凪の気分を ~先輩の妹が何だかしつこい上に周りの女子もおかしくなってきたような~ 作:冴木甲士
春野は俺の腕を抱いたまま、教室から出てきた。
「ヒュー、お疲れー」
となると当然日高がからかいながら出迎えるわけだ。
「バッチリ楽しんだっぽいね」
「も、もうやめてよ」
明るい場所に出てようやく安心したか、俺の腕から手を離して日高の方へ近付き会話する。
「じゃー次は私と他のお化け屋敷行こ」
日高がいきなりそう誘ってきた。
春野、ではなく俺の方に向いて。
「え」
「え……」
俺だけじゃなく春野も日高の提案に困惑したようだった。
ということは示し合わせたわけではないんだろうが、はてその狙いは何だ?
「……春野と日高と俺の三人で一緒に入るって意味か?」
「いや黒山と私の二人で」
まさか三人でというオチかと思い確認したら、そうでもなかった。
「……皐月?」
さしもの春野も幼馴染の奇妙な提案に疑問を呈する。
「いやー、凛華のこと見てたら私もお化け屋敷入りたくなっちゃってさー」
「それなら三人でもよくないか」
「いや凛華が気の毒でしょ。もう充分堪能した感じなのに」
どうも単純にお化け屋敷というアトラクションそのものに好奇心が湧いたようだった。
でもお前去年も春野とともにお化け屋敷に入ったよな。レベルとしてはそれと大差ないと思うが、そこまでお化け屋敷が好きだったか?
など細かい疑問が浮かんだが今の日高には得も言われぬ気概が感じられた。
「私は大丈夫、だよ、皐月」
「いや言葉震えてるから。ムリしないでいいよ凛華」
以前春野と俺のデートを
そうなると俺としてはますます日高の真意を掴みかねる。
掴みかねるが、放っとくと事態がややこしくなりそうな予感もしたのでやむなく
「一回だけな」
と日高の誘いに乗った。
「……うん、黒山君がいいなら」
「やったー。ありがとね黒山」
今一つ事態に付いていけてなさそうな春野をよそに、日高はわざとらしく喜んでいた。
ということで別クラスのお化け屋敷に挑んだ日高と俺。
「へー、今年のは去年よりちょっと怖めかも」
すっかりホラーに設えられた周囲を見渡した日高が何か評論してきた。
「そうか」
「さっき凛華と入った奴はどうだった?」
「さあな」
そんなに言うほどお化け屋敷のギミックとか興味なかったから大して注目してもいない。
「うわーどうでもよさそ。あ、ひょっとして凛華に抱き着かれてそれどころじゃなかったとか?」
ああ、さっきそうして出てくる俺達を目撃したもんなお前。そりゃ冷やかすよな。
「あーうん、そうかもな」
「そのリアクション、絶対凛華のこと意識してないじゃん」
「いや意識してたしてた。アイツが怪我したら俺が責められそうだし」
「凛華腫れ物扱いじゃん……」
日高が呆れた、とばかりにテンションを下げていく。うん、そのぐらいの方が俺も相手が楽だからいいな。
「はー、それじゃーさ」
日高が俺の腕をにわかに掴んできた。
「こうしてても、気にしないよね?」
日高は俺へ顔どころか視線も寄越さず、目の前の仕掛けに目をやっていた。
いかにも怖がらせようと配置された古めかしいフランス人形であり、机の上に通路からやって来た俺達と目が合うようにちょこんと座っていた。いや誰がどうやって調達したんだこんなの。
あと日高、お前
現に俺の腕を掴んでから言葉に勢いなくなってるし明らかにお前の方がおかしくなってないか。
「黒山?」
どう答えたものかと悩んでいたら日高から返事を催促。
「あーわかったわかった。気になる、気になるからその手を離してくれ」
「……何かそう言われるとこのまま歩いてたくなる」
何なんだよ。さっきの加賀見といいコイツらのひねくれぶりは一体何なんだ。小学生か。
「いや単純に歩きづらいだろ」
「大丈夫」
ひねくれぶりだけでなく口調まで加賀見風になった日高はその後もこの状態で俺とお化け屋敷を散策した。
春野に見られるのは嫌だったのか出る頃には解放してくれたが。
そして再び春野・日高・俺で校内を巡っていたところ。
「あ」
「こんにちは」
ナオミオこと岸姉妹が俺達と遭遇した。ほんと鉢合わせること多いな、この姉妹。
「やー、劇やったんだっけ?」
「お疲れ様ー」
「いえ、そんな大変なものでも」
「そうっすね」
そう、今の時刻を見るに劇から終わって程ないタイミングになっていた。
本人達が言うようにさっきまで劇を見ていた、あるいは知っていたわけでもなければ気付けないほど元気そうな様子だった。
もっとも、普段から演技調に日常を過ごしている二人のことだ。
実際は
「そう言えば聞きたかったんだけど、劇ってどんなの?」
「どんなの、ですか?」
「冊子を見ても劇の内容が詳しく書かれてなかったから気になってさー」
そう、冊子には「劇やります! タイトル未定」というぐらいしか書かれていなかった。よくそんなので出し物の審査通ったな。いや複数のクラスで同じ出し物をいくらでも許す高校だし今更か。
「えーと、そーですねー」
と、深央がここで急に近寄る。
そして、
「昔から貴方のことをお慕い申し上げております。よろしければお付き合いしていただけませんか」
と俺に面と向かって言ってきた。
深央の右手は拳を握り、胸元に引き寄せていた。
ポーズ全体で、勇気を振り絞り一歩踏み出す少女を表現しているようだった。
「……なんて告白シーンはないですね」
と瞬く間に深央はポーズを解き、微笑みながら春野・日高へ向き直った。
春野と日高は、呆然としていた。
奈央は何やってんだコイツと今にも言いそうな表情で深央を見ていた。
「……ア、アハハ、何だ冗談か」
「……え、あ、冗談、なの?」
見ろ、お前があまりにも脈絡ないジョークをかますもんだから春野は思考が追いついていないじゃないか。ただでさえ騙されやすいピュアな性格なんだから気を付けてくれ。
「ええ。すみません、悪い癖とは思いつつも皆様を驚かすのが好きでして」
さっきより妖しい感じに笑みを深くする深央。コイツそう言えば中学からこんな調子だったっけ。
「冗談、ねえ」
「ええ、冗談ですが何か?」
「いーや、べっつにー」
奈央が深央を挑発してくる。うん、この二人の仲の悪さも中学からだな。