オレが魔法少女になったと思ったら、幼馴染も訳ありだったと知った不具合 作:社畜だったきなこ餅
「なぁ旭、これはこの町に住んでいるお前に聞いてよいか迷うのだが。良いか?」
「どったのよたっつん、そんな畏まって」
とある土曜日の昼下がり、オレとたっつんは家で昔懐かしいゲーム機を引っ張り出して対戦をしていたのだが。
唐突にたっつんが歯切れの悪い物言いで口を開く。
「魔法少女とか言う連中が色々戦ってるみたいだが、大丈夫なのか?」
「ぶーーーーーーー!?」
そしてまさかのたっつんの発言にオレは思わず吹き出し、その勢いでボタン操作をミスって盛大に事故った。
「ま、ままま、魔法少女って何の事だ?たっつん」
「何でそんな動揺してるんだお前が。クラスメイトからSNSに上がってた写真を見せてもらっただけだぞ」
めっちゃキョドるオレに対してたっつんが、疑いのまなざしを向けてくる。
(く、くそ!何か不思議なパワーでお茶の間のニュースになる事がないから油断していた!考えてみたら前の時もそうだったけど割とスマホ向けられてる事多かったわ!)
爆速で思考が回転する中、たっつんにどう言えばいいのかオレは考える。
プラン1.実は自分も魔法少女なんだとバラす? ないない、と言うかあんな姿たっつんとか知り合いに知られたくない。
プラン2.町を守る正義の味方だと説明する? いやいや、自分で自分の事正義の味方って言うのなんか恥ずかしいからない。
プラン3.全力ではぐらかす? これだー!
「お、オレも良く知らないけど。悪の怪人達と戦ってるらしいぞ」
「そうか、大変なんだな」
「そうそう、野次馬とか危ないって言ってるのにスマホ向けるのに夢中で逃げようとしねーしよ」
「それはまた大変そうだな……うん?」
「なななななな、なんでもない!」
『語るに落ちてるぴゅん、アサヒ』
(じゃかましい!!)
ベッドの下に押し込んだボケナスが限りないアホを見る目をオレに向けて小声で呟くのが聞こえる。
どうやって誤魔化したものかと大慌てで考えるオレだが、たっつんの動きはオレの予想を遥かに超えていた。
「……また声がするな」
「え?どったのよたっつん」
「いや……ちょっと失礼するぞ」
オレに対して突っ込みを入れたボケナスの声が聞こえていたのか、たっつんは目付きを鋭くすると立ち上がってオレの部屋の中を探し始める。
突然の事態にボケナスはベッドの下で丸まり、自分はぬいぐるみだと無言で主張し始めている。
(し、しまった!ボケナスの声は魔法少女とかにしか聞こえないってアイツがいうから油断してたぁぁぁぁ!!)
冷や汗が噴き出、滝のように流れ落ちる。
何のかんの言ってあのボケナスがオレの家族や一般人に認識されないのは、そういう不思議な力があっての事だった。
だけどもあいつと話ししているとまるでオレが全力で独り言喋っている風になってしまうが故に、オレはあいつに人前では喋るなって厳命していたのだ。戯けた事言われるとすぐ言い返したくなるから。
(って、ちょっと待て。たっつんは確かに声が聞こえた、そう言ったよな?)
という事はたっつんもまたこっち側か、もしくはオレみたいに魔法少女の素質があるという事になる。
そんなことを考えている間にたっつんは声の出所を突き止めたのか、ベッドの傍で屈むとベッドの下で丸まって隠れていたボケナスをその手でひっつかんで引っ張り出そうとしていた。
「ま、待て待てたっつん!ベッドの下は不可侵領域だろ!?」
「お、おい急に突進してくるな?!」
あのボケナスは愉快なまでに口が軽い上に要らん事しか言わないナマモノだ。
そんなヤツがたっつんに凄まれた日には、ノータイムでオレが魔法少女だとバラすことは想像に難くない。
オレの精神の安寧の為、そして友人関係を守るためにオレは心底不本意ながらボケナスから注意を反らす為にたっつんへの突撃を敢行。
その結果何が起きたかと言うと。
「……あいたたた……ありゃ?」
「いきなり突進するとか、何を考えてるんだお前」
何がどうしてこうなったのか、オレはたっつんの上に馬乗りになる形になっていた。
ちなみにボケナスはたっつんの右手に捕まっている、今この状況においてもなお丸まってぬいぐるみの振りを続ける根性だけは評価したい。
しかし何とも言えない気まずい空気が流れる、とりあえずオレはたっつんの上からそそくさと退こうとするも。
「ちょっとアンタ達、いくら仲良しだからって良い年した男女なんだからそんなドタバタ……」
オレ達が騒いでる事に一言文句を言いに来た母ちゃんがノータイムで扉を開けて襲来。
そしてオレ達の姿勢を見ると、口元に手を当てて固まる。
緊張感に満ちた空気がオレの部屋の中に漂う中。
母ちゃんは意を決したように口を開いた。
「アンタ達……避妊はしっかりとね」
「マテ待て待って?!母ちゃん何か凄い誤解してない!?」
「まぁ、五回もするなんてこの娘ったら」
「ちっげーーーよ!!!!」
(そうだ、そうだった)
母ちゃん達はボケナスの魔法の力で、オレが産まれた時から女の子だったという記憶に改ざんされている。
という事は即ち、母ちゃん達にとってオレは娘であるという事に外ならず、そんな娘が幼馴染の親友の上に馬乗りになっているという事は。
どう見てもそう言う事です、本当にありがとうございました。
(て、ちっげーーーよ!!)
「ごゆっくり」
「違うから!母ちゃん待って!本当に違うの!!」
そそくさと退出しようとする母ちゃん。
オレは慌てて立ち上がって母ちゃんに縋り付くも、しかし母ちゃんは全てわかってるからねと言わんばかりの笑みを浮かべて立ち去っていく。
後に残されたオレは四つん這いになり、深く項垂れるしかなかった。
「……なんだ、その、すまん旭」
「ぬぉぉぉ……たっつんは悪くないんだよぉ……」
激しく項垂れるオレに対し、気まずそうに謝ってくるたっつん。
なんかもう色々疲れたオレは、たっつんの手から丸まったボケナスを受け取ると部屋の中でたっつんと向い合せに座る。
「おいボケナス、擬態はもういいぞ」
『え?バレたらサッカーボールにされるんじゃないぴゅん?』
「安心しろ、この事態を招いたお前は丹念にバスケットボールにしてやる」
『酷いぴゅん!?』
突如始まったボケナスとオレの会話に、たっつんは目を見開いて驚愕している。
そりゃぁ驚くよなぁ、オレだって魔法少女とか知るまでこんなナマモノいるなんて知りもしなかったよ。
「妖精……いや精霊?しかしどれとも違う……」
「たっつん?」
「ああすまない、見た事もない見た目な上に喋る生き物なんて想定外でな。しかしそうか、前に帰り道で聞こえた声もそいつだったのか」
「あの会話も聞こえてたのか、たっつん……」
口元に手を当てながらぶつぶつ呟き、油断なくボケナスを観察するたっつん。
気のせいか伊達眼鏡の奥に見える瞳の瞳孔縦に裂けて……無かったわ、気のせいか。
「もしかしてだが、旭が女の子になったのもソレの影響か?」
「ああ、不本意な事にな」
「よし、戻し方を吐くまで水に沈めよう」
『待ってほしいぴゅん!水に沈められて吐くのはぴゅんぴゅんの命の灯だけぴゅん!』
たっつんの質問に対して頷き肯定するオレ、するとたっつんはノータイムでボケナスへの拷問を提案してくる。
突然訪れた命の危機に体を震わせるボケナスだが、割とお前やってる事大概であることを理解してもらいたい。
『しょうがなかったんだぴゅん!サクラ達も頑張ってるけどジャーク達の猛攻が激しかったんだぴゅん!』
「だからと言って、俺の親友を巻き込むな」
「ま、まぁまぁたっつん。怒ってくれるのは嬉しいけど、実際あの時オレが魔法少女にならないと危なかったのは事実だから」
「……旭がそこまで言うなら、俺は何も言わないけどな」
ボケナスの主張に対したっつんは冷徹な光を瞳に宿してボケナスに言葉を突き付ける。
正論火の玉剛速球なその言葉にボケナスは目に涙を浮かべて黙り、その姿を流石に哀れに思ったオレは助け舟を出す。
女にされるとは思わなかったが、あの時コイツの言葉に乗って戦う事を選んだのはオレ自身の意志なんだからそこはしょうがない。
「なるほどな、SNSで見たマジカルアサヒと言う魔法少女がお前に似てると思ったが。そう言う事か?」
「う゛……お、おう」
まじかよたっつんに速攻で魔法少女の姿までバレた、名前が同じだからバレバレかもしれんけど……。
魔法少女は名前こそ同じでも、変身前と同一人物だとわからないよう認識をズラされてる。それは写真でも同様だ。
なんせマジカルアサヒの状態でオレは何回かクラスメイトや母ちゃんに会っているが、今まで一度もマジカルアサヒがオレだとバレなかったのに。
(なんでたっつんは、オレとマジカルアサヒを繋げられたんだ?)
たっつんは昔から人並外れた頑丈さと頭脳を持っていた、けどソレだけでは説明がつかない気がする。
思わずたっつんへ疑惑の視線を向け、オレは口を開いてしまう。
「たっつん、まさかお前……」
一度浮かんだ疑惑は最早頭から離れない。
オレは疑惑が導くままに言葉を続ける。
「……魔法少女、なのか?」
思わずオレの口から飛び出たその言葉。
その言葉に対するたっつんの返事は。
「……旭、昔からお前は底抜けのアホだったがまさかここまでアホとは思わなかったよ」
『ぴゅんぴゅんもその発想は引くぴゅん』
「なんでだよ!そこまで言われなきゃダメな事オレ言った?!」
今まで見た事無いレベルで、たっつんがどうしようもないアホを見る目を向けると共に飛び出てきた罵倒だった。
そこまで言わなくても良くない???
『あそこまで状況証拠揃ってるのに気づかないアサヒも大概だと思うぴゅん』
「そもそもこの事態はお前のうっかりが招いたという事実を理解しろ」(丹念にドリブルした後ダンクシュートする)