「ちょっと御手洗に」
加賀見が席を立つ。
「おう、じゃあな」
「何今日はもうお別れみたいな言い方してんの」
「そんなつもりはないぞ。考え過ぎじゃないか?」
「いや私もまた明日みたいな意味に聞こえたんだけど」
やれやれ。安達も加賀見も変な方にものを考える節があるな。
「……はあ、もういい」
加賀見が御手洗の方へ歩いていった。もう帰ってくんな。
「ねえ、黒山君」
「ん?」
「リンちゃんやサッちゃんの友達と、仲良くすべきだと思う?」
……何か重たい相談が来たな。
「質問の意図がわからんからもうちょっと詳しく話してくれ」
「ん、ゴメン」
そうしてゆっくり安達は語りだした。
「今日こうやってリンちゃんやサッちゃんと別々に観戦することになった理由って覚えてる?」
「春野と日高が別の友達と見に行くからだよな」
「そう。それで、私もマユちゃんも気が引けちゃったから。まあ黒山君は平気だろうけど」
おい。俺のことズボラに思ってないか。俺ほど心が繊細な奴はそうそういないぞ。
「そんなことにもさ、そのお友達と私達が仲良くなってればならなかったはずじゃん」
「まあな」
「だから、自分達で交友を狭めるのはあんまりいいことじゃないのかもって思っちゃって」
ああそうかい。
「ここで俺が『仲良くすべきだ』って言ったらその通りにするか?」
「……わかんない」
しない、とは答えないんだな。
「あと俺の意見に沿ってどうなっても責任は取れないぞ」
安達の人間関係に対して責任を取る能力も筋合いもないからな。
「いいよ、それで」
安達は試合に目を向けたままだった。
「無理するぐらいなら仲良くしようとしなくてもいいだろ」
俺なりの考えを歯に衣着せず言葉にした。
「……」
安達は沈黙のなかで今何を思っているのか。
「人には相性ってもんがある。同じ教室で過ごす同い年の同じクラスの奴ら一つ取っても、全員が仲睦まじくやってることはまずないだろ」
既に小学校六年、中学校三年、そして高校も二年目を経てきたが全員仲良しみたいなクラスなんて一度たりとも見たことがないぞ。
「……そんな極論言われても」
「ただの一例だ。毎日固まるようなグループは大体3~5人の構成だし、それだって折り合い付けながらうわべだけの付き合いしてる連中も混じってるだろうさ」
「どう、だろうね」
「友達の友達だからって理由で交流しようとしてもうまく行くとは限らない。そりゃあ最初はお前も相手も互いに折り合いは付けるんだろうが、気が合わなきゃ結局幸せなことにはならないさ。お前にしても相手にしても、その間に立つ春野と日高も」
「……!」
二人の名前を出したところで、安達がにわかに表情を引き締めた。
「それに、無理して仲良くしようとしても、相手には心の内がすぐバレるぞ」
「え……」
意外、とでも言いたそうだな。
「そ、そうかな……?」
「絶対とは言わんが多分な」
安達や春野の場合、無理してる様子が結構態度や表情に出てしまう節がある。
根が素直なだけに相手にそういう態度を見せて変に気を遣わせ、ギクシャクとしてしまう展開もあり得る。
「仲良くしたい、ていうなら成り行きに任せるか相手へちゃんと興味を持ってからの方がいいんじゃないか」
少なくとも春野と日高の事情を考えてといういい子ちゃんぶったかのような理由ではどうにもうまく行くとは思えなかった。
やるならせめて本人が本気でやりたいと思うぐらいでないと成功するものも成功しないだろ。
「どうだ? 期待と全然違う答えが出ただろ」
我ながらひねくれた考えだからな。
「いや。いかにも黒山君が言いそうなことだと思った」
「そうか」
……ここで幻滅でもしてくれれば、気が楽だったんだがな。
安達との関係を未だに振りほどけない現実を改めて直視させられた気分だよ。
「で、どうするか決まったか?」
「いやそんなすぐに結論は出ないよ。でもまあそーだなぁ」
安達が精一杯両腕を天へと伸ばす。
「どうするかはとりあえず保留ってことで」
いやそれ結局何もしないってことだよね。俺が出した意見に沿ってるレベルだよね。
しかしそれなら俺が文句を挟む余地もあるまい。
「そうか」
「ん。あれ、ミユ、ちょっとテンション上がった?」
「ん? いや、別に。何で?」
「何かちょっと……元気? というか明るいというか」
「いまいち言いたいことがわからないよマユちゃん」
少しして帰ってき(てしまっ)た加賀見と、安達はさっそく仲良い会話を交わしていた。