オラリオで斬魄刀打つ転生者の話   作:オリ斬魄刀の小説増えろ

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投稿遅れてすまぬえ。アストレア・レコード全巻読み直したりBLEACH全巻読み直したりそのままワンピースとトリコとNARUTO全巻読み直したりしてたえ。あの時代こそ我が青春よ。

リア10爆発46さん、誤字報告ありがとうございます。


エピローグ:少女達は。

 

 

 

 

『家族喰い事件』とオラリオで呼ばれ始めているその一件から数日の後、事件の下手人たるリリルカ・アーデ及び【ヘスティア・ファミリア】が神を含め全員消えた。

 

 その一報は瞬く間にオラリオ全土を駆け巡った。

 

 人々や神々が慌てふためいて押し寄せた彼等の本拠地である元廃教会には『暫く休業』の簡素な看板が立てられており、神々は何時も通りゲラゲラと嗤いながらヘスティア探しに街を奔走し、そして民衆はこの暗黒期の希望の灯が消え去り、途方に暮れた。

 

 ただ、誰もヘスティアファミリア全滅説等は唱えなかった。

 

 何故なら、ヘスティア達が消えたその日から【フレイヤ・ファミリア】の敷地内でとんでもない豪火の柱が立ち上るようになったので。

 

『家族喰い事件』の最後は鍛冶師オーエツが『謎の新兵器』を使ってレベル五の【闇派閥(イヴィルス)】を撃退したらしいという情報と、夜間にその兵器であろう火柱を見た者達は、オーエツが今現在【フレイヤ・ファミリア】に居る事を察していた。

 

 しかし、誰も確認には行かない。民衆は無論、神々でさえも。

 

 神フレイヤの眷属の一神教っぷりはこの街に居るものならば皆分かっている。下手に手を出せば神ですら一切の容赦躊躇無くボコボコにされかねないのだ。

 いかに神とて野次馬に命を賭けるかは……神である以上無いとは言わないが……少なくとも、分かりきっている事を確認する為に命を賭けるような馬鹿は居なかった。

 

「【フレイヤ・ファミリア】に行きたい」

「駄目だ」

 

 アイズ(少女)以外は。

 

「何で?」

「問題になるからだ」

「オーエツに会いに行くだけだよ」

 

 スッカリと傷の治った*1アイズはリヴェリアの腕をプラプラと揺らしながらぶーたれる。

 

 彼女はここ数日ずっとこの希望を繰り返していた。

 それはそうだろう。今や【ランクアップ】の目処も立ち、僅かに、しかし確かにあったファミリアの他眷属達との溝も埋まり始め、スッカリと憂いの無くなった彼女の現状唯一にして最大の懸念事項なのだから、当然である。

 

 しかしてそんなアイズに視線を合わせるようにかがみ込み、その両頬を柔らかく手で包みこんだリヴェリアは彼女の目を見て言い聞かせる。

 

「……良いか、アイズ。我々【ロキ・ファミリア】と【フレイヤ・ファミリア】は決して友好関係には無い。むしろ消極的ではあるが敵対関係にあるのだ。そんな彼等の本拠地に行くというのは、殆ど宣戦布告に近いのだ。そうなれば、どうなるか分かるか?」

 

 アイズの目をまっすぐに見つめながらそう問いかけられ、アイズは少し悩んでからコクリと頷いた。

 

 そんな我慢を覚え始めた少女を抱き寄せ、「偉いぞ」と頭を撫でる。

 

「……済まないな、私達も知り合い達に掛け合ってオーエツ以外の二人の居場所を探す。だから暫くは待っていてくれ」

「うん……」

「さて、では今日は【ヘファイストス・ファミリア】に採寸に行こうか」

「うん……!」

 

 そう言ったリヴェリアはアイズの掌を握り、アイズもまたそれに身を任せ、本拠地(ホーム)を出る。

 

 先日の一件でボロボロを通り越してほぼほぼ不燃ごみになってしまった*2アイズのバトルドレスの代わりを探しに、バベルに店舗を構える【ヘファイストス・ファミリア】に向かう二人。

 

 この街で最も高くそびえ立つ神の塔に向かう街道、石畳にほんの数日前までへばりついていた血液も、既にこのオラリオを歩く多くの人々のブーツに削り取られ既に何処にあったかも殆ど分からない。

 

 確かにそこに存在した筈の、一人の人間が死んだ痕跡……否、『痕跡の痕跡』を通りざまにチラリと見やった少女は、視線を前に戻す。

 

 その脚は止まらない。遅れる事も無い。

 

 たった七歳の少女が人の死に足を止めない事が、この街の歪さを表現しているようで手を引くリヴェリアは僅かに眉根を寄せた。

 

 その雰囲気を感じ取ってか、それとも自身が確かにそう思ったのか……アイズは前を見ながらポツリと呟いた。

 

「…………最初から、何もなかったみたい」

 

 街だけではない。そこに住む人々も、数日前の事を気にもとめていないように見える。

 

 あの日死んだ十数人の家族は、仲間は、確かにこの街に今も居る筈なのに……この『いつも通りの』光景を見ているこの時の少女にはそれが信じられなかった。

 

「そうだな……今も事件の痕跡が残っているのは、オーエツとヴァレッタが戦った区画ぐらいだろう……彼処は目に付く全てが真っ黒に煤けている」

 

 いつも通りの平坦な話し方の中にどことなく悲嘆を感じさせるアイズの声を聞いて、リヴェリアはその脳裏にオーエツの『新兵器』の威力を物語る区画を思い描く。

 

 石を恐ろしい程の火力で溶かし、それを強引に建物の形に戻したかのような、石畳とはまるで違うのっぺりとした硝子の建物ばかりになってしまった街の一角を思い、そして彼の親友でありこれまでのオーエツの発明品全てをそれなりに知っていたガレスが『こんな事が出来る武器は作っていなかったはずだが』と眉を顰めていた事も連鎖的に思い返し眉間に指を当てる。

 

(……あの日、神の送還は無かった。つまりヘスティア様は未だ下界に居るのは間違いないのだが……何故今奴は【フレイヤ・ファミリア】に身を寄せている?)

 

 分からないことだらけだ。

 

 何故オーエツは別のファミリアに身を寄せているのか。

 

 リリのあの暴走は何だったのか。

 

 そして、ヘスティアとリリは今何処に居るのか。

 

 そんな事を思いながらも足は止まらず、バベルを登った彼女達はある一つの店舗の前に居た。

 

「ああ、防具の採寸はここだな」

「ここで買うの? いつもの場所と違うけど」

「そうだな。今までは一つの防具を手直ししていたが、今回はロキの要請で完全に一からオーダーメイドで用意する事になったから、別の店なんだ」

 

 そう言って、カランとベルの付いた防具屋のドアを開けるリヴェリア。

 

 店の奥から「いらっしゃい」という男性の声が聞こえ、恰幅の良い男がそこから現れる。

 

 その男は店に入ってきた女性がかの高名な【ロキ・ファミリア】のリヴェリアである事を一目で察したが、しかし動揺はせず、そして必要以上にへりくだる事もなくただ軽く頭を下げた。

 

 彼等【ヘファイストス・ファミリア】の中ではどちらかと言えば低ランク層向けの店でもそういった対応を取れる人材を置いておく辺りは流石だな、と思いつつも彼女はアイズの背を押し、自分の前に出した。

 

「本日はどのような?」

「ああ。この子の防具、全身一式を新調したいのだが」

「承知しました。ひとまず採寸をしてから素材やデザインの話をする流れでよろしいですかな?」

「その辺りは任せよう」

「ではお嬢さん、同性の者に測らせますのでこちらへ……おうい下っ端! 仕事だ!」

「はいはいはいお仕事お仕ごとゥ゙ッ!!」

 

 店員に呼ばれ、奥からパタパタと靴を鳴らして出てきたのは、二人にとって余りにも見知った顔だった。

 

 胸のあたりに【ヘファイストス・ファミリア】の団証を白抜きした野暮ったい厚手の生地を使った黒のエプロンに、その野暮ったい印象を貫通してくる程に女性らしい起伏に富んだ……富み過ぎた肢体。

 

 これまたお洒落には適さない太い黒縁の大きな眼鏡の下の、グルグルと無限に表情の変わる、愛嬌を感じる整い過ぎた容姿。

 

 普段ツインテールにしていた髪は綺麗に一つの長い三つ編みにされ、身体の前側に流されている。

 

「…………ヘスティア様?」

「……だ、ダレノコトカナー」

「…………」

「な、なんちゃって〜〜……なーんて」

「……ヘスティア様っ!!」

「へぶぁっ!!」

 

 それは、どこからどう見ても立派な女神ヘスティアその方であった。

 

 あまりにもタイムリーな女神様の登場に目を丸くした二人だったが、しかし復帰はアイズが一足早かった。

 

 ドバーンと女神に飛び付いたアイズの勢いを止めきれずに奇妙な声を上げてドガシャーッと倒れ込む。

 

「な、なんかすっごい音聞こえましたけど!? 大丈夫ですか神様!!?」

「リリィィッ!!!!」

「へぶぁっ!!」

 

 ヘスティアの身を案じてこれまた奥から出てきたリリ*3に向けて、地面に倒れ込んだ状態から腕の力だけを使ってロケットのように発射されたアイズを受け止めきれずに奇妙な声を上げてドガシャーッと倒れ込む。

 

「……何やら、訳ありですかな?」

「……ええ、まぁ」

 

 生暖かい視線を店員から受けたリヴェリアは額を押さえて溜息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 シャッ、と伸ばした巻き尺でアイズの胴回りを図ったヘスティアは「ほっそ……!?」と小さく叫んだ。

 

 それを見ていたリヴェリアは、ここまでのヘスティアの話を纏めていた。

 

「……では、やはりオーエツ……ではなくセルバンは【フレイヤ・ファミリア】に?」

「ねえアイズ君もっとご飯食べな? ……えー、何だっけ? あ、そうそう。そんで僕等は【ヘファイストス・ファミリア】に。あのままあの教会に居たらどんな事になるか分かんないからねー。あ、アイズ君腕上げて〜」

「ん」

 

 アイズの身体の各部を巻き尺で測り、カリカリとボードに書き入れながらもヘスティアは二人に乞われてここ数日の事を振り返っていた。

 

「取り敢えずリリ君を心無いアホ神達や【闇派閥(イヴィルス)】から護る為に雲隠れは必須だったからねー。セルバン君は派手な炎でリリ君を探している連中の目を引きつけるのと、あの子自身も戦闘技術を磨きたがってたからフレイヤの所に、そして僕等はそれなり以上の安全が確保されててここに居る事がバレにくい場所としてヘファイストスに頭を下げたんだ」

「……雲隠れが目的なのに、働いているのですか?」

「まぁ金銭的には問題ないケド、ヘファイストスがグータラには容赦がないんだよねえ……」

 

 尚、ヘファイストスはこの居候に対して「お金払ってくれるなら別に一日中グータラしててもいいわよ? っていうか雲隠れなんだから普通に大人しくしてなさいよ一年くらい」と言っていたのだが、何もしていない時間は今のリリには毒にしかならないと思ったヘスティアが態々神友に頭を下げてまでこうして働いている。

 

 ただ、その事情をリリに直接話してしまえば今の自罰的極まっている彼女が気に病む事は間違いないのでヘスティアはとても自然にヘファイストスに働けと言われたという話を捏造していた。なんとも報われない、可哀想な苦労神である。

 

「それに、これでも実は結構見つからないもんなんですよ?」

 

 そう言って隅っこの小さな文机で伝票管理をしていたリリがピッと人差し指を立てる。

 

「まず第一に、私達の中で一番目立つ師匠はバレても問題ない場所に」

 

 次に二本目の中指を立てた彼女は、ヘスティアを見る。

 

「そして、一番知名度の高いヘスティア様ですが……実はヘスティア様の知名度の大半は恩恵を持っていない民間人に依るところが多いのです。そして、ここバベルには基本的に民間人は立ち入りません。そしてこの店に来る冒険者の方々は基本的に初心者帯でして、基本全商品が高額であるヘスティア金物店で買い物は出来ないレベルの方々です。故にヘスティア様の顔を知る方はあまり来ないのです」

 

 そして最後にリリは、両手で己の頭の上にある耳を摘んだ。

 

「最後に私は……ほら、小人族(パルゥム)ではなく犬人(シアンスロープ)なので」

 

 それだけ言って再び伝票整理に戻った彼女を見て、リヴェリアは「そうか」と頷いたが、その脳裏は納得とは別の感情が渦巻いていた。

 

 というのも、先程からリリが全くアイズの方を見ようとしていないのだ。

 

 アイズの方は何度もリリに視線を向けているのだが、先程のアイズによるタックル以降リリは一切アイズに目を向けていなかった。

 

 現在も話したそうにチラチラと視線を向けるアイズと机に固定したように視線を動かさないリリの間にはピリピリとした微妙な緊張感が漂っている。

 

 その緊張感の理由は……最早、語るまでもないだろう。

 

(……やはり、どうしても気まずくはなるか……)

 

 リリの性格については理解していたし、こうなった以上は何らかのしこりは残ってしまうのは覚悟していた。

 

 だがしかし、ここまで取りつく島もない状態になるとまでは考えていなかったのは……リヴェリアの……否、冒険者達の異常なまでの暴力に対する抵抗感の無さから来るものか。

 

 そう。本来は逆のはずなのだ。

 

 斬ったリリが謝るタイミングを伺ってアイズを観察し、斬られたアイズが心を閉ざすのが『普通』なのだが……実際にはアイズはリリに斬られた事を殆ど気にしておらず、リリの方は許される事は無いと最初から諦め、自分の心を護る体勢に入ってしまっている……否、リリの性格を考えれば『アイズに許されるべきでは無い』ぐらいは考えていそうだ。リリはそういう少女だ。

 

(そうだとすれば、二人ともにある明確な歪みだな……そしてそれは私達の罪でもある)

 

 前途多難だな、と息を吐いた彼女は、何やら視線を感じて瞳を巡らせる。

 

 その視線の主は、ヘスティアであった。

 

 彼女は巻き尺を使いながらも、その宝石のようにきらめく瞳をクルクル動かし、リヴェリアに必死にアイコンタクトを送ってきていた。

 

 その必死の視線に、重々しく頷く。

 

 すると、頷きを返したヘスティアの計測スピードが五倍以上速くなった。

 

 アイズをクルクル回しながら脚、腕、腰、胸、肩幅、首周りとあらゆる場所を計測した女神は爆速で記入を終え、パァンと書類を叩いた。

 

「はい! はいはいはい! ハイ計測終了! よーしこっちで使う素材とお値段の話をしようかリヴェリア君! あ、リリ君は仕事してていーよ!」

「ええ。アイズは身体が冷える前に服を着て少しここで待っていろ」

「よしよし! 僕の商談スキルが火を吹くぜ!」

「ふふ、御手柔らかにお願いしますよ」

 

 そんな会話を挟みつつ部屋を出た二人はドアから少し離れた地点でほぼ同時に無音で百八十度のターンを決めて部屋のドアに耳を押しつける。

 

 少しの間、二人で話せるように。

 

 そして、何か問題が起きればすぐさま突入して対応できるように。

 

(……ヘスティア様)

(なんだい?)

 

 しかし、それは。

 

(コレは……傍目から見て、とてもはしたない行為なのでは?)

 

 当然ながら彼女の懸念通りに傍目から見て、扉に耳を押し付けて盗み聞きする慈愛の女神とハイエルフは互いの立場から見てもとんでもない絵面となっていた。

 

(じゃあやめたら良いじゃないか)

(…………)

 

 無言が答えであったという。

 

「……あの、お客様?」

「シッ! 店長君静かに!」

「店主、済まんが今はやらせてくれ。大事な事なんだ」

「……まぁ、良いですが……おい、お前のバイト代は今の時間引いとくからな」

「ぇー」

「当たり前だろ」

 

 

 

 

 

 

 カリカリと万年筆が走る音と、衣擦れの音が響く室内。

 

 スカートの留め具を閉じたアイズは、視線をリリに向けて数度の呼吸を挟んだ。

 

 リリはアイズの身動ぎの気配に微動だにしないが、その全身が冷たい緊張感に覆われている事は誰が見ても明白であった。

 

 そんな彼女に無言で歩み寄ったアイズは……

 

「……えいっ」

「ぽぎゅっ!?」

 

 可愛らしい声と共に無言でリリの脳天に鋭いチョップを見舞わせた。

 

 そして、レベル二へとランクアップを遂げた彼女のチョップを食らったリリは勢い良く文机に顔面を打ち付ける。

 

 緊張から握りしめていた万年筆がこれまたレベル二へとランクアップしていたリリの咄嗟の握力で砕け散り、黒いインクが机中に飛び散る。

 

 軽い気持ちで放ったチョップが思ったよりも大惨事を引き起こしてしまったアイズはカチンとフリーズを起こし、その視線を右へ左へとウロウロさせたが、最終的にはおずおずと頭を下げた。

 

「……ご……ごめん」

「…………い、いえ。私が万年筆握ったのが悪いので」

 

 武具磨き用のボロ布(ウェース)でその掌を拭うリリに、アイズは頭を下げたままに言葉を続ける。

 

「違う……それもだけど」

「え?」

「リリの……忠告を、無視した……から」

 

 アイズのその言葉。そして、その震える語尾に確かな悲壮感を感じたリリは脳味噌の奥が痺れるようなショックを受ける。

 

 アイズの言っている事が、彼女には理解できない。だって……

 

 だって……!! 

 

「そんなの、変ですよ……!?」

「…………え?」

 

 その言葉に、顔を上げて涙ぐんだ瞳を覗かせたアイズを睨んで、リリは思わず文机をダンッ!! と叩いた。

 

「変ですよ! アイズさん!! 変です! 絶対に変ですっ!!」

「え……え?」

 

 急に意味不明な怒り方をし始めたリリにパチクリと瞳を瞬かせて困惑の表情を浮かべるアイズの視線とリリの視線がかち合う。

 

 リリの瞳は、決壊寸前まで涙を湛えていた。

 

 あ、とアイズが一言発する前に決壊してしまった涙のダムから次々に大きな水滴を零し、それを両の掌でぐりぐりと乱暴に拭いながらリリはアイズを……そして自身を責め立てる。

 

「おかしいですよアイズさん! アイズさんは私に斬られたんです! ……私が! アイズさんを斬ったんです!! アイズさんは私を責めるべきなんですよ! 私は……! アイズさんを! 『友達』を斬ったんですよ!? 責めてくださいよ! 言ってくださいよ、『痛かった』って!! 『苦しかった』って!! 『辛かった』って!!! ……私を、嫌って下さいよっ!!」

 

 その、最後の言葉を聞いた瞬間にアイズの心に凄まじい電流のような衝動が迸る。

 

 そして、その衝動に突き動かされるままに、アイズはリリの横っ面に拳を叩きつけた。

 

「……ッ!?」

 

 ガシャァンッ、と部屋の隅の物置スペースに頭から突っ込んだリリにズカズカと歩み寄った怒れる少女は、倒れ込んだリリの胸倉を掴み上げて持ち上げ、立ち上がらせる。

 

「……あいず、さ……」

「言ってあげる……『痛い』よ」

 

 その言葉に、そしてその表情に。

 

 リリは息を呑んだ。

 

 アイズは、先程のリリと同じように瞳いっぱいに涙を溜め込んでいた。

 

「『苦しい』よ! 『辛い』よ! 当たり前でしょ……!?」

「……ごめ、なさ」

「違う!!」

 

 咄嗟に目を逸らして謝りかけたリリを強く揺らして、アイズは目の前の少女の『思い違い』を訂正する。

 

「傷ならもう治ったよ……私は死んでないし、腕も足も取れてない。だったらそれはもう良いよ……だから、『私を嫌って』なんて……もう二度と言わないで……!!」

 

 リリと同じように、ボロボロと涙を溢れさせながらそこまで言った彼女は、涙を隠すようにリリの肩に顔を埋める。

 

 全身の緊張が解けたように……全身から重石が外れるように身体中の力を抜いたリリがカクンっと膝を折る。

 

 抱きついていたアイズがそれについて来て、そのまま押し倒されるように地面に寝転がった彼女は背中の冷たい石の感触と胸の温かな少女の感触に、心の底から溜息を吐いた。

 

 物心ついた頃から数千数万と吐き慣れている溜息は、今日は一段と重く長かった。

 

 まるで、先程全身から外れた重石が口から外に出て、フワフワと何処かに飛んでいくような感覚をリリは感じた。

 

(……あ、駄目だこれ)

 

 グスングスンと自身の胸で泣くアイズに釣られてか、リリの瞳の奥がまた熱を持ち始め、鼻の奥が詰まる。

 

 せめてもの抵抗として両の掌で顔を覆ったリリは、身体の上にアイズを乗せたまま静かに静かに涙を流し続けた。

 

 

 

 暫く二人で泣き続けたが、数日前に枯れ果てるまで流した涙は直ぐに尽きた。

 

 殆ど同時に泣き止んだ二人は、互いの顔を見合わせる。

 

 すると、アイズが「プフッ」と我慢出来ないという感じに吹き出した。

 

「…………何か変ですか?」

「うん。リリ、万年筆のインクが顔の片方にだけ付いてる」

「……え、あ!」

 

 言われて気が付き、両の掌を見ると確かに右掌だけがペンのインクで真っ黒だった。その掌で顔を覆って泣いていたのだから、つまりは今自分の顔面も右側だけが真っ黒なのだろう。

 

 懐から取り出したハンカチでリリの顔を拭うアイズは、今までとは違う柔らかな笑みを浮かべていた。

 

「……じっとして」

「あ、はい……ありがとうございます」

「いいよ」

 

 むず痒い気持ちで顔を拭かれていると、商談が終わったらしい二人が部屋に入って来た。

 

「お待たせ……なんだ、顔を拭いてあげているのか?」

「うん」

「ふーん……そうしてるとなんか二人とも、姉妹みたいだね!」

 

 そうだろうか? とヘスティアの言葉に首を傾げるリリとは別に、アイズはそれに疑問が無いようでコクリと頷いた。

 

「うん。私がお姉ちゃん」

はぁ?

 

 そして、続いた言葉にリリの喉は反射的に疑問の「はぁ?」を飛ばしていた。

 

 リリのキャピキャピ極ロリボイス(CV.内田真礼)からは絶対出ちゃいけないくらいドスの効いた低い「はぁ?」だった。

 

「……ん、どうしたの? リリ」

「え、いや……だって、どう考えても私が姉でしょう? アイズさんが姉はあり得ませんって」

「……何言ってるの、リリ? 私の方が歳上だよ? 私がお姉ちゃんでしょ? ねぇリヴェリア?」

 

 アイズはリヴェリアを見る。

 

 リヴェリアは黙って目を逸らした。

 

「……リヴェリア? 何で目を逸らすの?」

「いやそりゃ、私達の関係を知ってればアイズさんがお姉ちゃんなんて口が裂けても言えませんよ。ねぇリヴェリア様?」

「あー、いや……支払いを済ませてくる」

 

 歴戦の冒険者らしい素早い判断力でその場を逃げ出したリヴェリアから危機感が無くトロくさいヘスティアへとターゲットを変更したアイズが彼女に詰め寄る。

 

「ねぇヘスティア様、私がお姉ちゃんだと思う?」

「いい加減にして下さい! アイズさんがお姉ちゃんな訳無いでしょうが!! 今まで私がどれだけ世話を焼いてあげたと思ってるんですか厚かましい!!」

「……右だけ真っ黒のリリには言われたくない」

「はぁ〜〜〜!?」

 

 

 

 喧嘩して、離れて、喧嘩して、くっついて、喧嘩して。

 

 ギャースカと言い合っている二人をニコニコと見ながら、ヘスティアはもうこの二人は大丈夫だろうなと神の勘で確信していた。

 

「ヘスティア様! 勿論私がお姉ちゃんですよね!?」

「……ヘスティア様……リリの言う事信じないで」

「え!? え〜〜〜〜と……こ、困ったな〜〜?」

*1
傷自体は魔法薬により当日中に治ってはいたのだが、体調の全快という意味で

*2
可燃部はほぼ焼失した

*3
黒髪犬耳尻尾付き




と、言うわけで、あまりにもアンケートが拮抗し過ぎていたのでここから先は『アイズとリリがお姉ちゃん権を奪い合っている』という関係で二人を描きます。いやあ、こんな事ってあるんですねえ……驚きですよこの結果。なにこれ。

『現実逃避アンケート』ダンまち本編のアイズは『リリは私のお姉ちゃんだから』と言って事情を知らない人間から宇宙猫されるか、『私はリリのお姉ちゃんだから』と言って事情をよく知る人間から宇宙猫されるかどっちが良いですか?(実年齢はアイズが一つ上)

  • リリを『お姉ちゃん』だと思ってるアイズ
  • 自分を『お姉ちゃん』だと思ってるアイズ
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