凪の気分を ~先輩の妹が何だかしつこい上に周りの女子もおかしくなってきたような~ 作:冴木甲士
いや、俺の勘違いという線もあるか。
以前奄美先輩と遊園地に出掛けたときに、頑なにお化け屋敷に入ろうとしなかったから苦手なんだろうと判断した。
しかし本人から苦手だと明言されたわけでもないし、ここに来るまでに奄美先輩は嫌な素振り一つ見せずお化け屋敷へ同行した。
だから別に苦手でもないのかもな、と思いながらお化け屋敷に入った直後の彼女を見たら
「……」
声一つ発さず異様に緊張している姿があった。
「……あの」
「はい⁉」
おお、すぐ隣で大声とか鼓膜破りに来てますか?
「あ、ああ、黒山君。何かしら」
「えーと、お体の具合がよくないようですが、大丈夫ですか?」
さすがに「怖がってますけど平気ですか」なんてストレートには行かない。どうせ先輩として強がることはなまじ長い付き合いになっただけにわかっている。
ひとまず体調不良に見えるという感じで攻めることに。
とにかくこのままだと進むのが難しそうだから。
「え、ええ。至って平気よ。別に怖くて進めないとかじゃないのよ」
なのに自分から怖いなんてワード使っちゃったよこの人。
それと今からでも体調崩したフリすれば、多少言い訳がましくともまだ引き返せたのにそんな配慮が水の泡だよ。そうだった、この人ドジなんだった。
「いや、怖がってるようには見えませんが」
「あ、あらそう? なら早く行きましょ」
奄美先輩はここで目を細めた。
いや先輩、何のマネですか?
まさか視界を狭くすれば怖い物を少しでも見ずに済むとか考えてるんですか。ただでさえ暗幕で暗くなってる教室でそれやるとかそこまでアホの子になっちゃったんですか。
どうしよう、奄美先輩を同伴相手に選んだのは間違いだったかも。
そんなときにちょうど奄美先輩の斜め前から何か球っぽい物体が。
動きからして釣り竿で吊り上げたものをブラブラと揺らしているっぽいが、このままだと奄美先輩の顔に衝突しそうだった。
さすがに人に当たっても大丈夫なように柔らかい素材を使っているとは思うが、そんなものでも顔にぶつかった奄美先輩のリアクションが目に見えてるだけに、ちょっと対処しようと思った。
瞬時に俺は、奄美先輩に向かう球の方へ移動。
「え」
と奄美先輩が言うのが早いか、俺は向かってきた球を手で軽く弾いた。
クッションのような感触であり、手で触れたときほんのちょっと快感だった。どうでもいいけど。
「あ、今、何か……」
「はい、ちょっとボールみたいなのが来てたので」
奄美先輩はさっきの細い目つきをとっくにやめていた。
「少し周りを見ながら行きますか」
見ると他にも今みたいな小さな球がポンポンと飛び出してきそうなギミックがそこかしこに見られた。穴だらけの壁とかどう見ても怪しさ満点だろ。
「え、ええ、ありがとう」
奄美先輩は少し顔を俯け、俺の横に並んで歩いた。
案の定、壁穴の一部や、何なら天井近くからさっきの柔い球が投げられて俺達に襲い掛かってきたが、何とか奄美先輩に当たらないように弾きまくり、事なきを得た。
「改めて思うけど、本当に身体能力スゴいのね……」
「どうも」
気が付くと奄美先輩からさっきの緊張感が抜けていた。
そんなこんなで俺達はお化け屋敷(というかボール屋敷)を抜け出たのだった。