枯れ果てる事」

 

「だから、今はただ、泣きなさい……」

 

 

 

 ヘルメスが怒りに震えるヘスティアとオーエツに「ギルドが混乱しないよう、ヘスティアとソーマの件の話を通してくるよ」と言い、朝一番にアスフィを連れてギルドへ参じた後。

 

 ヘルメスは大まかな話をするだけで、詳細に関してはアスフィが(直接的に関わってもいないのに)説明させられる羽目になり、数時間掛けてようやく応接室の一室から出た彼女はギルドの窓の側にいるヘルメスに詰め寄った。

 

「ヘルメス様! 何故当事者でもない何も知らない私が資料を片手に説明なんて……!」

「アスフィ、静かにしてくれ」

 

 彼女の怒りの声音は、ヘルメスの何時になく真面目な声に遮られた。

 

「今、とても大事な時間なんだ」

「……?」

 

 窓から目を逸らさずにそう呟くヘルメスに、訝しげにしながらも同じ窓に顔を近づけた彼女は驚きに目を見開く。

 

「……補充式魔剣、【銀筒】が世に出たのが十年前。魂の魔剣、【斬魄刀】が世に出たのが二年前……そして今日また一つ、世界が変わる日が来た……全く、オーエツ君を拾ったのがヘスティアで良かったよ、本当に……イシュタル辺りに拾われていたら今頃どんな混乱が起きていたか……」

 

 二人の目の先では、二人の冒険者が刀を強く打ち合わせていた。

 

 

 

 ギルド前の広場にて武装した冒険者が斬り合いをしている。

 

 そんな話を聞いた【アストレア・ファミリア】のリューと【ガネーシャ・ファミリア】のアーディは連れ立って広場へと飛び込んだ。

 

 しかし広場には荒れた様子も無く、その場に居る冒険者も一般人も、誰も彼もが呆けたように突っ立っていた。

 

 戦闘があったのではないのか。

 

 そんな疑問を覚えたリューの視界に己のファミリアのメンバーであるライラと輝夜の姿を見つけ、素早くそちらに駆け寄る。

 

「輝夜! ライラ!」

「うん? ……ああ、リオンか」

「冒険者が乱闘を始めたと聞きました。もう鎮圧したのですか?」

「いや、まだだな」

 

 呑気にそんな事を呟く輝夜に、リオンは正気かと詰め寄る。

 

「何を呆けているのですか! 早く鎮圧しなければ!」

「……じゃあさ」

 

 息巻くリオンに冷水を浴びせかけるような声音で、それまで黙っていたライラが言う。

 

「お前、あそこ(・・・)行って鎮圧してこいよ」

「はぁ!? 貴女何を!」

「待って、リオン……」

 

 何時になく無責任なライラの言葉に苛立つリオンの肩を叩いたアーディは、訝しげに振り向く彼女にそれ(・・)を指さした。

 

「ねぇ、あれ……」

「……え?」

 

 それは、ギルド前広場の上。

 

 遥か上空(・・・・)

 

 冒険者になら見える程度の高さの空中に、白と藍色の着物を着た小人族と、黒いバトルドレスを纏った金髪の少女がまるで子供達が遊んでいる独楽のように激突しては離れてを繰り返していた。

 

 そこには足場も、遮蔽物も、無論地面も存在しない。

 

 リューは己の目を疑う。

 

 流石に頬をつねるなんてベタな真似はしないが(アーディはしていた)、それでも夢ではないのかと思った事は確かだ。

 

「空を……跳んでる」

 

 地に足を付けるように戦っている訳では無い。何かの技を使い、ピョンピョンと軽やかに、しかしあの二人のレベルには見合わない程の高速で空を跳ねるようにして戦っている。

 

 それは、空を大地と同じように踏みしめる戦い方ではない。きっと、オーエツが見れば理想(BLEACH)との差に溜息を吐くだろう無様な動きだ。

 

 しかし、斬魄刀を持って高速戦闘をするその二人の姿には、一般人どころか冒険者、ひいては神々すらも啞然とさせる程のインパクトがあった。

 

「……おい、リオン。お前は今すぐ【ヘスティア・ファミリア】に行け。この中ではお前が一番あそこの二人に顔が利く」

「あの二人は放っておくのですか!?」

「なら魔法でも放って打ち落とすか? まだ広場にも人にも何の危害も与えていないのに? お前はあの二人の所属するファミリアを敵に回す気か?」

 

 その言葉にグッと詰まったリューから視線を切り、【アストレア・ファミリア】副団長であるゴジョウノ・輝夜は矢継早に指示を出す。

 

「この中で最も顔が売れているのは私だ。故に【ロキ・ファミリア】への言伝は私が行く。アーディ、ギルドへの報告は【ガネーシャ・ファミリア】のお前が適任だろう。ライラは、この場をなんとか納めてくれ……どちらかが墜落する事も考えられる。少なくとも頑丈ではない一般人と神々への注意喚起はしてくれ」

「へーへー……ったく、あのドワーフがこの街に来てから訳わかんねえ事ばっかり起きやがる!」

 

 ついつい飛び出たライラの文句に吹き出しながら、全員が同時に行動を開始した。

 

「『人形姫』も、あの小人族も、もしも止められるとしたら……色々な意味で同じファミリアの人間だけだ……頼むぞ、皆!」

『了解!!』

 

 全員が違う方向へと走り出す。

 

 その上空では、二人の少女が火花をちらしていた。

 

 

 

「はあああぁぁぁ!!!!」

「ッァァアアア!!!」

 

 ガギッ!! と鈍い音を立てて激突した刀越しに、二人の視線が交差する。

 

 その視線から何をするかを……というよりも何かをする事を察したアイズは、力任せに剣を振り抜いてリリを弾き飛ばす。

 

 飛ばされたリリはその場で踏ん張る事無く空中を錐揉みしながら姿勢を整え、空中を『蹴って』再度突進を掛けてくる。

 

 ソレに合わせて自身も空を蹴ってリリに向けて加速し再び刀が交差する瞬間、ザッ! と特徴的な擦過音と共にリリの姿が目の前から消える。

 

っしろ(後ろ)!!」

 

 コレまでの市壁上での戦いの経験から後ろに目を向けるが、そこには何も無い。

 

盃よ西方に傾け(イ・シェンク・ツァイヒ)!」

 

 リリの声が聞こえたのは、下。

 

「【緑杯(ヴォルコール)】!」

「ッアァッ!?」

 

 ドンッ!! と強い衝撃波がアイズの身体を襲い、平衡感覚を失った彼女はグルグルと右に左に回転しながら重力に逆らい打ち上げられ、その勢いが弱まった所で下から跳び上がってきたリリの刃に脇腹を裂かれる。

 

「アガッ!?」

 

(ステイタスは、私の方が上なのに!!)

 

 内心でそう吐き捨てながら、アイズは瞬歩でその場を離脱して軽く身体機能チェックを行う。

 

 もう何度か斬り合いを続けていたが、その中で間違い無くアイズの方がステイタスが上である事を確認していた。

 

 アイズの方が力が強く、動きが速く、頑強だ。

 

 しかし、現状の事実として刀傷を負っているのはアイズのみであった。

 

(ステイタスじゃない……純粋に、技術が! 対人技術が私よりもずっと上!!)

 

 アイズはこの一方的な現状をそう結論付けた。

 

 心の奥で、何時かリヴェリアが言っていた事を思い出す。

 

 ある時、何かの拍子に自分が『リリは弱い』といった事を言ったのだ。

 

 そうすると、リヴェリアは何時ものようにアイズを叱ったのだ。

 

『お前はリリを弱いと言うが、彼女ほど強い人間を私は知らん』

『アイズ、お前は物心付かぬ頃から親に面倒さえ見てもらえず、自分の面倒を全て自分で見られたか?』

『あの子はこの危険極まる街で、子供の頃から己の食事や寝床さえ自分自身で用意していたと聞いた』

『武器の扱いは確かにお前の方が上だろう。だが、彼女の強さはそんな分かり易い、他人と比べられる所には無いのだ』

『よく覚えておけ』

 

 あの時は分からなかった。

 

 だが、今なら分かる。

 

 これなのだ。

 

 必ず斬れる筈なのに、躱される。

 

 絶対に受けられない攻撃なのに、受けられる。

 

 このままでは……自分は、負ける。

 

 少し離れた空中を少し跳ねながら浮かんでいるリリの顔を見て、アイズの視界が滲む。

 

「さっさと……墜ちて下さいよッ!! アイズさん!!」

「ッリリイィィィッ!!!!」

 

 リリの服の袖から飛んできた小さな木矢を切り捨て、アイズは再び彼女と切り結ぶ。

 

「はあああぁぁぁぁ!!!!」

 

 ……初めて出会った時は、自分と同じような年齢でダンジョンに潜っている子も居るのか、とそう思っただけだった。

 

 それから直ぐにリヴェリアにリリの事情を聞き、同じ親を亡くした仲間なのだと思った。

 

 そして、何かと一緒に居る事が増えて、ボコボコにしたり、されたりもしたけど……

 

 笑った顔を見た。

 

 怒った顔を見た。

 

 ご飯を食べる時の顔を見た。

 

 お腹が空いた時の顔を見た。

 

 ドン引きした顔も、困った顔も、得意げな顔も、恥ずかしがった顔も…………例え相手が内心で自分をどう思っていようとも……本当に、色々な顔を見せてくれた。それは事実だ。

 

 アイズにとってこの街唯一の友達の、色々な顔が脳裏を過ぎる。

 

 本当に、色々な顔を見てきたのだ。

 

「っがぁぁぁぁ!!!!」

 

 だが、その顔は知らない。

 

 その顔は何だ。

 

 何故、そんな顔をする? 

 

 何故…………

 

 何故。

 

「リィリィィィイイ!!!!」

 

 アイズの斬魄刀(かたな)は泣いていた。

 

 それを振り払うようにアイズは絶叫を大きくした。

 

 

 

 

 

 

 

 ガギィッ!!! と雄叫びを上げながら突っ込んでくるアイズの刀を己の刀で往なし、振り向きざまに再度突撃を掛けてくる彼女に向けて腕に仕込んだ小さなリトルバリスタから木矢を射出する。

 

 ソレにより一瞬緩んだアイズの右腕に剣を振るうが、紙一重で躱されてタックルをその身に叩き込まれる。

 

「っが」

 

 ドッ、と襲い来る衝撃を受け流した彼女は、袖から出した暗器のナイフでアイズの胸を浅く切りつけた。

 

 既に自身がアイズに付けた傷は十を超えた。

 

(多分……アイズさんは私がよく分からない技術で自分の攻撃を躱している! ……とか、思ってるんでしょうね……)

 

 実際には、そんな事がある訳が無い。

 

 アイズには戦闘の才能があり、自分には戦闘の才能が無い。それが事実だ。

 

 オマケにアイズの方がステイタスが上回っていると来れば最早それはありえないのだ。

 

 なら、今のコレは何か。

 

 答えは単純極まるものだ。

 

(アイズさん、貴女は……貴女が、私を斬らないようにしているんです)

 

 リリに向けて振るう腕が、一瞬躊躇する。

 

 リリを斬ろうとする剣筋が、明確にブレる。

 

 リリに向けて突進してくる速さが、模擬戦よりも明確に遅い。

 

 そう、答えは単純だったのだ。

 

 初めて出会った時は、絶望を映したその瞳が自分の鏡写しに見えて、まるで世界に自分が一人では無かったかのような安堵を覚えた。

 

 それから直ぐにヘスティアにアイズの境遇を聞き、己とは明確に違う恵まれた人間だったのだと知って不満を感じたが、それでもおなじ年代の冒険者がちゃんと愛されて育てられているのを見るのは嬉しくもあった。

 

 そして、何かと一緒に居る事が増えて、ボコボコにしたり、されたりもしたけど……

 

 不満げな顔を見た。

 

 満足げな顔を見た。

 

 神の茶番に何の興味もない時の顔を見た。

 

 自分の好きな食べ物に夢中な時の顔を見た。

 

 笑った顔も、寂しがっている顔も、考え込んでいる顔も、考える事を止めた顔も…………自分が相手にどのような感情を持っていようとも……本当に、色々な顔を見てきた。それこそが事実だ。

 

 リリにとってこの街唯一の友達の、色々な顔が脳裏を過ぎる。

 

 そんな友達の今の顔は、記憶のどこにも無い顔だった。

 

 その瞳からはボロボロと涙を溢れさせ、鼻水さえも出てしまっている。

 

 グズグズと鼻を鳴らしながら、両手で刀を握っているが故にそれを拭う事も出来ず、ただ悲嘆の感情を滲ませてこちらに突っ込んでくる。

 

 そうだ。

 

 答えは単純だ。

 

 アイズはこの街に来てまだ一年経っていないとか、色々と言える事はあるだろう。

 

 …………だが、結局のところリリは必要ならば唯一の友達を斬れて、アイズは必要であっても唯一の友達を斬れなかった。

 

 …………ただ、ソレだけの事。

 

(ごめんなさい、アイズさん)

 

 心の奥で、そう呟き、殺意の無い甘い突進をしてきた少女を軽く避け、華奢な腕に刀を走らせる。

 

(……ごめんなさい、本当に……!)

 

 背後で押さえつけた悲鳴を漏らすアイズに心中で必死に謝る。

 

 だが、それは油断であった。

 

 アイズの方が実力が高く、ステイタスも上なのだからそんな事をするならば一歩だけでも彼女から離れて警戒をするべきだった。

 

 こういう所も、結局はリリには才能がないのだろう。

 

 痛みに絶叫をしながらも空中で方向を転換したアイズが、背後からリリに突撃を行ったのだ。

 

「グフッ!?」

「っづぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 自分の胴に両腕を回して絶叫しながらドンッ! ドンッ!! と瞬歩を連続で使うアイズ。

 

 それによって加速した二人は、建物の屋根にぶつかってダァンッ!!! と鈍い音を出した。

 

「……痛っ」

「リリ!」

 

 激突の衝撃に呻くリリの肩を掴んで自分の方を向かせたアイズは、リリの顔をジッと見つめて、未だボロボロと零れる涙を袖で手荒に拭ってから叫んだ。

 

「そんな顔しないでよッ!!!」

「……え?」

「私を見てるとイライラするんでしょ!? うんざりなんでしょ!? 私に怒ってるんでしょ!!? だったらそんな────そんな、哀しそうな……泣きそうな顔、しないでッ!!」

 

「……え」

 

 ただ一言、そう呟くしかできなかったリリは、まだ溢れる涙を再び手荒く拭ったアイズがその身体を翻すのを見ることしかできなかった。

 

 泣きそうな顔? 

 

 誰がだ。

 

 私が? 

 

 様々な疑問が頭を飛び交い混乱するリリをチラリと見たアイズは、そのまま瞬歩で空を跳ぶ。

 

 それを見たリリは、咄嗟に腕に仕込んだリトルバリスタに手を掛け……

 

「……ッ」

 

 ……そして、引き金を引けなかった。

 

『この建物の上に落ちたぞ!』

『上がれ上がれ!』

 

 そんな声が下から聞こえてくる中、リリの胸中にあるのは……

 

 圧倒的な────安堵。

 

 アイズをこれ以上斬らなくて良いというその感情が引き金になって、リリの心の奥に無理矢理に押し込めていた感情が一気に溢れ出す。

 

 それは、罪悪感。忌避感。喪失感。

 

 ありとあらゆる、『友達を斬りたくない』という部分に起因する感情が涙となって彼女の瞳から溢れ出す。

 

「……っぁ、ぁ、あぁあああ……!!!」

 

 一度溢れ出したものは、もう止まらない。止められない。

 

「おい、お前……オイ!? アイツはどうした!? あの『人形姫』は!?」

「うわぁぁあああッッ!!! うあぁぁぁあああっっ!!! わぁぁぁあああっ!!!」

「オイ……!? どうなってんだよクソッ!?」

 

 困ったように頭を搔くライラの服にしがみつき、自分を捕縛しに来た者達に囲まれて、リリは暫く自分でもどうしようもない涙を溢れさせ続けた。

 

 

 リリは、アイズを最後まで斬れなかった。

 

 リリには、アイズを止められなかった。

 

 




次回、ヘスティア様カチコミ。

予約投稿間違えました。次回はまた0時投稿に戻ります。
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