オレが魔法少女になったと思ったら、幼馴染も訳ありだったと知った不具合 作:社畜だったきなこ餅
たっつん、お前消えるのか……?
たっつんが居なくなった。
電話もチャットアプリも繋がらないばかりか、休み明けの学校にも出てきていない。
「露骨に落ち込んでるわね旭、黒羽君とケンカでもしたの?」
「ちげーよぉ……」
授業を終えた休み時間、机に突っ伏しているオレに田中が声をかけてくる。
いつもならものぐさしてるだけと考えるんだけど、あの時のたっつんの声と後ろ姿からオレはずっと不安を抱えていた。
「前に黒羽君が例の下級生へし折ってから告白もなくなったのにね、そう言えばあの下級生だけど頭坊主にして真面目にやってるらしいわよ?」
「知らねーよそんな事ぉ」
「あらら、重症ねー」
不安ともやもやで頭がいっぱいになっているオレに、田中が苦笑いしてる気配を感じる。
「黒羽君の家の場所とか知らないの?」
「たっつん、女の子が男の家にホイホイ行こうとするんじゃないとか言って教えてくれねーんだよぉ。オレん家には遊びに来たのに」
「こればっかりは黒羽君に同意しかできないわね、どうせ家に連れてったのもいつもみたいに強引に引っ張ったんでしょ?」
「そりゃそうだよ、だってたっつん変に遠慮して遊びに来ようとしねーんだもん」
「黒羽君の苦労が偲ばれるわ、マジで」
好き放題言葉を投げかけてくる田中に、顔を上げて抗議の視線を向けるが田中はオレの抗議の視線などどこ吹く風と言わんばかりに肩を竦める。
納得がいかないオレは手近なところを通り過ぎようとした佐藤へ同意を求めた。
「ちょっと佐藤聞いてくれよ、田中のヤツ……オレがまるで考え無しのアホみたいに言うんだ!」
「いや田中の言う通りじゃね?」
どうやらオレ達の様子から話の流れを察したらしい佐藤は、情け容赦なくオレの同意を求める言葉を一刀両断した。
その言葉にオレはぬぐぅ、と呻いて再度机に突っ伏す。
「そんなに黒羽君が心配なら先生に聞くなりして家まで行けばいいじゃない」
「え?でも最近そういう個人情報の取り扱い厳しいじゃん」
「アホみたいに無防備なのにそんなところだけ常識的になるんじゃない、アンタは」
田中はそういうとオレの背中から手を回して無理やり立たせてくる。
「ちょっ、ついでに揉むんじゃない!?」
「んーー、この手に収まらないサイズとかマジで羨ましい。アンタ身長の分の栄養こっちに吸われてない?」
「はなせよー!」
ついでに田中はオレを立たせたまま背後から好き放題揉みしだいてくる。
お前、今オレが女の子だからセーフかもしれないが普通にセクハラだぞ!
しかし発破をかけてくれたのは事実故に、揉まれたのは発破代金としておとなしく受け入れよう。
オレは残り少ない休み時間、チャイムが鳴る前に職員室へ駆け込むことに成功。
「先生!たっつんの家の住所教えて!」
「駆け込むなり何を言い出すんだ日月」
勢いよく職員室の扉を開いたオレに視線が集まる中、目当ての担任を見つけるとダッシュで駆け寄ってたっつんの個人情報を要求。
担任はやる気なさそうにぼりぼりと頭を掻くと、まるめたプリントでオレの頭をぺしっと叩いてくる。
「たっつんって黒羽だろ?お前がいくら幼馴染でも生徒の個人情報は昨今扱いがうるさいんだよ」
「そこをなんとか!」
「策も何もなしでゴリ押してくんな、ただでさえ黒羽の落とし物届けたいとか言ってアイツの住所探ろうとするヤツいるのに」
「え、マジ?」
担任は溜息を吐くと面倒くさそうに机に肘を付いてオレと向き合う。
初耳なんだけど、そんなやり方でたっつん個人情報狙われてたとか軽くホラー案件じゃね?
「そう言えば今日は夏休みの大事な案内を配布しないといけないんだが、なぜか黒羽は無断欠席しててな。この住所に届けてくれ」
「いいのかよ個人情報」
「政治的判断とか法規的判断とかそんな感じだ、帰りにでも届けてやってくれ」
「ありがとよ先生!じゃ、オレ体調悪くなる予定あるから早退するわ!」
「おうお大事に」
担任からたっつんの家の住所が書かれたメモとプリントを受け取ると、オレは職員室を飛び出す。
この担任はほんとやる気ないのに生徒の事配慮してくれるから大助かりだぜ、しょっちゅう教頭やら校長に怒られてるけど。
「あ、おかえり旭。どうだった?」
「情報もらえた!じゃ、オレ早退するから!」
「転ばないよう気を付けるのよー」
チャイムが鳴り始めた頃にオレは教室に駆け込むと、田中からの問い掛けに鞄を持ちながら答える。
なんかかーちゃんみたいなことを田中が言っているが、オレは気にすることなく脇目もふらず学校から飛び出す。
担任から受け取ったメモの住所をスマホのマップアプリに打ち込み、走るたびにブラでも抑えきれない胸が弾むのを煩わしく思いながら走る。
たっつんがドイツに行くって時も、たっつんが見つからなくなって必死になって走り回った事を思い出す。
今もあの時と同じ焦燥と、あの時と違うけど言葉に出来ない何かに突き動かされてとにかく俺は足を動かす。
プールでギャルにたっつんが言い寄られていた時のもやもや、一緒に遊んでた時に感じた楽しい気持ちとか思い出して、それがもう無くなると思うととにかく嫌だった。
とにかく走って走って、走り続けて……息が上がりそうなぐらい走って、漸く辿り着いたのは新築のタワマン。
(たっつん、めっちゃ良い所住んでんな)
そんなことを考えながらマンションへ入ろうとするも。
エントランスに入るのすらパスワードが必要なのか、中に入る事が出来ない。
おい担任、プリントを届けるところじゃないのだが?
息を整えつつどうしたものか考えているオレの横を、配送業者と思しき人がパネルに番号を打ち込みインターホンを鳴らす。
なるほど、どうやら入るにしても何かしら手順がいるらしい。
「えっと、たっつんが住んでる部屋の番号は……よし」
担任から受け取ったメモを見ながら番号を打ち込み、インターホンを鳴らす。
呼び出し音が鳴る事しばし、しかし誰も出てくる様子はない。
「たっつん、家にもいないのか……?」
半ば学校をサボる形でここまで来たオレだが、まさかの空振りに肩を落とす。
魔法少女に変身してパルクールしながらたっつんが住んでる部屋のベランダに行くことも考えなくは無かったが、流石にソレは不法侵入が過ぎる。
そうやって悩みながら路地裏に移動して逡巡していると。
『アサヒ、たっつんは間違いなくいるぴゅん。気配は感じてるぴゅん』
「ナイスだ、という事は居留守使ってんなたっつん……よし」
『ぴゅんぴゅんはアサヒの味方だぴゅん、やりたいようにやってやれぴゅん!』
自分の目的のためだけに魔法少女の力を使う事は本来、やってはならない事だ。
だけども、ぴゅんぴゅんはそれでもオレの背を押してくれた。
ならばオレがやる事は、ただ一つだけだ。
「ソウルパワー、ウェェイクアァップ!!」
気合を込めてオレは魔法少女への変身を敢行。
オレの叫びと共に巻き上がった七色の光がオレの体を包み、手に持っていた鞄と制服……それに下着が光の粒子となって消え。
それと同時に現れた新たな光の粒子がオレの体に張り付くと同時に、レオタード状のスーツへと変わりその上に羽織るように巫女服のようなジャケットが現れる。
そして、俺の頭にぴょこんと狐の耳が生えお尻からふわりと尻尾が生え、七色の光によってオレの髪色と瞳の色が変化し追加装備のネックレスを装着してオレの変身は完了した。
「よっしゃぁ、行くぞ!」
『アサヒ、なるべく人目につかないルートナビゲートするぴゅん!』
オレはタワマンを路地裏から見上げると、路地裏の壁面を蹴って壁を蹴りあがっていく。
戦闘時はこう言っては何だがあまり頼りにならないボケナス、ぴゅんぴゅんであるが……事件現場に人目を避けながら向かう時は非常に頼りになるナビゲーターだ。
それに、たっつんが住んでる部屋のベランダに魔法少女が降り立ったとかSNSに上がったら、別の意味で大変な事になるしな!
『目的の部屋はあそこぴゅん!』
「あいよぉ!」
壁面を蹴りあがり、手をひっかけられる場所を掴んで体を持ち上げて向かっていく。
魔法少女のオレでも落ちたらタダでは済まない高さまで来ているが、今のオレに恐れはなかった。
そんな事よりも、何もできずまたたっつんと離れ離れになる事の方が怖かったから。
「着地ぃ!」
そしてオレはたっつんが住んでいるとされる部屋のベランダへの着地に成功、すぐにガラス戸の向こうに広がる部屋へ視線を向ける。
広々とした部屋の中には高そうなテーブルやソファがある。
そして一つのテーブルを挟む形で、たっつんと見た事もないレベルの外見をした美少女がたっつんと向い合せになって座っていた。
(は?)
ちなみにここで旭が動かなかったら、色々あった末に結局たっつんには二度と会えなくなってました。