オラリオで斬魄刀打つ転生者の話   作:オリ斬魄刀の小説増えろ

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リリルカ編、最終話です。

前々回で感想欄の熱量がとんでもない事になってたから(これ次に書く話で感想欄燃えるんだろうなあ)と思いながら執筆して、(これ投稿したら感想欄燃えるんだろうなあ)と思いながら投稿して、結果思ってた三倍燃えたから普通に笑っちゃったよね。

ごめんて!まさか皆があんなに期待掛けてくれると思わなかったんだよ!!

geardollさん、誤字報告ありがとうございます。


オラリオで転生者は斬魄刀を打ってばかりもいられない

 オラリオで斬魄刀打つやつ31

 

 

 

 オラリオ地下の『ある場所』。

 

 そこの天井がゴボッと盛り上がり、穴が開く。

 

 その穴からは、ゴオオッ!! とまるで間欠泉の如く炎が噴き出した。

 

「っが」

 

 そしてそこから折れ砕けた無数の石刃と共に降ってきたのは、全身を火傷と裂傷塗れにされたヴァレッタ・グレーデその人であった。

 

 炎が吹き出る穴を中心として広がるようにその場所の天井からも刃が伸び始めるのを見て、ヴァレッタはガシャ、と焼けた刀を持ち上げる。

 

「っは、ッハァーッ、ガッ、ッハァ!!」

 

 無防備な仰向けに寝転がり、ガクガクと咳き込み震えながら必死に新鮮な空気を取り入れる彼女は、焦げた腕で持っていた斬魄刀を壁に強く突き立て、未だ轟々と炎を噴き上げる壁の穴を埋める。

 

 炎に晒されなくなった天井の刃の成長が止まった事を確認した彼女は何度も何度もゲホゲホと咳き込みつつも、壁に這いずり寄りかかった。

 

 そして、ここに来るまでに全身に深々と突き刺さった石剣の欠片を掴み、力を込める。

 

『打ち直された』時の熱を持ったまま肉に突き刺さったそれは、傷口に焼き付いてしまって中々抜けなかったが、無理やりにベリベリ、ビチビチと音を響かせながら引き剥がして血の水分で未だに湯気が立つそれを舌打ちと共に放り投げた。

 

「ハァーッ、ハァーッ、ハァーッ!!」

 

 最後の一本を抜き取った事で最後の力を使ったのか、斬魄刀を壁から引き抜く事もせずに呼吸だけを必死に行うが……何者かの足音が聞こえた事で眼だけをチラリとそちらに向けた。

 

「……え、負けたの? 何で?」

 

 そして、その眼の先に居たのが今回の件の首謀者たる神だと判断した彼女は、両手で顔を覆って呻いた。

 

「……うるせぇ」

「え? その傷何? 負けた? 負けたの? ねえ何で負けたの? 誰に負けたの?」

「うるせえつってんだろうが!! ……テメエの方はどうなんだよ」

「勧誘は無理だったねー。多分もう死んでると思うよ」

「ハァ? ……あんだけ自信満々で失敗したのかよ……」

「いや〜、ヴァレッタちゃんこそ何で負けてんの? 負ける要素無いでしょ」

「あったんだよ!! ……つうか負けてねえ! 撤退しただけだ!!」

「そんだけボロボロなのに?」

「グッ」

 

 暫くの沈黙。

 

 黙って懐から取り出したポーションの試験管を振る神。

 

 それを奪い取ろうとしたヴァレッタだが、ヒョイと軽やかに躱す。

 

 ニヤニヤと笑みを浮かべる神は、しゃがみ込んでヴァレッタと視線を合わせる。

 

「……で、何で負けたの?」

「……分かんねえけど、アレが原因だよ」

 

 壁に突き刺さった斬魄刀を親指で示すヴァレッタ。

 

 それを聞いて、神は半分程試験管の中身を彼女に振りまく。

 

 それで幾分かは楽になった彼女が、壁にもたれかけていた上半身をムクリと起き上がらせて何度か咳き込む。

 

 喉も燃えていたのか、血の痰を何度か排出してから再び試験管を奪い取る。今度は抵抗無く彼女の手に収まったそれを飲み干しながら、彼女は唸るように呟いた。

 

「……あの刀には、まだ何かがある」

「へえ」

「所で、勧誘が無理ならちゃんと殺す約束だったろ。何中途半端に終わらせてんだ」

「えー、多分死んでるって、大丈夫だよ」

「多分って何だよ!!」

 

 まだ完治には程遠い傷を庇いながら吠えるヴァレッタを気にもせず、神はそれよりも、とその傷を指差す。

 

「というかさぁ、誰に負けたの? まさかあの鍛冶師君? ……イヤイヤいくら何でも二個もレベル下の非戦闘員に負けないよね?」

「………………」

 

 沈黙するヴァレッタ。

 

 その沈黙が何よりも雄弁に答えを語っており、神は珍しくその表情を引きつらせる。

 

「……え、本当に? ダサ……」

「うるせえぇ!!! あんなん予想出来る訳ゃ無えだろうが!!」

 

 そう叫んだ彼女は、もう一度血の痰を吐き出してから壁に突き刺さった斬魄刀を引き抜き、始解を解除した。

 

「……クソ、何なんだ……」

 

 その普通のサイズに戻った斬魄刀を睨みつけ、ヴァレッタは呟く。

 

「一体何なんだよ……コレは……!」

 

 高級なポーションを飲んで尚残る全身のジンジンと痺れる痛みよりも、彼女には己の掌の中に収まっている一振りの刀が余程恐ろしく見えた。

 

 

 

 

 

 

 オラリオで起きた、たった独りによる惨劇の夜。

 

「死ねェェェェェ!!!!!」

 

 それから、一日が経った。

 

「死ねぇぇぇ!!!!」

 

 あの後、直ぐに飛んできたリヴェリアに手当てを受けている間に戦闘音が止んだ事で大挙してきた様々な人々神々からその身を隠す為にギルドに匿われた彼等は、そこで治療を受けながら一晩を過ごした。

 

「死ね! 死ね! 死ね! このクソコミュ障ゴミ転生ドワーフが!! 死ね! 死んでしまえ!!」

 

 そして、朝っぱらからギルドの裏庭の一角にある大きな岩にゴッゴッと頭を只管打ち続ける一人のドワーフを、呆れた様子で眺める女神が居た。

 

「……ねぇオーエツくーん、君何時間そうしているつもりだーい?」

「やらせてくれ!! 頼む!」

「あーもー」

 

 スパコンとゴツい頭を引っ叩いたヘスティアだが、クソコミュ障ゴミ転生ドワーフ(本人談)は一層激しく頭を岩に打ち付けるのみである。

 

「はぁ……何だい、下手人を逃したくらい別にいいじゃないか。あの悪名高い【闇派閥(イヴィルス)】の幹部を撃退したんだぜ? 誇って当然の────」

「そんな事はどうだって良いのだ!!!!」

「は?」

 

 てっきりその事を悔いているのだと思っていた彼女は、オーエツの言葉に眼を丸くする。

 

「……君、今なんて?」

「どうだって良いのだ、あの女を逃がした事は!! ……いやどうでも良くは無いが!! それよりも俺が許せんのは……昨日の! 俺の! 不甲斐ない戦闘だ!!」

 

 そう言ってから「うがぁぁぁぁ!!!!」と雄叫びを上げて一層岩に頭を打ち付けるオーエツ。

 

 既に岩は幾度もの衝突により彼の顔面の形状に凹んでいた。

 

「な、何だい何だい! 何が君をそんなに……」

「初めてだったんだぞ!!」

「うわびっくりした」

 

 グリンと血塗れの顔でヘスティアの方を向いた彼は、砕け散ったサングラスも気にせずに彼女ににじり寄る。

 

「……初めての……初めての卍解バトルだった……しかもこの俺だけの問題じゃない……初めての! 世界で初めての卍解バトルだったのだ!! この意味が分かるか! えぇ!?」

「わ、分かんないよ!?」

「俺は死ぬべきだという意味に決まっとろうがァァァァッ!!!!」

 

 ゴガァンッ!! と地面に土下座するように頭を叩き付けた彼は、地面にめり込んだ頭をゴリゴリと擦ってどんどん地面に潜っていった。

 

「……あー。ほら、結果オーライって言うし……?」

偉い人(京楽隊長)も言っていただろう! 『流儀に酔って勝ちを捨てるのは三下のすることさ(イケボ)』と! 違うか主神殿! 違うか!?」

「あーもー知らないよメンドクサいなぁ!」

「俺は三下だぁぁぁ!!!」

「はぁ……もう好きなだけやってなよ……」

 

 

 ダクダクと溢れる血を拭いもせずヘスティアに詰め寄るオーエツと、心底面倒そうにしているヘスティア。

 

 尚、こんなやり取りは彼が起床してから既に四回目である。

 

「そんなことよりもさ」

「……何だ、ギルドの聞き取りか? それならもう何度も……」

「違うよ、お客さん」

 

 そう言ったヘスティアが指し示す所……すなわちギルド裏庭の入り口では、神フレイヤと【フレイヤ・ファミリア】団長のオッタルが佇んでいた。

 

「呼んだんでしょ?」

「確かに次会った時に頼みたいことがあると職員に手紙を送ってもらったが、別に呼んではいないのだが……」

 

 大きい組織とはそれに比例して腰も重くなると知っているオーエツは驚きを口にするが、フレイヤは笑みを浮かべ、オッタルは眼を閉じるのみだった。

 

「あら、私達がここに来るのは当然でしょう? だって昨日の大活躍──」

「待て神フレイヤよ。俺を褒めないでくれ。もしも俺を褒めたら……」

「褒めたら?」

「顔中の穴という穴からありとあらゆる体液を噴射して死ぬ」

 

 フレイヤはその言葉を聞いて引きつる口元をその手で隠した。

 

 引きつった理由は、無論オーエツの言葉に微塵たりとも嘘がなかったからである。少なくとも彼は『そうなる』と思っているのだ。

 

「して、我々に用とは何だ」

 

 黙ってしまった主神に代わりオッタルが用事を聞くが、オーエツは「質問を返すようで失礼だが」と前置きをする。

 

「ふむ」

「オッタル、昨日の俺の戦いを見ていたのだろう……どう思った?」

 

 それはこれから自分達に頼みたい事と関係しているのだろう。そう察した彼は、暫しの沈黙の後に一つ頷く。

 

「鍛冶師としては、と前置きするが……」

「前置きしないでくれ。お前の純粋な感想を頼む」

「ならば、見れたものでは無かったな」

 

 オーエツの言葉にそう断言するオッタル。

 

 事情を分かっているヘスティアとオーエツの表情から大方を察したフレイヤが見守る中、オッタルの戦闘添削は続く。

 

「お前のあの炎で周囲の物を動かす能力は確かに強力だが、終始それだけをしているのが疑問だった。あの場に主神と戦闘不能人員が居る以上あそこを戦場にするべきではない。それに、お前は終始余裕を持っているように見せようと立ち回ろうとしていたと感じたが、二レベル差の相手にそれは無茶というものだろう。そんな事をしていたから……お前は危うく主神を失う所だった」

「つまり」

「お前がするべきだったのは、あそこで余裕ヅラをするのではなく相手をその場から引き剥がす事……まぁ、それをしていればあの操り人形に対応できなかった可能性があるので、最適解は己の身を粉にしてでもヴァレッタ・グレーデを殺す事だったろう」

 

 リリルカ・アーデの様にな、と言葉を締めた現『最強』に、オーエツは深く頷いて礼を言った。

 

 暫く頭を下げていた彼は、そうして誰にも顔を見せること無く言葉を紡ぐ。

 

「……俺は、一度目の人生で憧れた者達が居た」

 

 そこから始まる話を、二柱と一人は黙って聞く。

 

「その者達は強く、余裕を持ち、外連が効いていて、とにかく憧れた……どうしようもなく憧れた」

 

 そこで腰に差しているナイフのような短刀を外し、その鞘を撫でる。

 

「この刀も、彼等に憧れて創り上げたもので……そして、あの炎を出せるようになったその時、俺は彼等に追いつけたと思った……思ってしまったんだ」

 

 そんな訳が無いのになあ、とオーエツは己の半身を愛おしそうに撫で、そして元の場所に差し直す。

 

「昨日のザマはそれが原因だ。彼等に追いつけたと勘違いした馬鹿な男が、彼等と同じように戦おうとしてしまった。碌な修羅場を潜ったことも無い鍛冶師風情が、分不相応な夢を見てしまった結果、家族を無駄に危険に晒した」

「……非戦闘員の鍛冶師がアレだけ出来れば十分だと思うがな」

 

 オッタルの珍しい同情に似た言葉を、オーエツは首を振って否定した。

 

 確かに、この街に来てから最初は【闇派閥(イヴィルス)】の襲撃は多かったし、それによってオーエツのレベルも上がった。

 

 だがしかし、やがてそれも少なくなり*1、そもそもレベル三のステイタスが上昇するような敵はそう簡単には出てこない。

 

 そうしていつの間にか、オーエツは平穏に慣れていった。

 

 だがしかし、今回の件で自分の無力さ……否、『生産職』にのみ専念はしていられない現実を知った。

 

「何一つ十分ではないさ……主神殿の家族の内で、一番強いのは俺なのだから。ならば俺が戦闘をしなければならない……俺は『生産職』でこそあれど『非戦闘員』ではない」

 

 それは大規模ファミリアのオッタルとの認識の違いだった。

 

「……つまり、お前が俺達に頼みたい事とは」

「あぁ……【フレイヤ・ファミリア】よ」

 

 オーエツは地面に座り込み、両拳を地面に着けて深く深く、額が地面に触れるまで頭を下げた。

 

「お前達に空中歩行の……『瞬歩』の技術を教える。その代わり、俺を一から徹底的に鍛えてくれ」

 

 両手両脚そして頭を地面に付けた彼の後ろで、ポリポリと頭を掻いたヘスティアもまた深々と頭を下げた。

 

「僕からも頼むよ。コレまでは【闇派閥(イヴィルス)】に目をつけられていなかったけど、僕等は今回の件できっと本格的に目をつけられたろう……今回の敵はリリ君を狙っていた。あの子を、護らなきゃ」

 

 そんな言葉を受け、オッタルはチラリとフレイヤを見る。

 

「二つ質問。あの大きな炎については教えてくれないのかしら?」

「あー……あれは……教えて欲しければ教えても良いのだが、始解と同じで刀と当人の一対一の話だからな。流石にそれを報酬にはできん」

「じゃあもう一つ。何故この話を【ロキ・ファミリア】に持っていかないのかしら?」

「単純にアイズ嬢にはもう教えとるからそこ経由で広まるだろうし、そもそも対モンスターならともかくとして対人戦では神フレイヤの眷属の方が上だろう」

 

 その言葉を聞いて、フレイヤが微笑みを浮かべて頷いた事で全ては決まった。

 

「……オーエツ、お前の要求を叶えよう……但し、地獄を見る事になるぞ」

「ああ、むしろ地獄が見たいのだ。少しでも早く、強くなる為にな」

 

 

 

 

 

 

 そんなやり取りが裏庭で行われている時、ギルドの一室にて眠っていたリリが眼を覚ます。

 

「……ぁ」

 

 ポツリ、と声を出す。

 

 本来それは誰にも聞かれず消える筈だったが、それを拾った者が居た。

 

「起きたか」

「……ソーマ、様」

 

 それは、リリの主神たるソーマ神であった。

 

「起きたのならば、背を向けろ」

「……」

「お前の恩恵(ファルナ)を消す……リリルカ・アーデ。お前を、【ソーマ・ファミリア】から追放する」

 

 それは、断罪であった。

 

 己の信じた神に見捨てられるという、神の眷属にとって最大級の処罰。

 

 それを、リリは深く頭を下げて受け入れた。

 

「……はい」

 

 それ以上は何も言わずに寝ている間に着替えさせられたらしい清潔なシャツを脱ぎ、素肌をソーマに向ける。

 

「……よろしくお願いします」

 

 その言葉には何も返ってこず、無言で当てられた掌からフワ、と温かい感覚が流れ込んでくる。

 

「……私は、何人殺しましたか」

「五十八人だ。残ったのは八名だが、皆俺のファミリアを抜けたいと言った……そして、既に俺の恩恵を絶ち、皆オラリオを去った」

「……そう、ですか」

 

 それっきり沈黙が続く部屋の中、リリは己の背に刻み込まれた恩恵(呪い)が消えていく様を感じ取っていた。

 

 嬉しくはないし、かといって悲しくもない。

 

 ただ、一日前の夜があまりにも濃密過ぎて、今現在に現実感を持てないフワフワとした感覚を覚えていた。

 

「リリルカ」

「……はい」

 

 暫くしてソーマに掛けられた言葉に返事をすると、それ以上返ってくることは無く、沈黙が部屋を支配する。

 

 そして、そこからは無言のままにリリの恩恵はスッカリと消え去った。

 

「これで、お前はもう一般人だ」

「……はい」

 

 まるで何もなかったかのようにスッカリと消え去った恩恵。

 

 実感の無いそれに呆然としながらもシャツを着直したリリを他所に、ソーマは部屋のドアを開け、廊下に出る。

 

 しかし、ソーマはそこで一度止まり、リリの方を向き直る。

 

「リリルカ」

「……はい」

「何故、俺を殺さなかった」

 

 そう言うソーマの服の内には、大小様々な裂傷が出来ていたが、それらは全て致命傷どころか重傷にもなっていないものだ。

 

 直接的に被害を与えなかったからか? 

 

 それとも、数年前両親が死んだ時に世話を焼いたからか? 

 

 ソーマはそれを尋ねるが、しかしリリもまたその事は目が覚めた瞬間から気になっていた事だった。

 

 気になって、沈黙の中で考えていた事だった。

 

 だから、それに対する答えもサラリと口から滑り出た。

 

「私は、ソーマ様を殺そうと思いました……間違い無く殺すつもりで、血の槍を放ちました」

「……」

「けど……目が覚めて、ソーマ様を見た時……生きてるって、分かった時……少しだけ、ホッとしました」

 

 それが、リリの答え。

 

 無論恨みはある。

 

 死んで欲しいという気持ちもまだゼロではない。

 

 ……だがしかし、生きていると知って安心した。

 

「そうか」

 

 ソーマは、それだけを言って改めて視線を廊下に戻す。

 

「ではな」

 

 そう言って、ドアを閉めるその間際。

 

「……身体を壊さんようにな」

 

 最後にそう言って、パタリと閉まるドア。

 

 そのドアを暫く見つめていたリリは、ベッド脇の水差しから水を汲んで飲む。

 

『それを! 早く!! 言えよ!!!』

 

 コップの中身を半分程乾かした辺りで窓の方から聞こえてきたその声にリリが驚くと、その瞬間に窓の外から見知った神とドワーフの二人組が飛び込んできた。

 

「リリ君!」

「リリ坊!」

 

 飛び込んできた勢いのままに窓枠に足を引っ掛け、ドタバタゴロンと部屋の中を転がった二人は同時にガバッと起き上がり、リリに駆け寄って抱き寄せる。

 

「ああああ良かったぁぁぁぁ!!!! もうずっと起きてこないから何処か悪いんじゃないかと気が気じゃなかったんだ!!」

「リリ坊、痛い所は無いか? 吐き気は無いか? 手足末端の痺れは? 息苦しさは? 記憶は混濁していないか? 何処まで覚えている?」

 

 ゼロ距離でワアワアとまくし立てる二人に、リリは呆然とした顔で「あの……」と呟く。

 

 その瞬間、シュバッと身体を離して聴く姿勢に入った二人にほんの少しの苦笑を浮かべ、気になった事を尋ねる。

 

「……私、沢山人を殺しました」

「うん」

「きっと、皆死にたくなかった。それに殆どの人は、死ぬ程の罪を犯していなかった筈です」

「だろうな」

 

 二人の交互に飛んでくる相槌を聞きながら、リリは唾を飲んでその言葉を口に出す。

 

「……それなのに、お二人は……何故私を……私に、優しくしてくれるのですか?」

 

 その言葉に顔を見合わせた二人は、互いに笑顔を見せ、一度頷いてからリリに向き直った。

 

「「リリ君(リリ坊)が家族だから」」

 

 声を合わせて言われたそれに、リリの喉の奥が詰まる。

 

「確かに、お前は死ななくて良い人間を殺したかも知れん。罪を償わにゃあいけん事になるかも分からん。しかしお前がどれだけの罪を被ろうと、それとこれとは話が別よな」

「そうそう。罪を償うってんなら協力するし、罪が重過ぎて一人じゃ立てないってんなら立てるまで側にいるよ。君が気絶する前に言ったこと、覚えているかい? ……もう二度と、君を独りにはしない。誓うよ」

 

 

 

 そう言って背中を撫でる二人の手に、リリはボロボロと涙を零す。

 

「……丁度いい機会だ。僕ら皆で、もう一回一からやり直そうぜ……家族って奴をさ」

 

「だな」

 

 そんな二人の言葉に、リリは返事を返せなかった。

 

 ボロボロと溢れる涙と嗚咽が止められなかった。

 

 

 

 

 

 

 そして、数日後。

 

 

 

 まだ空も白んでいない夜明け前、まだ深夜と言える頃。

 ザッ、ザッ、と箒を掛けていた手を止め、オーエツは腰を叩く。

 

「師匠、雑巾がけ終わりました」

「おう、ごくろうさん」

 

 そう言って寄ってきたリリのランプの灯りに照らされた髪の毛をワシワシと乱雑にかき混ぜ、外に出る。

 

 二人は、住居である教会の向かい側、オーエツの鍛冶小屋の掃除をしていた。

 

「……これで、取り敢えず綺麗になりましたね」

「ああ。暫くの間留守にするからな。掃除はしておかにゃあならん」

 

 これから、彼等は暫くの間雲隠れをする。

 

 オーエツは今回、斬魄刀や瞬歩で名を上げすぎた。

 

 リリもまた、今回の事件の当事者中の当事者でありほとぼりが冷めるまでは碌な生活が出来ないだろう。

 

「……けど、意外です。師匠って鍛冶小屋から長期間離れて生きられるんですね」

「あん? そんなら俺はどうやってこの街に来たってんだ」

「……あ、そっかあ……」

 

 そんな話を小声でしながら、廃教会……否、オーエツの手によってスッカリと修復された『元』廃教会の前に立つ。

 

 その扉が開き、中から現れたヘスティアが抱えた大きな木札を扉に括り付ける。

 

 リリが手に持っていたランプを照らすとそこには『暫く休業:炊き出しの場所、日時は【アストレア・ファミリア】へ』と書かれていた。

 

「フフン、どうだい? 結構達筆だろう?」

 

 そう得意げに笑うヘスティアに、性格故か身の上故かという違いはあれど、揃って綺麗な字を書けないオーエツとリリは音が響かぬよう静かに拍手をする。

 

「成程、こりゃうまいもんだ」

「流石です、ヘスティア様」

「ふふ〜ん、もっと褒めてもいいよん」

「さ、行くか」

「はい」

「ちょっと!? 褒めタイムもう終わり!?」

「ああ、折角だ、端っこに小さく『3D2Y』と書いておこう」

「何で!?」

 

 この日より、『ヘスティア金物屋』は暫くの間閉店する。

 

「対価は渡してあるとは言え、【ヘファイストス・ファミリア】にあまり迷惑を掛けんようにな」

「はい。師匠も【フレイヤ・ファミリア】での修行、頑張ってくださいね」

「当たり前だ……もう二度とあんな無様を晒すわけにはいかんからな。死ぬ気でやるぞ」

「……いや、レベル五を撃退して無様って……」

「俺にとって真に重要なのは過程だ。それに……まぁ、何だ」

 

 言葉を濁したオーエツは、その続きを待つリリの頭をガッシガッシと揺らす。

 

「わ」

「もうすぐ空が白み始める。行くぞ」

「もー全く、これじゃ夜逃げだよ」

「事実夜逃げですからね……ド深夜から荷物纏めて建物の掃除して……ふわぁ」

「夜中の作業はリリ君には辛かったね……ゴメンね、もう寝てて良いよ。オーエツ君が運ぶから」

「俺かい」

「いや、別にいいですけど……いや本当に! 歩きます、自分で歩きますから!」

「フラフラしとるぞ、大人しく背負われろ」

 

 遠慮に遠慮を重ねるリリを無理やり担ぎ上げたオーエツの荷物を片方持ち、並んで歩き出す。

 

 その先には、【フレイヤ・ファミリア】からの遣いが待っていた。

 

「重かろう、俺が持つ」

「おいおい、君の両手が塞がっていたら誰が僕を護ってくれるんだい?」

 

 ニコリと柔らかな笑顔を見せる彼女に、歯の奥にものが詰まったような顔をした彼は、既に目が開かなくなっているリリを背負い直す。

 

「フレイヤの眷属が護ってくれる」

「ええ〜? 僕は君に護って欲しいなぁ?」

 

 ぐり、と肩でオーエツの身体を押したヘスティアは、ヤレヤレと軽く笑う。

 

「……まさか、自信を失った君を見る日が来るとはね……下界は驚きで一杯だ」

「俺は自分への失望で一杯だがな……憧れに中身を持たせる事だけを生き甲斐にしてきた当の俺自身が、憧れをなぞっただけの空虚な人間だったなぞと……俺は偉大なる原作に泥を塗ったのだ……全世界のBLEACHファンに顔向けできんよ」

「全く、そういうのも含めて挽回(・・)していこうって話じゃん!」

「おぼろろろろろろろ*2

「え、今挽回(卍解)に反応したの?」

 

 転生者は神の街(オラリオ)に斬魄刀を打つためにやって来た。

 

 だがオラリオは彼が思っていたよりもずっと恐ろしく、危険で、そして温かい場所であった。

 

 だからこそ、彼はここで一度鎚を置く。

 

 それは、己の空虚さに気付いた故。

 

 それは、己の真に大切な物に出会えた故。

 

『本物』を創る事に心血を注いだ彼は、今初めて自分自身が『本物』となるべく歩き出す。

 

「はぁ……はぁ……行こう、主神殿」

「え、うん……具合は良いの? オーエツ君」

「……ああ。それと、俺はひとまず鎚を置いた。だから今は『王悦(オーエツ)』を名乗る事は止めようと思う」

「……うん。なら、なんて呼べば良い?」

 

 数日前に砕け散ったサングラスを動かそうとして、空を切った指に苦笑して『彼』は笑った。

 

「無論、セルバン・ハルウッド……セルバンと呼んでくれ」

「……うん、分かったよ。セルバン君」

 

まだ真っ暗な夜闇の中、彼等は歩き出す。

 

 

 

 

大抗争まで、あと一年。

*1
ヘスティアに救われた民間人が善意の通報という形で襲撃を阻止していたのだが、彼等の知るところではない。

*2
トラウマスイッチON




正直あの感想欄の盛り上がりようからヴァレッタさんここで殺した方が良いんじゃねえかとも思ったんだけど、そうするとオーエツが修行パートの必要性を感じなくなって結果大抗争で死ぬ可能性ブチ上がるんよな……ただ、もっとオーエツは根っからの生産職でステイタスも低いよ、ぜんぜん戦闘慣れしてないよってのをちゃんと描写するべきだったなと反省してる。

それと前話後書きにも書かせて頂いてますが、『鳳鎚』の読み方は『ほうづち』なんじゃねーの問題なのですが、色々と自分なりに色々と考えましたが、やはり読み方は『おうづち』で通したいと思います。
親切にご指摘下さった方、良いんじゃねえのと言って下さった方、ありがとうございます、そして誤読許せねえ派の方々には申し訳ありません。ここは通させて貰います。

さて、後は蛇足的にこの時間軸のアイズとリリの話と現代時間軸のアイズとリリの話(プロローグの続き)を一話ずつやってから大抗争編かな。
気が向けば特別ゲストの月島さんを加えてリリとアイズが最初から幸せだったifルートをやるかもしれないけど、まぁ多分やらないかな……

『現実逃避アンケート』ダンまち本編のアイズは『リリは私のお姉ちゃんだから』と言って事情を知らない人間から宇宙猫されるか、『私はリリのお姉ちゃんだから』と言って事情をよく知る人間から宇宙猫されるかどっちが良いですか?(実年齢はアイズが一つ上)

  • リリを『お姉ちゃん』だと思ってるアイズ
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