オラリオで斬魄刀打つ転生者の話   作:オリ斬魄刀の小説増えろ

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Q.アイズはあんなあっさり底を脱したのにリリはなんで底をずりずり這ってんの?てかむしろ掘ってない?

A.環境差。あと今彼女が掘ってる穴は他の人間とか神が落ちる穴なのでリリの底はもうコレで確定です。


黒翼竜対人形姫

 

 

 

 

 ゴオッ!! と風を引き裂きながら振られる鉤爪を跳んで回避するアイズは、さらに数度空中を跳ねてこのフロア全体を見る。

 

(……これは)

 

 ダンジョン内に複数ある入り口はどれも崩落している。レベル一のアイズではちょっとやそっとじゃ逃げる事は出来ないだろう。

 

 先程の神と、その護衛らしき冒険者達は既にどこにも見当たらない。この状況でも何か逃げる為の手段があったようだ。『黒い竜』に気を取られてその瞬間を見られなかった以上は真似出来ないと思った方が良い。

 

 まぁ、今のアイズに逃げるという選択肢は存在しないが。

 

「……ッ」

 

 突撃してきた『黒い竜』を紙一重で避け、鎧の内に忍ばせていたポーションをほんの少しだけ含む。

 

 これまでの連戦で出来ていた大小の傷が消える感覚と共に、『仕込める隙間には取り敢えずポーションを仕込んでおくべきです! それ用の瓶を特注してでも!』とリリが熱心に力説していた事を思い出す。

 

「……リリに言わなきゃいけないこと、どんどん増える」

 

 暴走した自分を止めてくれてありがとうとか、それはそれとして散々斬りやがってとか、瞬歩やこのポーションとかの生きる知恵を教えてくれてありがとうとか、それはそれとしてしこたま痛めつけやがってとか、怒りも感謝も山のようにしなければ気がすまない。

 

 ……だが、その前に今は目の前の存在だ。

 

「オオオオオオオオオッ!!!!!」

「ぐっ!?」

 

 ビリビリと身体の芯まで響く咆哮に反射的に縮んだ肉体では瞬歩を扱いきれず、肉体があらぬ方向に跳んでしまう。

 

 それを察知したか、『黒い竜』がゴパッとその顎を大きく開く。

 

 そして、その口腔の奥には煌々と光り輝く炎の塊。

 

「っぁぁぁぁぁっ!!!!?」

 

 咄嗟にそれまで行ってきた足の裏による跳躍ではなく、背中で起こす魔力暴発を使った跳躍を行う。

 

 それはまるで、『空中に作られた見えない足場を転がる』ように。

 

「ぎゃっ!!」

 

 だがしかし、それは背中に軽くとは言え爆発のダメージを受ける事に変わりない。

 

 元々『歩く』『走る』『跳ぶ』『蹴る』といった各種の衝撃を吸収するための部位である足と違い、その部位での衝撃はアイズの呼吸を止めた。

 

 普通に地面を転がるよりも遥かに強い衝撃と音を立てながら空中を転がるアイズの直ぐ側を『黒い竜』が放った炎の息吹が焼き尽くした。

 

 階層全体に蔓延する白霧を焼きながら飛んでいくブレスを見もせず、アイズは即座に空中で体勢を立て直し、再び跳んだ。

 

(……モンスター……)

 

 それは、本来このような上層に出現する筈の無い中層域のモンスターの筈だ。

 

(……怪物(モンスター)……!)

 

 人に付けられた名を『ワイヴァーン』というそのモンスターは本来退紅色をしている筈が、漆黒の体表に覆われていた。

 

(……黒竜(モンスター)ッ!!)

 

 だが、今のアイズにそんな事は関係が無い。

 

 ボッ、ドバッ!! と複数の爆発音を響かせながら竜に迫り、その背甲に刀を振り下ろす。しかし、それはギャリッと耳障りな高音を立てて弾かれ、鬱陶しいとばかりに激しく身を捩らせた竜の尾に身体を弾かれ、再びクルクルと空を舞う。

 

 相手にされていない事を強く感じるアイズだが、相手はどうにもアイズよりも先程居た神を気にしているようで地面を見回しその姿をしきりに探している。

 

 だが、既にこのダンジョンに神は居ない。どのような手段かはわからないが、神はダンジョンの外に脱出していた。

 

 しばらくして神の姿がどこにも見えない事を理解した竜は、クルリとその視線を鬱陶しい小蠅(アイズ)へと固定し、また咆哮を轟かせた。

 

 たった今、アイズの刀は竜の鱗に通用しなかった。

 

 その威圧感、力強さはどう考えてもアイズの敵う相手ではなく、本来なら彼女は既に撤退戦に入っていなければいけない程に力の差がある。

 

 しかし、アイズはギリリッと尋常ではない力で斬魄刀を握り込み、大きく吠えた。

 

「うぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 

 今アイズの目には黒い竜だけが映っていた。

 

 その心にあるのは凄まじい程の戦意であり、それ以外の感情は全て忘却の彼方にあった。

 

 ドンッ!! と爆音を立てて竜に突撃するアイズは急激に近づく。

 

「やぁあぁあああああ!!!!!」

 

 ガギイッ!! 

 

 すれ違いざまに羽の付け根を強く切りつけたアイズだが、黒い竜の突撃と自身の突撃の相乗した衝撃を受け止めきれず、叩き落されるように地面に激突する。

 

 アイズ自身もそうなる事を理解していたか、耐衝撃姿勢をとって素早く起き上がるが、黒い竜は直ぐに追っては来なかった。

 

 竜は、アイズと激突した自身の飛翼膜の付け根を覆う鱗が……漆黒の竜鱗が大きくひび割れているのを見ていた。

 

 竜の鱗はどんな攻撃でも弾く無敵の鎧だ。

 

 それが今地面で息を荒げている小蠅によって貫かれたという事実は、ダンジョンによって作られた竜の……人間に例えれば強いプライドを刺激していた。

 

 アイズの血塗れの身体で尚も睨む鋭い目つきと、竜の怒りに満ちた鋭い目つきが交差する。

 

「────ッ!!」

「ッゴアォォォォォッ!!!!」

 

 矮小なるレベル一の小蠅(アイズ)が空中へと跳び出し、竜は全速で小蠅(アイズ)へと降下する。

 

(有翼型モンスター攻略の手順(セオリー)は、まず翼を狙う!)

 

 ドッ! ドンッ!! と何度も空中を蹴りつけるアイズは、竜の目がしっかりと彼女を追っている事を把握していた。

 

(まずは目を潰す!!)

 

 跳ぶアイズが懐から取り出すのは、四本の【銀筒】。

 魔力を鍛えられる上に戦闘の手段に使えるとリリに聞いてリヴェリアに管理されている自分の小遣いをコツコツ貯めては買い込んでいた物。

 

 その内の一本の蓋を指で飛ばしたアイズは、それを竜の鼻先に向け、詠唱を行う。

 

「【盃よ西方に傾け(イ・シェンク・ツァイヒ)】!」

 

「【緑杯(ヴォルコール)】!!」

 

 緑杯の効果は衝撃波であり、攻撃力こそ無いが上手く使えばあらゆる事に使える汎用性がある。

 

 相手を吹き飛ばしたり、自分が落下したり壁に叩きつけられそうな時に衝撃軽減に使ったり……或いは目潰しに使ったり。

 

「グオオオォォッ!!?」

 

 竜の鼻先で炸裂した緑杯は確かに竜の視界を奪い取り、それに竜は苦悶の声を上げる。

 

 そして、その一瞬固まった竜の翼膜に向け、アイズは残りの三本の銀筒を投げつける。

 

「【大気の戦陣を(レンゼ・フォルメル)杯に受けよ(ヴェント・イ・グラール)】!」

 

 そこから放たれるのは、全てを破壊する三角柱状の結界。

 

「【聖噬(ハイゼン)】!!」

 

 銀筒を使った三つの技の中で唯一攻撃力を持つこの技は、使う銀筒の数によってその威力を増す。

 

 三本分の銀筒を使われたそれは、既に砕かれていた竜の鱗を更にダメージを与え、ボロボロに痛めつける。

 

(ここッ!!)

 

 そして、聖噬と同時に再び竜に吶喊したアイズは己の斬魄刀(かたな)を竜の翼に叩きつけた。

 

 その一撃は、本来決して届く筈の無い竜の鱗に届き、決して抜ける筈が無いその防御を抜いた。

 

 ────ザンッ!!!! 

 

 血飛沫と共に竜の悲鳴が響き渡り、竜がバランスを崩して地面へと墜落を始める。

 

 その片翼は、骨を断たれ皮と筋で辛うじて繋がった状態で鮮血を撒き散らしていた。

 

 それは、アイズが父親(だれか)の記憶をなぞってその身に映し込んだ、確かな絶技(わざ)だった。

 

 今のアイズでは決して勝てない筈の相手。

 

 しかしアイズは、フィンやガレス、リヴェリアに教えられた知識と、リリやオーエツに授けられた手段と、そしてかつて自分が目にしていた『英雄』の技術でもってその『勝てない相手』に重傷を負わせた。

 

(斬った! またブレスを吐かれる前に……一気に、叩くッ!!)

 

 だがしかし、その傷が悪かった。

 

 竜はこれまでアイズをただの『小蠅』としか思っていなかった。

 

 だが、この瞬間、竜はアイズを『強敵』と認めたのだ。

 

 竜にトドメを刺すため、空中から落下の加速をも利用した刺突を放たんと降下する。

 

 しかし竜はそれを見もせずに……己が墜落した地面に向けて火炎(ブレス)を吐いた。

 

 そもそも本来、炎は上昇気流によって熱を上に向けて発散するものだ。

 

 地面を焦がし尽くすそのブレスは、竜の飛翼の傷をも焼くが、元より火に耐性のある竜はそれに対し僅かに身動ぎをするのみ。

 

 結果として炎の熱が最も殺到する上空に居たアイズだけがその熱に強く全身を焼かれる事となった。

 

「〜〜〜〜ッ!?」

 

 ゴオッ!!! と殺到する熱から咄嗟に腕を回して顔を守るアイズだが、それこそが竜の狙いであった。

 

 呼吸と感覚器の集中した顔を守る為に無防備となったアイズの身体を、竜の黒い鱗に覆われた尻尾が強く打ち据える。

 

 があっ、と、声すらも出ない程の衝撃にアイズの全身から同時にメシャッ、と音を立てたのを彼女は確かに聞いた。

 

 そしてゴジャッとダンジョンの壁に叩きつけられたアイズはドボッと己の喉奥から溢れ出た血を堪える事も出来ず地面に撒き散らした。

 

 ガクガクと震える手足は、全くアイズの思い通りに動かない。どころか両足に至ってはあらぬ方向に向いてしまっていた。

 

 横隔膜の痙攣が止まらず、ビクビクと身体を震わせながら血を吐き散らかすアイズだが、熱で乾いたその瞳でも確かに感じるものがあった。

 

 それは、先と同じ火炎(ブレス)の光。

 

「ッぼえアアァァ!!!」

 

 あまりの痛みと息苦しさでどちらが地面かすらも分からないままに咄嗟の判断で上下左右滅茶苦茶に魔力暴発を起こしたアイズは、自分の全身が滅茶苦茶に潰れていく感覚を覚えながらも空を舞った。

 

 しかし、その自暴自棄にすら思える行動は二つの成果を見せた。

 

 一つは、竜の火炎(ブレス)から辛うじて逃げるというもの。

 

 そしてもう一つは、アイズの鎧の内側に残っていたいくつかのポーションを砕く事に成功したというものだ。

 

 所詮は鎧の内に隠せる程度の量。対した効果は無いが、それでも複数になれば一定の効果を発揮する。

 

 骨折が多数ではあるものの何とか生理反射を押さえ全身を意識的に動かせる程度には回復したアイズは、サッと己の周囲を把握する。

 

「………………ぁ」

 

 そして、把握した。

 

 今自分は、先程のブレスで燃え盛っている炎の中心に立っている事を。

 

 そして、上空にどういう原理かは分からないが先程の傷を再生させた竜が舞っている事を。

 

 そして、その竜が再び火炎を放とうと口を開いている事を。

 

 上下左右前後、逃げ場無し。

 

 アイズの命運は、今ここに尽きた。




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