オラリオで斬魄刀打つ転生者の話 作:オリ斬魄刀の小説増えろ
リア10爆発46さん、誤字報告ありがとうございます。
あれから数日、アルフィアは教会に入り浸っていた。
元よりこの街で縁のある場所など最早この場所しか無い上、この場所にはかつては無かった生活基盤がしっかりと整っている事も理由だ。
そもそも、この街は時の流れが早い。つい先日に街中で噂になっていた騒動が知らぬ内に終わっており、そのことを知る前にまた新しい騒動が舞い込んでくる、そんな街だ。
そしてこの街に戻ってきて暫く、スッカリとそんな嫌気のさす程騒がしい街に慣れてしまっていた彼女はそれから逃げるように今日も今日とて教会の地下のベッドで仮眠をとっていた。
その地下室は彼女の手によってスッカリと埃を落とされ、人の息吹を感じさせる部屋に戻っていた。
彼女の一人暮らしには不要なものも中には多かったが、彼女はどうにもこの部屋の景観を崩す気にはならず、ベッドとテーブルを使うだけの生活を営んでいた。
そして、簡単に一言で言うならば……彼女はとても油断していた。
地下だからとか、馴染みの部屋だからとか、眠っていたとか。そんな事は関係が無い。
この下界にそうは居ない『レベル七』の冒険者として、この地下室に続くドアが開かれるまで特に足音を殺してもいない
ガチャリ。
木製のドアを開ける音がして、アルフィアの意識はそこで覚醒した。
己の腑抜けっぷりに内心で臍を噛む彼女だが、ドアを開けた相手の力量を測ることを忘れはしない。
気配。身のこなし。そして足音から大体の力量を精査する。
(恐らくは、レベル二。背中がパタパタと擦れる音……背中にヒューマン用の長剣を差している。そして足音の重さからして
いつでも迎撃できるようにとベッドに横たわったまま意識を整えていると、その小人族は部屋に入ってくる事もなくパタリとドアを閉め、バタバタとその場から走り去る。
まさかとは思うが勘が鈍っただけで近所の子供か? と思った彼女だが、その後閉まったドア越しに聞こえてきた声で彼女の身元は判明する。
『
『えぇ? ……あぁ、そういえばここ鍵とか無かったねぇ』
確かに聞こえた。『ヘスティア様』と。
それはこの街に来て直ぐに聞いた名前で、アルフィアが今この街で唯一興味を抱いている存在であった。
息を潜めるアルフィアの研ぎ澄まされた聴覚に、二人の会話が入ってくる。
『もおぉぉっ!! 落ち着き過ぎですよう!!』
『えー? 別に誰が寝てようがいいじゃないか、ココは教会なんだぜ?』
『教会である以前に私達の家でヘスティア様のベッドですっ!!』
『いーのいーの、昨日まで空き家だったんだからさあ』
カチャ、と音が響かないようにゆっくり開かれた扉から、忍び足で近寄ってくる一人と一柱。
「……どーするんですかぁ」
「うーん、よく寝てるねぇ……このまましばらく寝かせてあげよう。疲れてるのかもしれない」
「…………ぶーぶー」
「ほらほらリリ君、ぶーたれてないで上の掃除をしようぜ?」
寝ているアルフィアを万一にも起こさないようにと潜められた声で交わされる会話もそこそこに、再びソロソロとその場を立ち去るヘスティアと、文句を言いながらそれに倣うリリ。
静かに静かに閉められたドアをチラリと眺め、アルフィアは細く長い溜め息を吐いた。
「……ヘスティア、様……か」
レベル七ともなれば、五感以外の感覚も自ずと鋭くなってくるものだ。
そんな己の第六感が、目を閉じていてもかの神の愛し子を見るような慈愛の目線を伝えてきた。
彼女は一度掌で顔を覆い、そしてもう一度呟いた。
「……あれが……ヘスティア様……」
かの神はどうやら今日から再びここに住むらしく、地上では教会を綺麗に磨く作業が始まっているようだ。
今、アルフィアはこの街唯一の居場所を奪われようとしている。
だが、彼女はそれに対し何か行動をすること無く、只管に黙って神と眷属が仲睦まじく掃除をしている音に耳を澄ませた。
『ぶっ!! あっはははは!! リリ、リリ君きみねえ! 埃! 鼻の頭にでっかい埃!』
『えっウソ、……取れました?』
『ぶほぉっ!!? ぶははははっ!!! ウッソでしょ!!? 移動ッ、あっ、頭に移動した!! アハハハハ!!!』
『えっ、え〜〜っ!? と、取ってぇ、取ってくださいよう!!』
『あはははは!! あははは!! わっ、分かった!! あははは!!』
『っぷ、何でそんなに笑うんですかぁ!! っふふふ!!』
『いや、だってさぁ!! っふふふふ!!』
キャラキャラと響く少女二人の平和で幸福な笑い声をアルフィアは暗闇の中で、身動ぎ一つすらせずにいつまでも聞いていた。
燦々と光射す地上にてキャアキャアと姦しく掃除をする二人の下に、ノシノシと一人の男がやってくる。
ムサい立ち振る舞いに加え随分とボロボロの装いで、キンキラ美少女二人組には似つかわしくない人物であったが二人はその姿を見てパアッとその表情を華やがせる。
「おう。やっとるな、二人共」
「師匠!!」
「セルバン君! 久しぶりだねえ! って傷すんごい!! 一体何してたんだい君は!?」
「わははは! 男前が上がったろうが!!」
その男の名は、セルバン・ハルウッド。【ヘファイストス・ファミリア】越しに渡されたヘスティアからの再結集命令により地獄のぬるま湯から舞い戻った行動力が有り余っているタイプのアホのドワーフである。
「おっと主神殿、こちら神フレイヤより再結成祝いだ」
「わ、コッチも世話になったんだからそんなのいいのに……って、ナニコレ」
「メインストリートにある最近出来た酒場のサービス券だそうだ。コレ持ってけばエールか果実水一杯無料」
「…………僕は下界そんなに詳しい訳じゃないけどさ、コレがお祝い事に渡すモンじゃない事は何となく分かるよ」
「そうか? 俺は嬉しいが」
「そんなんドワーフだけだい」
何とも言えない表情を見合わせるそんな男を、リリはこの一年で鍛えた、サポーターではない冒険者の目線でじっと見つめる。
かつて鎚を振るうために右腕に偏って付いていた無骨な筋肉は両腕に均等に、そしてしなやかに太い骨を覆い、そして全身には夥しい数の古傷と火傷痕が刻み込まれている。
モヒカンにしていた癖毛はその火傷と共に燃えてしまったか、全体的に毛量が随分と減って最早坊主に近くなっていた。
一年で襤褸切れに近くなってしまった死覇装(風の着物)を身体に纏わせ、幾度もの補修の跡が見て取れるサングラスを掛けている。
セルバンはグッとその分厚い身体を丸めて見つめていたリリに視線を合わせるとニッと笑い、サングラスをずらして鍛冶の熱で濁った眼をリリに合わせる。
「おう、リリ坊。大分良い顔をするようになったな。一皮剥けたか?」
「……ソッチは一皮剥けるどころか皮全部焼いたんですか?」
「ぬはは! まぁな!」
「いや怖いですって……」
そんな軽口を交わした後、セルバンはリリの髪の毛をグシャグシャと乱雑にかき混ぜる。
久し振りのその雑なスキンシップにリリは「ぎゃああ!」と叫びながら頭を動かしてどうにか逃れようとする……が、その場から移動してまで逃れようとはしない所に二人の関係性が見て取れた。
一頻り好き放題に撫でくり回されたリリの頭に、セルバンのゴツゴツとした掌が乗せられる。
もう一度視線を合わせた二人は、再びどちらともなくニカリと笑った。
「リリ坊、一年間、一人でよう主神殿を護り通した。偉いぞ」
「へへ……お久しぶりです、師匠!」
シシシッと笑う二人を見て優しい笑みを浮かべるヘスティア。
「じゃが丸くん食うか? 量を買うと割引されるが、やはりこの歳で大量の揚げ物はキツイ」
「わ、やったぁ! ヘスティア様、休憩にしましょうよぅ!」
「え〜? もー、しょーがないなーリリ君はぁ」
「なんか一年でえらい仲良うなっとるな……」
「え? そりゃ一年あったら仲良くなるに決まってるじゃないか。ねー? リリ君!」
「ねー、ヘスティア様!」
お互いに抱きあってキャイキャイはしゃいでいる二人にちょっと一歩引いていたセルバンだが、紙袋を二人に渡してから地下室の扉へ手を掛ける。
「まぁ、仲が悪いよりは良かろ。地下室の掃除は終わっとるのか?」
「あ、待って待って。地下室は今立ち入り禁止だよ!」
「は? 何故だ。魔道具の実験で変なガスでも出たか? *1」
「あっはは、まさかあ。何があったらそうなるんだよ、全く! *2」
「あははー……ですよねー……*3」
そんな事も話しつつ、掃除で埃が舞っている教会から外に出て、庭でじゃが丸くんを食べる事にした。
「ほー、一年の間に教会に住み着いたホームレスか」
「そ。急に帰ってきたのはこっちだしさ? すっごい眠ってたしまあ起こさなくても良いかなって」
「うん、
「それは勿論やる予定さ!」
「もう! 二人共呑気過ぎます!」
「不服か?」
「え? 不服なのかい?」
「…………べっっつに! 不服ではありませんケド! 私もホームレス経験はありますし!!」
モサアッとじゃが丸くんを貪りながら憤るリリを両脇からワシワシと撫でくり回す二つの掌。
「なんだお前、こんなに可愛い奴だったか?」
「何いってんだいセルバン君! リリ君は初めて会ったときから可愛かったよ! 見なよこのクリクリのお目々にふっくらほっぺを! これを可愛いと言わざるして何と言おうか! 神である僕の語彙力をしてもモガッ」
「やめてください恥ずかしいです!!」
モ゙ズッとヘスティアの口にじゃが丸くんを叩き込んだリリは、何かを言おうとしたセルバンの口にも同様に叩き込む。
「全くもう! 全くもうっですよ! 全くっ!」
「
「
頬袋に過剰に突っ込まれたじゃが丸くんをどうにかこうにか胃袋に送りながら会話する二人。
その背後で、ガラン、という音と水音が聞こえる。
三人がそちらに振り返ると、そこには老人が立っていた。
その足元には先程の騒音のもとであろうジョウロが転がっており、地面に染みを広げている。
「…………あんた達」
「あ、おじーちゃん。ただいま〜」
「……帰ってきたのか……ヘスティア様……!」
呑気に掌をヒラヒラと振るヘスティアと軽く挙げるセルバン、両手と口がじゃが丸くんで塞がっているので黙って会釈をするリリ。
そんな割と軽めのリアクションを取る三人に対し、老人は滂沱の涙を流し老人にあるまじき健脚でその場を走り去った。
「あ、え!? ジョウロ、ジョウロ忘れてるよ〜!?」
「ヘスティア様が……皆ぁぁ!! ヘスティア様が帰ってこられたぞおおっ!!!」
その"神の帰還"は瞬く間に
「
「"
「"
全市街の
「還って来る…」
「オレ達の"
「すぐ"帰郷"する…ッ!」
……そうして、さっきまで静まり返っていたのになんかお祭り騒ぎになり始めたオラリオの端の端の教会前に取り残された三人は、互いに顔を見合わせて首を傾げた。
「…………僕らこんなに騒がれるような事したっけ」
「街をドロドロに溶かしたのは覚えてるが……」
「何言ってんですかお二人共。炊き出しいっぱいしたじゃないですか」
「えー? 確かにしたけどさ〜言ったってたかが炊き出しだよ?」
「そもそも最後に炊き出ししてからもう一年も経つろうが。覚えとるもんかねそんな事を」
「恩ってそんなもんだと思いますケドね」
ヘスティア達三人はリリの持っていた袋からじゃが丸くんを取り出してモシャッと、全員同じタイミングで囓った。
「ま、追っ払われないなら良いことじゃないか」
「そうさな」
「……ま、市街地でドンパチした以上可能性としてはありましたからね」
こんな事を言ってる三人だが、この五分後ロックスターのライブかと言わんばかりの人の波に呑まれる運命である事を知るものは、この場には一人たりとて…………否。
教会の屋根の上で、気配を消して辺りを見回しているアルフィア以外には知るものは居なかった。
「帰ってきた……本当に……帰ってきて
多分次回かその次くらいでザルドとアルフィアがエレボスに斬魄刀貰うかも。