オラリオで斬魄刀打つ転生者の話   作:オリ斬魄刀の小説増えろ

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斬魄刀が出ます。

オリ主も出ます。

Paradisaeaさん、リア10爆発46さん、駄菓子菓子いとをかしさん、誤字報告ありがとうございます。


椿・コルブランド

 逃した魚は大きい。

 

 これは、自らの手に入らなかったものは手に入ったものに比べて執着を抱きやすいという意味の諺である。

 

 これは人にも、神にも言える諺であり、やはり人とは神を模して泥から創られたのだなあと感心するしきりである。

 

 狂者でも、聖者でも、手に入らないものは眩しく見える。

 

 そう、例えば────

 

「ほら、コレがボクとこの【オーエツ】の自称【最強の武器】! その名も【浅打(あさうち)】……なんだけど、なんか普通の刀っぽくない? コレ本当にそんな凄いのかいヘファイストスぅ?」

「ン゙なァっ……!?」

 

 ────眷属が一人も見つかっていなかった神友と眷属の契を(自分の目の前で)交わした一人のドワーフが、世界を変える武器を打ってきた時の鍛冶神(ヘファイストス)など、最早その内情は人の身には想像すらも憚られる。

 

 自らの主神、ヘファイストスがお洒落なカフェのテラス席で最終戦争(ラグナルク)にでも巻き込まれたかのような顔をしているのを横目に見て、護衛として着いてきていた【ヘファイストス・ファミリア】副団長の【単眼の巨師(キュクロプス)】椿・コルブランドはそう思い、わずかに開いた形良い唇の隙間から細く漏れるような溜息を吐くのだった。

 

 

 

 椿と眼前のツインテールロリ巨乳紐ファッション女神ことヘスティア神の付き合いはそれなりに長い。

 

 目の前の彼女が下界へと降りてきてから直ぐに天界において神友であったらしいヘファイストスを頼ってきた時、自身はまだ新米の幹部としてファミリアを支えていた。

 

 そして、眷属を見つけるまでの間という制限付きでヘファイストスの扶養(ヒモ)となることを認められたヘスティアの身の回りの世話と、活動内容の報告を任されたのが椿だった。

 

 活動報告とは何だ、とその当時の彼女は面倒な事を任された気持ちと同時に疑問に思っていたのだが、その理由はすぐに明らかとなった。

 

 かの神に日がな一日中ぐうたらして飯を食い、風呂に入って残りは全て本を読んでいるだけ……つまり、報告すべき活動ゼロという結果を二週間連続で叩き出された事で。

 

 その時点で彼女のかの神に対する畏敬の念は相当程度の低い物となっていた。

 神に眷属を選ぶ権利があるように、人にも敬愛する神を選ぶ権利はある。

 

 その権利を正当に行使し、ついでに敬愛する主神の許可も取った彼女は、ヘスティア神降臨から三ヶ月目の第一日、客用の心地よいベッドに寝転がって惰眠を貪るヘスティアごとベッドをひっくり返した。

 

 彼女によるヘスティア更生計画は「私だとお互いにどうしても甘さが出ちゃうから」と総てを椿に一任したヘファイストスの神意の下で決行された。

 

 毎日決まった朝早い時間に起き、地下に広がるダンジョンの入口でもある神が作りし摩天楼、【バベル】の中で大規模な鍛治店を営んでいる【ヘファイストス・ファミリア】の店舗の清掃、接客業務、倉庫整理、荷運び。塔の中なので勿論階段多数。

 

 店を担当する眷属に『神意である。泣こうが喚こうが容赦をするな』と強く言い含めて始まったその計画は、早朝から深夜まで勤務、週休半日という地獄のスケジュールにて敢行された。

 

 泣き喚くヘスティアを見て心揺らされぬようにヘファイストスの視察すら禁じた地獄の更生計画は、三ヶ月経った頃に、椿が(おや、これでは眷属を探しに行く暇が無いのではないか?)と気付いた時に一段落した。

 

「ベブァ゙イ゙ズドズヴヴヴヴゥ゙ゥ゙ゥ゙!!!!!!」

「あらあら……コレはまた……この子がこんなに泣いてるの初めて見たわ」

 

 三ヶ月間必死に働いた褒美と、あとはちょっとだけ生まれた罪悪感を消す為に美味いものをたらふく食わせてやると言い、完全にこちらをモンスターを見る一般人の目で見てくる彼女を連れて勤めていた鍛治店から久方ぶりに外に出た椿を待っていたのは、主神であるヘファイストスであった。

 

 まぁ、ヘスティアへの褒美の一つとして椿が主神に願ったのであるが。

 

 そんな椿の気遣いもつゆ知らず、神友に椿の悪口を無限にぶつけるヘスティア。

 

 まぁ別に好かれたい訳でもあるまいし、と黙ってソレを聞いていた彼女に、一人のドワーフが声を掛けた。

 

 そしてソレは、丁度ヘファイストスがヘスティアに、「それだけ頑張ったんだから、きっと眷属だってすぐに出来るわよ」と神のくせに神頼みな慰めをしていたその瞬間だった。

 

「もし、少しええか」

「うん、客か? すまぬが我々は今から外に出るので、店の中の者に話をしてくれるか」

 

 目の前の、黒染めの極東装束に身を包んだ男を見てそう言う椿だが、その格好を見て内心で自分が言った事が的外れであることを確信する。

 

 砂や泥でグシャグシャに汚れた足袋。

 

 背中に背負った大きな背嚢。

 

 しばらく身繕いをしていないのだろう、ドワーフという種族も相まって、モジャモジャと黒ぐろとしたヒゲが伸び放題の小汚い外見。

 

 そして、爛々と輝く瞳。

 

 全て紛う事無く────

 

「いや、客ではないのだ。俺は今日この街に来たばかりでな……神の眷属というものになりたいのだが」

 

 紛う事無く、この街で【偉業】を成し遂げてやろうと遥々やってきた、夢溢れる【冒険者】であった。

 

 あまりのタイミングの良さにパチクリと主神と目を合わせるが、その間にシュパッと猫のように俊敏に小さな女神がそのドワーフの手を取っていた。

 

「ようこそようこそこの街へようこそ!! 僕が君に【恩恵(ファルナ)】を与える神、ヘスティアだよ! よく来たねぇ! 長旅はさぞや疲れたろう! けどソレも【恩恵】さえあればなんてことないさ! さあさあ背中を向けて!」

「止めんか」

「はいごめんなさい!!」

 

 椿に対する恐怖がシッカリと染み込んでいる様子のヘスティアを見て目を丸くしているドワーフに、この場の者達を代表し、ヘファイストスが声を掛ける。

 

「貴方はこの街に何をしに来たのかしら? ソレによって【恩恵】を授かるべき神は変わるわ。ダンジョンを攻略して英雄になりたいならば探索系ファミリアに、人を救いたいなら医療系、ものを作りたいなら生産系ファミリアに行くべきね」

「ボクのファミリアに入れば、どんな事でも君の好きにできるよ!!」

 

 椿の視線から逃れるようにヘファイストスの影に隠れたヘスティアが、懲りずに小声でドワーフにアピールを続ける。

 

 しかし、そのアピールもヘファイストスによって一刀両断された。

 

「この子が言ってる『何でもできる』っていうのは、つまりこの子には誰一人眷属が居ない、実績ゼロってことよ。【恩恵】はどの神から受け取っても効果に違いはないから、本当に全てを一から始めたいならオススメではあるわね」

 

 その、暗に「オススメしない」と言っているに相違ない言い方にヘスティアはヘファイストスを睨むが、契約には誠実であるべきと思っている彼女は涼しい顔をしていた。

 

 しかし、目の前のドワーフの考えは違った。

 

「……全てを一から、か。ソレは良いな、とても良い」

 

 その場の全員が、まさか、と思う。

 

「ヘスティアとか言ったか……本当に、俺の好きにして良いんだな?」

「えっあっ……悪いことはしないぜ!? ボクはこれでも善神で通ってるんだ!」

 

 慌ててそう弁明する彼女だが、「んなこたせんわい」とすげなく言ったドワーフに、「じゃあ何をするのかしら?」とヘファイストスが問う。

 

 そこには「神友の初めての眷属を見定めてやろう」というお節介の気持ちと、「目の前のドワーフが何を考えているのか気になる」という神らしい好奇心が混ざっていた。

 

「俺は鍛冶師でな。『この世界の誰も見たことの無い、最強の武器を創る』のが終生の目的よ……まぁ尤ももう大体は作れとるんだがな」

 

 後は実地試験のみよ、と自慢げに言い放つドワーフの言葉に嘘が無いことを神の権能で察した二柱は、一柱は少しばかり面白くなさそうに、もう一柱はキラキラと目を輝かせた。

 

「いいね! ソレはすごく良い夢だよ! ボクも手伝う! 一緒にやろう!」

「おお、この目標を聞いても笑わずにいてくれるか。嬉しいのう」

 

 二人で盛り上がり始めたヘスティアとドワーフの間を裂くように、ヘファイストスは咳を一つする。

 

「……誰も見たことのない武器を創る……それは良いわ。けど……最強の武器って何かしら? これでも私は鍛冶を司る神なのだけど、その私でもそんな物があるとは思えない。貴方にそのような知見があるならば、是非聞かせて欲しいわね」

「ついでに私からも言うならば、誰も見たことのない武器……とは、奇抜さだけで使い物にならない武器という意味ではあるまいな? もしそうならば、同じ鍛冶師を名乗る身としては軽蔑を禁じ得ぬが」

 

 その身に【恩恵】を受けぬ身でそれだけの大言を、何より鍛冶神のヘファイストスとその眷属の中でも現状の五指に入る実力を持つ椿を前に言う事が、どれだけのことか。

 

 そういう気持ちと圧を掛けられたドワーフは、ヒゲモジャの口をニヤリと歪ませて言い放った。

 

「ソレは……見れば、きっと分かろうよ。お前さん達がソレに足るならば、な」

「……へぇ」

「ほほう」

 

 神の権能で察さずとも、分かる。

 

 この男は、コレを本気で言っている。

 

 ソレを察した二人は深く低い声で相槌を返すに留めた。

 

 そこで、何となく空気の悪さを察したヘスティアが、あえて空気を読まずにヘファイストスに擦り寄る。

 

「……なぁヘファイストス? 実はボク、これまでお金にトンと縁がなくて……その、また稼いだら返すから、ボクの【ファミリア】の……援助を……」

 

 空気を読まない発言だが、しなければならない話でもあった。

 

 ヘスティアは降臨してこの方ヘファイストスの援助だけで生活をしており、金銭の欠片たりとも持っていないのだ。

 このままではドワーフと二人、ホームレスファミリアとなりかねない。

 

 そんなヘスティアに、ヘファイストスが溜息を吐くより先に。

 

 椿が、今日の食事会で渡そうと思っていた三ヶ月分の給与の袋を取り出すより先に。

 

「ソレは問題無いぞ。コレをそのへんで売るからな」

 

 ドワーフが、背嚢に手を突っ込んで山のように大量の【銀筒】を取り出した。

 

【ロキ・ファミリア】の台頭より既に十年近く。

 

 彼等が謎のルートで買付を行っている『補充式魔剣』こと銀筒の事は、ヘファイストスも、そして椿も、よくよく知っていた。

 

「俺の幼馴染が所属しとるこの街のナントカっちゅう探索系ファミリアに長年卸してた品だ。コレ一つで二十万ヴァリスになる。十個も売れば家の一つも借りられよう」

「おー!! 流石はボクの眷属! 用意いいね!」

「ワハハ! 道中もコレを路銀にしてきたからな! まだいくつかはあるから暫くは生活の心配はいらん! 他にも切れ味の良い光の剣も……」

「ま、待て! お前の名前はまさか!?」

 

 椿のその言葉に、そういえば自己紹介をしていなかったなとドワーフが口を開く、その前に。

 

「【姿無き鍛冶師(アンノウン)】……セルバン・ハルウッド」

 

 ヘファイストスが、鋭い目でそう呟いた。

 

「アンノウン? 良う分からんが、確かに俺はセルバンで間違いない……しかし、俺はこの街でその名は名乗らんがな」

「うん? じゃあ何を名乗るんだい?」

 

 事の重要さを理解していないヘスティアが呑気に首を傾げると、ドワーフ……セルバンは、その名を噛みしめるように呟く。

 

「【オーエツ】」

「オーエツ?」

「ああ。俺はこの街で鍛冶師の【オーエツ】を名乗る。【オーエツ】の名を背負い……この街で、生きる」

「ふーん……ま、いいや。よろしくオーエツ!」

 

 自分は今何か逃すべきではないものを逃した気がする。

 

 そんなヘファイストスの予想が当たるのは、これからしばらくの後。

 

 町外れの崩れかけの廃教会の横、オーエツが使うまで十年単位で放置されていた古い鍛冶台で打たれた【浅打】を見るその時……丁度、今話冒頭の事である。

 

 




【ヘスティア・ファミリア】結成!!
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