凪の気分を ~先輩の妹が何だかしつこい上に周りの女子もおかしくなってきたような~   作:冴木甲士

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第158話 文化祭を回る約束

 文化祭も二日目を迎えた。

 今日の俺は12~14時まで休み。春野・日高は13~15時まで休みであり13時半から14時までは岸姉妹のクラスで演劇を見る運びとなっていた。

 

 ちなみに12時からはとある二人と回る約束となっていた。

「おー、元気そうですね胡星先輩」

 その約束した相手の一人である葵が、俺の元へやって来た。

「これが元気そうに見えるか?」

 お化け屋敷の仕事をこなして上がったばかりだぞ。

「はい、何かストレス解消してスッキリした感じがします」

「気のせいだ」

 そんなことはないぞ。俺としても気が進まなかったが仕事として仕方なくこの手に持った小道具を駆使してお客さんを次から次へと驚かしただけだ。

 その驚いたリアクションを見てちょっと気持ちいいと思わないでもなかったけれど、だからといって趣味でやってるわけじゃないぞ。うん。

 

「では、行きましょうか」

「ん? 奄美先輩は?」

「緊急入院しました」

「マジで?」

 そっかー……。奄美先輩、受験勉強が身体に祟ったのかしら。

「なので今日は私と二人で姉の分も文化祭を楽しんできましょう」

「まあ……仕方ないか」

 葵の言葉が果たして真実なのか真っ赤な嘘なのかはわからない。

 わからないが葵の言葉に対して裏を取る手段をあいにくと持ち合わせていない俺は、葵の言葉を信じるよりほかにない。

 ということでひとまず奄美先輩が病欠ということにして文化祭を巡ろうとしたら

「入院って誰がよ」

 と葵の頭を誰かの手の平が鷲掴み。

「あー……お姉ちゃん、聞いてたより到着早いね……」

 葵の頭が掴んできた手によってとある方向へと振り向かされる。

 そして葵がその当の相手へと話しかけた。

 そう、お姉ちゃんこと奄美先輩に。

 

「黒山君もこんな下らない嘘に引っ掛からないで」

「すみません、先輩の妹さんがこんな嘘吐きとは露知らず」

 とりあえず葵が全部悪いことにしておこう。葵が嘘吐いたのは事実だし。

「いやお姉ちゃん、この人嘘に引っ掛かったというか乗っかっただけだと……」

「アンタが言うな」

「ちょ、痛い痛い痛い!」

 あ、葵の頭がさらに強く締められてる感じがするな。

 

 まあそんなわけで俺が一緒に文化祭を回る約束をしたもう一人の相手が、奄美先輩である。

 つまりは奄美姉妹の二人を同伴するわけです。今更だけど二人姉妹に縁あるな、俺。まさかと思うけどもう一組新たな二人姉妹と縁を持つなんて事態にはならないよな?

 

 

 さて、我が校の文化祭こと包陽祭について、三年生は特に出し物がない。

 大学受験までもうそうは遠くない時期であり勉強に集中したいであろう事情に配慮してのことだそうだ。

 したがって三年生は自由参加であり、勉強に専念したい生徒のなかには丸々参加を見送る人もいるのだとか。

「こうしてただ回るだけ、ていうのも悪くないわね」

 しかし実際はほとんどの三年生が文化祭にこうしてやって来ているものと思われる。

 出し物がない上に行きの時間も帰りの時間も自分の裁量で決められるので気分転換には持ってこいなのだ。

 つまり一般客と実質同じ扱い。

「あー、いーよねー、楽そうで」

 いい御身分の身内に不満そうな葵が奄美先輩に皮肉。

「ならアンタも今から大学受験にチャレンジする?」

「それはちょっと」

「じゃあ黙ってなさい。三年で今周りにいるの私だけじゃないのよ」

 奄美先輩と同じように三年生と思しき方々がちらほら、屋台を物色したりこちらを通りすがったりした。

 例によって葵の美少女っぷりへ興味ありげに目を向ける男もいた。

 いくら祭りの喧噪の中にいるとはいえ、近くを通り掛かられては葵の文句が聞こえる三年も出てくるだろう。

「う……わかった」

 葵もさすがに察したようで渋々頷いた。

 

「じゃあ自分はこれで」

「胡星先輩?」

「黒山君?」

 後は奄美姉妹水入らずで楽しんでもらおうと距離を取ろうとしたところ二人から疑問符の付いた呼び声が。

「何でしょう」

「これから三人で回ろうとしてるときに何で当然のように帰ろうとしてるの?」

「全然『じゃあ』になってないですよ」

 どうやら俺が帰ろうとしてることが不思議らしい。

「二人を会わせるところまでが自分の役目なのかとてっきり」

「そんな役目ないから」

「何のために必要なんですかそれ」

「ああそうなんですか。でもすみません、今日はそろそろ出ないとチェックインに間に合いそうになくて」

「何のチェックインですか」

「えーとアレだ。あの、あそこにあるアレな奴」

「急に言葉忘れるフリするのやめてください」

「とにかく行きましょ」

 何とか適当な言い訳で押し切ろうとした俺の手を葵がキャッチ。

 続けて奄美先輩がもう片方の俺の手をキャッチ。

 

 かくして二人に連行される形での文化祭巡りがスタートした。

 

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