凪の気分を ~先輩の妹が何だかしつこい上に周りの女子もおかしくなってきたような~   作:冴木甲士

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第118話 よろしいですか

 ここは学校からそれなりに近い場所にある。

 だから俺達と同じ九陽高校の生徒と鉢合ってもおかしくはない。

 ただし、それは俺達と知り合いでないような生徒を含めた場合の話だ。

 これは一体どういう偶然であろうか。

「ああ……。お前らも今日はお出掛けか」

「ええ、まあ買い物に」

「僕も同じ」

 そして、こうなれば当然

「えーと、黒山君。この人達は……」

 岸姉妹が何者なのか奄美先輩が尋ねるわけだ。

 

「彼女らはポポカテペトルとライジングサンという名で……」

「ちょっと先生?」

「初対面の人への紹介で嘘教えるのやめてくれない?」

 普通に紹介するのもつまらないのでちょっとスパイスを利かせたのが気に食わないらしい岸姉妹。何だよワガママだな。俺なんて不本意にもブラックマウンテンを名乗ったことが尾を引いて未だに加賀見にネタにされることがあるんだぞ。

 仕方がない、奄美先輩が混乱しないうちに訂正しておくか。

「岸奈央と岸深央。九陽高校の一年です」

「へ、へえ」

 

「先生すみません、ウチらにもこちらの方を御紹介いただけますか」

 今度は深央が奄美先輩のことを尋ねてくる。

 俺の言葉遣いからお相手が三年なのは奈央も深央も察しが付いているんだろうな。どうでもいいけど。

「この方は奄美雛先輩。九陽高校の三年だ」

「これはこれは」

 相手が先輩と確定するや、深央は如才なく頭を下げた。

「先程先生からも御紹介ありましたが、一年の岸深央と言います。よろしくお願いします」

 その態度の恭しさを見るに、役に徹底しているなと思ったよ。

「同じく岸奈央って言います。僕がこの子の姉でーす」

 奈央も頭を軽く下げてきた。あんまりギャルっぽくないな、やり直し。……と、昔の俺なら評してたろうな。

 

「えーと……双子さん?」

 髪型こそ違うが、同じ顔つきと学年であることを踏まえればさすがに気付くか。

「そーでーっす。髪型違ってもこの見た目じゃやっぱすぐわかっちゃいますよね」

「中身は似てないですけどね」

「そりゃお前の方が性格悪いからね」

「鏡見たらどうです? 貴女の方が断然ヤバいですよ」

 自己紹介からすぐさま姉妹喧嘩へと発展する辺り、血の気の多い奴らだなと思った。

 そう言えばコイツら中学時代も度々どちらからともなく言い争いを仕掛けてたっけな。

 当時は演技の練習によるストレスも絡んでピリピリしてたのかとも思ったが、そういう場でもなくこうして人目憚らずやってるところからすると元からこういう仲なのかもな。

 そこへ行くと奄美姉妹も俺が家にお邪魔した際やレストランで食事した際にちょっと不和が感じられるひとときがあったのを思い出す。

 やっぱ姉妹仲はどこも同じなんだろうか。サンプル2件じゃ何とも言えんね。どうでもいいけど世界の姉妹の総数って果たしてどのくらいなのかね。

 

 さて、奄美姉妹の片割れは目の前にいる別の姉妹の喧嘩を見て明らかに困惑していた。

「えっと……早くアイス食べないと溶けちゃうんじゃない?」

 奄美先輩、喧嘩止めるにしてもその口実は微妙なのでは。かと言って俺もうまい止め方は特に思い浮かばないけど。「喧嘩すんな」なんて喧嘩中の相手に言っても大して効き目ないだろうしなあ。

「おっと。すみません先輩方」

「失礼しました」

 なんと年上相手ということで喧嘩は遠慮してくれたらしい。聞き分けいいな。それなら最初から喧嘩しないでほしいというツッコミはひとまず勘弁してやろう。

 

「ところで先輩方はどちらに?」

 アイスを舌で舐め取りつつ、深央が尋ねてきた。

「俺達は食事だな」

「二人で?」

 同じくアイスを一口かじった奈央が掘り下げてきた。

「ああ、そうだが……」

「……」

 俺の答えを聞いた後、岸姉妹が二人して黙った。

 奄美先輩も俺もそうなるととっさに続く言葉は出てこず無言の流れが生まれた。

 とは言えいつまでもこの炎天下をぼーっと突っ立ってるわけにもいくまい。

 道の端に避けてるとはいえここは歩道の上。通行人にも迷惑だ。

「じゃあ、俺達はそろそろ行くわ」

 と何とか岸姉妹と別れるべく歩き始める。

「それでは、奄美先輩」

「ええ、それじゃ……」

 と奄美先輩とともに歩く方へと体を向けたときだった。

 

「先生、ウチらも御一緒してよろしいですか?」

 

 深央が俺達との同伴を提案してきた。

「……御一緒?」

 俺より早く、奄美先輩が返事してきた。

「……あー、僕もできれば一緒に食事できると嬉しいッスね」

 奈央も深央に便乗しつつ、後ろ頭を掻いていた。

「おいおい、いくら何でも迷惑だろうに」

 こんな面倒な奴らの同伴など俺が嫌だ。

 というわけで岸姉妹の案に反対してたら

「……いいわ」

 奄美先輩が許可してきた。

「え、奄美先輩?」

「この子達、黒山君の友人なんでしょ? ちょっと話が聞いてみたくて」

 いや友人というわけではないんですが。

「ありがとうございます」

「ありがとうございまーっす! よろしくお願いしますね!」

 元々奄美先輩主導の外出だし、こうなっては止められない。

 というわけで岸姉妹が加わった。

 




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