凪の気分を ~先輩の妹が何だかしつこい上に周りの女子もおかしくなってきたような~   作:冴木甲士

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第142話 目の前には

 今日は月に一回ある、奄美先輩との外食の日。

 誰かと一緒に過ごすという意味では苦労する日だが、一方で前回奄美先輩が連れてってくれたレストランは確かに料理がおいしかったので、ささやかな楽しみでもあった。

 そのはずだった。

 

 奄美先輩に連れられるがままに向かったのは遠めの場所。

 前回岸姉妹という俺達の顔見知りと鉢合わせてしまったことを反省したのだろう、今回目的地への距離が長くなったのは仕方ないと思う。

 交通費は奄美先輩が立て替えてくれるとのことなので、俺も否やはなかった。

 しかし、問題は辿り着いた場所が飲食店ではなかったことだった。

「奄美先輩、ここは……」

狩野(かのう)レジャーランドよ」

 いや、名前を聞きたいわけではなく。

「ここって飲食店というよりも遊園地では……」

 

 俺と奄美先輩の目の前には、大きな入園口が建っていた。

 小さな子供向けにデザインされたらしきファンシーな佇まいの入口。その向こう側には観覧車やジェットコースターと思しき建造物がこれ見よがしとばかりに背景を成していた。

 世間一般に想像される遊園地の風景そのものだった。

「ええ、見ての通りね」

 おおう。奄美先輩が俺に対して「何当たり前のことを」と言わんばかりの態度で受け答えてらっしゃる。

 ひょっとして俺が今回の予定を聞き流してたのかな。奄美先輩が「今回は遊園地で遊ぶわよ」的なことを書いたメッセージとか見落としてたのかな。

 でも以前の約束だと食事に連れていくという内容だった記憶が。

「確認よろしいですか」

「何かしら?」

「今日は奄美先輩が自分をお食事に連れてってくださると認識してたんですが、相違ないですか」

「合ってるわ」

「ならなぜ遊園地に?」

「遊びたいからよ」

 ダメだこの先輩。コミュニケーションはできてるのに会話がまるで成立しない。

「なぜこのタイミングで?」

 と改めて問うと、奄美先輩がやや間を置いて答えた。

 

「もう一つ付け足すと、受験でのストレス解消もしたいのよ」

 ……ああ、そういうことですか。

「友達も受験勉強でタイミングを合わせづらいし、家族と行くには気恥ずかしいし、だからって一人で行くのも億劫になっちゃって。そこで貴方と一緒に外出するタイミングならちょうどいいと思ったのよ」

 つらつらと事情を説明してくれる奄美先輩。俺が指摘するであろう箇所を徹底的に潰してる感があった。

「ちなみにこのことって事前に連絡入ってましたっけ」

「ゴメンなさい、ちょっとしたサプライズをしたくって」

 確かにサプライズです。あまり良くない意味で。

「承知しました。自分なんかが一緒でよければ」

 こうなったら仕方ないと、俺は奄美先輩と遊園地(確か狩何とかレジャーランド)で遊ぶことにした。

 

 

「奄美先輩、まずはどれで遊びますか」

 入口で手に入れた地図を広げ、奄美先輩に見せる。

「最初は黒山君が乗りたいものにしましょう」

 奄美先輩がこれまた優雅に返答した。

 乗りたいものにしましょう……と言われても。俺の今やりたいことが家に帰ること一筋なのに。

 そう考えていると、地図の中のとあるアトラクションが目に付いた。

「何かお化け屋敷あるみたいですね」

「あら、そうなの?」

「最初はここでもいいんじゃないですか」

 普段から冷静沈着な奄美先輩ならこんなのにビビることもなく平気でスルーするかもな、と思っていたら

「うーん。それは別にいいんじゃない?」

 そんな軽くいなす言葉と裏腹に、体がやや落ち着きなく揺れていた。

 よくよく見ると視線もちょっと泳いでいた。

「先輩、ちなみにお化け屋敷とかは……」

「苦手ではないわよ」

 食い気味に返事してきたよ、この先輩。

「はあ」

「ただ、ちょっと価値がわからないだけよ。あからさまに作り物のセットで、これから主催側が驚かすのがわかり切ってる場所なのに、怖がるも何もないじゃない。決して怖いからダメってことじゃないの。理解できたかしら?」

「あ、はい」

 よく理解できました。奄美先輩がホラー苦手だってことが。

 

「……やっぱり、最初は奄美先輩が行きたいアトラクションにしましょうか」

「え、でも……」

「自分は後でゆっくり考えます」

「……そう」

 ということで、奄美先輩に譲ることにした。

 




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