凪の気分を ~先輩の妹が何だかしつこい上に周りの女子もおかしくなってきたような~   作:冴木甲士

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第134話 クイズ

「今日はよろしくお願いします、先生」

 深央が俺に頭を深く下げてくる。

 相変わらずお手本のように綺麗な姿勢だな。どこで習ったんだ?

「よろしくしたくないがよろしくな」

「あら、もっと素直になっていいんですよ」

「安心しろ、素直になった結果の嘘偽りない本音だ」

 今日の下校前に葵・奈央・深央は俺抜きで集まって俺と下校する順番――自分で言ってて何だそれはと思う――を決めてきたらしい。そして今日は深央の番になったらしい。さっきメッセージで説明を受けてきたよ。どうでもいいのに。

 昇降口の近くで背筋を伸ばし静かに佇む深央は今日も制服を綺麗に着こなしている。模範生を体現したような姿が、全て演技だと知っている身からすれば空恐ろしかった。

「では、行きましょうか」

「ああ」

 そんなお行儀のいい美少女と人目に付く場所で屯したくなかった俺は、さっさと深央とともに校舎を出ることにした。あれ、何か昨日も似たような心境になったような。不思議な感覚だ。

 

 

 校舎を出てすぐに、深央から話題が出てきた。

「初めて、ですかね。二人きりで行動するなんてこと」

 そのことが新鮮に感じられたのだろうか。

「そうかもな。中学のときも今も、姉妹二人で相手してたからな」

 中学時代はマンツーマンというわけでもなく、二人いっぺんに演技指導していた。

 高校に入っている現在は、ますます人の増えたグループで行動するのがメインになり、以前久しぶりに下校したときも岸姉妹の二人で一緒にいた。

「懐かしいですね。今でも演技の練習は昨日のことのように思い出します」

「よく覚えてるな」

 俺なんてつい最近まで岸姉妹のことを忘れていた。

 俺の家に連れてきた葵を見た母親が岸姉妹のことに触れなければ、今でもコイツらのことを忘れていたんじゃないか、と思う。

 いや、触れた後であってもこうして岸姉妹に再び会うことがなければやはり時の経つにつれて記憶がフェードアウトしていっただろう。つまりいずれにしても忘れる。

 

「前にも言った気がするが俺と過ごした期間なんてほんの二週間ぐらいだったろ」

 いや三週間だっけ? 一週間だっけ? もはや正確な日数すらまともに覚えていない。

「前にも申したと思いますが、ウチにとっては中学で一番濃密な出来事でしたよ」

「そうなのか?」

「交際したての初々しいカップルの役を練習したり」

「やってないな」

「ハグをしあうシーンにもチャレンジしたり」

「一度もないな」

「彼氏からのプロポーズを受け入れ、キスするシーンもやりましたよね」

「実は何にも覚えてないだろ、お前」

「あれ、先生が彼氏役だった記憶があるんですが」

「断じてない」

 深央の言葉を真に受けた俺がバカだったようだ。冗談で言ってるだけかもしれないが、中学の頃の深央ってこんなジョークを好む奴だったか? 俺との交流がなかった期間に性格変わったのか?

 

 しかし、当時俺が深央に与えた役柄を演じている辺り、

「演技が好きなんだな」

 と思った。

「いや、別に」

 ところが深央はあっさり否定した。

「今のウチって一人称やら、常に敬語の振る舞いは紛れもなく演技だよな」

「ええ。同級生でも年下でも敬語を徹底してます」

 深央が貼り付けたような笑顔を見せつける。俺に対する皮肉みたいな雰囲気が見えた。

「演技が好きじゃないなら何でわざわざ日常的にやってんだ?」

「さあ、何ででしょうね」

 いやお前自身の話だろ。

「せっかくだから当ててみませんか」

「面倒だからいいや」

「そんなこと言わずに」

「いや、別にいいって」

「そんなこと言わずに」

「……」

「そんなこと言わずに」

「何も言ってないだろ」

 突然同じことしか言わなくなった不気味な後輩を前にして、仕方なく相手することに。ああ、メンドくさい……。

 

「何でお前が日常でも演技を続けてるか、か」

「ええ、何だと思います?」

「ギャラがもらえるから」

「別に何の配信にも番組にも出てませんから」

「脅されてるから」

「どこの誰にですか。しかも動機が不明過ぎます」

「好きでもないことを敢えてすることで新たな悟りを得ようとしているから」

「修行の類ではないです」

「じゃあ何なんだ。さっぱりわからん」

「そもそも真面目に考えてないでしょ、貴方」

 そりゃそうだろ。面倒だって言ってんじゃん。

「演技指導のときはあんな真面目にやってらしたのに……」

「そりゃお前らにお願いしてた立場だからな」

 主人公を作りたいという意欲に満ち溢れていたからな、あのときは。

 今みたいに突然深央から演技を続けてる理由を当てるクイズを振られて、あのときと同じモチベーションを求められてもすごく困る。どうしたって再現できる気がしない。

「はあ……いいです。いずれわかることになるでしょうから」

 深央はクイズを打ち切り、以降俺達は他愛のない会話をしつつ下校した。

 

 道中で彼岸花があちこちに咲き、風景の一部が赤く色付いている。うだるような暑さは過ぎ、段々と涼しくなる時期に入っていた。

 




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次回の投稿は 2025/11/15(土) の予定です
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