凪の気分を ~先輩の妹が何だかしつこい上に周りの女子もおかしくなってきたような~   作:冴木甲士

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第153話 義務

 文化祭の道具を何個か作っていくうちにそこから出てきたゴミを放り込んでいたゴミ袋が満杯になった。

「ゴミ捨ててくる」

 女子四人と体よく離れるチャンスをムダにはしまいとさっさとゴミ袋の口を縛ってさっさと袋を持ちながら教室の外へと出ようとするも

「あ、わ、私も手伝うよ」

 春野が名乗りを上げた。

 ため息を吐きそうになるのをこらえてとりあえず説得に入る。

「この量なら一人で充分だぞ」

「いや、大変そうだし、ちょっと外の様子も見てみたいなーって」

「外?」

 そりゃまたどうして。外に何か変わった生物でもいるのか? お前にしか見えない妖精でも飛び交ってるのか?

 それと安達も加賀見も日高も作業しつつこっちをチラチラ見るの何なの? 何か嫌な気分になるわ。

 

「うーん、説明難しいけど、文化祭での廊下や校舎の飾り付けとか、そういうの見ていきたいんだよね」

 そうか。俺にはよくわからんが春野にとってはそれが気になるのか。

「うん、二人で行ってきなよ。私達はここで作業続けてるから」

 日高が俺と春野を促す。コイツのことだから今更驚きもない。

「気を付けて」

「あんま寄り道しちゃダメだよー」

 加賀見、安達、俺達を小学生か何かと認識してない? あと人も多く残ってる校舎の道中で特に気を付けるもんもねーよ。

「それじゃこれ頼む」

 と抱えていたゴミ袋3つのうち1つを春野に持たせる。これが一番軽かったから春野も何とか運べるだろ。

「うん、よろしくね!」

 春野は目の前に出されたゴミ袋を両手に抱え、俺のすぐ後ろに続いて教室を出た。

 

 

 校舎も校外も思いのほか騒がしかった。

 出し物をやる教室では廊下側の壁に出し物のタイトルや内容を宣伝するポスターや大きな紙製の文字が貼られている途中だった。

 ここをどうすればいい、ああした方がいいなど作業の相談をしている生徒達の声が右からも左からも聞こえ、文化祭に関わらない話など全く聞こえてこなかった。

 校舎の外に出て振り返ると、去年も見た「包」と「陽」と「祭」の文字が第一校舎の四階の窓から出され、すぐ下の方へ掲示されていくのを見掛けた。

 周りの喧噪や外観が、来る文化祭を待ち遠しいとばかりに変わっていくように感じられた。

「いやー、皆楽しそうだね」

「まだ開催前だけどな」

 準備作業を楽しくやってる奴ってどれだけいるんだろうか。結構しんどい気もするが。

「こういう準備中の空気って好きなんだ」

「そうなのか」

「うん。皆で一致団結して何かのイベントに取り掛かるっていうのがさ、特別なことしてるって感じが凄くて面白いんだよ」

 春野の歩みが、いつもよりも弾んでいるように見えた。

 いつも皆に見せている笑顔も、春野の言葉を踏まえると楽しそうな感情を鮮やかに呈しているように思われた。

 

「黒山君はどう? 楽しいって思わない?」

「特に」

 春野のように人という人を愛してそうな根っから明るい性格の持ち主であれば、こういうきらびやかな学校生活を代表するようなイベントを大いに楽しく思うのは簡単に想像付く。

 しかし俺はこうして他人と協調して機械的な作業をこなし当日でも他人とのしがらみを気にしながら過ごすこのイベントに対し、この学校の生徒として過ごす上の義務だからという以上の感情を持つことはできなかった。

 去年同じクラスでともに文化祭の準備をした安達も、今の春野と似たようなことを言っていた気がする。少なくとも大変というより楽しそうにしていた様子はわずかにだが覚えていた。

 加賀見や日高も、あと葵・奈央・深央も同じく文化祭を楽しんでいることを思えば、そういう気分で過ごせる点は羨ましくもあった。

 

 ……何だかネガティブな方面に思考が行ってしまった。

 今はただ女子四人と後輩三人と一緒に過ごすのが避けられないであろうこの文化祭を無難にこなすことだけ考えるのみだ。

「そっか、やっぱ黒山君って静かに過ごすのが好きなの?」

 春野が両手に持ってぶら下げている袋をやや重たそうにしつつ、運ぶ。

「まあな。それよりやっぱそっちのゴミ袋も俺が持つか?」

「大丈夫だよ。そこまで黒山君に任せると何のために私が付いてきたのかわかんなくなっちゃう」

 ゴミを捨てに行くのにゴミ袋3つ持ってる俺と手ぶらの春野が付いていく構図。うん、確かに春野の体裁はよくないな。でも春野は美少女だから周りも贔屓目(ひいきめ)にしそう。

「それより別に考えがあって」

「考え?」

 

「二人で今度、近所で静かに過ごせる場所とか探してみない?」

 

 文化祭とは全く関係ないアイデアが春野からもたらされた。

「何の話だ?」

「いやちょっと、黒山君が文化祭の準備でも大変そうにしてるからさ。文化祭が終わった後にでも黒山君が落ち着けるスポットでも見つかれば、少しは黒山君もリラックスできるんじゃないかと思って」

「それだと自宅一択なんだが」

「それはそうだろうけど。公園とか人のまばらで広い場所だったらもっとストレスなく気軽に過ごせるんじゃない? そうできる場所を探してみよーよ」

 春野の口振りは至って優しいものだったが、しかし会話の内容にはそこはかとない圧力を感じられた。

 平たく言うと、こちらがイエスと答えるまで引かないような感じ。

 時折春野はこんな調子になる。そして一度こうなると結構意固地だった。

「……文化祭の後なら、まあ」

 結局俺はいつものように相手に折れ、

「……うん! よろしくね」

 当の相手は俺が折れたことに満足げな表情を示す、いつもの展開になった。神様、これもまた義務なんでしょうか。義務に応じた権利は俺に賜ってくれるんでしょうか。

 




次話の投稿は諸般の事情により 2026/3/4(水) となる予定です。
また、最新話の投稿のペースについても7日に1回、すなわち毎週水曜日とさせて頂きたいと思います。

ご愛読頂いている皆様には申し訳ございませんが、何卒よろしくお願い致します。
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