凪の気分を ~先輩の妹が何だかしつこい上に周りの女子もおかしくなってきたような~   作:冴木甲士

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第148話 緑の雫

「それより葵の誕生日どうするか考えてるの?」

 加賀見が俺への抗議も何のそので話題を変えてきた。いやまあそれが本日のメインではあるんだけどさ。

「そうだな……」

 仕方なく葵の誕生日プレゼントを検討する。さて、何がいいのやら。

「あ」

 ふと思い出したことがあって思わず声が漏れる。

「何?」

「アイツが欲しいプレゼント、前に本人から聞いたな」

「え? そんな(はなし)したっけ?」

「いや、お前らと一緒にいるときじゃなく葵と俺の二人で外出したときに」

「二人で?」

 加賀見はいつもの眠たそうな半目に、いつもの無表情を呈していた。

 それだけに語気の強さが少し気になった。加賀見の機嫌を害したときなら普通だけど今はそんな話題でもないだけに。

 

「ああ。奄美先輩の誕生日プレゼントを選んだことがあってな」

「へー」

 加賀見には話してなかったっけな。いや、安達とか他の連中にも話してなかった気がする。

 加賀見のリアクションを見るに、葵も進んでこの件を話題に上げなかったようだ。身内のことだしそんな機会もなかったのだろう。

「それで、葵は何が欲しいって?」

「確か耳に付けるアクセサリーだったような」

 ガラス玉の付いた奴だったと思うが、如何せん詳しく思い出せない。

 

「葵に聞いた方が確実だな」

「それはよくない。今までの皆も誕生日プレゼントの中身は本人に内緒で選んでた」

「よくない、ねぇ。全員からのプレゼントがどれも不発になるよりかは本人に欲しいのを直接聞いた方がマシだと思うんだが」

 前々から心の中で引っ掛かってた部分を、この際加賀見にぶつけてみた。

 他の女子達なら多少は遠慮も働いたが、今この場にいるのが加賀見だけと思うと特に気にしようとも思わなかった。

「……実際に葵の反応がそんな感じになったら次回から皆で考え直すよう持ち掛けてみる」

 加賀見も特に俺の考えに異論はなかったようだ。

 ただ加賀見の挙げた方針も葵を犠牲にするようでどうかと思うが、今までその調子でプレゼントを受け取ってきた奴らの手前、俺達だけでやめようと言い出せないのもあったんだろう。

「そうだな。しゃーない、とりあえずお目当てのアクセサリー探すか」

「うん」

 ということでまずそこに足を運ぶことに。

 

 

 耳に付ける用のアクセサリーを見て回ること数分。

「どう? 思い出せた?」

「そうだな……雫っぽい形ってところまでは」

 あやふやな記憶を頼りに、俺と加賀見で何とか当てはまる形のものを絞り込んでいく。

「それにしてもアンタが葵とここを巡ってたのが不思議」

「先輩のプレゼント選びならおかしいこともないだろ」

「うん、それはそうなんだけど。何か雰囲気が想像できなくて」

 うん、俺も自分がアクセサリーを真剣に物色してる姿に違和感を覚えてるよ。

 奄美姉妹とかお前ら女子達との関わりがなければ一生足を運ぶこともなかったと思うよ。

「あ、でも、水族館のときは二人とも結構気の置けない感じだった」

 急に話が飛んで何のことやらと思ったが、水族館って夏休みのときのことか。

「二人って俺と葵のことか? そんな距離感のこと話されてもピンと来ないぞ」

「そう?」

「あんなの葵が俺のことを適当にからかってるだけだろ」

 俺にとっては取るに足らないレベルだがな。目の前の悪党に不本意にも、それはもう不本意にも鍛えられたお陰だけれども。

「フ、葵も一つにはそんな気持ちで動いてるかもね」

 加賀見が口元に手を持ってくる。さすが悪党、悪い雰囲気が程よく出ててサマになっている。

 

 

 ここで、突如として記憶が蘇ってきた。

『あ、これってどうですか?』

 葵はそのとき、自分の耳元にアクセサリーを持ってきて、あたかも付ける素振りをしてたな。

『いや奄美先輩のプレゼントにするんだろ。お前が着けようとしてどうするんだ』

『でも、私の誕生日にこういうアクセサリーを贈ってくれたら素敵ですね』

 

 

 そんなことを言いながら、葵が手に取ったのは。

「黒山?」

 急にアクセサリーの棚の、とある一点へ向かっている俺に加賀見が呼び掛ける。

 それに構わず、目当てのアクセサリーを見つけた俺は、手に掴んで加賀見に見せた。

「……葵が欲しがってたのはこれだ」

 お店の照明に当てられ、キラキラと輝く緑の雫。

 俺の思い出した記憶通りの見た目をしたアクセサリーは、まだ売り切れてなかったようだ。

 

 

「よかった、葵の欲しいプレゼント見つかって」

「確定ではないけどな」

 あくまでも俺の記憶頼りである以上、間違いの可能性も残されている。

「もっと自信を持ってもいいんじゃない?」

「どっかの同級生のせいで記憶力に自信がないんでな」

 件のイリュージョン絡みの記憶がしばらくの間ごっそりと想起できなくなっていたのはさすがどっかの同級生だと思ったよ。

 

「……黒山」

「ん?」

「ミユの誕生日ももうすぐだから、きちんと覚えておいて」

 ああ、そうだっけ? と思ったが安達の誕生日を去年やったのも今ぐらいの時期だっけ。

「……11月だったか?」

「11月27日。忘れたら相応の罰が当たる」

 いや罰って。天罰みたく言ってるけど確実にお前が執行人だろ。

 

「逆に覚えてたら何か御褒美を与えてもいい」

 

 加賀見からこの上なく胡散臭い言葉が飛び出てきた。

 俺の顔は見ず、俺の横に並んで歩いている前の方を向き続けていた。

「なら当面俺と関わらない方向で」

 それなら全力で安達の誕生日を記憶するわ。

「やっぱ御褒美の話はなし」

 ほらやっぱり。でも前言撤回早すぎるだろ。

 




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