凪の気分を ~先輩の妹が何だかしつこい上に周りの女子もおかしくなってきたような~   作:冴木甲士

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第156話 平均ぐらい

 二年二組の教室へ行くと、春野と日高の二人が入口で受付をしているのが見えた。

「おーお疲れ」

「あ、黒山君!」

「おー待ってたよ」

 俺の方を向いた二人がそれぞれ手を振る。

 葵と並び校内でも指折りの美少女と評していい春野が受付をやるのは、クラス内でもほぼ決定事項のような流れになっていた。

 当の春野はどこかばつの悪そうに微笑んでいたが、日高はそれなら自分が春野をもしものときに守ろうと、受付に立候補したのだった。これにはミユマユや同じクラスにいる春野・日高の別の友達の後押しもあったなあ。

 

 何となく当時の流れを思い出してたら

「黒山君、どうしたの?」

 二人を見たっきりぼうっとしてしまっていた。

「いや別に。お前らが受付だとこのお化け屋敷はさぞかし男達に盛況だったんだろうな、と思ってな」

「あ、い、いやーどうかな……」

「黒山の予想通りだよー。まあ女子もそれなりに入ってたけど」

 ほう。まあそう言えば春野は女友達も多かったっけな。そのコネか?

「どうせなら凛華も黒山と一緒に入ってきたらー?」

「何でだよ。仕事があるだろ」

「ちょっとぐらいサボったってゴメンゴメンで済ませりゃいいじゃん」

 出たよこの野次馬根性。しかもゴメンを2回連続って煽った形の謝罪じゃねーか。

 

「皐月、皆も仕事やってるのにそういうのはやめよ?」

 ここで急に春野が真面目なトーンになった。

 いつも通りの愛嬌ある笑顔でその態度なもんだからちょっと怖い。俺まで謝りそうになった。

「あー、わかったよ。それじゃ黒山、仕掛ける役よろしく」

 日高はというとそんな春野も柳に風の対応だった。スゴいね。幼馴染だからこの対応も手慣れたもんなのか? 俺も春野と付き合い長い方だけどこんな春野ごくたまにしか見ないよ。

「ん、それじゃまた後でな」

「はーい」

「お願いね黒山君」

 俺は暗幕の張られた自分のクラスの教室へ入っていった。

 

 

 中に入って驚かす役をやるのは思いのほか楽しかった。

 自分が何かに扮装して客に接近する、というタイプではなく遠くから釣り竿で吊り下げた火の玉に模した道具を適当にぶらぶらと揺らす役目だったが、それでも客のすぐ目の前を横に通り抜けるようにコントロールするとわずかでも怯む客が割合多かったのだ。

 うん、一瞬怯むのはわかるよ。俺も一年のときに何度か加賀見の拳が目の前を掠めたことがあったからね。寸止めを食らいに食らいまくってた時期というものがあったからね。それを参考にしないでもなかったよ。

 驚かす役でちょっとスッキリしたところでお時間が来た。

 俺としては終わりまで続けても全然よかったのだが。

「リンちゃん、サッちゃん、黒山君、お疲れ様!」

「次は私達がやる番」

 いややっぱよくなかった。全然よくなかった。

 俺達三人と入れ替わるように安達と加賀見が教室にやって来て、そろそろ出発しようと集合していた春野・日高・俺へと声を掛けてきた。

「受付大変だった?」

「いやー、そんなにかな?」

「凛華と接したいだけの男が多かったのが疲れたけどね」

 日高、やけに不機嫌そうにしてたと思ったらそういうことか。男避けをする役も大変だな。

「お疲れ。後は私達に任せて」

「楽しんできてねー」

 ミユマユが受付に立った後、春野・日高・俺は出発した。

 

 

「それじゃ、どこ行くんだ?」

「わ、私はお化け屋敷がいい、かな」

 春野がいつになくおずおずと答える。

「どこのクラスのお化け屋敷だ?」

「今年は6個ぐらいあるからねー……」

 我が校は基本的に同じクラスが同じ出し物をしても全く構わないことになっている。

 となると文化祭において定番であるお化け屋敷が複数開催されるのも恒例になってくるわけだ。

「これでも去年よりは少ないからな」

 何せ去年は10クラスやってたわけだし。6クラスなら大体平均ぐらいだそうな。

「ま、まあどのクラスでも大丈夫だよ」

「なら一番近いやつ行くか」

「そだね」

 ということで同じ校舎にある一年三組のお化け屋敷へ向かった。

 

「じゃ、私はお留守番してるねー」

 お化け屋敷のすぐ前まで来たところで日高が離脱宣言。おいふざけんな。離脱できるもんなら俺の方がよっぽど離脱したいわ。

「ここまで来てどうした。怖いのか」

「うん、怖いから」

 全然怖くなさそうにあっけらかんと答えるな。嘘にしか思えんわ。

「う、うん、それじゃしょーがないよねー。じゃ二人、で行こー、よ」

 春野、さっきからそのわざとらしい話し方は何なんだ。

「決まりだね。お二人でゆっくり楽しんできなよ」

 いやお化け屋敷は楽しむというか怖がるアトラクションなんだが。

「あー、わかったわかった」

 日高のいつもながらの作為に気付きつつもさっさと春野とこのしょうもないイベントを消化することにした。

 

 一年三組のお化け屋敷の出来は、とりあえずウチらのクラスのと同じぐらいの出来栄えだった。

「結構雰囲気出てるね」

「そうか」

 春野がお世辞なのか本心なのかよくわからないことを言う。

 

 俺の片腕を抱きしめながら。

 

「……お前お化け屋敷そんな苦手だったのか?」

「う、うん。知らなかった?」

 いや知らなかったというか。あーでも言われてみれば、去年の文化祭でも日高と二人で入って、出てきたときには怖そうにしてたっけ。

「お前こそ留守番してればよかったんじゃ」

「いや、怖いんだけど、ちょっと見てみたい気分はあったから」

 文字通りの怖いもの見たさ、か。怖いものなら加賀見で充分過ぎるほど見られるのに。

 

 そんなことを思ってるうちにさっそく何かが上からバサリ。

「ひゃっ!」

 春野がこれまたわかりやすくビックリし、俺の腕を抱く力を強くした。

 春野の両腕どころか、上半身全てを俺の腕に持たせ掛けるような勢いだった。軽いからどうということはないが。

「や、やっぱよく出来てるよね」

「そうかね」

 何かと思ったら、髪の長いカツラを被せたボールだった。

 一瞬生首に見える構造になっているのは芸が細かい。

 

 他にも幾つか仕掛けがあったが、そのことごとくに

「ひっ」

「!」

 春野は驚きを表して、その度に俺の腕をお守りのように強く抱きしめるのだった。

 正直お化け屋敷を出る前に腕に血が回らなくなるのでは、と別の心配をしてしまう。

「ご、ごめん黒山君」

「いや、怖いもんはしょうがないが」

「ごめん、でも出るまでこのままでいいかな?」

 春野、お前最近ふてぶてしさがちょっと増してないか?

 

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