凪の気分を ~先輩の妹が何だかしつこい上に周りの女子もおかしくなってきたような~ 作:冴木甲士
「さて、そろそろやる?」
日高が俺達に確認する。
この五人で決まったとある作戦を。
俺にとってはしんどいことこの上ない作戦を。
端的に言うと、俺が春野と二人きりになって王子や他の男子を牽制する内容だ。
「そーだね……」
「リン、頑張って」
「頑張るっていうか……うん、行ってくるよ」
安達・加賀見・春野が作戦開始に同意する。
「というわけで頼んだよ!」
日高、俺の肩をポンと叩くな。上司かお前は。
「うまく行くかは知らんがな」
何度も警告したのに聞きゃしねえんだもんな、この春野の幼馴染さんは。
「お、お願いします」
春野が淑女然と頭を下げてくるので、俺も突っぱねるのは控えておいた。
「い、いやー、いい天気だね」
初対面か。もうちょっと気の利いた話題はあるだろ。
「春野、俺達は出来たてホヤホヤのカップル演じろ、ていうんじゃないんだ」
「カ、カップル……」
ああ、変な表現使っちまった。
「すまん、不快だったか」
「そんなことないよ!」
ブンブンと首を左右に振る春野。優しいお前ならそういう態度になるよな。
「とにかく、普段通りでいいんだ。気負う必要はないぞ」
そうしてもらわなきゃむしろ俺が困る。
ずっと変なイメージに
「う、うん。これからどうするの?」
「観客席でスマホ見てるとか」
「せめて試合見てあげようよ……」
真面目だな春野。
「ならテニスでも見るか?」
ここから一番試合会場が近い種目を候補に挙げたところ、
「うん、そうしよ!」
春野も同意した。何か去年も春野と二人でテニス見たような。
「そ、それじゃ」
春野は突然俺の腰に腕を回してきた。
瞬間的に避けようとしたが、相手が春野ということもありヘタしたら春野に怪我をさせる恐れもあったので、春野になされるがままになった。
「春野……?」
いきなりどうした。何があった、お前(の頭脳)に。
「え、あ、ゴメン!」
春野が俺の腰から腕を解放した。
「え、えーと、カップルみたいなこと、した方がいいのかな、て、思って……」
何とか説明しようと捻り出したかのような春野の言葉に、やはり俺は首を傾げた。
要約すると次の通りらしい。
今こうして春野と俺が二人で行動しているのは俺が春野に男避けとなってもらうため。
それなら疑似的にもカップルのような素振りを周りに見せればより効果的だと日高の説明から解釈した。
そこで、以前どこかで見たことあるような、恋人の腰に腕を回すシーンが頭に浮かんだ。
それを実践すればいいんじゃないかとふと思い立ち、俺に対して春野がそう行動した、と。
……何というか、春野ってこんな人だったっけ。
春野の行動とその背景に呆れていると、
「ゴメンなさい。何かテンパっちゃいまして」
深々と頭を下げる春野が俺の目の前にいた。
ああもうしょうがない。
こんなシーン、見ようによっては俺が悪者扱いされかねない。
春野に近付こうと企むお調子者が「お前何してんだ」と俺に因縁付けて追い払い、春野に礼を求めるとかそんな展開すらあり得るんじゃないか。
そうなったら本末転倒もいいところだ。
「いや、いい。でも、ムリにカップルらしいことしても不自然なことになるから、そういうのはしなくていいぞ」
俺からすれば逆効果にしか思えない。
「う、うん。そうだね」
頭を上げた春野は俺の意見に賛同した。
その後はテニスとか見て、何とか無事に時間を潰せた。
「いやー、楽しそうだね」
日高・安達・加賀見と再び合流した春野・俺。
「ちょっとゴメン、さっきの話フィードバックしたいから黒山いい?」
と春野・安達・加賀見を置いて日高と俺は別の場所に移動することになった。
一通り春野と俺の行動を報告した。
「そっかー。相変わらずだね、お二人さん」
「そりゃそうだろ」
普段通りに振る舞う二人を周囲に見せるという趣旨だったからな。
「ね、一つ聞かせて?」
「何だ」
「凛華と付き合う気ってないの?」
……何をわかり切ったことを。
「俺は特にそのつもりないんだが。あと前にも似たようなこと聞いてなかったか」
「いや聞いたのだいぶ前だし、もしかしたら気が変わることもあるかなー、とか」
「ないな」
できれば一人で過ごしたいという気分も、特に変わりなしだ。
「じゃあ他の誰かと付き合いたいとか」
日高が言い直す。
「いや、実は既に他の誰かと付き合ってるとか」
「ないな」
「……そっか」
日高にすれば失望するんだろうな、と思ったが日高の表情がさっきよりわずかに綻んでいるように映った。
ん? どういうことだ?