オラリオで斬魄刀打つ転生者の話 作:オリ斬魄刀の小説増えろ
新年一発目はダンまち本編時間軸からです。
誤字報告来てましたけどアイズを様付けしていないのはファミリアの人達以外の目が無いからです。地上に戻って関係ない人の目があればまた様付けします。
炬燵三毛猫さん、ベー太さん、誤字報告ありがとうございます。
プロローグ:振り子
振り子は
色々と策謀の匂いが絶えない【ロキ・ファミリア】との遠征に組み込まれたリリルカ・アーデは、後方支援の集団に組み込まれどうにも針の筵のような遠征を送って────
「で……!? で、結局どうなったんですかそれ!?」
「いやそれがですね? 当時幹部クラスであった皆さんの必死の説得も虚しくアイズさんは【伝説のじゃが丸くん】への探究心を捨てる事が出来なくてですね、夜中に私の住んでる教会に忍び込んできて……」
「えーっ、えーっ!! 嘘ぉー!!」
「えっ嘘でしょ……いや本当に? マジで言ってるワケ? それ……」
────居なかった!!
そもそもとして、半生を他人の機嫌を取る事に費やしてきたリリ。パーティーに上手く溶け込むことが出来ない
それに何より、彼女は今回の遠征においてまさに最強とも言える会話デッキを保有していた。
「それでですね、私とアイズさんと二人でオラリオを脱出して【伝説のじゃが丸くん】を探すんですけど、先程も言いました通り結局それはレベルが高くとも御しやすい子供であった私達を捕獲しようとするラキアの罠だった訳なんですよ。まぁ私は気付いてましたけど」
「えっ、出ちゃったんですかこの街!?」
「ええ、出ちゃったんですよねこの街。本当アホでしたね〜私もアイズさんも。若かったなあ……」
「いや、今でも若いでしょうが十分に」
そう、【ロキ・ファミリア】のアイドル、【
現にこちらが一歩引くほど物凄い食いつきようを見せている【
チラリとレベル四の感覚器官で周囲の気配を探れば、他にも大幹部の面々や【
(んふふふ、こーやってしっかり警戒心を下げれば食事時や寝るときまで神経張らなくて良さげですね)
隊列の前列方面をチラッと見る。
すると当然ながらそこに居るアイズの輝く金髪の後頭部と、その横についた染め上げたように真っ赤っ赤の形良い耳が目に入った。
そしてその手は、まるで幼い子供が逃げ出さないようにしているかの如き様で副団長のリヴェリアにしっかりと繋がれていた。
確実に聞いてる。その上でこちらに突撃してこないようにリヴェリアに抑えられている。
きっと彼女達もリリのこの遠征隊での浮きっぷりには気を揉んでいたに違いない。
それが分かるからこそ、リリの口は一層軽やかに回った。恥を忍んでくれているならば、いっそ使い倒してやるのが情だと言わんばかりに。
(ごめんなさい、アイズさん。私の心の平穏の為に、生贄になって下さい!)
なむなむ〜、と知り合いの極東の神に教えて頂いた祈りの言葉を心の中で唱え、リリは再びニパッと笑顔を浮かべる。
「それでラキアの軍勢を蹴散らした直後くらいにリヴェリア様が怒りの魔力を撒き散らしながらカッ飛んで来たんですよ。そんでも〜アイズさんお尻百叩きの刑にされてベシャベシャに泣いちゃって、そんなに痛かったんですかって言ったら『じゃが丸くんが……』って言ったんですよ! お尻の痛さじゃなくて伝説のじゃが丸くんがガセネタだったショックで泣いてたんですよアイズさんっっっとぉ危なぁい!!!」
「あの時リリも泣いてたもん!! リリの方が泣いてたもん!!」
「さてどーでしたっけね! っと危な!」
「泣いてた!!」
さすがに限界を迎えたか、音すら無い瞬間移動と見紛う程に見事な瞬歩で近寄りリリの口を押さえようとしたアイズ。
そろそろ来るであろうと予期していたその掌を華麗に避けて避けて避けまくるリリにヒートアップするアイズの背後にリヴェリアが音も風もなく現れ、無言で拳を握る。
ゴヅッ!! とかなり鈍い音がして、瞬歩をしかけていたアイズはそのスピードでズコッとすっ転んだ。
地面に倒れ伏してプルプルと震えるアイズの前でリリにもゴスッと一つ拳を落としたリヴェリアは、苦笑しながらゴメンナサイと無言で手を合わせる彼女に苦笑を返し、アイズの首根っこを掴んで持ち上げた。
「持ち場に戻るぞ、馬鹿者」
「リリの方がゲンコツが軽い……!」
「文句なら休憩中に聞いてやる。リリも休憩中なら相手してくれるだろうさ。お前も姉なら我慢を覚えろ」
「う……お姉ちゃん……」
「いやいや私の方がお姉ちゃんですって」
リリの言葉を聞いた瞬間リヴェリアの手を離れて再びすっ飛ぼうとしたアイズをもう一度捕まえ直したリヴェリアが溜息を吐きながらリリに振り返る。
「今くらい譲っておけ」
「これはもう意地です、譲れません」
グルルル、と威嚇を続けるアイズにツンっと横面を向けて追い払ったリリは、ポカンとその様を見ていたティオネとレフィーヤに照れ笑いを向けた。
「……アイズがあんなに感情剥き出しなの、初めて見たわ」
「アイズさんあんなにおっきな声出すんですね……」
「あはは……まぁ、アレですから」
「私達、姉妹みたいなもんですから」
笑ってそう言ったリリのもとに、団長であるフィンが寄ってくる。
「や、ほんの少しの時間で随分打ち解けたね」
「ええまぁ……フィン様も懐かしかったのでは無いですか?」
「ああ。『空飛ぶリヴェリアの
「いやあんなの笑うに決まってますよ誰でも。そもそも私が笑い話として話してますし……ところで何かありましたか?」
「うん、とりあえず打ち解けたようだから、そろそろ君の能力のお披露目をお願いしようと思ってね」
必要以上に近寄らず、ニコニコと愛想笑いを絶やさずに。
普段のそれなりに気安い態度よりも幾分か固い、あくまでも『協力者』としての距離感を崩さない態度でフィンはそう言った。
(別に私が気にするこっちゃ無いんですけど、気を遣わせてますねえ)
そうは思うも、そもそもフィン側が自分に気を使うのは当然であるのでリリは特に畏まることも無く、普通に頷いた。
「構いませんよ、今からやりますか?」
「ああ、頼むよ。とりあえずここから安全地帯までの三階層で君の能力を踏まえた僕らの動きを確認したい」
「頼まれました」
「
「
刀を抜き放つリリが、風音のように微かに囁く。
冒険者の……それも、ただ一握りの冒険者だけが唄えるその言葉は『解号』と呼ばれ、それに応える刃が目覚める。
それは、見た目は何も変わらぬ元の刀。
目覚めたあの日からほんの少しだけ大きくなったリリの背丈には合っていない、ヒューマン用の打刀。
その刃を自身の掌に軽く滑らせて血を滴らせると、その滴が地面に落ち、地面に染み込むこと無く水玉を作る。
そしてそれはひとりでに空気が入ってぷうっと膨らみ、中が空っぽの指の先ほどの小さな風船鼠を形作る。
ボタボタと落ちる血液がどんどんその風船鼠を生み出し、その数が四十程になった所でリリがフラリとよろめき、それを見たティオネがすかさずその小さな身体を抱え上げる。
「わ、ちょっと、大丈夫なの?」
「あ、どーもでーす……そのまま荷台の上にでも放っておいて下さい」
元々幹部という事もあって作戦を細かく説明されていた彼女は、決められていた通りにある一つの荷台の上にリリを載せる。
そこにあらかじめ用意されてあった豆と干し肉、チーズと革袋に入った乳などを気怠そうにモリモリ食べ始めたリリは、その荷台の床に広げられていた紙……この階層の全体マップに手を振って血を撒き散らす。
撒き散らされた血液の滴は、先程の風船鼠と同じだけの数。
それらがワッと現在地から四方八方に散っていく様を貧血状態でぼんやり眺めているのを、荷台に登ってきたフィンと心配して飛んできたアイズが見つめる。
「上手くいきそうかい?」
「大丈夫ですよ。普段から一人でやってますから」
「リリ、辛くない?」
「ええまあ、このくらいなら。ありがとうございます、アイズさん」
アイズにチーズをあーんされている最中、血の滴の一つが大きくピョンと伸びた。
「モンスター発見です〜規模はまあ大規模かな~って感じですかねー」
「回避するよ! ルートBを取れ!」
「あ、左通路からモンスター来ます。単体ですね」
「左通路よりモンスター来るわよ!」
甲斐甲斐しく世話をされながら地図をぼーっと見るリリの緊張感の無い言葉を聞いたティオネが矢継ぎ早に指示を出していく。
その的確過ぎる指示は段々と周囲の者達に浸透しざわめきが起こり、やがてそれも消えていく。
「隊列後方で壁面に異常。いっぱい来ますよコレ」
「前方部隊三名後方に加勢! 物資に被害出すんじゃないわよ!」
「あ、前方の大通りから大挙して来ます。やー、人数多いとダンジョンの反応も大きいですねえ」
「アイズ! 行きなさい!」
「分かった」
ザッとリリの側を消えたアイズ。
一人になったリリを見る周囲の視線は、最初の純粋な恐怖心ではなく、先程までの親しみある視線でもなく……フィンやリヴェリア、ガレスやオッタルを見るような……畏怖の視線であった。
その視線を察して満足気に頷いたフィンはティオネに軽く手を挙げる。
「じゃあティオネ、言っていた通りに前半は指揮を任せるよ」
「お任せ下さい! ……と言っても、ヘマのしようが無いですけどね」
フィンを、そしてオッタルをして『本当にその気になれば世界さえも滅ぼせるだろう』と断言されるリリの斬魄刀、『猫嚙』。
その名の通り、数的不利であればこそ威力を発揮するその能力は、ダンジョンという強大で圧倒的な戦力を前に奇跡的な噛み合いを見せていた。
「んあー、だるぅ」
「……こんなにだらけた奴がこんなに凄い能力を持ってるなんてね……」
「勘弁してくださいよ……貧血なんですって」
こうして始まったリリの冒険。
しかしこの日、地上ではもう一つの冒険が始まっていた。
祖父に言われた言葉。
『英雄になりたければオラリオへ行け』
唯一の肉親を亡くし、身寄りを失った少年はその言葉を胸に、オラリオへと向かう商人の馬車に飛び乗った。
「おーい! 坊主、見えたぞ! アレがオラリオだ!」
「えっ!? どれですか!?」
荷車から身を乗り出して見た先には、うっすらと天にそり立つ巨塔があった。
「わ、わぁ!! アレが話に出ていた【
ここまで載せてきてもらっている間に商人から聞いていたオラリオの話を思い出しながらワクワクソワソワとした表情を隠そうともせずにそう尋ねたベルに苦笑しつつも商人は「そうだ!」と答える。
「あそこが……世界の中心……!」
「あぁ、あそこにゃあよ、本当に何だってあるぜ? 手に入れる方法さえ知ってるなら、何だって手に入るさ」
「……す、凄い……!」
この世界で冒険者になりたいだなんて言うような奴は基本的に腕っぷしに自信のある荒くればかりである。
商人もそんな山賊崩れのような奴を何度もあの街へ運んでいたので、この純真という言葉を形にしたような少年がオラリオへと行く事は微笑ましさ半分、不安半分といった心持ちであった。
暫くして地平線に街の壁が見えてきたとはしゃぎ始めた少年の肩に手を置いて、ポンポンと落ち着かせる。
「……あ、ごめんなさい」
「いやぁ、構わねえさ……ただそう、お前さんはいい奴だからよ、これから俺のする忠告を良く覚えておけよ」
商人は、くっきりと見えるようになってきたオラリオの市壁を指差す。
「良いか? 坊主。アレがオラリオ。千年以上続く、神によって運営される街だ。あの壁はその頃からあるそうだ」
「はい!」
そして、その壁から伸びる馬車と人の列を差す。
「そして、アレが俺達が今から並ぶ列だ。あの半分はオラリオに商品を買い付けたり売り付けたりする俺の同輩で、もう半分がオラリオの英雄になりたいお前さんの同輩だ」
「はい!」
返事だけは良い少年の頭をペチ、と叩き、頭を押さえる少年を脅すようにニヤリと笑う。
「……分からねえか?」
「えっ? ……えっと……何がですか?」
「この列の半分はお前と同じでこれからオラリオに住む人間だ。なのに……これだけの人間が毎日絶え間なく街の中に入っていくのに、このオラリオはまだ一度だって『増築』されてねえんだよ」
決して地頭が悪い訳では無い少年の表情がガキ、と凍りつくのを見て、内心で脅しすぎたかなと思いつつも商人は平然とした表情で「まぁつまり少なくとも入ってくるのとおんなじだけの数が死んでるって事さな」と話を締めくくり、馬車を列の一番後ろにつけた。
すっかり大人しくなってしまった少年に悪い事をしたかなと思いかけた商人は、横ですっかりとしょぼくれている少年の肩を叩いて前を向かせる。
「……お! おい坊主、アレ見ろ!」
「え? ……ええええええっ!?」
商人の指の先を見た少年。その目の前で、二つ三つ先の馬車で何か手続きをしていた治安維持の冒険者がピョンと跳ぶと、そのまま空中でもう一度飛び跳ね、ピョンピョンと空中を跳んでオラリオの中へと戻っていった。
「なななな何ですかアレぇ!? 人が、人が飛んでっ!!」
「おう、アレが冒険者だ」
「冒険者って飛ぶんですか!? 僕飛べませんよ!?」
少年の困惑と興奮の言葉にガハハと笑いながら、商人は励ますようにベルの肩を叩いた。
「多分アレは高ランク冒険者なんだろうよ。俺もよくは分からねえんだが、レベルが上がってくると『空を蹴る』って事が出来るようになるらしい。お前さんもきっとそのうち出来るようになるさ」
「……おぉ……おおぉ……!!」
何かを確認していたのだろう、再び空を跳んで戻ってきた冒険者の姿を見つめて、少年の身体に止められない武者震いが走るのをクツクツと笑いながら見た商人は彼を落ち着かせるように背中を叩いた。
「まぁ、もうすぐだ。この感じなら一時間も待ちゃしねえさ。焦るなよ、坊主」
「はい!」
そして、商人の見立て通りきっかり一時間後、オラリオの中に入ることができた少年は後払い分の運賃を商人に払い、入り口で貰ったオラリオの地図(有料)を握りしめて商人と固く手を結んだ。
「ここまで本当にありがとうございました!」
「ああ、良いぜ。なれると良いな! 英雄に」
「はい! 頑張ります! それではお元気で!」
「おう! 頑張れよ! 【ベル・クラネル】!!」
「ッはい!!」
そして、少年は……【ベル・クラネル】は勢いよく駆け出す。
まずは冒険者登録の為にギルドに向かい、そしてモンスターを倒し……やがて至るのだ。英雄に。
きっと、険しい道のりだ。だが、諦めない。諦めてなるものか。
だってこれは、
「……えっとね、その。冒険者になりたいなら何より最初に神様の眷属にならなきゃいけないの」
「へあ?」
険しい道のり一歩目で、ベルは思い切りすっ転んだ。
「……僕、やっぱり冒険者なんて諦めたほうが良いんですかね……?」
「……あ、ははは……」
すっ転んでから数日後、見事に赤いバッテンが満遍なく付けられたオラリオの地図を前にギルドの受付嬢エイナは頬を引きつらせた。
「……あのね、ベル君。もう一回聞いて良い? ……その、疑うわけじゃ無いんだけど」
「……エイナさんに教えてもらった探索系ファミリア、全て回って……良くて面接落ち、ほとんどは門前払い……でした……」
「ああああ、待ってごめんなさい、泣かないで。二度聞く話題じゃ無かったわね、ごめんね」
エイナの目の前にあるのはベルの持ち込んだ地図、そこに山程付けられたバッテンは、全てエイナが教えた探索系ファミリアの場所だ。
よく見ればギルドから一番近い場所のファミリアには普通にバッテンが付けられているが、一番遠い……恐らく一番最後に行ったファミリアのものなどは悲惨である。見ていて悲しくなるほどに弱々しいバッテンが付いている。
(……まさか、たったの一つも受け入れてくれる場所が無いなんて)
地図に涙が一粒落ちたらしい染みを指で撫でながら、エイナは困ったように頬に手を当てた。
「……ともかく、どこも受け入れて貰えなかったならベル君の取れる道は二つね」
「はい」
「一つは、スッパリと冒険者を諦めて探索系以外のファミリアに入る。農業、鍛冶、製薬、商業……そっちなら間違い無くベル君を受け入れてくれるファミリアはあるわ」
「……もう一つは」
きっと、その道を選びたくはないのだろう。涙に濡れた瞳でもう一つを聞いてくる彼に、心苦しいながらも現実を突きつける。
「……もう一つは、眷属になる事を保留して、普通にこの街の市民として働きながら受け入れてくれるファミリアを探し続ける事、かなぁ……ごめんね、こんなに沢山あるファミリア全部から入団を突っぱねられるなんて例が無くて……ああ待って泣かないで! ごめんね! 違うの! ベル君が駄目なんじゃなくて、多分間が悪かっただけだと思うの!」
実際、そうだ。
冒険者であれば一日ちゃんとダンジョンで働けばその日を生きていく金を稼ぐ事は難しくないという理由もあって神にとって眷属とは基本的に増やし得であり、眷属の選り好みが激しかったり自身のブランドイメージを大切にしなければならないような上位ファミリアでも無ければ基本的に来るもの拒まずの姿勢が多いのだ。それを考えればこの度のベルの入団拒否記録はなんなら偉業とも言えるのではないかとエイナは思う。絶対言わないが。
「……あの、どうする? ギルドで働くなら私が上に話をつけるけど……ここなら冒険者もよく出入りするし、運が良ければ直ぐに誰かに拾ってもらえるかも」
そう言ったエイナを掌で制したベルは、涙を湛えた瞳に暗い諦めを映していた。
「いえ、ありがとうございます。けど……本当に……僕、冒険者になるのが夢で……けど、そう。僕にそんな資格は無かったんです。これで諦めがつきました。それに、これ以上エイナさんにご迷惑をおかけする訳にもいきません」
「べ、ベル君」
「……実は、昨日から大通りのじゃが丸くんの屋台の店長さんに『行く当てがないなら雇ってやろうか』って言われてまして。僕は冒険者にはなれないので、これからはじゃが丸くん屋台の店員として生きていく事にします……何日も親身になって下さって、本当にありがとうございました」
……本来、エイナは若者が冒険者になる事には反対の姿勢を取っている。それは、冒険者という職業の命の安さから来るものだ。
しかし。
涙ながらに笑顔を浮かべ、ペコリと頭を下げたベル。
その諦めきれない夢を無理に諦めようとする痛々しい笑顔を見て────エイナは静かに一つ決めた。
「ベル君、ちょっと待ってて! 戻ってくるまで動かないで!」
え、という声を背に、事務室に飛び込んだエイナは同僚の視線を無視して棚を漁りまわり、有給休暇の書類を取り出す。
一瞬で有給休暇の書類を書いたエイナは、「後よろしく!」と同僚に言い放って更衣室に入っていった。
あっという間に私服に着替えて出てきたエイナに、仲の良い職員が声を掛ける。
「ねぇエイナ、ちょっと一人に肩入れしすぎじゃないの?」
「良いのよ。私は紹介するだけだから」
「えぇ〜?」
「それに、あんなに泣いてる子を放っておくなんてヘスティア様ならしないしね!」
「あぁ〜……」
また始まったよ、とでも言いたげな同僚の視線を無視して事務室を飛び出したエイナは、ションボリと背中を丸めるベルに近寄る。
「お待たせ! ベル君!」
「……エイナさん……? 服が変わって……」
「早退してきたの。それよりもホラ、立って!」
「えっ、え?」
グイッとベルを立ち上がらせた彼女は、ギルドを飛び出して大通りを歩く。
「あ、お腹空いてない? じゃが丸くん食べる?」
「えっあのその……え?」
「すみません、じゃが丸くん二つ下さい」
「あいよ! この街来て数日でもうデートかよベル坊! 隅に置けねえなぁ!」
「えっ……えぇ?」
モサモサとじゃが丸くんを食べながら暫くの間無言で歩いた後、スッカリと涙も引っ込み遂に耐えきれなくなったベルが前を歩くエイナに声を掛ける。
「あの、一体何処へ?」
「えっと、今から行くのはね、【ヘスティア・ファミリア】っていうファミリアなの」
「……【ヘスティア・ファミリア】?」
「そう。半生産、半探索系の小規模ファミリア」
そう言われたベルは彼女に貰ったリストを思い返すが、しかしそのような名前は載っていなかった事に首を傾げる。
「えっ? でもエイナさんに貰ったリストには……」
「うん、【ヘスティア・ファミリア】は今新規団員を募集してないから。それにギルドとしても【ヘスティア・ファミリア】への入団は非推奨なの。今回はヘスティア様の神望でベル君が入れるようなファミリアを探してもらおうと思って」
「え? ……いや悪いですよ!! っていうか入団非推奨って大丈夫なんですかそれぇ!?」
「うん、大丈夫! あの方達に何か問題があるわけじゃないどころか、あの人達はこの街で一番素晴らしい方達だから!」
通りを歩きながら、エイナはビッと一本指を立てる。
「【ヘスティア・ファミリア】。主神は炉の女神ヘスティア様。そして団長のリリルカ・アーデさんと副団長のセルバン・ハルウッドさんの小規模ファミリアよ。リリルカさんが探索を、セルバンさんが鍛冶をしているから半探索、半鍛冶のファミリアってわけね」
何処となく得意げな顔で情報を並べるエイナに、食べ終わったじゃが丸くんの包み紙を畳んだベルは首を傾げる。
「はぁ……って、団員は二名だけなんですか?」
「うん、そうなの。けど安心して? ヘスティア様はオラリオの神の中で最も偉大な神であると名高い方で、私達みたいな民衆の中では神様と言われて一番最初に思い浮かべるのがヘスティア様って人も少なくない……ってくらい凄い方だから」
「はぇ〜……そうなんですね」
「私は団長のリリさんと親交があるから、その縁でヘスティア様とも仲良くさせて頂いてるの。コレこの街では結構な自慢なんだからね?」
ヘスティアなる女神との親交を誇らしげに語るエイナをポヤッと見つめながら、ベルは「だけど……」と顔を曇らせる。
「そんな、エイナさんやそのヘスティア様に迷惑を掛けてまで、僕なんかが冒険者にならなくても……」
「さっきも言ったけど、冒険者に向いてるかどうかは別としてベル君みたいな素直で良い子が神の眷属にすらなれないのって本来は有り得ない事なの」
チラリと横を歩くベルの気まずそうな顔を見たエイナは、笑って情報を付け足す。
「別にどこかのファミリアに無理矢理ねじ込んで貰おうって訳じゃないのよ? ちゃんと面接だけでも受けさせて貰えるようにお力添えをお願いするだけ。ほとんどのファミリアは面接以前の問題だったんでしょ?」
「はい……」
「……ベル君!」
どうにも煮え切らない態度のベルの肩を押さえたエイナは、その瞳を見て語り掛ける。
「私ね、ベル君みたいな子が何処にも相手にされないなんて納得できない。だからこうして行動してる。貴方はどう? 話も聞いてもらえずに門前払いされた事、納得してるの?」
「それは……」
「ここまで話も聞かずに無理矢理連れてきちゃったけど、もしそれに納得しているなら私はもう何も言わない。これはベル君の人生だから……どうするの?」
「ぼ、僕は……」
ほんの少しの逡巡。
そして、ベルは力のある眼でエイナを見つめ返した。
「エイナさん、ヘスティア様の所に案内をお願いします!」
「うん、任せといて!」
さあ行こう! と意気揚々と歩を進めるエイナに付いていくベルは、彼女に質問を投げ掛ける。
「ヘスティア様が凄い方だというのは分かるんですけど、団員の方はどんな人達なんですか?」
「そうね、団長のリリさんはレベル四の
「へぇ〜……」
話を聞いたベルの中で組み立てられた女性像は、身長の高い女性らしい起伏のある体格をした如何にも『大人のお姉さん』といった
ちなみにヘスティアに関してはそれこそ童話に出てくる女神のような、ウェーブのかかった輝くような金髪で、母性の溢れる笑みを浮かべて……というような『男の夢爆発!』みたいな
ベル・クラネル。彼もまた立派な一人の男であった。
「では、もう一人の鍛冶師の方は?」
「セルバンさんは……そうねえ、悪い方では無い……と思うわ。だけど少し情熱に生き過ぎている所があるというか、常時暴走気味というか……良くも悪くも刀鍛冶にのめり込み過ぎているから、もう少し大人しく生きて欲しいかな……もう結構なお年だし……あと夜でもサングラスを外さない変な人よ」
「はぁ……」
その話を聞いたベルの中で形作られたのは、舌なめずりをするような表情で『クケケケケ』と不気味に笑いながら打った刀を執拗に撫でる怪しすぎるグラサン老人の
こちらは当たらずとも遠からずであると言えるだろう、七十点である。
しかし、ここでベルの中にある一つの疑問が浮かぶ。
「……あの、エイナさん?」
「なぁに?」
「いえ……その。今の話からしてその【ヘスティア・ファミリア】が入団非推奨にされる理由が分からないんですが、何でですか?」
「あー……そうね。簡単に言うと、規模に反して強過ぎるのよ、【ヘスティア・ファミリア】って……たった二人の団員だけど、どちらも他には無い独自技術を持っていて、どこのファミリアもそれを欲しがっている」
「はぁ……」
良くわかっていなさそうな返事をするベルに少しだけ微笑んだエイナは、「簡単に言うとね?」と二本指を立てる。
「この街は今、【ロキ・ファミリア】と【フレイヤ・ファミリア】の二大派閥が競合しているの。どちらもこの街のトップを奪いたくて互いの隙を探ってる状態。これはわかる?」
「ええ、まぁ……」
「この争いはね、もしもどちらか片方が【ヘスティア・ファミリア】を傘下に収めれば、その瞬間そちらの派閥の勝利が確定すると言われているのよ」
「えっ!?」
その言葉にベルは思わず大きな声を上げる。
「えっ待って下さい! だって、両方のファミリアにはレベルの高い冒険者も沢山居て、それこそレベル六とか七なんて人も……」
「うん、居るわね。それでも、よ……そのくらい【ヘスティア・ファミリア】の二人は希少な能力を持ってるの」
そんな言葉に、ベルはゴクリとツバを飲んだ。
彼とて冒険者に憧れを抱いてこの街に来たのだ。それに、この街に数日間も暮らせば彼らがどういう存在なのかは良く理解できる。
「二人とも……ですか?」
「二人とも……よ。その上ヘスティア様はさっきも言った通りこの街で一番慕われてるわけだから、それを傘下に入れれば民衆の支持も受けられる……神々にとって【ヘスティア・ファミリア】は、手に入れることが出来れば一気に自勢力の勢いを増す事が出来る超お得ファミリアなのよ。だから、この街では年がら年中水面下、水面上の関係なく【ヘスティア・ファミリア】争奪戦が繰り広げられているの……勿論、そこには手荒な行為も多少なりとも含まれるわ」
「……だから、ですか」
「そ。新人のレベル一冒険者なんて『狙ってくれ』って言ってるようなものだからね。そういう余計な事件を引き寄せないようにしてるの、ヘスティア様は」
「ははぁ……」
そんな話をしつつ歩いていると見えてきた小さな、そして綺麗に手入れされた教会。
木の看板に『ヘスティア金物店』と書かれたその教会の扉を開き、エイナはベルに振り返る。
「団長のリリさんは数日前からダンジョンに遠征してるから居ないの。だけど今日なら他のお二方は居るはずだから安心してね」
「は、はい!」
「お邪魔します、ギルドのチュールです。少々お願いしたい事があって参りました」
建物の中に声を掛けると、中で暇そうに頬杖をついてうつらうつらと船を漕いでいた
ビシ、と先程描いた女神のイメージが罅入る音を脳裏に聞いたベルを他所に、エイナはその少女に近付き、「こんにちはヘスティア様」と改めて挨拶をする。
ベルは『あっやっぱあの方なんだ』と思った。ついでに自分の抱いた幻想が砕け散る音を聞いた。
「んあ゛ぁ……今寝てたぁ……あり? エイナ君じゃないか、どうしたんだい?」
「ええ、本日は一つお願いしたい事がありまして」
「ん〜? 君にはリリ君がお世話になってるからねえ。何でも言ってくれて良いよぉ」
眠たげなポヤンとした瞳で安請け合いをするヘスティアに、背後のベルを見せるエイナ。
背中を押されたベルは気を取り直して、背筋を伸ばして頭を下げる。
「こっ、こんにちは! はじめまして! ぼ、僕はベル・クラネルと言いますっ!!」
そんな、ガチガチに緊張してしゃちほこばっているベルの姿を見たヘスティアは。
「…………アルフィア君?」
目を見開き、エイナにも、そしてベルにも聞こえない程度の小声で何事かを呟いた。
……これは、英雄の物語。
一人の少年が迷宮にて一つの出会いを果たし、そして神さえ抗えぬ大いなる運命の流れに巻き込まれる道程の物語。
しかし、この物語を語り明かすには今の振れでは半ばにも足りず。
振り子は
新章、大抗争編開始です。頑張ります。