オラリオで斬魄刀打つ転生者の話   作:オリ斬魄刀の小説増えろ

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代替を求めるのだ

慈悲のように甘く

誇りのように香り高く

愛のように重い代替を

伽藍洞の肚の内に

そうして詰め込み気付くのだ

器で無いから

伽藍なのだと



酒神或いは神酒(ソーマ)

 

 

 

 コリコリと乳鉢の中身を磨り潰す音が響く部屋の中、一つだけ置いてあった椅子にどっかりと座り込んだヘスティアがソーマの背中を睨みつける。

 

 ソーマの私室、そこには現在ヘスティアとオーエツ、そしてソーマの三人だけが存在していた。

 

(もしも俺達が今ここでソーマを殺せばどうなるか、考えんものか……)

 

 この部屋に入る時に廊下に放り投げた百万ヴァリスの袋を今も争奪しているであろうこのファミリアの眷属達を思い、そしてここで物心付いた頃から生活していたリリを思ってオーエツは眉根を寄せる。

 

(考えても仕方の無いことではあるのだが……我々にとって都合がいいという事がここまで不愉快とはな)

 

 そんな事を考えながら黙って立っている彼の目線の先では二柱の神が対峙していた。

 

 一柱は怒りを顕に。

 

 一柱はそこから背を向けて。

 

 この対峙を見ただけでもそれぞれの神のスタンスが分かるというものだ。

 

「ソーマ、この色々と忙しい僕が何故こんな辺鄙な場所に来たか、分かるかい?」

 

 ヘスティアがらしくもない挑発じみた言動でソーマを煽る。あとヘスティアの住む廃教会の方がよほど辺鄙だ。

 

「…………」

 

 S(ソーマ)T(スルー)

 

「……ッ……あー! それにしてもアレだね!? 君の眷属の教育はどうなってるのかなー!? 全くこんなところにまで僕らを通しちゃってさ! ちょっと危機管理ってもんがなってないっていうか、普通に怖くない? 治安悪いし……」

 

 ヘスティアがさらに慣れない挑発を続けるが、生来の人の……神の良さが出て途中から純粋に心配している。自分が襲撃仕掛けた癖に。

 

「…………」

 

 S(ソーマ)T(スルー)

 

「……ふ、ふふふ」

「…………」

「ッ上等ォじゃないかっ!! そっちがそんなにやる気ならこっちだってやってやるからなっ!! さぁ行くんだオーエツ君!!」

「止めんか馬鹿たれ」

 

 そして、頑張って捻り出した挑発を無視されたヘスティアはキレた。

 

 慈悲深く懐の深い神ではあるが、同時に沸点のひっくい神でもあるのがヘスティアである。

 

「……お前達が来た目的は、リリルカか」

「分かってて今の今まで無視してたのか君はァァァ!!!」

「止めんか馬鹿たれ」

 

 既に理性が沸騰している何言っても怒る状態のヘスティアの肩に手を置いて、しかしオーエツはオーエツで静かに睨む事を止めない。

 

「そこまで分かっとるならば、とっとと許可が欲しいですな。リリルカ・アーデの改宗の許可さえ頂ければ自分達も面倒な事はせんで良くなる」

「僕は言いたいこと山程あるぞ!!」

「今はやめろ」

 

 ヘスティアの怒る肩を押さえて止めた彼は、ソーマの言葉を待つ。

 

 コリコリと変わらず乳鉢を動かしていた彼の神は、暫くしてからそこに別の素材を入れ始めた。

 

「神ソーマよ」

 

 焦れた彼の言葉にも手を止めない酒神は、しかし手を止めずにポツリと一つ問うた。

 

「何故、そこまでしてリリルカを求める? あの子には才能が無い。そこまでして自分のファミリアに引き入れる理由は何だ」

「……あの子は僕等の家族だからさ。ソレじゃ理由にならないかい?」

 

 家族、その言葉にソーマは何も返さない。

 

 しかし、その雰囲気が少しばかり変わった事に、一人と一柱は気がついていた。

 

「ヘスティア、教えろ……家族とは何だ? 家族の何がお前をそこまでさせる……お前は天界では争い事を嫌った筈だ。そんなお前が、自ら争いを起こす程の価値がお前の言う『家族』にはあるのか?」

「あるよ! あるに決まってるだろ!」

「俺にはそれが分からない」

 

 顔だけを半分振り返らせてヘスティアを見つめるソーマ。

 

 その瞳に何処か覚えのあった二人は、つい気勢を削がれる。

 

「ヘスティア、家族とは何だ? 絆とは? お前達はそれで神と子供達が結ばれていると言うが、そんなものが本当に存在するのか? それとも…………俺のような神には絆など、望むべくも無い物なのか?」

 

(……昔のリリ坊を思い出す目をしておる)

 

 ソーマは曲がりなりにも神であり、眷属も数多く居るためこのオラリオの最下層とは全く状況が違う。

 

 しかし、彼がその瞳に浮かべている感情は間違い無く冒険者の後ろをついて歩く、見窄らしい荷物持ち(サポーター)と同じ……絶望の色であった。

 

「……君は……」

「俺は、元々探索系のファミリアなど作るつもりは無かった。下界に降りてきた当時は、俺と眷属達で酒を作り、その酒を生活ができる程度に売り払い、そして残りを皆で分かち合い飲む、ただそれだけの生活をしていた……ただ、それだけで良かったんだ。俺は」

 

 そう力無く呟くソーマの脳裏には、下界に降臨してからの眷属達の事が思い起こされていた。

 

 酒が好きな者達が集まり、皆であーでもないこーでもないとより良い酒を作り、皆でそれを空にしてはまた酒を作る。

 

『ソーマ様、こんな果物がありましたよ! 香りが強いんです! 次に作る酒にどうですかね?』

『ソーマ様……今回の酒はイマイチですね……』

『ソーマ様! そこの商店で売ってた酒です! もう飲みました?』

 

 あの頃は皆が楽しんでいた。楽しんで酒を作っていた。だが、いつからか……

 

「酒作りの道具が充実し、酒に使う材料が揃い……俺の酒の味が上がる度に、子供達は少しずつ変わっていった」

 

 そうだ。

 

 皆で試行錯誤しながら作っていた筈の酒は、いつの間にか作る人間が一人ずつ減っていった。

 

『ソーマ様、神酒(ソーマ)に必要な食材を買ってきました!』

『え、もう酒は作らないのかって? ソーマ様が作る神酒(ソーマ)の方が美味いですから……』

『どうですか? 今回の神酒(ソーマ)の出来は』

『ソーマ様、俺達の分の材料は要りません、これでもっと沢山美味い神酒(ソーマ)を作りましょう』

 

 例え薬の神であろうと、素材と道具が無ければ良い薬は作れない。鍛冶の神も、そして酒の神も同様だ。

 

 しかし手段と材料が揃い神酒(ソーマ)の味が一つ上がり、少しずつ神として恥じるところの無い出来になる度に、子供達の態度は目に見えて変わっていった。

 

「【ソーマ・ファミリア】の酒は作られなくなり、このファミリアには神酒(ソーマ)だけが残った」

 

『ソーマ様、今回の神酒(ソーマ)はどうですか』

『ソーマ様、もっと神酒(ソーマ)の量を増やせませんか』

『ソーマ様』

神酒(ソーマ)様』

神酒(ソーマ)様』

神酒(ソーマ)様』

神酒(ソーマ)様!!』

 

「…………そして、最後には酒の奴隷が残った」

 

 ヘスティアも、オーエツも、言葉を失っていた。

 

 だって、ソーマがした事はそれこそディアンケヒトやヘファイストスと何も変わらないのだ。

 

 子供達と共にものづくりを楽しみ、それを売って生計を立て、得た金でまた皆とものを作る。

 

 ソーマがした事は、本当にただ、それだけ。

 

 先に挙げた二柱と違うのは……酒は人を狂わせる性質を持つという、ただその一点。

 

 ……だが、そんなものはソーマにはどうしようもないであろう。

 

 何故ならば、ソーマは酒の神。

 

 そこ(・・)が変わらないから……変えられないからこその【超越存在(デウスデア)】なのだから。

 

 己の存在意義そのものが子供達を狂わせる毒であると悟ったその時、ソーマの感情がどれ程の物だったかは……同じ神であるヘスティアでも察して余りあるものだった。

 

「……だが、俺の眷属であった筈のリリルカ・アーデは、酒を振り切った。お前達、『家族』の為に」

「教えろ、ヘスティア……俺は間違っていたのか? だとすれば何処を間違えたんだ?」

「何故……俺はこうなった(・・・・・)?」

「教えてくれ」

「ヘスティア」

 

 既に……ヘスティアはここに来るまで抱いていた怒りをある程度忘れてしまっていた。

 

 忘れて、ただ……ソーマを哀れんでいた。

 

「君は…………」

 

 二人に向けていた視線を再び机に戻し、また調合を始めた彼に掛ける言葉も無く、二人は険しい顔で暫くの間黙っていた。

 

 そして、半ばまで上がっていた太陽が頂点に昇る頃になってから、ヘスティアは重々しく口を開いた。

 

「……ごめん、ソーマ。暫く考えたけど、僕には君の悩みを解決できない。正直に言って、君の悩みを百パーセント理解すら出来てないんだと思う」

 

 けど、とヘスティアはソーマの背中を……最初より何となく小さく見える背中を見据える。

 

「けど、きっと……君は諦めるべきじゃ無かった」

 

「子供達は移ろいやすい。ちょっとした要因ですぐに変わってしまう。それは確かに僕らにとって残酷な事でもあるよ」

けど(・・)

けど(・・)……そこで僕等が導く事をやめてしまったら、子供達はそこから先をどうやって歩けば良いんだい?」

 

 それは、神の理屈だ。

 

 子供達は悩み迷う事が当たり前の存在であるからこそ、そうなった時には神が導いてやらねばならないという上位者としての思考。

 

 神でもなければ神酒(ソーマ)の魔力も知らぬオーエツとしては(そんな奴ら(不信心者)全員泣くまでぶん殴れ)としか感想の出ない、イマイチピンと来なかった理屈だが同じ神であるソーマは思うところがあったらしく、調合の手を止める。

 

「……愚かな子供達だ」

「それでも僕等の子供達だよ」

「導きに従うとは思えない」

「そりゃあ全員は無理さ、僕等は下界では全知零能だぜ? けどもしかすると一人や二人は従ってくれるかもよ?」

「……そんな僅かな可能性の為に、時間を使えと?」

「何言ってんだい、僕らの時間は無限じゃないか。リリ君っていう実例だってあるんだし、案外サクッと見つかるかもしれないぜ?」

 

「何より、君はまだファミリアを持っているじゃないか。何処かの適当な神の下について、酒だけ作るって手もあったろうに」

 

 ニヤリと笑ってそう言うヘスティアに、ソーマはチラリと視線を向けてからまた手元に戻した。

 

「……来るものを拒む理由が無かっただけだ」

「知らないのかい? 『子供にはもううんざり』ってのは、十分拒む理由になるんだぜ?」

「…………」

「きっと君は、君が思うほど完全に子供達を見限ってはいないんじゃ無いかな」

「…………」

「あ、所でリリ君の事だけど……」

 

 再び調合を始めた彼の背中に、ヘスティアがリリの事でもう一度声を掛ける……その時外から女性の声が聞こえた。

 

「神ヘスティア! 神ヘスティアはここにおられるか!!」

「うん?」

「ん?」

「…………」

 

 いきなりのお呼び出し、それも【ソーマ・ファミリア】の本拠地(ホーム)でとなると早々無い事だ。

 

 呼び出されたヘスティアはオーエツに向かって首を傾げるが、彼もまた不思議そうにしている。ソーマは自分には関係ないと無視……関係あっても無視していたかもしれない。

 

 窓の方から声がしたのでソーマの部屋の窓からヒョコッと顔を出したヘスティアとオーエツは、門前に見知った顔のエルフが居る事に気が付いた。

 

「ありゃ、リオン君?」

 

 それは、ヘスティア達も馴染みの女性、【アストレア・ファミリア】のリオンと名乗っているエルフであった。

 

 その彼女が、普段にないほど肩を上下させて伸びてしまった者と代わった門番に止められながらもこちらに向かい声を荒げていた。

 

 共に顔を出していたオーエツと顔を見合わせて頷きあって、彼の肩に抱えられた状態で下階に飛び降り、塀を挟んで彼女と向き合う。

 

「や、どうしたんだいリオン君、わざわざこんな所まで……」

「やはりここに居ましたか!! 大変ですヘスティア様! アーデさんが、ギルド前の広場にて【ロキ・ファミリア】の『人形姫』アイズ・ヴァレンシュタインと真剣での斬り合いを始めています! 取り急ぎ広場まで来てください! あの二人、空を飛んで戦っていて我々では止められないのです!」

「ハァァァァァッッ!?」

 

 

 

 ほんの数分後、再びソーマの私室に二人が飛び込んでくる。

 

「ややややヤバヤバヤバイよリリ君が友達とガチの殺し合いしてるってヤバイよ嘘でしょどうしようえ、コレ僕のせい? 確かに最近アイズ君に対してちょっと劣等感こじらせてるなーとは思ってたけど、ねえコレ僕のせいかなオーエツ君!?」

「……まぁ主神殿のせいかは置いておいて、そういう事だ、神ソーマよ。我々は行くが、貴方はどうする?」

 

 オーエツのその問いに、ソーマは暫くの間手を止めて……そして、また手を動かし始めた。

 

「そこは!! 来る!! 流れじゃないのか!!!」

「止めんか馬鹿たれ、今は早く行くぞ」

「やっぱり君にリリ君は任せておけなぁぁぁい!!! 絶対リリ君は僕の眷属にする!!! また来るからなぁぁぁ!!!」

 

 再び外へと飛び出していった二人を見送ることもせず、しかしソーマは暫くの間調合の手を止めた。

 

 すり潰されかけた酒の材料をそうして暫しの間見つめた彼は、数分後、また調合を始めた。




Q.人間を諦めてるようで諦めてない、けどちょっと諦めてるソーマ様は最初どうやって眷属を作ったのかな?

A.多分こんな感じ。


rinyaさん、誤字報告ありがとうございます。
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