凪の気分を ~先輩の妹が何だかしつこい上に周りの女子もおかしくなってきたような~   作:冴木甲士

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第150話 一日だけ

 葵の手引きにより夕暮れの公園にやってきた。

 案の定ここに来た頃にはほぼ夕焼けのオレンジが消え、夜に本格的に移る前の紫と黒が入り混じった空が公園を彩っていた。

「さて、先輩」

 葵がバッグからある物を取り出す。

「このアクセサリー、私の耳に付けてもらえません?」

 加賀見と俺がさっき渡した雫形の耳飾りだった。

「自分で付けた方がいいんじゃないのか?」

「せっかくの誕生日なので、色々楽したいんです」

 いや楽て。アクセサリーを耳に付けるのまで面倒がってたらもはや息をするのも面倒がるレベルじゃないか。

 

 俺が葵から手渡されたアクセサリーを確認する。

 どうやら耳に挟み込むタイプのようで、ピアスなしにそのまま耳へ装着できるようだ。

「じゃ、行くぞ」

「はい」

 葵の耳たぶに触れた瞬間、葵に電気が走ったような震えが走ったのを見た。

「なあ、やっぱり自分で」

「え? 何でですか? 私は全然平気ですよ」

 俺の言葉に割り込み葵は平然を装う。

 俺が言及する前から「平気」なんて単語が自分から出てる時点で俺に触れられるのを我慢してるのが丸わかりだった。

「さ、先輩」

 しかし葵は、俺に続きを促した。

 コイツ俺に対して積極的に手を握るとかやってるのに何で今日に限ってこんな接触が苦手になってんだ。実は葵に変身した別人なんてオチじゃないだろうな。

 

 仕方なしに再開することに。

 周りが暗いのもあって葵の耳元に目を寄せるべく、顔を近付けた。

 必然、俺の顔のすぐ近くに葵の顔が接近する構図となる。

「……」

 葵は俺が顔を近付けると同時に頬を赤らめたかと思うと、目をそっと閉じた。

 普段は気丈な葵でも、人、ましてや異性の顔が間近にあることに気恥ずかしさが出てきたらしい。

 俺はというと、特に気にしなかった。

 目も口も閉じられた端正な顔貌の葵の姿からは、優れた芸術家が創作した人形のような、精緻で静謐(せいひつ)な美を感じられた。

 葵が無言になったことで作業に集中しやすくなった俺は再び葵の耳を手に取り、さっさとアクセサリーを取り付けた。

 

「ほら、できたぞ」

 という俺の報告とともに、葵は目を開けた。

「ありがとうございます」

 葵が普段よりもやや神妙な態度でお礼を述べ、鞄から手鏡を出した。そんなの常備してるのか。

「うん、やっぱりいいですね、これ」

「そうかよかったな」

「胡星先輩はどう思います?」

「早く帰りたいと思う」

「真面目に聞いてるんです」

 あーもー、面倒だなこの後輩。

「似合うんじゃないか、お前の(つら)には」

「フフ、そうですか」

 似合うという答えに満足したのか、葵が笑みをこぼす。

 コイツには普段から取り繕ってる愛想笑いよりも、こっちの自然に出てきた笑顔の方がやっぱ合うな。

 ふとそんな感想が出てきた。

 

 

「それでもう一つ欲しいプレゼントなんですけどね」

「ああ」

 

「今年のクリスマスイブの一日だけ、私の彼氏を演じてほしいんです」

 

 いつか聞いた言葉を、俺は同じ奴から再び聞かされた。

「……少し考えさせてくれ」

 それっぽく言えばごまかせるだろう。

 そもそも俺は既に葵にプレゼントを渡している。これ以上奴に何かを贈る義理もない。

「……本当に考えてくれます?」

 葵もいい加減にいい加減な俺の性格がわかっているようで、そう簡単にごまかされてはくれなかった。あら。

「即答できる類のもんでもないだろ」

「そうですか? むしろ今からなら予定が開けられると思うんですけど」

「お前がその頃には既に別の彼氏ができてるかもしれないぜ」

「それはないです」

 おい、何だその断言。どんだけ恋愛に興味ないんだお前は。

 

「あーでも先輩こそ、その頃には別に彼女さんができてるかもしれませんね」

「それはない」

 俺の方は断言できるよ。

 だって誰かと付き合うつもりが微塵もないんだから。

「とりあえず、よろしくお願いしますね」

 例によって俺の返答も意志を無視した葵が、あたかもクリスマスイブの予定ができ上がった前提で話を進めた。

 

 葵の楽しそうな笑顔が、いっそ腹立たしいぐらいに華麗な姿に似合っていた。

 




拙作が150話に到達いたしました。
前作と同じ話数まで執筆できたのは、読者の皆様からの応援に支えられたお陰です。
いつもありがとうございます。

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