凪の気分を ~先輩の妹が何だかしつこい上に周りの女子もおかしくなってきたような~   作:冴木甲士

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第143話 言霊

 気を取り直して。

「奄美先輩、決まりましたか?」

「そうね……あれにしましょう」

 とコーヒーカップ型の乗り物を指さした。

 中心にハンドルが付いててそれを回すと乗り物もグルグル回る奴。遊園地なら置いてない方がおかしいほど定番の奴ですね。

「わかりました。ちなみに先輩、乗り物酔いとかは平気ですか」

「ええ、それは間違いなく平気」

 奄美先輩、その強調の仕方だとお化け屋敷に入らない理由(さっきの言い訳)が嘘と言ってるように聞こえますよ。

 

 行列に並ぶうちに順番が来て、二人でコーヒーカップに乗り込んだ。

 奄美先輩に先を譲った後で俺が席に着く。

「あら、もっとこっちに来てもいいのよ」

 先輩とは真向かいの場所に腰掛けたらそんな提案が。

「回転するから、離れてないと危険だと思いますよ」

「あ……そうね」

 俺の指摘に顔を赤らめる先輩。この人たまにこういう抜けたところがあるな。

 そうしてハンドルを適度に回し、適度に楽しんだ。

 奄美先輩も適度に楽しそうだった。

 

 

 さて、次は。

「次に乗りたいものはありますか」

「ちょっと休みたいわ。あそこでソフトクリームでも買わない?」

 まだ1個目なのにもう休みたいとは。いや俺としては助かるから別にいっか。

 そんな奄美先輩は小さな屋台へそこはかとなく物欲しそうな視線を向けていた。

 食べたいんですね、ソフトクリーム。

「自分が買ってくるんで、先輩は空いてるベンチを確保してくれますか」

「わかったわ」

 と役割分担した上で、俺は屋台に向かった。

 

 ソフトクリームを両手に持ち、奄美先輩が確保したベンチに移動した。

「はい、先輩」

 ソフトクリームの1つを奄美先輩に渡す。

「ありがとう。値段は……」

「ああ、まあお代はいいですよ」

「え?」

 奄美先輩にはここに来るまでの交通費や入園料を負担してもらい、さらにこの後の食事まで奢ってもらう予定なのだ。

 さすがにここまで奢られまくりではありがたさよりも罪悪感の方が勝ってくる。

「でもそれは……」

「ソフトクリーム代なら別に問題ないです」

「……そう、ありがとうね」

 ソフトクリームを片手に、奄美先輩は微笑んでお礼を言った。

 

 

 そして休憩も終わった後。

「どうします、奄美先輩?」

「そうね、時間的にこれで最後にしましょうか。ご飯も控えてるし」

「そうですね」

「なので、最後は黒山君が行きたい場所で」

 ああ、そういえばそうでしたね。

 でも別に行きたいアトラクションがないんだよなあ。

 しょうがないのでとりあえず

「観覧車はどうですか」

 と提案した。

 ジェットコースターも考えたがその手のスリル全開のアトラクションは何となく奄美先輩が苦手な気がした。

 さっきのお化け屋敷のときみたいなリアクションを取られたらこっちがメンド臭いのもあり、ここは無難な方にした。

「ええ、そこにしましょうか」

 案の定、奄美先輩からも異論は出なかった。

 というわけで観覧車に乗り込むことに。

 

「いい眺めね」

「ええ」

 観覧車に上げられて空高くから見下ろす光景は、なかなかのものだった。

 狩何とかレジャーランドの俯瞰図(ふかんず)を、平面的な地図ではなく肉眼で眺めるのは当然ながらいろいろと違う趣を出していた。

 地図だけでは確認できない、遊園地の外の景色も一望できた。

 

 ところで観覧車ってラブコメで遊園地が舞台になった場合に乗り込むアトラクションとしてはお馴染みな気がするが、主人公かヒロインが高所恐怖症だったら当てはまる方にはなかなかの苦行だし、そうなると乗り込まない展開にせざるを得ないと思う。ということはラブコメの主要人物って高所恐怖症は少ないのかな。

 ちなみに奄美先輩は以前の外出で風車の高い所から眺めを楽しんでいた。高所恐怖症ということはあるまいと見て、俺も提案したのだった。

 そんなどうでもいい方向へ思考が逸れていくなか、奄美先輩は観覧車からの風景を堪能しているようだった。

 

「今、何を考えているか当ててみましょうか?」

「どうぞ」

「お(なか)が空いたなあって」

 全然違った。何なら言われるまで特に気にならなかった。

 しかし、言われてみると急に空腹感が呼び起こされたようにもたらされる。何だこれ、これが言霊(ことだま)というものなのか。それとも奄美先輩は催眠術師なのか。いや、単に時間も時間だしタイミングが重なっただけだな。

「さっき食べたのがソフトクリームぐらいですもんね」

「あれもおいしかったんだけど、お腹を満たすにはちょっとね」

 奄美先輩が外食をセッティングしてくれるなか、その前にがっつり食べるのも気が引けて俺はそれ以上の摂食を遠慮していた。

 奄美先輩も結局ソフトクリーム以外は口にしていないので、腹具合は似たようなものだろう。

 まさか自身も空腹だから俺の空腹も予想していたのでは。確認はしないけど充分ありそう。

「今日はどの料理屋になるんですか」

「ふふ、来てのお楽しみよ」

 奄美先輩が子供をあしらうように、余裕の態度で返す。

 メッセージにて本日の外出の詳細が事前に送られたときでも料理屋の詳細はそんな感じで内緒にしてたっけな。

 でもその手のサプライズは今こうして遊んでいる遊園地の件でもう済んだのかと思ってたよ。まだサプライズを取ってるのか。

 まあ食事自体の件は奄美先輩がそんな的を外すとも思えないし、別にいいか。

「わかりました。楽しみにしてます」

「ええ」

 それ以降は基本観覧車の窓から地上の景色を堪能し、時折目に付いた箇所を話題に雑談をした。

 




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