オラリオで斬魄刀打つ転生者の話 作:オリ斬魄刀の小説増えろ
大自在天さん、白崎望さん、誤字報告ありがとうございます。
作中でリヴェリアのレベルを六と表記していましたが、正しくは五です。
斬魄刀の解放はあくまでも偉業の一つとしてカウントされるもの(レベル1が2に上がれる程度)であり、解放すれば確定レベルアップではありません。すでに内容は修整済みです。ごめん!
「始解ができない」
アルフィアによって全身余す所なくベッコンベッコンに凹まされたアイズが、昼食のサラダをモリモリ食べながらセルバンに不満を漏らす。
尚、その横では目の前にミルクだけを置いたリリが(アイズさんあれだけ腹パンされたのに何で平気で食べられるんですかね)と恨めしい表情を隠そうともせずに突っ伏していた。
アルフィアがレベル三のアイズとレベル二の自分で身体能力を使い分けてくれていたのは一目瞭然であり(アイズが悶絶するレベルの拳など、リリが受ければ貫通しかねない)、つまりは自分と同程度には痛めつけられている筈なのに身体の出来が違い過ぎてチクショウと思ってる彼女を他所に、主菜のスモークチキンを適当にほぐしてサラダの中に投入し、塩と酢を掛けて温泉卵を落としたアイズはスプーンでそれを混ぜ込み、即興味変料理を作り上げる。
「……アイズ、行儀が悪いぞ」
「なんで? 美味しいよ」
「まあまあ。テーブルマナーを勉強する場じゃ無いんだからさ! ……けど不思議だよね。精神世界にはもう入れてるんでしょ? リリ君なんて一週間もかかんなかったよね?」
「私は参考にならないと思いますケド」
「誰のものも参考になんぞならんさ。自分の心は自分にしか分からん」
あっさりバッサリそう切り捨てるセルバンは、サラダボウルの中からシンドくても食べられるであろうトマトやナッツを適当に選り分けてリリの前に置いてやる。
すると顔を上げたリリが「あ」と口を開いたので、その中にクルミを一欠放ってやった。
ソレを見たアイズが『おいコラ私には注意したくせにアレは良いのかよオォン?』とリヴェリアの袖を引っ張るが、リヴェリアは無視する。
「俺も何人かの始解に至るまでの事情を聞いたが、誰も彼もが千差万別。会話だけで始解に至った者も居れば、戦闘が必要だったものも居る。俺達の話を聞くのはええが、それより何より自身を知ることだァな」
「そう考えると、まだまだ精神的に幼いアイズが始解を習得するというのは難しいことなのか?」
難しい顔でそう返すリヴェリアが袖を引っ張っていたアイズの手をペシッと払った事で、我慢の限界に達したアイズはバシッ、バシッとリヴェリアの肩を叩くが、「食事中に暴れるな」と一喝されてしまう。
「うぅむ……確かにリリ坊は始解を習得しておるが……特殊例ではあるからのう……ふぅむ。或いは子供の方が己の心を偏見無く見抜けるかとも思うたが……」
「ぶっちゃけ……んくっ、プハ。あんなのきっかけ次第だと思うんですけどね。ただ個人的には『力』を求め過ぎない事は重要なんじゃないかと思いますよ」
「「あぁ〜〜……」」
世の中の一つの真理である、『親は他所の子供を叱らない』事を知ってまた一つ大人になったアイズはこの場で唯一優しくしてくれるヘスティア(一人黙々とチキンを口に運ぶアルフィアがそういう事を許してくれる人間でないことは人の機微に疎いアイズも流石に察していた)に抱きついて甘えつつ、何かしらの納得を得たらしい声を上げた三人に目を向ける。
「アイズ。お前はどうなのだ?」
「……何が?」
リヴェリアがヘスティアのコアラになっているアイズを話しついでに引き剥がそうとするが、アイズは他所の子供を叱らない母親に反旗を翻してヘスティアへ更に強く抱きつく。私ヘスティアおばちゃんの子供になる。
コレは離れないなと察した母親は、困った様子もなくニコニコとアイズの頭を撫でるヘスティアに目礼をして、そのまま話を続けた。もしもアイズの皿にまだ食事が残っていればレベル五の鉄拳が降り注いだ事であろう。すみませんウチの娘が。
「斬魄刀との対話の事だ。お前は普段斬魄刀に対し何を話しているのだ?」
「話……」
「あぁ。斬魄刀解放の基本だろう? お前も知っている通り、『対話』そして『同調』。その二つが揃わぬ事には始解など夢のまた夢だぞ」
「…………はなし……?」
「……いや、お前まさか……」
ヘスティアの包容力と温かさを象徴するかのような豊かな胸部をつむじでグイグイ押し上げながらリヴェリアに視線を合わせたアイズは、少し考えた後でコテンと首を傾げた。
アイズの頭の上でバランスを保っていた胸が、たふんっと落ちる。
「……私の中の私とは……行ったら帰ってくるまでずっと斬り合ってるから分かんない」
「こっの……」
馬鹿者が、と言いたかったリヴェリアであるが、咄嗟に息を呑んで己の怒気を諌める。
先程も言った通り、斬魄刀の解放は千差万別。リヴェリアは殆ど対話しかしていないが、無論それだけには留まらない事も知っている。
事実としてガレスなどは『互いに同じ腕力と知った上で腕相撲でひたすら数時間以上根比べを行い、精神世界なのに疲労で気絶寸前になった時、自然と自分の口から相手の名が出てきた』とかいう白昼夢じみた方法で斬魄刀を解放しているのだ。全面的な否定は良くない。
そうして言葉に詰まったリヴェリアに変わり、ミルクとちょっとした食べ物を胃におさめたリリが話しかけついでにアイズの座っているヘスティアの膝を奪おうと画策し始める。
「今ですね、アイズさん。私達は『力』を求めて斬魄刀に相対するのは良くないって話をしてたんです……よっ」
「……ぬん。何で? 斬魄刀は『力』でしょ?」
「わっ、二人とも……くすぐったいってばっ」
何とかしてアイズを引き剥がそうとするリリと、コアラをやめる気はないアイズのお互いにちっちゃいお手々の攻防にヘスティアがウヒヒと堪えきれないように笑う。子供が自分の膝の上で暴れ回っても動じない姿は、それを見るもの全員に親を想起させた。
「斬魄刀の力は、あくまでも結果に過ぎんのだ。『己の魂の真髄』を
「……セルバン、何言ってるの?」
「お前は少し分かろうとする努力をしろ」
そうは言うがなんだかんだでアイズに甘いリヴェリアは、コツンとアイズの頭を握り拳の先で触れるように叩いてからその頭の上に手を置き、数秒考える。
「……そうだな、アイズ。お前は力が欲しいと言うが、力を使って何をするんだ?」
「決まってる、この世のモンスターを全て倒す」
「それから?」
リヴェリアから問われた思わぬ言葉に一瞬固まるアイズ。
その口からは、「え?」と幼い疑問が漏れる。
「例えばだ。お前が最強になったとしよう。モンスターをすべて駆逐出来たとしよう……で、お前はそれから何をするのだ? それとも……モンスターが一匹残らず駆逐出来りゃあお前の人生は大団円か?」
立て続けに浴びせられるセルバンの言葉に一層困惑の表情を浮かべるアイズだが、思うところはあったようで眉根を寄せつつも刀を握りしめ、「ちょっと、出てくる」と思い詰めた顔でドアを開けた。
「……若いな」
ここまで一切会話に加わっていなかったアルフィアが、食後の紅茶を楽しみながらポツリと零す。
「あぁ、済まないなアルフィア、こちらの話ばかりで」
リヴェリアのどことなく遠慮がちな、探るような言葉に鼻を鳴らして返事とした彼女は、音を立てずにカップをソーサーに戻す。
「探るわけではないが、実際にどうなのだ? 私は
「難しいだろうな」
バッサリとアルフィアの言葉を切り捨てたセルバンは、ヘスティアの膝の上を堂々独占しているリリを親指で指差す。
「アイズ嬢と同じ年代で解放を成した前例はリリ坊くらいだが、まぁ見て分かる通りに凡例には程遠い存在だ。境遇も精神性も極まりすぎている……一方でアイズ嬢は、なんというか……普通だからなぁ……」
その言葉にはリヴェリアも大いに頷くところである。
リリは年齢という
そもそも彼女が持つ力が飛び抜けているために特別な少女に見えるが、その『モンスターに家族を殺されたからモンスターに復讐する』という行動原理はこの街の冒険者百人連れてくれば十人どころか十五人くらい居るであろう程度のごくごくありふれたものである。そして、そういう『普通』な人間達が斬魄刀を解放するには、結局──
「ま、ジックリやっていくしかないだろーのぅ。そもそもまだアイズ嬢は魂の芯が定まって無いのかもしれん」
「アイズがまたやらかさないか……不安だ」
「なぁに、そうなった時はリリ君が止めてくれるさ! ね! リリ君!」
「えっ私ィ!?」
ガバアッと猛烈な勢いで飛び上がったリリは愕然とした表情で発言の主のヘスティアを見上げる。
「えっうん……だめかい?」
断りたい。
アイズは確かに自分の唯一の友人だし、一年前の一件以来なんやかんやで遠慮もなくなり、気の置けない友人として活動している。
断りたい。
だがしかし、アイズはまだ子供であり、手加減が非常にヘタクソな不器用ガールでもある。そんなアイズのの『やらかし』を止めるというのは生半可ではない。
断りたい……
幾ら敬愛する神ヘスティアの全幅の信頼の証といえど、やはりそれはアイズよりも上のレベルの人間に任せるべきであり、年齢もレベルも戦闘センスも体格も何もかもが下回るリリに任せることではない。
断りたい……!
こんな面倒くさい事は是非是非断りたい……
…………が!!
「……はい……リリアイズさんの面倒見ます……」
ヘスティアの信頼を袖にすることだけは、リリには出来なかった。
しょぼ……しょぼ……と効果音が聞こえてきそうなほどに普段よりも一層小さく萎んでしまった背中を見せながらドアを開いたリリを見送り、残された三人と一柱は顔を見合わせる。
「…………ねぇ、なんか今のメッチャ重く捉えられたよね?」
「「「うん」」」
「うわぁん! ゴメンよリリくぅぅん!! 軽い気持ちで言っただけだよう!!」
ドタバタガチャバタンと騒がしいヘスティアが飛び出していったのを確認し、リヴェリアは自然と背筋を伸ばし、居住まいを正した。
「…………」
その視線の先に居るのは、無論【才禍の怪物】アルフィア。
互いに態度に出すようなヘマはしない。しかしその一挙手一投足、指の先の動き一つに至るまでがジワリジワリと空気中に染み出るような緊張感を一滴ずつ満たしていた。
カップを摘む指。
湯気と共に昇る香りを楽しむ所作。
気品が損なわれない程度に耳の裏を指先で少し掻く。
ハラリと一房落ちた髪を無言で戻す。
相手の顔を、礼を失しない程度にチラリと覗く。
……全て無言で行われる動作の一つ一つから
「……込み入った話があるなら、席を外すが?」
「話など無い」
「居て構わん」
「そんなぁ」
とばっちりを食らっているセルバンは可哀想ではあるが、しかしだからここから解放してやろう等という仏心は二人には無かった。
「お前がまた……ここに帰ってくるとは思わなかったよ」
「奇遇だな。私もお前がこの惨状でノコノコと私の前に顔を出すとは思っていなかったよ」
シャンと伸ばした背筋と優雅な所作で強敵に相対するリヴェリア。
相も変わらず、全てを拒絶するように目を閉じたアルフィア。
「席外していいか?」
「まだ紅茶が残っているだろう」
「辞席は許さん」
「そんなぁ」
そして次点のリリをぶっちぎり圧倒的大差で今日イチ可哀想な立場のセルバン。
「そう言えば、何やら随分とリリを気に入っていたな」
「そういうお前はリリには苦労ばかりを掛けているようだな」
三人の安らぎなど微塵も無いひっでえお茶会は、その後ヘスティアが子供二人をムギュムギュ抱えて下に降りてくるまでたっぷりと続いたのであった。
もっとヘスティア様達とアルフィアの絆を深めたいけどコトが起きるまで一ヶ月しかないのがな……まだまだやるぜアルフィア日常編