凪の気分を ~先輩の妹が何だかしつこい上に周りの女子もおかしくなってきたような~   作:冴木甲士

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第155話 輪投げ

 去年の文化祭では女子四人は全員一緒になって回るタイミングがあったが、今年は難しい。

 というのも女子四人全員が同じ二年二組に入っているからだ。

 今年の我がクラスの出し物はお化け屋敷。

 中に入って脅かす係、受付係、辺りを回って宣伝する係など当日に必要な人員は結構多い。

 したがってクラス内で当番制でやることになり、結果仲良しグループのなかでも当番と非番に別れてしまうのである。

 女子四人、つまり安達・加賀見・春野・日高も例に漏れず一日目にしてさっそく内二人が当番として出し物に駆り出されることになった。

 ……とまあ、ここまではいい。

 

「それじゃ楽しんできてね!」

「差し入れ待ってるよー」

 当番になったのは春野と日高。

「うん、行ってくるねー」

「行ってくる」

 先に文化祭を遊ぶことになったのは安達と加賀見。

 今女子四人は教室近くの廊下に集まり、挨拶を交わしていた。

 そして女子四人の傍にいた俺は

「じゃ俺は客達を脅かしてくるわ」

 とお化け屋敷となったクラスの教室に戻ろうとしたら

「違う」

 加賀見が俺の服の背中側をギュッと掴んできた。

「違うって何がだ?」

「アンタも今は仕事ない」

「だから私達と一緒に回るって話だったでしょ」

 

 そう、安達・加賀見と同じタイミングで俺も非番になっていた。

 明日の当番表で希望がないかクラスメイトに聞かれたときにあまり深く考えず適当でいいよと答えたのがよくなかった。何としても加賀見とは共演NGにするようお願いすべきだった。

 そう理解したのは俺と加賀見がいきなり揃って暇になったと知った文化祭の前日。既に当番表は完成しておりシフトを変更するのは困難な状況だった。

「今の時間は自由なんだろ? それなら俺も忙しそうなクラスの皆を手伝おうと思ってな」

「それかえって迷惑」

「うん、もう皆役割決まってるからさ。急にもう一人加わっても邪魔になるんじゃないかな」

 ミユマユが俺の行動を否定してきた。そうやって人のボランティア精神を削ぐようなことを言うのは感心しないな。こちらは他人のためという崇高な目的でやろうとしているのに。結果として俺が嫌いな奴と行動とともにしなくなるだけで。

「まあ、私達は手伝ってくれるのでも助かるんだけどね」

「アハハ……」

 受付をやることになった日高と春野はそんなことを言ってくれる。やっぱミユマユよりこの二人がまともだな、うん。

「最初はちゃんと働くんだろうけど、どうせどっかのタイミングで抜け出す」

「私もそう思うかな」

 ああ、ミユマユ、ここまで疑心暗鬼になってしまうとはいっそ哀れだな。どうしてこうも俺の行動を疑うのか。

「あー、それは……」

「さ、さあどうだろうね……」

 と思ったら春野と日高もかよ。何でこうも皆俺の行動パターンが正確に読み取れるんだ。

「見失ったら面倒だしコイツの監視も兼ねて一緒に回る」

「私とマユちゃんが当番のときは代わりに黒山君の監視お願いね」

 監視ってはっきり言われた。要注意人物扱いなの俺? モブを志望してる普通の学生なのに?

 

 

 文化祭の出し物について、まず向かったのは。

「あ、先輩方、待ってました!」

 校庭の方で開いている葵のクラスの屋台だった。

「さっそく調子いいみたいだな、お前のとこの屋台」

 制服の上に水色の法被(はっぴ)を着て客引きをしていた葵は、主に男子達の客を多く集めていた。女子の集まりはまあ……普通というか。

 一日目は校内の生徒だけで開催されるから、二日目は外客からより多くの男性を引き寄せることは確実だな。

 コイツが客を呼び込む係にしたのはクラスの総意だったんだろうなぁ。

「ええ、いきなり忙しいことになってて」

 自分の集客力に気付いてか否か、葵はエヘヘと笑った。

「これ、また後で買い直した方がいい?」

「どうだろうな」

 時間のある内に後輩の出し物を見ていこうということで最初に葵のクラスへやって来たわけだが、これじゃ買うだけで少し手間取りそうだ。

 

「あ、大丈夫です。先輩方に見に来ていただけただけで嬉しいですから」

「そうか、じゃ次どこ行くか」

「でももう少し去り際は心惜しそうにしてくれませんか?」

 葵が俺達、というか俺を凝視してきた。これガンを飛ばすって奴ですか。女子四人(大体加賀見)からよくやられてるよ。

「葵、コイツにそんな人間臭い感情を求めるのは酷というもの」

「葵ちゃん、残念だけど黒山君はそういう人だと思って付き合っていかないと」

 ミユマユがフォローを入れてきた。いや、フォロー、なのかこれ……?

「でももうちょっと時間を置いてからの方が空くかもしれませんね。また後で気が向いたらでいいので来ていただければ」

 とそんな感じで葵の屋台を後にした。

 

 

 次の出し物について。この流れなら岸姉妹のいるクラスへ、というところだが。

「アイツら劇なんだよな……」

「うん。体育館で一日一回公演だって」

 どうも岸姉妹を主演としたオリジナルの劇をやることに決まったらしい。

「で、上演時間は13時半」

「私とミユは見れるけどアンタはムリ、と」

 出し物のシフトの都合上、安達・加賀見は今日は見られることに。

「まあ、俺・春野・日高は二日目に見られる予定だしな。お前らは今日見てこいよ」

「うん」

「見た後はネタバレした方がいい?」

「別にどうでも」

 それをされるのが嫌う奴もいるだろうし俺も好きな作品ならそう思うクチだが、岸姉妹のクラスの演劇についてはそこまで興味ない。あくまでコイツらとの付き合いで見に行くだけの話だ。

「黒山君は奈央ちゃんと深央ちゃんのことに興味ないの?」

「特には」

 主人公を何としても見たかった昔と違って今はさほどの感慨も湧かない。

「ふーん……」

 そんな俺に文句でも付けてくるのかと思いきや、安達はこれ以降特に何を聞くこともなかった。

 加賀見も安達と俺の問答に口を挟まず、ただ聞いているだけだった。

 

 

 次に来たのは輪投げのコーナー。

 安達がちょっとやってみたいとのことで来ることになった。

 さっそく安達がチャレンジしたが、結果は一つもターゲットに引っ掛からず。

「いやー、久しぶりにやったけど難しいね」

「そうか」

 

「じゃ、次は私」

「そこ的違う。的はあっち。俺的じゃない」

 加賀見が的とは反対の方向にいた俺へわざわざ振り返って俺に輪っかをぶん投げてこようとしたので慌てて軌道修正。慌てたあまり少し片言っぽくなってしまった。

「すいません、そういうのはやめていただけると」

 あまりの横暴さに輪投げを運営しているクラスの人にも注意される有様だった。いいぞ、よく言ってくれた。

「しょうがない、それじゃ」

 残念そうにした加賀見が改めてチャレンジ。

 何と5個投げて5個とも的の棒に輪が掛かった。

「輪投げ得意なんだな、お前」

「驚いた?」

 大仰なまでに得意げな顔をしてみせる加賀見。そう言えばテレビゲームも強いし、ゲーム全般が得意なのか? 激しい運動が伴わない奴なら。

「うん、スゴいねマユちゃん!」

 安達に称えられて

「それほどでもない」

 とさっきのしたり顔を崩さず謙遜する加賀見。いや大して謙遜してないな、これ。

 

 そして最後は俺。加賀見と同じく5個輪っかを投げてみた。

「2個入ったね」

 と、安達が俺の成績を淡々と述べた。

「手抜いてない?」

「ハハハ、まさか。これが俺の全力さ」

「何かムカつく」

 加賀見、ムカつくなら俺とムリに一緒にいることないぞ。俺を一刻も早く突き放してもいいんだぞ。

「ムカつくからもっと一緒に行動しよ」

「え」

 ところが俺のことをよく知っていた加賀見はそう簡単に解放してくれなかった。

「まーしょーがないよね」

 安達もそんな加賀見と俺に対してとても楽しそうに振る舞っていた。

 そんなミユマユを見て、俺は卒業で縁が切れるときが来るのを改めて待ち望むのだった。

 

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