オレが魔法少女になったと思ったら、幼馴染も訳ありだったと知った不具合 作:社畜だったきなこ餅
たっつん側サイド話であると共に、たっつん事情のねたばらしです。
制止する旭の声を振り切り、俺は翼をはためかせてプール施設の屋上を勢いのまま突き破って上昇していく。
目的地など無く、ただ高く飛び上がり続けて雲を超えて地上から観測不可能となる地点まで飛び上がって漸く上昇を止める。
俺は自宅へ戻る為の転移陣を展開する前に、左腕の手首を見る。
そこに刻まれていた竜言語で刻まれた刻印、他者に正体を明かすなかれと刻まれた刻印は深い斜線が刻まれていた。
旭が先のヒトデ怪人の時に負った傷と誤解し治療してくれたおかげで、刻印を上から削るような斜線から血こそ流れていないものの。
その斜線は紛れもなく俺が他者に正体がバレた証であり、この刻印は遠く離れた地にいるクソ親父も共有している。
コレがどういうことか、それは……。
「正体が、バレてしまったな」
魔法少女であることを明かしてくれた旭に言えなかった秘密、それがバレてしまったという証明に外ならない。
俺はクソ親父の領域から出て、この地に戻ってくるときの条件として他者に正体がバレてはならないという制約を受けて刻印を刻まれた。
しかしその刻印が効力を喪った以上、俺はもうこの地にいる事は出来ないだろう。
そう考えながら俺は転移陣を作り出すと、鬱々とした気持ちを抱えて陣を潜る。
転移陣を潜ればそこは俺が住んでいるマンションの一室で、俺は変身を解くとソファに腰を下ろして頭を抱える。
(もっとやりようはあったはずだ、なのに俺は……)
せめて事情を説明すべきか、もう会えないと電話だけでも旭に伝えようとしてはたと気付く。
俺は屋内プール施設で水着の状態で変身した、そして今も俺は水着の恰好だ。
即ち俺の携帯電話や財布は屋内プール施設に置いたままだという事になる。
「……やらかした、それに伊達眼鏡も置いてきてしまったな」
俺が伊達眼鏡を着けている事に最早意味はない、少年時代の俺に伊達眼鏡を着けるよう勧めた旭もその事を忘れている。
(この地からの決別を機に、いい加減伊達眼鏡を着ける事をやめるのも一つかもしれないな)
思った以上に動揺していた自分が情けなくなり大きくため息を吐くと、とりあえず着替えてから屋内プール施設へ向かおうと考えるが。
それよりも早く、マンションの部屋の中の空間に焼き付けるように文字が浮かぶ。
書かれている言語は日本語やドイツ語とも異なる、竜と呼ばれる種族が使う竜言語で書かれていた。
内容はシンプルに、『他者へ正体がバレた件について、仔細説明のため領域へ戻れ』というものだ。
こんな事をわざわざやるのは、クソ親父以外いない。
「……流石にすぐに気づくか」
財布や携帯を取りに行くどころではない。
今すぐ領域へ転移陣を使って跳ぶ事も可能だが、俺は決心がつかず。
俺を急かすように空間で光り続ける文字に対し、手続きがあるから三日後戻ると竜言語で空間に書き殴って返した。
「旭に一言、詫びを入れ……いや、どの面下げて詫びを言えるというのだ」
久しぶりに会えた俺に対し、魔法少女とやらになった上女体化したというのに無邪気に喜んでくれた幼馴染。
あいつの笑顔が脳裏をよぎるたびに、正体を言えなかった後ろめたさと申し訳なさが自身を苛む。
「図らずもクソ親父が言った通りになったわけか」
自嘲気味に呟きながら俺は少しでも思考を落ち着かせるために洗面所で顔を洗う。
クソ親父は俺が日本に戻る前にこう言っていた。
『お前が戻ろうと、お前が言う親友とお前は決して幸せになる事はない』
その言葉を思い出すと同時に、鏡に映っている間抜け極まりない俺自身への怒りから俺は鏡に拳を叩きつけていた。
鏡が割れ砕けて飛び散る中、それでも俺の拳には傷一つついていない。
(俺は何処まで行っても、化け物だという事か)
竜の血を受け継ぐ子の一人であるオレを呼び出したクソ親父。
クソ親父が俺を呼んだのは親権とかそういう人間的な理由ではなかった。
細かい歴史とか事情をさておけば、簡単な話だ。
クソ親父は俺を含む自身の子供達に跡継ぎを決める為の闘争を銘打っておきながら……。
その闘争を隠れ蓑にして、一族の当主に代々乗り移りながら寄生し続けてきた神を名乗る化け物を殺す為の駒を作ろうとしていた。
そして俺は闘争に参加した異母兄弟姉妹全てを半殺しにし、更にクソ親父もついでに殴り飛ばし。
俺を最高の器だと抜かして乗り移ろうとしてきた神を名乗る寄生虫を、闘争の果てに得た力を使って因果地平の彼方へ消し飛ばした。
だがしかし、全ての戦いを終えた頃には俺は人の姿でいてもなお人間の範疇から逸脱してしまっていた。
「……くそが」
(クソ親父が言う通りだ、俺は何を勘違いしていた)
子供の頃の思い出が残っているこの地、親友だった幼馴染と共にいれば人間らしさを取り戻せると俺は思っていた。
旭と一緒にゲームセンターへ行ったり高校に通ったり、遊びに出かける事は俺にとってとても楽しい時間だった。
旭以外にも人間とは思えない俺の力に臆する事の無い、貴重な友人達も出来た。
(だけど、それももう終わりだ)
俺は鏡の破片が散乱する洗面所から出ると寝室へ向かい、着替えもせずにベッドに横たわる。
とにかく今は、何もかも考えずに眠りにつきたくてしょうがなかった。
しかし眠りについてもやがて朝は来る。
窓から差し込む朝陽に遅刻しそうだと考えるも、もはや学校に通える状況でもない。
俺は鬱屈とした気分のままベッドから起き上がり、着替えをする。
そしてまずは財布や携帯電話を引き取る為に、昨日旭と一緒に行った屋内プール施設へ向かおうとした、その時。
俺の部屋の中に俺とは別の誰かが作り出したであろう転移陣が現れ、ほどなくして陣から一人の人物が現れる。
「やぁ親愛なるお兄様にて偉大なる次期当主様、お困りだと思って馳せ参じさせて頂きましたよ」
そうして陣から現れたのは、長いウェーブがかった髪を腰まで伸ばした見目麗しく愛くるしい風貌をした糸目の人物。
「……俺は今忙しい、お前が言う商談とかそう言う事は後にしろ」
「あら親愛なるお兄様はお厳しい、折角お兄様とお友達が楽しんでいたプールの監視カメラ情報を削除しておいたと言いますのにね」
不機嫌極まりない俺の声に動じる事なく、そいつは肩を竦めて薄く笑う。
「物凄く驚いてますが、あのような施設は万が一の事故に備え水中カメラも設置されるに決まっているじゃないですか」
「……その事は感謝する、用件はなんだ」
「やだなぁ、親愛なるお兄様の忠実な弟である僕が何か企んでるみたいに言わないでくださいよ。ところで何か飲み物とかないのですかね?」
弟と名乗った美貌を持つ、傍目には美少女にしか見えない糸目の男は優雅にソファへと腰掛ける。
俺は腹立たしい気持ちを抱えながらも、冷蔵庫にストックしてある缶コーヒーを二本取り出すとそのうちの一本を異母弟へ投げ渡す。
「紅茶はないのですか?何なら緑茶でも構わないのですけど」
「文句を言うなら飲むな」
「やれやれ、相変わらずですねぇ親愛なるお兄様は」
俺がどっかと音を立ててソファに座ると弟は愉悦をその表情に浮かべ、缶コーヒーを飲み始める。
この弟の名前はエレク、異母兄弟の一人であり……。
電気や情報の制御に特化した、最弱で最悪の竜だ。
「まぁ親愛なるお兄様を焦らして殴られては死んでしまいますからね、素直に目的を話しますとも」
「こっちは忙しいんだ、手短にしろよ」
「まぁまぁそう焦らずに、親愛なるお兄様が去らずに済むのですから。聞く価値はあるかと思いますよ?」
エレクが口にした言葉に俺は一瞬動きが止まり、こいつに気取られないようその瞳を見るもエレクは俺の反応から効果的だと察したのか笑みを浮かべる。
こいつはこうだから、俺は苦手なのだ。
「僕は親愛なるお兄様に策を授けにきたのです、この地から離れずとも良い策を……ね?」
「聞くだけは聞いてやる」
俺が威圧的に応じるもエレクは人を喰った態度を崩す事はなく。
決まり切った、簡単な問題の答えを生徒に教える教授のように言い放つ。
「簡単な話ですよ親愛なるお兄様、件のお兄様の正体を知っている魔法少女を家族にしてしまえばいい」
「……何が言いたい」
「気付いている癖にとぼけるのですね親愛なるお兄様」
エレクが放った言葉に、俺は呻くように答える。
こいつが言いたいことは解る、しかし旭は俺の大事な幼馴染で親友だ。
今は確かにあいつは美しい少女の姿になってしまっているが、あいつは男に戻りたいと常にボヤいている。
そんなあいつを家族にするという事は、即ち。
「あいつは、そういう対象じゃない」
「親愛なるお兄様ったら、随分とその魔法少女の事を気に入ってるのですねぇ」
俺の言葉にエレクはケタケタと心から愉快そうに笑いながら、艶やかな唇を吊り上げる。
「何を躊躇う必要があるのです?親愛なるお兄様は我々誇り高き竜の次期当主ですよ?欲しいものは全てその手に収める権利と力があるのです」
「……あいつは親友だ、それ以上でもそれ以下でもない」
「語るに落ちてますよ親愛なるお兄様、僕は件の魔法少女が貴方が言う親友の……アサヒ・タチモリだとは一言も言っておりません」
高揚しながら高らかに謳うように唆してくるエレクの言葉を、俺は辛うじて絞り出した言葉で否定するが口にしてすぐに自身の失言を悟る。
慌ててエレクの顔を見れば、丁寧に張った罠に獲物がかかったような蠱惑的な笑みを浮かべていた。
「……エレク、旭に手を出すようなら俺は貴様を縊り殺すぞ」
「やだなぁ親愛なるお兄様、そんな絞首台のスイッチを自ら押すような真似は欠片も考えておりませんとも」
空間に満ちる俺から放たれた殺意に、怖い怖いなどと言いながら肩を竦ませるエレク。
「それに親愛なるお兄様はそう考えているかもしれませんが、相手はそうじゃないみたいですよ」
エレクがそう言葉にすると共に、俺とエレクが向かい合って座っているリビングルームから見えるベランダに何者かが勢いよく降り立った。
降り立った人物、それは狐耳と尻尾を生やした小柄ながら煽情的な体をレオタードで包みその上から巫女服のような衣装を羽織った魔法少女。
マジカルアサヒ、俺の親友で幼馴染がそこにいた。
そして旭は俺に気付くと安心したような笑みを浮かべ、俺の向かいに座っているエレクを見た瞬間これまで見た事もないような表情を浮かべた。
何故だろう、そんな事はないし旭と付き合ってるとかそう言う事でもないのに。
(まるで浮気現場に踏み込まれたように、気まずい)
Q.なんで連絡つかなかったの?
A.たっつん、プール施設のロッカーに携帯置きっぱなしにするという盛大なガバしてました。
ちなみに胡散臭い見た目美少女な弟ことエレク君ですが。
外見イメージはエルデンリングのミケラ様だったりしたりしなかったりします。