凪の気分を ~先輩の妹が何だかしつこい上に周りの女子もおかしくなってきたような~   作:冴木甲士

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第141話 原因には

 ある秋の日のこと。

「先輩、先日のデートは成功しましたか?」

 下校していると、隣にいる葵から質問を受けた。

「デートではないが、まあぼちぼち」

「私と会った後どこ行ったんですか?」

「駅に行った」

「いや、お店とかそういうのですよ」

「電車に乗ってそれぞれの自宅に帰っていった」

「え……それって即座に解散ということでは?」

「そうとも言う」

 

 葵が少しの間、黙る。

「あの、それってもしかして私のせいでしょうか?」

 葵が神妙な表情で問い掛ける。

 校内でも指折りの美少女がそんな風に自身を責めるような態度でいたら大抵の男は「そんなことないよ」と気を遣うだろうな。多少の下心も込めながら。

「お前には酷だが、原因にはなっただろうな」

 でも俺にとっては葵にそんな配慮をしてやるつもりは、特になかった。

 

 二人で外出しているところで顔見知りに出会い、その行為に対して「二人は交際しているのか」などと冷やかされたら、テンションが落ちるのはさしておかしいことでもないと思う。

 春野も普段は明るく元気な雰囲気をいつも纏った人物であり、葵も春野に対してその雰囲気に甘えてずかずかと踏み込んできたのだろうが、あいにく春野も冷やかされてテンションが落ちる普通の人間だった。

 そんな春野の機微を葵に対してごまかすことに、俺は意味を見出せなかった。

「あの……すみません」

「俺はいいさ。むしろ予定より早く切り上げられたからな」

「……ホント、胡星先輩ってそういうところありますよね」

 そりゃどうも。

「謝りたいなら俺よりも春野に改めてやってこいよ。アイツの方があの後疲れてるように見えたし」

「……そういうところも含めて」

 なぜリピート?

「それと、1つ確認しておきたいんですが」

「何だ?」

「春野先輩が男の人を苦手になった理由って、やっぱり男に襲われたからですよね?」

 ……ああ、そういうことか。

 何であのとき葵が早めに話を切り上げたのか、何となく察した気がするよ。

「多分な」

 春野の心情に関わる質問だから、断言は控えておいた。

 

 

 春野は去年の球技大会において、清掃員を装った変質者の男に襲われたことがある。

 春野はその変質者に一時体を掴まれ拘束されたものの、その後変質者の隙を突いて脱出。そして変質者は逃亡後に逮捕されたそうな。

 春野は以前から男性が苦手だったそうだが、この事件を機にさらに苦手ぶりが悪化した。

 ついでに事件の舞台になった鬱蒼(うっそう)とした森林や、さらには街中や建物で見掛ける清掃員の姿にもトラウマを抱えるようになったらしい。後になって日高に教えてもらった。

 春野の事件は当初公表を伏せられていたが、春野がある理由から校内放送を通じて公表に踏み切ったため、春野がそういう目に遭ったという事実は当時の全校生徒に知られている。

 それが当時いなかった葵にまで知られるところになっていようとは。先輩から後輩へ無遠慮に話が広がっていったのか。

 奄美先輩と奄美妹こと葵みたく兄弟姉妹で同じく九陽高校に通っているのも普通にいるだろうし、そういう身内から伝播する線は大いにあり得るか。

 

 ちなみに、春野が以上のような目に遭っておきながら、なぜ俺を相手にあそこまでの対応ができるのかは俺もわからない。

 だが、あの事件については俺もある負い目(・・・)があるだけに、春野にあまり強く出られないのは確かだった。

 

 

「春野先輩には後日会って謝罪しようと思います」

「そうか」

「それとは別で、もう1つ先輩に確認したいことがあるんです」

「何だ?」

 

「姉とのデート、もうすぐですよね?」

 

 出たよ。デートって単語がまたしても。

 葵が言っているのは数日後に控えている奄美先輩と俺で月に一回にやってる外食のことであろう。

 奄美先輩が俺への今までのお礼として俺にご飯を奢るという内容だが、今度で二回目になる。

 前回がもう1か月前だというのに、そんなに時間が経った気がしないのが不思議な気分だった。

「デートじゃないからな」

 でも、断じてデートではない。

「春野先輩に続き姉ともデートって、どこまで女をとっかえひっかえすれば気が済むんですか貴方は」

 ほら、聞きゃしない。葵のこの態度にもすっかり慣れたよ。

 

「お前のいうデートってどういう意味で使ってるんだ」

「家族でもない男女が二人きりでプライベートなときに遊んでるならデートと見る人が多いと思いますが」

「なら、今のこの状態もデートと呼ぶのか?」

 放課後という学校での用事が終わって帰宅するだけの、いわばプライベートな時間帯でこうして葵と俺が二人だけで雑談するだけの状況も第三者から見たら相当怪しくなっちまうぞ。俺がコイツらとの下校について嫌なのもそれが一因にはあるわけだし。

「……他の人には、そう誤解されるかもですね」

 葵が淡々と言い放つ。

「それならお前が春野や奄美先輩に対してやるのも、誤解になるな」

「……はあ、もういいです」

 やれやれと口に出そうなばかりの葵。前にも思ったが将来大物になっても違和感のないぐらいふてぶてしい態度だな。

 

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