凪の気分を ~先輩の妹が何だかしつこい上に周りの女子もおかしくなってきたような~   作:冴木甲士

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第140話 触れそうに

 春野の家にて、二人の女子が先日のことを話題にして盛り上がっていた。

「へー、とうとうお互いに!」

「ま、まあね」

 先日のこととは、言うまでもなく黒山とのデートのこと。

 日高から春野へ、黒山との外出にあたってこうすべきというお題めいたものを指定され、それを春野なりにタイミングやペースを見計らって実施するという、春野にとっては意味がよくわからない作戦。

 その成果報告を春野から受けた日高はニヤニヤとしていた。

 遊ばれてる、という気はしないでもなかった。協力してもらってる身の上だからあまり文句も言えないけれど。

「まー、よく考えたら植物園でそれ以上のことやってんのか」

「ちょ、ちょっと皐月!」

 思い出すとまた顔から火が出そうになる。

 植物園にてお互いの食器を使って御飯を交換したこと。

 引き合いに出した日高を、春野は制止した。

 

 ただ、そんな日高について以前と少し変わったことがあった。

 黒山に関する話をしてるときに、たまに妙な雰囲気を出すようになったことだ。

 以前であれば日高は黒山と春野の交友の話を聞く度にどっか下心の感じる笑みを浮かべ、二人の関係を茶化すのが常だった。

 しかし、現在はどこか物思いに(ふけ)るような、一瞬黙り込んでしまうような感じが見て取れた。

 雰囲気が暗くなる、だと過言になるだろうが日高とずっと遊んできた春野にとって、その些細(ささい)な変化はどうにも気になることとして映った。

「皐月、どうしたの?」

 そう注意しても

「え、別に何でもないけど?」

 と否定するばかりだった。

 

 日高も協力している自分の「願い」が達成できないことについて、考え込んでいるんだろうか。

 あまり自分のことで悩んでほしくないと、春野は日高を心配した。

 

 

「……へー、黒山君と、春野さんが、ねぇ」

 雛は葵より、今日の出来事について話を聞いていた。

「うん、最初カップルかと思った」

 葵は雛の部屋にあるベッドを大層気に入り、かつてはそのベッドを使うべく毎日のように出入りしていた。

 しかし、雛の受験の時期が迫っていることもあって遠慮するようになり、葵は雛の部屋にしばらく立ち入らなかった。

 今日は久しぶりに雛の部屋に入ってきたので何だと思っていたら、黒山の目撃談を持ってきた、というわけだ。

 

 元々黒山の交友関係について雛が口を挟む筋合いなどない。

 黒山とはあくまで雛が榊と結ばれるために協力してもらっていた立場であり、その関係は友人とも言い切れるか微妙な線だった。

 今は月に一回、今までの協力へのお礼として外食を奢っているのだが、それ以上の深い交流は特にはない。今のところ。

「でも何でそんな話を私に?」

「えー、いいじゃん。誰でもいいからこのことを誰かに早く話したい気分だったんだよ」

「友達がいるでしょ」

「同じクラスのコは胡星先輩のこと知らないし」

 葵は黒山と他の友達を紹介するつもりはないらしい。

 元々が異性で、なおかつ違う学年の相手となると仲立ちしづらい、という側面もあるのだろう。

 自分も似たような理由で同じクラスの友人と黒山を互いに紹介させるのは二の足を踏んだ。他意はない。

 

「で、私もやらかしちゃったからさー」

「何を?」

「春野先輩って、どっかの変態男に襲われたことあるんでしょ?」

「あー……」

 そんな事件が起こった、というのを去年の校内放送で流れてたのを思い出した。

「春野先輩との話でそのことに触れそうになっちゃって。急いで話を切り上げたんだ」

 葵が雛のベッドでうつ伏せになった。

 枕に顔を埋めたままぼやく姿が、穴に潜って隠れたがる小動物のように見えた。

 

 春野が男性を苦手としていることを、葵は今日のあのときまで知らなかった。

 黒山に対しては平然と話しているのを充分過ぎるほど見ているだけに、そんなイメージがどうも湧かなかったのだ。

 ただ、彼女が男性を苦手としたのには過去に起きたというその事件が一因となっていることも想像が付いた。

 その想像に至った辺りで、葵は春野にとって思い出したくないであろうトラウマを想起させるような気がして、さっさと話を終わらせた。

「でも触れそうになった、てだけで触れなかったんでしょ」

「うん」

「それならあんまり気にしない。むしろ早い内に気付いて未然に防げただけでもエラいよ、アンタ」

「……」

 葵が枕に埋めた顔を上げない。いつもしょうもないことを言い合う間柄なのに、こんなときにいつもと違う反応するのはやめてほしい。ほら、軽口の一つでも叩け、妹よ。

 雛は、先程の自身の発言と相俟って恥ずかしく感じてきた。

 

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