凪の気分を ~先輩の妹が何だかしつこい上に周りの女子もおかしくなってきたような~   作:冴木甲士

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第154話 男手があると

 春野と教室に戻ったところ、安達・加賀見・日高は作業しながらの会話を楽しんでいた。

 三人ともすぐには気付かないらしく、それなら加賀見辺りの肩を後ろから掴んで脅かしてみようかとも思っていたが

「あ、おかえり」

 と当の加賀見がこちらを振り返った。

 くそ、感付かれたか、とも思ったが衝動のままに加賀見へそんな脅かしを仕掛けたら後で俺が百倍脅かされる未来が待っていたことを思うとやらずに済んでよかったという気もしてきた。

「ただいまー」

「外の様子どんな感じだったー?」

「色んな人達が文化祭の準備に追われてて忙しそうだったよ。でも皆楽しそうだった」

 安達からの問いに朗らかに答えたのが春野だ。

 今の外の様子なんて今教室で作業中の安達であってもそれとなく見えていそうなものだが。第一、外の様子とやらはそんなに興味あることか?

「そっかー。ありがと!」

 しかし安達は春野の答えに満足したようで、すぐに春野も混ぜて作業の話を女子達と繰り広げた。

 俺も女子四人の近くにあった持ち場に戻り、小道具を作る作業を再開した。

 

 

 長い時間作業していれば当然、

「お手洗い行ってくる」

 と席に立つことなど出てくるわけだが、

「ダメ」

 と俺を制止した悪魔にはそんな人間界の常識などわからないらしい。文化祭の準備はいいからもう帰れよ。自分の住処に。

「ダメって言われてもこればかりはどうしようもないんだが」

「隙あらば抜け出す可能性が高い」

 どうやら俺の信用が皆無ゆえに止められたらしい。やれやれ。

「あ、じゃあ私も飲み物買いたいと思ってたから一緒に行こーよ」

 加賀見からの信用を得るにはどうしたらいいかと思っていると、日高が名乗りを上げた。

「わかった。面倒なこと頼んで悪いけど、お願いしたい」

「大丈夫大丈夫、任せてよ」

 加賀見がやたらと申し訳になさそうにしてるの何なの? 日高に何の役目を担わせようとしてるの? これまでの流れから察するに俺の監視を頼んでいるようにしか思えないんだけどそれってそんな面倒なことなの? そもそも何で当たり前のように俺の行動が監視されるの?

 次から次へと疑問が追加されていくうちに

「じゃ、行こ」

「気を付けてー」

「黒山君逃げたらすぐ言ってねー」

 という挨拶を送られながら日高と俺は教室を出た。俺逃げる前提じゃん。まあ隙あらば逃げたいけど。

 

 

 日高を伴い再び学校の廊下を歩く。

 さっきと変わらず文化祭に使う道具を調達したり、実行委員会なり教師なりへ交渉や相談に向かっているであろう生徒達がせわしなく行き交っていた。

「やっぱ皆盛り上がってんねー」

「開催前なのにな」

 他愛もないやり取りを日高から持ち掛けられては、適当に返す。

 やはり安達や加賀見、それから後輩達に比べると日高は春野と並んで気楽だ。思えばこの二人ぐらいしか常識人がいない気もする。どうなってんのこの女子達。類は友を呼ぶというけど加減ってものがあるでしょう。

 

 と、ここでふと日高がある教室に目を向ける。

「どうした?」

「いや、ここのクラス、ミニゲームやるみたいだから」

「ああ、そうみたいだな」

 教室の中には祭りの屋台でよく見るような射的をモチーフにしたセットがチラリと見えた。

 早くも景品と思われるアイテムはいくつか用意してあるようで、台の上にそれらが置かれ、配置が細かく調整されているようだ。

「ねー覚えてる? 去年ミニゲームで私らも景品取ったの」

「ああ、何となく」

 俺らが一年の頃の文化祭にて成り行きで日高と俺の二人で出し物を見て回った際、日高がお目当ての景品をゲットするために俺と組んでミニゲームに挑戦した。

 結果は成功し、日高は晴れて景品をゲットしたわけだが、確かその景品は……

「ぬいぐるみだっけか? レアなタイプとか何とか言ってた気がするが」

「そうそう。覚えてたんだ」

「あれ、今でもどっかに仕舞ってんのか」

「いや部屋に飾ってるけど」

 ほう。取ってから一年経ってるんだが今なお部屋に置いてるとは。

「よっぽど気に入ってるんだな」

「まあ、ね」

 日高が俺の方から顔を逸らす。わずかに顔が赤らんでるみたいだ。

 ひょっとしてぬいぐるみ趣味を突っ込まれるのが気恥ずかしかったか。俺にとっては今更なんだが。

「ねえ、黒山」

「あ、UFO」

「聞いて」

 改めて俺の名を呼ばれて面倒な気配を感じたので話題を逸らそうとしたが失敗。人を信じやすい春野ならあっさり引っ掛かってくれたのに。

 

「ちょっと欲しいものがあって、今度買いに行くのに付き合ってほしいんだけど」

 

 ほらやっぱり面倒な内容だった。

「春野と一緒に行くんじゃなくてか?」

「うん。凛華にはちょっと、内緒でさ」

 ええ、何だそれ……。

「なぜ?」

「欲しいものっていうのがまたあのときと同じ感じのキャラグッズなんだけど、ちょっと遠出になるんだ。色々不安だし、男手があると助かるっていうか」

 日高は右手を背中の方にやり、左手の人差し指で頬をわずかに掻く。普段よりずっとしおらしく映るのが異様だった。

「俺にそのグッズを奢れって話じゃないんだな」

「い、いやそんなヒドいことしないって!」

 心外とばかりに日高が声を張り上げる。

 

 ここで一つ気になることが頭に浮かんだ。

「ついさっきも春野と二人で出掛ける予定を付けられたところなんだが」

 どうせ日高が唆したんだろう、と思っていた。

 それなのに春野とはまた別途用事を頼まれるなんてゴメンだと言おうとしたら、

「え? そうなの?」

 日高も面食らったような反応を見せてきた。

「そうなのって、お前がけしかけたんじゃないのか」

「いや、やってない。凛華からそんな話も聞いてなかったし」

 なんと。

「凛華が……」

 日高が一旦俺から顔を逸らし、そうぼやいた後に黙った。

 春野の行動についてあれこれ考察してるんだろうな。

「……うん、そうなんだね。でもゴメン、凛華の後、都合のいいときでいいから考えてもらえると助かる」

 そして、さっきの話を取り下げる気はないらしい。

 ただ、春野の都合を優先したゆえかさっきよりは譲歩する内容に変わっていた。

「都合のいいときなら、まあ」

 それならと俺も返事を濁しておいた。

 

「ちなみに凛華の件、ウソとかじゃないよね」

「いや春野に確かめればわかるだろ」

「それもそっか」

 相変わらず俺、信用ないのな。自業自得と言われればそれまでだけど。

 

 

 各々の用事を済ませた日高と俺が教室に帰ってくると、さっき見たのと同じ光景が繰り返された。

「あ、おかえり」

 この挨拶もリピート。

「さようなら」

「待て」

 加賀見が即座に呼び止める。

「まだノルマ片付いてないから」

「いや、帰るわけじゃないぞ。『おかえり』に対応する挨拶を返しただけで」

「それは『ただいま』。あとさよならと同時に体がUターンしてた」

「いや身に覚えが全くないぞ」

「私達もその姿ばっちり見てるんだけど」

 隣にいた日高が加賀見をフォローするだけでなく安達と春野も日高の証言にうんうんと頷く。俺以外は加賀見のフォロワーしかいないんですか、そうですか。俺フォロワーじゃないからグループ抜けていい?

「まあ疲れるのは確かだけど、残りあと少しなんだから頑張ろーよ」

 俺の肩をバシッと叩く日高。パワーハラスメントすれすれの行為なんじゃないかこれ。まあいいか。

 

 俺の肩を叩いた後、日高は自分の作業スペースへ戻った。

「……」

 そのとき、日高が春野の方を向いていた。

 不思議なぐらいの真顔で、春野の心の奥底を覗き込もうとしているかのような追究がどういうわけかその視線に感じられた。

 当の春野は安達と会話しており、日高の視線に気付いた様子はない。

 そして日高も春野に視線を向けた時間はわずかなことで、その後床に置かれた段ボールにカッターを刺し、道具の作成を再開した。

 

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