凪の気分を ~先輩の妹が何だかしつこい上に周りの女子もおかしくなってきたような~   作:冴木甲士

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第114話 岸奈央

 懐かしい。

 ただ懐かしかった。

 

 胡星さんと2年ぶりに会った私は、最後に会ったときからほとんど変わっていない彼の姿にそんな感想を抱いた。

 

 

 きっかけは、中学のとき。

「はー、この学校も後2週間ぐらいでお別れかー」

「あんま悲しそうじゃないね」

「深央も一緒でしょ」

「そりゃね」

 私達の家族は両親の仕事の関係で転居が多く、その度に私と深央も転校を余儀なくされた。

 一度友達ができても転校の度に別れて連絡がなくなる。

 また新たな場所で友達ができてもすぐに疎遠になる。そんな繰り返し。

 次第に私も深央もクラスの人達と本気で親しくするのを面倒に思うようになり、適度な距離を保ちながらも姉妹で過ごすことが当たり前になっていった。

 今回もそう。

 案の定近い内の転校が決まり、今は残りの期間を深央と校庭のベンチで過ごしている。

 深央とつれづれに時間を潰していたら、一人の男子が私達の元へ近付いてきた。

 その人こそ、胡星さんだった。

 

 もちろん当時は私達にとって面識のない男の人になる。

 私達に何の用なのかと当然警戒をしていたところ、

「物語の主人公みたいな存在になることに、興味はないか?」

 彼からの言葉にますます警戒心を強くした。最初とは違う意味でだったけど。

 その後に続く彼の説明を受けて私は確信した。

 コイツ、ヤバイ奴じゃん、と。

 しかし深央はコイツの提案に妙に乗り気だった。いやおかしいでしょ。

 深央一人だけを放っておくのも心配だし、転校するまでの付き合いかと思えばそんな大それた事態になるまいと思った私は深央とともに彼の提案を受けることにした。

 

 私達はしばらく胡星さんからの指導をもとに主人公を演じる特訓をした。

 思いのほかうまくなっていくのが楽しくなってきた私は、胡星さんから言われるばかりでなくもっと個性を出したいと思い、彼のことを「黒山先輩」から「胡星さん」と呼ぶことにした。

 そしたら深央も対抗するかのように胡星さんを「先生」と呼ぶようになった。私の呼び方をマネするのが気に入らなかったのがよくわかる。私も逆の立場なら多分、いや決してしなかったから。

 

 

 そして今。

「あの人のこと、無事見つけられてホッとしたよ」

「興信所の人に感謝しないと」

 胡星さんのいる高校へ入った私は、新調したばかりの制服に身を包みながら深央と下校していた。

 話題はこの日に会った胡星さんのこと。逆にそれ以外のことなんて今の私達にはどうでもよかった。

 

 この辺りにしばらく滞在することを両親から聞いた私達は両親に頼み込んで胡星さんを探し、彼のいる高校へ通わせてもらった。

 両親へ話す理由については深央とも考えた末、

「中学のときの数少ない友人だったが、今は互いに連絡が付かない。この地域へ戻ってきた以上はせめて気心の知れた人のいる学校に行きたい」

 ということにした。

 胡星さんを探すために興信所を利用し、その費用は両親が出してくれたため、こうして胡星さんの居場所を突き止められたわけだ。

 

「いやー、相変わらずだったねあの人」

「見て一発で気付いた」

 それにしても、2年ぶりに会った彼は中学のときのまんまだと思った。違うところといえば着ている制服ぐらい。

「髪型もしっかり同じだったね」

「奈央はこんなに頑張ったのにね」

「ニヤニヤしながら言うな。アンタも少しはイメチェンの努力しろ」

「私は敬語キャラだからこの見た目のが合ってるし」

 深央と適当な会話を交わすうち、中学時代に胡星さんがいた頃も自分が演じるキャラのことを話してたことを思い出していった。

 

 今なら思う。

 中学のときに胡星さんの連絡先を聞いておけばよかった。

 理由なんて別に何でもよかった。こっちから積極的に行けば胡星さんだって渋々だろうがきっと教えてくれた。

 でも、当時の私は恥ずかしくてできなかった。

 胡星さんから連絡先の交換を切り出さないか待っていたのだ。

 あるいは深央が聞いてくれてもよかったが、深央も深央で言わなかった。アンタも連絡取りたかったんじゃないの?

 

「ただ今日の先生を見て一つ気になったんだけど、周りに人増えてたね」

 私が中学時代を思い出して黙っていたら、深央が新たに気付いた点を挙げてきた。うん、それ私も気になってた。

「私達といたときはあんな友達多いところ見てなかったけどね」

 そう。中学のときは誰かと群れて過ごすような人ではなかった。

「アレ、全員胡星さんの教え子なわけないよね」

「私もそう思う。主人公なら一人か二人に絞るはず」

 だってあの人は主人公しか興味ないだろうから。

 少なくともその素質のある人ぐらいしかあの人が関わることはないだろう。

 いや、関わることすらないか。

 あの人の目的は主人公の陰で傍観しているモブなんだから。

 

 だからこそ、今日の光景は意外の一言だった。

「……まさかあの人も高校で性格変わった?」

「……どうなんだろう」

 いずれにしてもまずはあの人とその周囲を調べた方がよさそうだった。

 




実際の興信所ってどこまで対応してくれるんだろう

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