葵の誕生日が終わり、今日は奈央と下校する日。
「胡星さん、ちょっと聞きたいんだけど」
「どうした。ピッキングのやり方なら知らんぞ」
「興味ない」
「ホストを本気で落とすにはどうしたらいいか、とかか」
「だから違う」
「まさか密猟したのがバレかかってるのか。だからやめとけって言っただろ」
「一度もしたことないわ! 何でどれもこれもヤバい方向なんだよ」
いやあ、一人称が僕のギャルとか特殊過ぎて日常も特殊なものかとばっかり。
「聞きたいのは葵のこと」
ほう。
「葵のことなら葵に聞くのが一番だ」
「あーそうだね、ならそうするわ、てわけにもいかなくてさ」
そうなの? よくわからないけど何かややこしいね。
「先生、葵と何かあった?」
これはまた異なことを。
「何かと言われても何もないな」
「誕生日の後の葵、以前よりちょっと気分が弾んでるんだよね」
「そうなのか?」
今日の昼でもお前らが例によって俺達の教室に来て雑談かましてたが、いつも通りだと思ったぞ。
「ちょっとだけね。気のせいかなと思って深央にも確認したけど深央も葵に同じことを感じたって」
奈央の歩くのに合わせ、奈央のイヤリングが前後に揺れている。
日常においてギャルを演じている奈央は今日も元気にギャルっぽい格好をしていた。
紅色へ染めた髪に周りを囲まれつつしっかりと出された耳には、紫のイヤリングが光沢を放っていた。
「そこで胡星さんに何か心当たりないかなーって」
「葵の雰囲気と俺がどう関わってるんだ」
「僕らん中じゃ一番葵に影響しそうなの胡星さんだよ」
「どういうことだ?」
今一つ要領を得られない。
「まー胡星さんが心当たりないならいっか。それより包陽祭のことも聞いてみたいし」
奈央が葵の件を打ち切り、我が校の文化祭こと包陽祭の件へと話題を移す。まあいいなら最初から聞かなければよかったのでは。
「包陽祭なら四月にやったぞ」
「転校生なら引っ掛かるだろと言わんばかりの大嘘吐くのやめてくんない? とっくに校内もバリバリ準備ムードだろ」
そっか、引っ掛かんないか。
「高校の文化祭って初めてでどんな感じか気になってさ」
「以前いた高校じゃやんなかったのか」
「いや、別に」
学校によっても文化祭を催す時期は区々だろうから、岸姉妹が既に経験している可能性は優にあったが実際は文化祭未体験らしい。
「それじゃしつもーん」
ハイ、と奈央は威勢よく手を挙げた。今は授業中じゃないから要らないぞ、そんな仕草。
「包陽祭ってデートするカップルとかやっぱ多いの?」
いきなり恋愛一色な質問が飛んできた。
「知らん」
「えー、去年参加したときの周りの雰囲気とか思い出したらさー、大体わかんでしょー」
「そんなに周りのこととか注意しないしな。あと1年前の光景とかうろ覚えだ」
「なんだつまんない」
白けたのが一発でわかる表情を見せながら奈央が吐き捨てる。
「文化祭を通して好きな人にアプローチするのとか多いんじゃない?」
「どうだかな」
青春まっしぐらの爽やかな学校生活送ってたらそんな浮かれた展開もあるかもな。
でもあいにく去年の包陽祭で俺の見た限りでは、春野・日高という校内でもとびきり爽やかそうなあの二人にさえそんな甘酸っぱい情景はなかったぞ。
「あ」
でもアイツにはあったな。
「お、何か思い出した?」
「榊っていう俺の同学年で冗談みたいにモテる奴の周りでは文化祭にデートを誘われまくってたな」
俺がそのシーンを目撃したのは女子一人分だけ。
未遂も含めると俺が当時協力していた奄美先輩のもう一人。
俺が知ってるだけで二人いるんだから実際にはもっといたことが簡単に想像付くな。
「あー、何か同級生がその人の話とかしてたっけ」
「有名人だからな」
容姿・能力に優れているという理由だけで校内での知名度を上げてきた男だからな。
二学期目となれば一年生達の間にもすっかりその名声は定着していることだろう。
「まーその人の話はいいや」
「あれ、恋愛事に興味あるわけじゃないのか?」
「え? あー、もっと違う人の分もいろいろ聞きたいんだよね」
違う人の分と言われても。
「俺が知ってるのは榊のケースぐらいだぞ」
「えー、胡星さんの身近でそんな恋愛じみたシーンなかったん?」
「シーンってドラマかよ。俺や女子四人にもそんな浮わついたのはなかったな」
「……ホントにホント?」
おお、妙に疑うな。
「休み時間と何ら変わらんノリで文化祭巡ってた記憶しかないな」
いやマジで。当時は誰かが、というか四人全員がよその男にナンパされて俺も解放される可能性に賭けてたのに全くそんなことはなかったな。
「……どんな感じかわかったかも」
何がおかしかったのか奈央は含み笑いをした。