凪の気分を ~先輩の妹が何だかしつこい上に周りの女子もおかしくなってきたような~   作:冴木甲士

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第145話 中途半端

 葵が黒山と下校した翌日に、葵は春野を空き教室に呼び出した。

 かつて黒山と雛と葵の三人が屯していた教室である。

 誰も使わなくなって久しいゆえか、前に入ったときよりもやや(ほこり)っぽかった。

「すみません、春野先輩」

「大丈夫だよー。それよりどうしたの?」

 いつも快活で、優しい雰囲気の人だが今日はいつもよりもこちらを気遣っているように見える。

 後輩が一対一でも話しやすいようにしてくれているのだろう。勘ではあるが、この人の場合天然でそういう風に振る舞える人なんだろうと葵は思った。

「先日、胡星先輩のデートの件でお邪魔してしまって、ごめんなさい」

 葵は、発言とともに頭を下げた。

「あ、あー。別にいいよ。デートってわけでもないしね」

 春野もすぐに思い当たったようで、あっさり許した。

 春野の浮かべた柔らかい笑みが彼女の器の大きさを窺え、同時に少し劣等感をもたらした。

 

 正直に言うと、葵は春野に対して気になることがあった。

 どうして黒山とだけは平気で接していられるのか、と。

 例の事件を通して男性を恐れて苦手になったのなら、同じように男性である黒山に対しても恐怖を抱いて(しか)るべきなんじゃないか、と。

 しかし、今それを聞くのはタイミングが悪い。

 結果的に黒山と春野のプライベートを邪魔してしまった以上、そして自身の謝罪の場にわざわざこうして時間を割いて足を運んでもらった以上は、こちらも春野により迷惑を掛けるようなマネは慎まなければならない。

 葵は、沸いた疑問を懐に仕舞った。

 

 

 雛と黒山が遊園地へ行った日。

 雛は黒山と別れた後、寄り道することもなくまっすぐ家に帰った。

「ただいま」

 と惰性的に挨拶を掛け、リビングに居る両親の「おかえり」という言葉を聞きながら、自分の部屋に戻る。

「や、おかえり」

 部屋の中では雛の妹がベッドを占領していた。

 

 葵には今日の雛の予定を話している。

 好奇心旺盛なこの妹は、土産話を待っていたのだろう。

「今日はもう疲れてるんだけど」

「へー」

 葵はベッドの上から全くどこうとしなかった。

「ベッド空けてくれない?」

 雛としてはさっさとベッドの上に寝っ転がってしまいたかった。

 外出は楽しかったが、終わると疲労感がどっと出てきてるのは事実なのだ。

「はーい」

 葵は存外素直にベッドから離れてくれた。

 いつもなら言っても聞きはしない彼女が、今日はどうしたのか。

「それはそうと、今日のこと聞かせてよ」

 葵は笑うでもなく茶化すでもなく、真面目な表情で切り込んだ。

 

 雛が仕方ないと葵に今日の出来事をかいつまんで説明した。

 途中葵が細かく詰めてくる箇所もあったが、とりあえず嘘を吐くこともないと、雛は正直に話した。

 雛の話を聞いた葵は、

 

「お姉ちゃんって中途半端だよね」

 

 という感想をぶつけそうになった。いけない、とすんでのところで口を噤んだ。

 何が中途半端なのかは、言わない。

 でも、やってることに煮え切らなさが感じられてじれったい。

 葵からすれば雛に対して「この人は何がしたいんだろう」という思いがどうにも出てきてしまう。

 

 ただ、雛の立場からすればそうせざるを得ないのだろうという事情も何となく察していた。

 榊という意中の相手と結ばれたいが友達に協力を仰ぐのはいろいろ難しい。

 そこで偶然にも自身の状況を知ってしまった後輩の男子が現れ、やむにやまれず協力を求めた。

 そんな関係から始まった以上、雛にしてもやれることには限度があるのだろう。

 自分でも雛の立場なら似たようなことをしたのかもしれない。もっとも、雛の立場で榊という人に惚れるかどうかは別の話だが。

 

 雛からすれば、協力に選んだ相手が悪かったのだ。

 

 それでも、雛がもし黒山に協力を頼まなければ、自分がこうして黒山と関わることもなかっただろう。

 そういう意味では雛に感謝すべきなのかもしれない。本人に直接言葉にするつもりはないが。

 




諸般の事情により、年末年始は投稿をお休みさせて頂きます。
次話の投稿は 2026/1/13(火) の予定です。

日頃よりご愛読頂いている皆様には申し訳ございませんが、何卒よろしくお願い致します。
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