オレが魔法少女になったと思ったら、幼馴染も訳ありだったと知った不具合   作:社畜だったきなこ餅

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旭とたっつんは地味に高校二年生。
即ちそれは、下級生と上級生とも絡める学校ものの黄金ポジションにいるという事である。


狐とバスケとドラゴン

 

 

じめじめする梅雨時、気分はただでさえ沈みがちになるのは言うまでもないが。

オレは最近とある事情から、割と高校生活に嫌気が差し始めていた。

 

 

「日月先輩!好きです、俺と付き合って下さい!」

 

「誰だよ、と言うかそんなノータイムで告られても困るわ」

 

 

オレは今年で高校二年生になるわけだが、今の時期と言うのは入学した新入生が色々と高校に慣れ始める頃だ。

そして、そうなって余裕が出てくると男子と言うのは欲望に忠実だからこうやってオレに告るのが増えてくるというわけだ。

 

ちなみに去年は上級生から告られるわなんやらで辟易したのは言うまでもない。

 

 

「ほらとっとと自分の教室に帰れよ」

 

「俺、諦めませんから!」

 

「知らねーよ、とっとと教室戻れって言ってんだろがアホ」

 

 

何か爽やかに面倒な事を抜かす下級生を追い払い、貴重な休み時間を浪費された事にイライラしながら自分の席に座る。

そりゃオレは自分で言うのも何だが、鏡で見ると可愛い部類に入ると思う。

 

けど告ってくるヤツら、揃いも揃ってスケベな視線と感情隠そうとしねーから鬱陶しい事この上ないわ。

 

 

「今日もモテモテじゃん旭」

 

「知らねえよもー、名前も碌に知らない連中に告られても困るわ」

 

「モテる女の余裕ってやつ?あの子中学時代にバスケで全国大会MVP取った子じゃん」

 

「んな事言われてもなー」

 

 

邪魔なぐらい大きな胸が変形するのも構わず机に突っ伏してれば、クラスの女友達の田中が半笑いで近付いてくる。

その声に反応した顔を上げて適当に駄弁る中で、さっき告ってきた下級生の情報を知るが……悲しい事に全く興味がわかない。

と言うかオレこんな外見になってるけど、男が好きになるわけじゃねーから。

 

 

(それに……)

 

ちらりとクラスの男子たちと何か話が盛り上がってるたっつんへ視線を向ける。

盛り上がってると言っても、クラスのバスケ部の男子の佐藤がたっつんを熱心に勧誘してるだけとも言えるけど。

 

 

「あー、そいえば旭って黒羽君の幼馴染だっけ。そりゃあんなイケメンが近くにいたら、他の男なんて目に入らないよね」

 

 

そんなオレの視線の先に気付いた田中が、にやにやと笑いながらそんなことをのたまう。

いや待てちょっと待て、そういうわけじゃない。

 

 

「ち、ちげーよ!オレとたっつんはそんな関係じゃねーってば!」

 

「え?そうなの?黒羽君フリーなら狙っちゃおうかなー、スポーツ万能で頭の良いイケメンとか狙うしかないじゃん」

 

「え」

 

 

田中がニヤリと笑って言い放った言葉に、思わずオレは固まる。

なんかすっげーモヤっとする。

 

きっとこれは、魔法少女になった関係でオレは女の子とお付き合いできないのにたっつんがモテてる事が原因の嫉妬だ、そうに違いない。

 

 

「何驚いてんのよ旭、つーか黒羽君マジでモテるよ?」

 

「そうなの?たっつん割と不愛想だし知らない相手はめっちゃ塩対応じゃん」

 

「あんたほんとバカね旭、そういうクールな所も素敵って思ってる娘意外と多いわよ」

 

「マジで?」

 

 

意外過ぎるたっつん情報に、マジで?と田中に聞けばマジよ。とガチトーンで返される。

そんな、オレは股間のリトル旭とお別れしたというのにたっつんはモテモテだなんて、こんなのあんまりだ。

 

 

「あのねー旭、幼馴染だからってあぐらかいてるとマジで知らない女に掻っ攫われちゃうよ?」

 

「だ、だからオレとたっつんはそういう恋人とか考えた事ないって言ってるだろ!」

 

「あたしは忠告したからねー? 何ならこのクラスにも黒羽君狙ってる娘多いからね?」

 

 

 

田中の言葉に思わず机から上体を起こしてクラスの中を見回せば、半数の女子がオレから目を逸らした。

 

 

(え?マジで?)

 

 

たっつん、そんなにモテモテなの?

オレ中学生の時、何回か女子に告白しては友達ならいいけど恋人にはって断られまくってたのに。

 

呆然と考える中、不意にたっつんとバスケ部の男子の会話が耳に入る。

 

 

「なー頼むよ黒羽ー、お前が入ってくれれば県大会制覇夢じゃないんだからよー」

 

「そうは言われてもだな……」

 

「頼む!あの変態的な百発百中の3Pシュートがオレ達には必要なんだ!」

 

 

知らない間にたっつん、めっちゃ熱心に勧誘されてたでござる。

でも、前はこんな熱心な勧誘無かったような気がするんだけど。

 

 

「なー田中ー、なんで佐藤はたっつんをあんなに勧誘してんの?」

 

「んー?あたしも詳しくは知らないけどさ、この前の体育女子は水泳で男子はバスケだったじゃん?」

 

「そうだなー、あの時は田中がめっちゃ胸揉んできて困ったけど」

 

「あんな立派なモノ揉むしかないじゃん、まぁソレは置いといて。その時に黒羽君やる気なかった癖にバスケ部差し置いて大活躍したそうだよー」

 

 

マジか、たっつん一体何やったんだ。

気になってしょうがないオレは椅子から立ち上がると、勧誘されて困ってるたっつんへのそのそと近付く。

近付くオレに気付いたたっつんは、どこかホっとした様子を見せていた。どれだけ困ってたんだよたっつん。

 

 

「なーなーたっつん、この前のバスケで大暴れしたそうだけど。何やったの?」

 

「大した事はしてないが……受け取ったボールを必要なところに回したり、シュートを狙えるなら狙っただけだぞ」

 

「黒羽お前行きすぎた謙遜は暴力だからな?自陣のゴール下から相手のゴールまでシュートして百発百中とか、神業なんだからな???」

 

 

たっつんが大した事してないと言わんばかりに呟けば、佐藤は半眼でたっつんを睨んで呻くように呟いた。

……うん、そりゃ大暴れだし佐藤がたっつん勧誘してもしょうがねーわ。

 

そして不屈の精神の化身みたいになってる佐藤は、改めてたっつんへの勧誘を再開しようとするがそこでチャイムが鳴り響き。

たっつんへのバスケ部勧誘は有耶無耶の内に終了するのであった。

 

 

そして今日一日の授業全てが完了し、漸く帰宅の時間が到来。

オレはいつものようにたっつんと並んで帰宅すべく教室から出たのだが……。

 

 

「日月先輩!」

 

 

めっちゃ熱心にオレに告ってきた下級生が出待ちしてやがった。

思わずうへぇ、と呻くオレの手を取ろうとする下級生男子だがたっつんがソレをインターセプトしてくれた。

 

 

「いい加減にしろ、旭が迷惑している事もわからないのか」

 

 

身長が190cm以上あるたっつんと変わらない、いやむしろ下級生の方が上背があるのだがたっつんが放つ威圧感と迫力はそんな事関係ないレベルだった。

 

 

(あれ?もしかしてたっつん、ちょっと怒ってる?)

 

 

オレを背に庇うように立ってるたっつんの表情は見えないが、声と雰囲気から苛立ってるのが何となく伝わってくる。

 

 

「誰ですかアンタ……あー、幼馴染とかいうヤツっすか。オレはアンタ何かに興味ねーんすよ、退いてくれません?」

 

「随分と礼儀を知らない小僧だな、お前」

 

 

オレに告ってきた時と打って変わってチンピラみたいな事をたっつんに言い放つ下級生。

うっわ、なんかすっげぇむかつくなコイツ。

 

 

(あ、田中もめっちゃ幻滅した顔してる)

 

 

騒動を遠巻きに眺めてるクラスメイトの中に女友達を見つけ、その顔から下級生にめっちゃ失望してるのが見て取れる。

良かったな田中、万が一コナかけられたとしても速攻でお断りできるぞ。

 

あ、たっつんを熱心に勧誘してた佐藤が大慌てで走ってきてる。

 

 

「お前バカか!何やってんだ!?」

 

「あ、先輩じゃないスか。邪魔しないで下さいよ」

 

「てめえなんつう口の利き方してやがる!!」

 

「は?俺と1on1どころか1on3でも止められなかった雑魚が先輩風吹かすのやめてくれません?」

 

 

あ、佐藤もビキビキきてる。

むしろこの下級生、すっげぇイキり散らかしてるな。一周回って笑えて来るわ。

 

 

「……頼む黒羽、このクソ後輩を徹底的に痛めつけてくれるか?」

 

「腕か足を折ればいいのか?」

 

「ちげーよナチュラルに暴力に訴えようとすんな! 黒羽のバスケ技術でこいつをギャフンと言わせてほしいんだよ!」

 

 

怒り心頭に達した佐藤、まさかの提案をたっつんに決行。

割とイライラしてたたっつんは佐藤の言葉に対し渡りに船と言わんばかりに、暴力の行使をしようとするが佐藤慌てて止める。

 

 

(いや佐藤、気持ちはわかるけどちょっとカッコ悪くねーか?)

 

 

しかし何のかんの言って佐藤もバスケはめっちゃ真面目にやってるし、次期キャプテンって言われてるぐらいには上手いらしい。

そんな佐藤を簡単にあしらえるって言うのだから、未だに名前がわからないこの下級生は確かにバスケ選手としては優秀なのかもしれない。

 

 

「ケンカっすか?俺はそれでもいいっすよ?」

 

「お前もう黙ってろ!」

 

「ふむ……」

 

 

下級生はたっつんの言葉をへらへら笑って挑発するが、佐藤は拳を握りしめつつ怒鳴る。

気持ちはわかるぞ佐藤、少なくともオレが男子の時にこんな後輩いたらぶん殴ってるよ。

 

 

なんか、そんなこんなで。

 

 

何か一大イベントみたいになった、下級生バスケ部員とたっつんの1on1が体育館で開催される事になった。

割とみんな、暇人だな???

 

 

「ぶっ殺せ黒羽ーー!」

 

「そんなクソ生意気なヤツ、ぶちのめしてやれー!」

 

「黒羽くーん!頑張ってーー!!」

 

 

いや違うわコレ。

めっちゃイキり散らしてる下級生に対して不満が爆発したのと、たっつん応援してる女子が大騒ぎしてるだけだわ。

 

 

(いやたっつん応援してる女子多くね?)

 

 

なんか特等席的なベンチに腰掛けながら、たっつんに黄色い声援を送る女子たちを見る。

下級生に同級生、果ては上級生まで実にバラエティ豊富だ。

 

 

「先輩、俺が勝ったら日月先輩もらいますわ」

 

「……そうだな、勝てたらな」

 

 

ヘラヘラ笑ってる下級生、一方底冷えする声を出してるたっつん。

逃げろ下級生、今のたっつんは下手しなくてもガチギレしてるぞ!?

 

 

「あ」

 

 

そんな事思ってたら、意気揚々とめっちゃ低い姿勢でドリブルしてたっつんを抜こうとした下級生が簡単にたっつんにボール取られてたわ。

いや、下級生の動きも良く見えなかったけどたっつんがボール取った瞬間見えなかったんだけど!?

 

 

「お前、大した事ないな」

 

 

唖然とする下級生をよそに、たっつんがコートの中央から適当にバスケットボールをゴールへ向かって放り投げると……リングに当たる事なく、するっとボールがリングを潜り抜けた。

思わず近くで試合を見守ってた佐藤へ視線を向けると、オレの視線に気付いた佐藤はドヤ顔を浮かべながら親指を立てる。

 

うん、そりゃ佐藤も熱心にたっつん勧誘するわ。

 

 

「い、今のはまぐれだ!」

 

 

(めっちゃ動揺してるな、下級生)

 

 

ボールを今度はたっつんが受け取り、適当に立ったままボールをドリブルしてる。

たっつん、めっちゃやる気ねえ……いや、違う、アレは……。

 

 

(たっつん、もしかして徹底的にあの下級生の心へし折る気じゃね?!)

 

 

これ以上ないぐらい天狗になってプライドの塊な感じの下級生を、いかにしてへし折るか。

あのたっつんの表情はソレしか考えてないぞ、絶対……!

 

その後はもう、無惨としか言いようのない蹂躙だった。

 

下級生はどう頑張っても、隙だらけにしか見えないたっつんからボールを奪う事どころか触れる事も出来なくて。

一方下級生のボールは、下級生がどれだけ技を駆使して抜こうとしても簡単に奪われる。

止めとばかりに、やる気なさげに遠くから放り投げられたボールは百発百中で入るからそりゃもう酷い有様である。

 

なんせ途中からたっつん応援団が、下級生に対してどんまいコールしてると言えばどれだけ悲惨なのか良くわかろう。

 

 

「こんな技術で悦に浸るとか情けないなお前、佐藤をバカにしてたがお前にはその資格も無いよ」

 

 

虐殺としか言えない結果が残り、汗だくになってコートに這いつくばる下級生を一瞥すると。

汗一つかいてないたっつんはオレに近づいてきたので、オレはベンチから立ち上がると一生懸命背伸びしてハイタッチする。

 

 

「いやーありがとうな黒羽!めっちゃスッキリしたわ!」

 

「そうか、けど徹底的にへし折ったが良かったか?」

 

「へし折ってから聞くなよ黒羽ー、まぁ辞めるなら辞めるでいいんじゃね?あいつが入ってからバスケ部の空気クッソ悪かったし」

 

 

佐藤がそんなことを言えば、わらわらと集まってきたバスケ部員達がたっつんの勝利を祝福し始める。

コートで這いつくばったままの下級生に誰一人、マネージャーどころかいつの間にかきてた顧問すら駆け寄らない辺りに闇を感じる。

 

 

(……しょうがねーなぁ)

 

 

オレはてくてくと這いつくばってる下級生へと近付く。

下級生は声を上げることなく、嗚咽を漏らしながら泣き崩れていた。

 

 

「相手が悪かったなお前ー」

 

 

しゃがみこんで肩をぽんぽんと叩いてやる。

めっちゃムカつくやつだけど、流石に哀れ過ぎる。

 

 

「佐藤もさー、ムカつくのはわかるけど誰かはフォローしてやれよ。可哀想過ぎるだろ?」

 

「だ、だけどさ。そいつ俺達や先生が言っても碌に聞かなくてよー」

 

「まぁあの様子だとそうだけどさ、今なら違うんじゃね?」

 

 

オレが佐藤へ声をかけると、自分を庇うとは思ってなかったのか下級生が涙と鼻水でぐちゃぐちゃな顔を上げてオレを見上げる。

一方オレに苦言を呈された佐藤は、どこかバツが悪そうにしながら目を逸らす。顧問やマネージャーも同様だ。

 

 

(コイツ、入学してからこの短期間でどれだけやらかしてたんだよ。むしろ気になってしょうがないわ)

 

 

「上には上がいるんだぞ、コレを機に心入れ替えれるか?」

 

 

オレが苦笑いを浮かべながら下級生に言ってやると、下級生は嗚咽でしゃくりあげながら何度も頷く。

うんうん、実に良い青春だ。出来る事なら女子じゃなくて男子の時に俺もこんな青春したかった。

 

 

「お゛れ、お゛れ……心入れ替えます……!」

 

「おうおう、頑張れよ!」

 

「だがら゛、もじ俺が。黒羽先輩に勝てたら、付き合ってもらえまずか……?」

 

「ごめん、それ無理」

 

 

敗北と挫折で曇りが取れた瞳をした下級生は、鼻を啜り嗚咽交じりに俺へと告げる。

しかし、それとこれと話は違うので丁重にお断りしたところ下級生はコートに突っ伏し号泣を始めた。

 

 

「……旭、徹底的に追い詰めた俺が言うのも何だが。人の心は無いのか……?」

 

「え?!今のオレが悪かった?!」

 

 

たっつんが戦慄しながら呟く言葉に、オレは愕然としながら叫ぶのであった。

 

 

 

 

なお余談であるが。

今回の事件を桜達とのお茶会の時に話題に出したところ。

 

 

「ねぇ旭ちゃん、本当の本当に幼馴染の人とお付き合いしてないの?」

 

「してないってば」

 

「……説得力、皆無」

 

「魔性の女ですわね」

 

 

満場一致でオレの味方はいないという結果に終わるのであった。

酷くない???

 

 




ちなみに下級生君は年齢からすると十分化け物レベルのバスケ選手です。
そんな将来有望なバスケ少年の心をへし折る、情け容赦ないたっつん。こいつ酷いヤツだな。

なお露骨な踏み台の為、再登場があるかは不明である。
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