凪の気分を ~先輩の妹が何だかしつこい上に周りの女子もおかしくなってきたような~ 作:冴木甲士
涼しい風が日の暮れた通学路をささやかに通り抜け、道の横の草むらが揺れる音を鳴らす。
こうして暗がりの中を春野と一緒に歩くのは春野と俺の誕生日会以来だったか。
特に会話もなく来た道を引き返しているとそんなことを思い出した。
そうしているとやがて春野の方から口を開いた。
「ゴメンね、黒山君」
さっきも聞いた、俺を巻き込んだことへの謝罪だった。
「別にいいさ」
俺に(ミユマユをはじめ喧噪から離れる)メリットがないわけではない。
「いや、実はもっとあやまんなきゃいけないことがあって……」
春野の歯切れが、悪い。
いつも教室で見ている堂々とした明るい調子はなく、春野は制服のポケットに手を突っ込んでいた。
ポケットの中にある何かを取り出そうとするもどこか躊躇するような、そんな優柔不断な春野の手の様子がポケットの動きから見られた。
それでも春野の手からあるものが取り上げられ、俺に見せつけた。
「スマホを学校に置き忘れたのって、嘘だったんだ」
春野の持っていたスマホが見紛うことなく目の前にあった。
ああ、これはあれか。
「また日高の入れ知恵か?」
「わ、私もどうすればいいかちょっと考えた、結果ね」
日高だけのせいにはさせまいとする春野の答えを聞いて、呆れる気持ちがいっそう大きくなった。
「で、この後の予定なんだけど」
ああそうだな。
わざわざ俺達をアイツらから引き離したからにはまた打ち上げ会場へ向かうなんてことにはならんよな。
「私と二人で、ちょっと違う店で打ち上げなんてどう……かな……?」
でも春野がこんなこと言い出すのは予想外だな。
俺にとって、都合がいいことには違いなかった。
加賀見とも安達とも関わらないことは言うまでもなくこの上ないメリット。
それに加え、俺は元々大勢の人がいるところでの騒ぎに付き合うのも好きな方ではない。
俺達が参加する予定だったクラスの打ち上げのそういった煩わしさを諸々避けられる春野の誘いは、今の俺にとって魅力的だ。
ただ一応忠告はしておくか。
「他の生徒達に俺ら二人でいるところを見られたら妙な誤解をされると思うが、いいのか」
タイミングもタイミングであるし学校周辺の喫茶店を打ち上げに選ぶ奴らは多いことだろう。
そいつらに目撃されたとき俺らをカップルとみなす展開がありありと頭に浮かんだ。
「私は構わないよ」
さっきのオドオドした調子とは違う、春野のはっきりとした声が返ってきた。
「それに、ちょっと電車で移動するけど、好きなお店があって。そこなら他の皆と会うこともないと思う」
電車、ねえ。
「ってことはまた駅方面に逆戻りか」
打ち上げ会場の予定のお店も駅に近い場所だっただけに往復することになるな。まあ今の段階ならクラスの奴らはとっくに店内で盛り上がってることだから見つかる心配はなさそうだが。
「もちろん途中で他の人達に見られるかもしんないけど……黒山君はイヤ?」
まあそのリスクはどうあっても防げんわな。
「俺も全然構わんが」
校内でも有名な春野の彼氏と誤解され、噂される懸念はないではない。
しかしそこは駅に着いてから電車までちょっと距離を保つ感じでいけば凌げるような気もする。
今みたいに
「あ、ありがとう……それじゃ、改めてよろしくお願いします」
さっきの嘘に対する罪悪感も重なってか、さっきより仰々しく挨拶する春野。
今更だが日高は野次馬根性だとしても、春野がこんなことをする理由が皆目見当付かなかった。