凪の気分を ~先輩の妹が何だかしつこい上に周りの女子もおかしくなってきたような~   作:冴木甲士

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第146話 まだまだ知らない

 めっきり涼しくなったが紅葉の時期にはまだ早い。

 そんな秋の風景を眺めつつ下校の道を歩くのも悪くない。

「今日はちょっと寒いぐらいですね、先生」

 ただし、一人なら、という条件だが。

 

 岸妹、岸姉、奄美妹のローテーションで実施される俺との下校。

 何でこうなったのか全くもって不明だが、そんな文句を言っても始まらない。

 今日は岸妹こと深央が当番のようだった。

「どう思いますか、先生?」

 深央への返事をすっぽかしていたら深央が俺の横から前へと移動して問うてきた。

 手を後ろに組みながら向かい合う形で立ち止まった深央の表情は、とても柔和に見えた。なるほど、人から好かれそうな笑みだな。

「ああ、今の時期まで猛暑日じゃなくてよかったと思うよ」

「この時期までそんな日だったら天変地異ものですね」

 そこまでか?

 

 深央が再び俺の横に戻り、歩きを再開した。

「先生は暑い日と寒い日どっちが好きですか?」

 とここで深央がどうでもいいような質問をしてきた。話のネタに困ってるならムリしてしゃべらなくてもいいのに。

「どっちもイヤだな。暖かいか涼しいかの方がいい」

「身も蓋もない人ですね」

「今知ったのか」

「いえ、中学のときから」

 そうかい。

「でも付き合いはまだそんなに経ってません。先生についてはまだまだ知らないことの方が多いぐらいでしょう」

「だろうな」

 俺が教えてないような俺の個人情報をお前らが知ってたらその方が怖い。

「知らなかった結果迷惑を掛ける事態になるのも避けたいので、先生の情報は差し支えなければ知っておいた方がいいかなと思いまして」

「俺が暑いのと寒いのどっちが好きか、て情報が何か役に立つのか?」

 悪いが俺の想像力ではとんと思い浮かばない。

「あら、役に立つかもしれませんよ? 例えばどこか出掛ける際にも場所選びの参考になりそうですし」

 やっぱどうでもいいんじゃないか。それお前が俺と一緒に旅行とかすること前提だし。そんな機会まずないし。

 

 まあ、深央が俺を知らないのと同じように、俺も深央のことはよく知らない。

 今のように人に対してここまで細かいことを知りたがるような性格とは思わなかった。

 中学の頃に俺と交流して得た深央の印象を平たく言うと、もっと他人に興味を持たないタイプか、と思った。

 俺の主人公になるための演技指導を受けた理由からも察するに、深央は基本面白そうか否かで行動する性格だ。

 

 そうなるとやはり気になるのは深央が未だに演技を続けている理由だ。

 主人公のように目立つ演技を人前で披露しているのは、やはり主人公になることに興味があるのではないか。

 その場合、他校にいた頃は面倒だからやらないと言っていたが今になってやっていることが引っ掛かる。他校でも構わずやればよさそうなものだが……。

 

 ……ひょっとして俺にフィードバックを期待している?

 奴らを主人公になるために指導してきた俺のいる場で主人公然と振る舞い、その評価を事情の知っている俺に求めているのだろうか。

 奴らからそれを直接頼まれたことは特にないが、そこは気恥ずかしくて俺に言えずにいるだけなのか?

 一度思い付くとこれが正解なように思えてくる。何せ現在これ以上に妥当な推測がない。

 深央や奈央に演技の成果を教えてやれば、コイツらは満足して離れるのだろうか。ちょっと検討してみるか。

 

 

 俺が考え事をしていたとき、深央から新たに質問された。

「ところで、葵さんのプレゼント選びっていつになるんですか?」

 ……ん?

「アイツにプレゼント……って何でだ?」

「え?」

 深央が首を傾げる。いや俺の方が「え?」だわ。

「葵さん、来週誕生日なんですよね」

 あ。

 




すみません、執筆の時間を充分に取るのがまだ厳しい状況です。
次話の投稿は 2026/1/27(火) の予定です。

日頃よりご愛読頂いている皆様には申し訳ございませんが、何卒よろしくお願い致します。
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