凪の気分を ~先輩の妹が何だかしつこい上に周りの女子もおかしくなってきたような~   作:冴木甲士

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第172話 来年もある

「あの……黒山君」

「どうした?」

 駅までの道中。

 人が多く見られるようになった辺りで「たまたま同じ方向を歩いてるだけの生徒の距離」を取ろうと提案し、実践していたところだったのだがなぜか春野が声を掛けてきた。

「やっぱり並んで歩かない……?」

「それだと誤解されても説明が難しくなるが」

 今の距離感なら一緒に行動してたわけじゃないという言い分もまあ通るだろう。ややもすれば俺がストーカー扱いされる恐れもあるけど。

 

「さっきも言ったけど私は、気にしないからさ。ほら、友達でも十分皆納得してくれるよ」

「言い訳と見てますます怪しまれることもありそうなんだが」

「そのときは、そのときだよ」

 いいから並んで歩こうと春野が距離を詰めてくる。

 春野は時折こういう剛情なところがあるが、それがここでも発揮されるとは。あと、さっきの構わない云々は強がりの類かとも思ったんだが、ひょっとしてマジだったのか。彼氏じゃない男とカップルと誤解されても気にしないとかどんだけメンタル強いんだ。さすが主人公的な存在。

「……まあ、お前がいいなら」

「うん」

 春野は俺の真横に移動し、ともに駅の階段を昇っていった。

 

 

 そんなこんなで駅から乗った電車で移動して、やがて別の駅の近くにある喫茶店に着いた。

「この駅、家の最寄りだから時々立ち寄ってるんだ」

 と春野が紹介したこの店に入るとどこからともなくコーヒーの匂いが漂う。

 全体的に古めかしく洋風に設えられた店装は正しく現代の喫茶店のスタンダードらしいお洒落な雰囲気だった。

 春野と俺は窓際の二人掛けのテーブルに座り、それぞれ軽食や飲み物を頼む。夕飯時で眠れなくなりそうだからコーヒーは控えておいた。

 

「えーとまずは、今日の文化祭、お疲れ様」

「ああ、お疲れ」

 可もなく不可もない、春野の労いの言葉に返事する。

「黒山君は……ってあれだっけ。一人だったら楽しかったとか」

「そうだな」

 教室で言った俺の文化祭に対する感想を春野が反復する。他愛もない会話だろうによく覚えてるな。まあさっきの今だからさすがに忘れないか。

「お前はずっと文化祭ならいいのに、だったか」

「いや言ってないよ」

「うん俺もそうは聞いてないな」

「アハハ……」

 少しからかったところ春野は声に出して笑ったが、目だけが笑ってないように感じられた。

 

「終わっちゃうとちょっと寂しいね、とかだったか」

「……やっぱわかってたんだ」

 まあな。俺にとってもさっきの今だから忘れちゃいない。でも翌日には綺麗さっぱり忘れてると思う。

「まあ来年もあるしな」

「それで最後なんだよね……」

「大学に行けば文化祭みたいなイベントはまた楽しめるだろ」

「まあ、ね……」

 さっきから春野の調子がいつもより重々しい。

 

「で、気になってたこと聞いていいか」

「うん、何々?」

「どうして俺と二人だけで打ち上げをやろうと思ったんだ?」

 その疑問を発してすぐくらいに店員が来て、春野と俺の頼んだジュースを置いていった。

 

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